もし、宝物殿の一部が別の場所に転移していたら?   作:水城大地

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初めての旅路と状況確認、だったんですけど……

パンドラズ・アクターの旅は、割と穏やかで順調な滑り出しだった。

 

基本的に、移動にはこの国の人々が一般的に使用している街道を使っているのだから、危険が少ないのは当然ではある。

しかし、パンドラズ・アクターの事前調査と、初めて接触した村の人々の話では、盗賊や現在この国へ侵略を繰り返している、ビーストマンに襲われる危険が全くないという訳ではない。

特に、一人などは盗賊に【襲ってくれ】と言っているのと同じ意味だと、フレットやファラたちから散々止められた。

 

その結果が、フレットとファラが同行し、三人でこの辺りで一番大きな街まで向かう事になったのである。

 

元々、彼ら自身も山で採取した薬の材料を卸す為に街に出る予定があったので、パンドラズ・アクターの為だけではないと言われてしまえば、その申し出を無理に断る訳にもいかなかったとも言うが。

とにかく、一緒に旅をする事に関して言えば、まだ不足している知識を補ってもらえる分、助かるので文句はなかった。

一人旅の方が、戦闘になった際にやり過ぎたとしても、相応の対処が可能だろうという点だけがメリットだった事もある。

こうして、彼らと三人で旅をしてみると、やはり自分はあまり一般常識が足りない【箱入り息子】だと、本気で思う事が多い。

生活基盤が、宝物殿の中のみに限られていたという点から考えれば、ある意味では仕方がないと思い切るしかないのだが、それでも知らない事が沢山あった。

 

旅の途中で夜を迎えた時の夜営の仕方とか、実際に経験してみなければ得られない知識が山ほどあり、それを一つずつ教えてくれたのが彼らだからだ。

 

おかげで、旅を長くしているという割に、かなり旅人としての知識が不足している事になってしまった。

それに関しては、二人から指摘されてしまった際に、【今まで、ほぼ師に言われることを断片的にしか行っていなかった】と説明し、一応納得して貰ったのだが。

どうやら、パンドラズ・アクターの物腰や身に着けている品々は、やはり一般人では到底身に着ける事が出来ないレベルの品物らしい。

 

その結果、そんな品々を自然に着こなしている姿は、彼らから見てパンドラズ・アクターを貴族の子息だと思わせているようだった。

 

そういう思い込みから、自分ではまだ何もできない時点で師と逸れて遭難していたところを、自分たちと遭遇したのだと結論付けてくれたのだろう。

全部、彼らの勘違いと思い込みではあるが、そのまま勘違いしていてもらった方が色々と都合がいいので、状況を把握した後もパンドラズ・アクターはそれを訂正しないままでいた。

 

正直、貴族の箱入り息子と思われても仕方がない位、自分はこの世界の常識を把握していないのだから。

 

それに、今の状況なら自分が知らない事を知らないと断言し、それに関して尋ねたとしても彼らからは別段おかしいと思われない点が、なかなか楽な立ち位置だと思う。

下手に知ったかぶりをしなくていい分、後から取り繕う必要がないからだ。

 

「……まぁ、このまま彼らとの縁が切れてしまう可能性を思えば、そこまで気にする必要もない気もしますが、ね。

それでも、偉大なるモモンガ様の被創造物として、あまり行く先々で禍根を残すような真似は出来ませんし。

この時点では、様々なこのあたりの国々での共通知識を吸収して、今後の旅に役立てる方を優先するべきでしょう。

そういう点でも、まだ年若い外見を外装として選んだ訳ですし。」

 

夜営する事になり、昨夜のように最初に火の番を請け負ったパンドラズ・アクターは、眠っている彼らを起こさないように気を付けながら小さく呟く。

正直、モモンガから与えられたアイテムがあるから、パンドラズ・アクター自身は全く休まなくても大丈夫なのだが、それだと共に旅をしている二人に不信を抱かせるだろう。

それが判っているから、おとなしく彼らの言い分を聞いて先に火の番を引き受け、こうして時間まで起きていて、交代したら休む振りをする予定なのだ。

幾ら面倒でも、それが人の中に紛れて過ごす為の手段なのだから、一つ残さず学んでこなす必要があるだろう。

 

少なくても、モモンガやナザリックを見付け出すまでは。

 

それにしても……とパンドラズ・アクターは自分の置かれている現状を顧みる。

現在位置は、竜王国の首都から徒歩で約七日程度掛かる、かなりの山奥の街道筋の夜営場所。

ただし、それはあくまでも早飛脚。最初からそれ相応の準備を済ませた上で、首都に着くまでどこの街にも寄らず、ひたすら一番大きな街道を突き進んだ場合なのだが。

とにかく、だ。

元々の出発点が、竜王国でも一番首都から外れた国境近くの山の中にある洞窟であり、そこから数時間山を下りた場所にある村からだと思えば、数日でそれなりの移動が出来たと思うべきだろう。

特に、同行者が自分の見た目と同じ位の少年少女で、馬車が使えない起伏の多い山間の街道で大荷物を抱えた徒歩の移動だと思えば、これ位の時間は許容範囲内だと思うべきだった。

 

彼らが同行するのは、今のペースで進めば明日の昼過ぎには到着出来る予定の街まで。

 

そこから先は、自分一人での旅路となる。

ここまでの道中で、彼らが知っているだろう知識は可能な限り聞いたし、明日の昼に街に到着した際に、この国の人間ではない者が街に出入りする際の手続きを、実践で教えて貰える事になっていた。

後は、明日着く街でなら【冒険者】としての登録が可能らしいので、それもしておいた方がいいとも教えて貰っている。

なんでも、【冒険者】となった時点で身分が証明される上に、仕事によっては国境を越えて移動する事もあるので、人を探しながら旅をするなら是非なっておくべきだそうだ。

一応、宝物殿から出る前に【冒険者】に関しても、事前に情報を集めているのである程度は知っているが、あまり夢がある仕事とは思えなかった。

 

そういう点では、あまり魅力を感じないのだが……これから先、国々を移動する可能性が高い事を考えれば、なっておいた方がいいのだろう。

 

(カッパ―)程度のランクで、あちこちの国を移動していると余り良い顔をされないだろうが、ある程度のランクになるまで一つの街に腰を据えていられる程、時間に余裕がある訳じゃない。

そんな事をしている位なら、モモンガを探す時間に充てたいと思う。

むしろ、そんな自分にとって大して意味もない事に手間を掛ける位なら、もっと手っ取り早く簡単な方法をとった方がいい。

 

「そうですね……いっそ、旅の途中で盗賊やビーストマンの襲撃を受けたら、率先して刈り取っていきましょうか。

予定では、出来るだけ面倒は避けるつもりでしたが、【冒険者】となった上で国を移動する予定がある以上、【冒険者】としてある程度のランクを得て、それなりに立場をしっかりしたものにしておいた方が良さそうですしね。」

 

現時点で、一応それなりの路銀は所持しているものの、今後の事を考えれば稼げる方法は幾らあっても困らないだろう。

当初の予定では、それほど目立たない様に行動するつもりでいたのだが、【冒険者】としての足場を固めるためにある程度の実力を見せるとなると、人目を引いてしまうかもしれない。

現状を考えれば、出来れば最初の予定通り人目を引くのは避けたいところではある。

 

特に、スレイン法国辺りに目を付けられるような状況は、絶対に避けたかった。

 

下手に彼らに目を付けられ、こちらの正体を探られるのも困るが、封印してあるとは言え所持しているものがモノだけに、接触したくない国ナンバーワンだと言っていいだろう。

この国には、ビーストマン関連で出入りしている事もはっきりと判っている以上、下手に目立てば接触してくる可能性はそれなりに有って。

もちろん、その辺りも考えた上でこなす仕事を調整していけば、彼らに目を付けれないギリギリのランクである(ゴールド)程度までで留める事も可能だとは思うが、この国の状況だと難しいかもしれない。

 

「はぁ……どちらにせよ、これからの行動に支障をきたさなければ良い訳ですし。

現状では、ある程度まで妥協するような事態が起きるものだと、それなりに覚悟しておく必要があるかもしれませんね。

本当に、頭が痛い事ばかりで困ってしまいます。」

 

確かに、この国の住人との初めての接触は上手くいったし、状況的に旅の滑り出しとして考えれば悪くはないのだろう。

それでも、モモンガたちに関する情報は現時点では皆無で、あまり良いとは言えない。

まぁ……それに関しては、宝物殿を出て旅に出る事を決めた時から、そう簡単に情報が集まると思っていなければ、見付け出せるとも思っていなかったので、その点に関してはそれ程焦っていない。

むしろ気長に捜していればいずれ何らかの情報が入るだろうと思っている為、いずれ何とかなるだろうと腹を括っている。

それより、下手に焦って襤褸を出した挙句、スレイン法国に付け狙われる事の方が、余程恐ろしいと言っていいだろう。

 

今の段階で、何を考えても机上の空論でしか無い事は判りきっているので、一旦そこでこの事に関する思考を打ち切ると、現時点での自分のレベルと能力を再度確認する事にした。

 

今の自分のレベルは、種族レベル八の職業レベル四十一で、合計四十九レベル。

種族レベルとして残っているのは、上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)のみでそれ以外は【道化師の請願(バウ・オブ・クラウン)】によって封印の為に一時的に使用されてしまっている状態だ。

職業レベルとして残っているものの大半も、クラフトマンなどの生産系のものばかりで、戦闘系に属していると言えそうなのが、吟遊詩人(バード)だけ。

モモンガを含め、ギルドを引退していない至高の方々の外装と能力は使用可能なので、上手く一瞬だけその能力を引き出せば、戦闘面では問題がないと思うのだが、こればかりは実際に戦闘してみないと、はっきりと大丈夫だとは断言できないだろう。

流石に、人がいる前で御方々の外装を纏う訳にはいかないし、どこまで微調整出来るのかが少々不安なところだ。

いっそ、習得している職業の中の一つである【錬金術師】で、戦闘系のアイテムを何か作成した方が早い気もしなくはないが、レベルがそこまで高くない事を考えると、低レベルのアイテムしか作成できないだろう。

 

「……問題は、この先何らかの形で【道化師の請願(バウ・オブ・クラウン)】を使用する必要がありそうなアイテムを入手した場合、ですね。

現時点でも、私のレベルは総合で四十九しかありません。

そこから、更にレベルが下がると言う事は、当然ですが旅路の危険度も跳ね上がる事になりますし。

とは言っても、入手したものが世界級(ワールド)アイテムだとすれば、問答無用で封印を選択せざるを得ません。

もちろん、私とて世界級(ワールド)アイテムのようなものが道端に転がっているとは考えていませんが、何らかの戦闘時に手に入る可能性がない訳ではありませんからね。」

 

正直、レベルがこれ以上下がるのはあまり宜しくない。

現時点でも、もし他の【プレイヤー】や【NPC】と接触して、何らかの理由でそのまま戦闘になった場合、確実に逃げ切れるか微妙なラインだろう。

もちろん、最初からそんな事態にならないよう最上のものを考え、それに合わせて幾つもの偽装をしている訳なのだが、見破る事が出来る能力を持っているものには、通用しない可能性もあった。

そこまで考えた時である。

 

パンドラズ・アクターが幾重にも張り巡らせていた、索敵・防御系結界に何者かが侵入してきたのは。

 

「……数は、全部で二十五。

距離は、最初の索敵結界に引っかかったのを考えれば、ざっと八百程度でしょうか。

はっきりと断言できませんが、レベルは最高でも15程度といった所ですね。

移動速度や包囲網の展開の仕方、所持している武器の種類から考えても、人間種で間違いないでしょう。

この山の街道脇で、夜営をしている私たちを包囲しつつ、武器を手にしてゆっくりと様子を窺うように近付いてくる事などを踏まえると、山賊の類といった所でしょうか。

一応、念の為に遠隔視(リモート・ビューイング)を使って相手の姿の確認を……あぁ、これは山賊で間違いないですね。

フレットたちのラグラン村は、高ランクのポーションを生成するために必要な薬草を、定期的に街へと運んでいるという話ですから、それを狙われたと考えた方が良さそうですね。

多分、何度かフレットたちの行動パターンを確認し、そのうえで一番狙い易そうなこの辺りを襲撃地点に選んだのでしょう。

確かに、徒歩でこの夜営地点から街まで助けを呼びに行くのは、少々距離が離れ過ぎていますから、逃げ切る前に捕まる可能性の方が高いでしょうし。

この移動速度だと、ここに山賊達が到着するまでの所要時間は、約二十分足らずといった所ですね。」

 

ざっくりと、状況を判断した上で魔法を使用し、確認と分析するまでにかけた時間は約三十秒。

その間に、無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)に手を突っ込み、武器やアイテムで使用出来そうなものを探してみる。

一応、吟遊詩人(バード)を名乗っている以上、あまり変な武器を使用する訳にはいかないものの、適当に探って使用出来そうなもので出てきたのは、弓と短剣、そしてレイピアの三種類だった。

どうやら、【至高の方々】の外装自体は装備と共に封印はされているものの、全く武器装備や戦闘能力が使えない訳ではないらしい。

 

「……使用出来る能力とスキルは、最大値が二割弱といった所でしょうか。

まぁ、手持ちの武器がこの三種類なのは、宝物殿から出る際に使用出来ないものだと思い込んでほぼ封印してしまっているからなのですけど。

それよりも、フレットたちをどうしましょうか……

下手に起こして、騒ぎ立てられたり無理に戦闘に参加しようとされたりする方が、面倒な事を引き起こしそうですよね、フレッド君の場合。

そう……山賊達相手に実力差を考えずに突っ込んで行った揚げ句、人質など足手纏いになったりしそうです。

ファラさんは、その点に関しては安心なのですが……逆に怖がってしがみ付くなど、こちらの動きを邪魔しそうな気配がしていますし。

仕方がありません、睡眠(スリープ)を掛けた上で生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)で保護しておきましょう。」

 

サクサクと方針を決めると、手際よく彼らに対して睡眠(スリープ)を掛けてその上に生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)を掛ける。

その上に、更に防御系結界アイテムを幾つか配置し、こちらが使用した魔法がうっかり彼らの方に向かっても、それで弾く様にしておいた。

これで、こちらの戦闘準備は十分出来たと言っていいだろう。

 

「敵がこちらに到着するまで、残り数分程度……

正直、ここでただ待つのも面倒ですし、現時点での戦闘能力の確認の為に打って出た方が早そうですね。」

 

きっちりフレット達の守りも固めた事で、行動の自由度が上がったパンドラズ・アクターは、速攻で全員を刈り取る事を選択した。

 




外をこんな風に旅するのも、当然初めての事ばかりなので、物珍しく思いながら学んでます。

そして、ざっくりですが現在のパンドラの状況がオープンになりました。
現在の彼の総合レベルは49です。
職業レベルなど、細かいパラメーターとか必要ですかね。

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