オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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プロローグ 転生
転生


個人病院の個室

ベッドに横たわったまま窓越しに空を見上げる若い女性。

 

彼女は肺を病んでいた。日常会話もままならず、短い言葉を途切れ途切れに発する様子に誰もが「あぁ、もう長くは無い。」と思った。彼女自身もそう思っているのだから……

 

ある日、夢を見た。

 

真っ暗な世界を当てもなくトボトボと歩く夢。

 

ただなんとなく足元を見ながら歩いていると、周囲を照らすような明るさに思わず顔を上げる。

 

後光射すかのように光に包まれた人物が目の前を横切ろうとしていた。呆然と見送っていると光の中の人がこちらに気づいた。

 

「ん、()()()()で何をしているのだ?」

 

徐々に明るさに目が慣れていく。

 

すると、光の中の人が男性で、それもかなりの美形なオジサマであることが分かった。

 

「何って、そもそもここはどこでしょう?」

 

「迷い子か。ふむ、せっかくじゃ。ちと話をしようではないか。ここは…そうじゃのう。 ()()()とでも言っておこうか。だから、ほれ」

 

パンッ!と胸の前で手を叩くと周囲も明るくなり、すぐ脇にテーブルとイス。テーブルの上にはお茶とお菓子まである。

 

「夢の中じゃ。 何でも有りじゃ!」

 

からからと大笑いする。呆気に取られながらも言われるがままに座る。

 

夢の中、だからだろうか。胸の痛みを気にせずに話せた。私は発声の欲求不満を解消するかのように話をした。それは現状の不満だったり、TVで見たアニメやスィーツの話だったり――気になるスィーツはテーブルに出せたものの、お互いに味を知らないせいで普通の味だった――時間を忘れて日々の不満とそれが解消された()という話を一方的に語った。

 

「……ふんふん。ならば、その欲求を別の世界に求めてみぬか?」

 

「別の世界?」

 

「うむ、いわゆる転生。 その体を捨て、新たな体に生まれ変わるのだ」

 

「それは……親を捨てると同じことになってしまう」

 

「そうじゃ。 じゃがな、お主の体はあと1週間と持たんぞ」

 

「どうしてそんなことが言えるんですか!!」

 

「うむ。 自己紹介しておらなんだな。 まぁわしが神じゃからだ。 生や死を司っておるわけではないのでな、細かいことは判らん。 じゃが判る……長くて1週間というところじゃな」

 

「そんな……」

 

「普通はこうして会うこともないはずだが、縁が出来てしもうた。 多少の融通、丈夫な体で生まれるという程度のことはしてやれよう……どうじゃな?」

 

「そ、そうですね。死ぬのか……私」

 

「ふむ。 悩んでおるな。 丁度いい!」

 

手をパンと打って話に勢いを付けて語り出す。

 

「もとより融通を効かせるための準備が必要でな。 転生するにも、そうじゃな……3日ほど必要になる。 だから、その間に準備しておけ。 な?」

 

「準備……あぁ、親にちゃんとお別れしておけと」

 

「そうじゃ。 3日後じゃぞ! 勝手に死ぬなよ」

 

ハッハッハと笑いながら神を名乗るその人は席を立ち、どこかへ去って行く。

 

はっきりしていた視界がぼんやりしてきたかと思うと暗転し、周囲に聞き慣れた病室の音が聞こえてくる。

 

 

「これ、寝た気が、しない……」

 

そう思いながら、3日後という言葉を思い出し、体を起こす。

 

まずは両親への手紙。それから――――――

 

死ぬという覚悟が決まると、肺を病んで動くのも言葉を発するのもしんどくて億劫なはずなのに、いつもより楽しく過ごす。

 

妙に明るく振舞う様を見て、周囲の人間は終わりを感じ取り、彼女の見えないところで咽び泣いた。

 

「(なんだかんだで3日はあっという間だった。覚悟も決まった。お父さん、お母さんありがとう。先に逝くね)」

 

 

 

 

真っ暗な夢の世界。それが徐々に明るくなる。前のようなパッと変わるのではなく徐々に。ちょっとした違いではあるが明るくなりきるころにはきっと、あの神と名乗る人とも会えるのだろうという確信が持てた。

 

「お、ちゃんと来たな。 重畳重畳」

 

「お待たせしました。 両親とも別れの挨拶ができました。 これで何時でも逝けます」

 

「うむ……実はのう、ちょっと話が変わっての」

 

「え?ちょっと! 挨拶しちゃいましたよ、私!?」

 

神と名乗る人の後ろにさっと影がさす。

 

「「じ、つ、は!私たちが貴女に話があるのです」」

 

さっと背後から現れた2人が声を合わせて話しかけてくる。

 

「実は実はって何なんですか、私の人生もてあそんで! あ、神だからですか? 神だから何したって平気ってわけですね!! もう死んでやる! 何もしないで死んでやるー!!」

 

私が半狂乱で悲観に浸っていると、さすがに気まずくなったのか、3人が前と同じようにテーブルを用意し、席につかせてくれた。

 

「突然でゴメンね。 あのね、ちょっと協力して欲しいことがあるんだ」

 

「……協力?」

 

グスッグスッと鼻をすすり、涙を流しながらも彼女は話を聞く。こんな風に泣くことも叫ぶことも、そういえば出来なかったんだよね。夢の世界バンザイ!と内心では浮かれていた。

 

「うん。 私たちの神友(とも)、君たちの世界だと……北欧神話のロキだね」

 

「その神様ロキと私の転生にどう関係が? あ、代わりに毒を受け止めるなんてしませんよ」

 

「あらやだ詳しい。 でも知ってくれているなら話がちょっとだけ早い」

 

2人は交互に話を続ける。息ぴったりな妙にオネエ臭い2人だ。

 

「まぁその罰はとっくに終わってて、暇してた(ロキ)がね。 ある世界に降り立っているのよ」

 

「あ、嫌な気がする」

 

「価値観変わる程度の経験だから大丈夫大丈夫」

 

「大丈夫な気がしない!」

 

「続けるね。 まぁ早い話がその友の手助けをして欲しいのよ」

 

「……どうやって?」

 

「これ、読んだことは?」

 

「……『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っている』? いえ、ありませんね。 本読むよりDVD見てる方でしたので、アニメなら知ってますよ」

 

「じゃ、行けば分かるね」

 

「あっさりとしてますね。 どうやってロキさんと知り合えば良いのですか?」

 

「我々の名前を出してくれたらどうにかなる。 というかどうにかなるようにしておくから」

 

「わかりました。 行くだけ行って()みます」

 

「さて、転生にあたって丈夫な体で、という話じゃったが、他に希望があれば通せることなら通そう。 ここの2人に押し付ける形じゃが」

 

「「うぇっ!」」

 

「あ、じゃあスタンド能力欲しい! あと出来れば来世も女! 頭に美が付けばなお良く、絶世のがさらに付くなら尚々(なおなお)良し!!」

 

「了解した。 スタンド能力と絶世の美しい女性と丈夫な体じゃな。 3つなら1人1つずつ通せば何とかなろう。 では、頼むぞ」

 

「我々のロキをよろしくー!」

 

「がんばってね」

 

「では、逝って来ます!!」

 

視界がどんどん暗くなり、目も耳も何も感じられなくなった時、彼女の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

「……彼女でよかったのか?」

 

「まぁどうにかなるんじゃない」

 

()()()だなんて、本当は嫌がらせじゃろ?」

 

「ふふふ、たまには良いだろ。 それに助けることには変わらないさ」

 

「お主達も抽選にもれたそうじゃのぉ?」

 

「そうなんだよねー。 早く下界(バケーション)に行きたいよ」

 

「「うむ(ん)!」」

 

 

初めに会った神は抽選会の帰りであり、出会ったのは全くの偶然……いや、落ち込むという精神の波長(チャンネル)が合った瞬間であった。そして、その転生の悪巧み相手こそこの2神の片割れであっただけであり、助けというよりただの嫌がらせの意味合いの方が強かったのである。なので、どう転ぼうともきっと笑える未来なのだろうと安易に考えていた。

 


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