もし、宝物殿の一部が別の場所に転移していたら?   作:水城大地

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今回の話も、残酷な描写があります。
苦手な方はご注意ください。


盗賊の塒(ねぐら)での戦闘(パンドラズ・アクター視点)

盗賊の塒のすぐ目の前まで移動すると、見張り役が二人立っていた。

彼らが、出入りのチェックと周囲の警戒をしているのだろう。

きちんと役割分担が出来ている辺り、それ相応の人数で構成されている盗賊団だと伺い知れた。

少なくても、彼らの中できちんとした役割分担が出来ているのだとしたら、かなりの規模が想定される。

 

つまり、この塒にいる以外にも盗賊の仲間が、外に出ているかもしれない。

 

もし、こちらの予想通りだった場合、別行動をしていた盗賊の生き残りは、何がなんでもこちらを血眼になって探し回るだろう。

彼らからすれば、仲間の仇を取らずにいる方が、面子に拘わる可能性があるからだ。

もしかしたら、この世界の盗賊の繋がりはもう少し彼らは緩い感じかもしれないが、どちらにせよ裏社会の住人である。

面倒事に発展する前に、その根っこを断ってしまう方が間違いない筈だった。

 

下手に残す位なら、最初から【贄】として全て捕らえて食らう方が、よりその命を有効活用していると、そう思えるからだ。

 

この手合いは、放置しただけ周囲へと害を撒き散らすだけだろう。

それなら、それを避けるべくさっくり回収する方が世のためでもある。

彼らは、パンドラズ・アクターやウルベルトがこのまま放置したとして、もいずれ同じ人間からの討伐対象になるだけなのだ。

 

だとすれば、こちらがどのような扱いをしたとしても、問題ない存在だろう。

 

つらつらそんな事を考えながら、パンドラズ・アクターは、サクサクと特殊技能を使って目視で確認した見張り役の他に、目視出来ない場所にいるかもしれない見張り役が居ないか、可能性がある場所を確認していく。

一応、念の為程度の認識で確認したつもりだったのだが、その考えはは当たりだったらしい。 

入り口から、少し先に入った外から見えないが中からは外が見えると言うギリギリの場所で、別の見張りが存在していたのだ。

 

次に、盗賊たちと思しき生命反応がある場所まで、それなりに離れていることから考えても、外の二人を合わせて彼らが一組の見張り役なのだろう。

 

目立つ位置に立つ身や利益の他に、入り口から見えにくい位置にもう一人の見張り役を置いているのは、目立つ位置にいる見張り役が囮の役目も兼ねているからだ。

彼らの姿が見つつ、外からは見えにくい位置に配置された見張り役こそ、本命の見張り役だと言っていいだろう。

それこそ、パンドラズ・アクターの様に隠密技能を持つ者が、最初の門番と言うべき見張り役を気付かれずに昏倒させたとしても、その奥に居る見張り役が隠れるように門番たちを見ているのなら、彼らに起きた異常事態を察知して敵襲の知らせを送る事は可能だからだ。

 

そして、その存在の事を外の門番役の見張りは知らないのだろう。

 

現に、奥に隠れている見張り役は下位の隠密行動を使用する事によって、門番役の見張りに気付かれないように息を潜めているような気配すらあった。

あくまでも推測でしかないが、入り口に立つものはまだまだ下っ端の門番役であり、入り口の奥に気配を消して潜む見張り役は下っ端よりも上の立場なんじゃないだろうか。

隠密行動が出来る位に実力があり、身の安全を確保しながら見張り役をするものが居る様な盗賊団だとしたら、やはり規模はかなり大きいのだろう。

 

だとしたら……きちんと気を引き締めた方が良いかもしれない。

 

そう判断したパンドラズ・アクターは、まず入り口の見張りよりも先に奥で構える見張りを速攻で潰す事にした。

もちろん、下位とは言え隠密行動が出来る相手にそれを悟られないために、特殊技能かアイテムで音を立てずに近付き、一気に潰す必要がある。

その対策は、アイテムを使用せずとも弐式炎雷の隠密行動の特殊技能を使えば、それほど難しくないだろう。

 

仲間に対して、隠れた場所に居る見張り役が奥に居る仲間へ警戒を呼び掛ける前に、素早く相手の喉を潰せば良いのだから。

その為にも、手前に居る門番役に気付かれないよう、素早くその横を通り過ぎて隠れているの見張りを、物音を出来るだけ立てない様に仕留める必要がある。

奥に居る盗賊たちは、多少の音を立てたとしても気付かないだろうが、手前に居る門番たちには気付かれる可能性があるからだ。

状況的に、使えるアイテムや魔法は幾つかあるが、これから先の事を考えると、この段階で余り無駄なことはしたくない。

やはり、今のレベルと本来のレベルを比べて考えると、どうしても使える手がかなり少なくなっているのが痛いと思うべきだろう。

 

「……そんなに悩むなら、いっそ俺が簡単な 防音の魔法を使ってやろうか?」

 

そう、フードの中から囁くウルベルトに、パンドラズ・アクターは小さく首をすくめた。

確かに、その方が手っ取り早いかもしれないと思わなくもないが、今はMPを節約すべきウルベルトにこんな所で魔法を使わせてしまったら、それこそ本末転倒ではないだろうか?

そんな風に、提案されたことに躊躇いを感じていたら、小さな手で軽く肩を叩かれたのを感じた。

 

「あのなぁ……確かに、俺の事を考えてくれている事は判るが、それでも少し位は俺を頼れよ。

幾らなんでも、今は助け合えるのは俺達二人しかいないんだから、必要に応じて役割を分担はすべきだろう?

日付が変わった事で、昨日消耗した分のMPはしっかり回復しているし、ここまで来るのにだって杖の力を使ったりしているから、殆ど魔法は使っていないんだぞ?

この状況なら、今の俺が多少の魔法を使ったとしても、ほぼ問題はない。

むしろ、杖を介さずに使用する魔法の威力とMPの消耗度合を、この機会に確認しておくべきだ。

昨日の戦闘は、火力と戦術を重視していたから、細かな魔法の威力とか色々な面での魔法はまだ詳しく確認していないだろう?

それなら、多少非道な事をしてもそれ程問題がなさそうなこの盗賊の塒を、魔法の実験と確認場として使うと考えるべきだな。

多分、この先にこんな風に実験が出来る場が幾つもあるとは限らないんだ。

そう考えれば、ここで多少の魔法を使用するのも悪くない話だからな。」

 

ウルベルトにそう諭され、 いつの間にか自分が一人で動いている感覚になっていた事に、パンドラズ・アクターは漸く気が付いた。

確かに、ねんどろいどゴーレム化した事が原因で弱体化しているウルベルトのMPは、可能な限り温存すべき部分が多いだろう。

だが……ウルベルトのことを考えるなら、可能な限り何もさせないまま守ろうとする事が、そもそもまた間違っているのだ。

ウルベルトに頼ることなく、パンドラズ・アクターが一人だけで何もかもしてしいたら、いざという時に何らかの理由で動けなくなってしまう可能性もある。

特に、今のウルベルトの外見を考えれば、人が側にいる場所でパンドラズ・アクターが行動不能になってしまったら、それこそ致命的な問題を生む可能性もあった。

そこまで考えが至らなかったのは、パンドラズ・アクターの方に問題があるだろう。

これもまた、経験が足りない上に【僕として至高の御方を守る】と言う、一種の脅迫観念にも近い意識がそうさせてしまったのだが、それを言い訳にするつもりもパンドラズ・アクターにはない。

 

ただ、申し訳なさそうに視線を向けると、こちらの様子を見ていた事で大体の事を察したのか、ウルベルトは苦笑を浮かべた。

 

「……まぁ、そう考えることはないさ。

まだまだパンドラは、色んな意味で経験が足りないからな。

俺が側にいる分、どうしても【僕として】俺の事を【守りたい】と言う考えに偏るのは仕方がない。

こればかりは、【NPCとしての存在意義】に近いものだろうっての言うのは、前回の戦いぶりで何となく理解出来た。

だとしたら、つい身体が動いてしまう本能のような代物だろうし、そうなると頭が良いとか関係ないからな。

それを踏まえた上で、こうしてまだまだ楽に攻略出来る場所で色々と経験しながら、自分の行動に関してどうするのが一番いいのか考えていくと言う経験しておくのは、お互いにとって悪くない話だぞ。

なにも、最初から全部できる必要はない。

一つ一つ、何が最適なのか状況に合わせて判断出来る様に、自分の感覚で覚えていけば良いさ。」

 

そう、笑って言うウルベルトの言葉に頷きつつ、 パンドラズ・アクターは自分の至らなさを反省する。

無意識のうちに、小さな姿のウルベルトの事を守る事を最優先に置き過ぎたのだ。

これでは、自分に背中を預けてくれるウルベルトに対して、申し訳が立たないだろう。

一度注意された以上、同じ事を繰り返さない様に肝に命じつつ、パンドラズ・アクターはこれからの行動を考え始めた。

 

ここで、ウルベルトから言われたように防音魔法を使って貰うのなら、それはどちらに対してどのタイミングが一番効率的なのか、それを考える必要があるだろう。

 

対象となる相手は、二組。

手前側の門番二人に対して使うか、それとも奥に隠れている見張り役に対して使うか。

手前側に掛ければ、隠れた場所に居る見張り役を攻撃した直後に、彼らに気付かれるかもしれない。

逆に、隠れている見張りに掛けるとなると、こちらの攻撃を目撃される事になる。

防音魔法の効果で、見張り役の周囲の音は遮断されるかもしれないが、異常事態に彼が奥に駆け込むような状態になってしまっては意味がない。

 

だとすれば、正解は……魔法の効果を強化して範囲を広げた防音魔法を双方に同時に仕掛けた上で、門番役から隠れている見張り役まで一気に殲滅する、だ。

 

その答えを導き出すまで、パンドラズ・アクターが掛けた時間は約一秒。

ウルベルトを待たせている為、より高速に回転した頭脳によって素早く答えが導き出されたのだ。

むしろ、こんな単純な答えで本当に良かったのかと思いつつ、パンドラズ・アクターは自分が出した答えをウルベルトに対して口にした。

 

「それでは、ウルベルト様にお願い申し上げます。

魔法効果範囲拡大(ワイデンマジック)を使用して、防音魔法の効果範囲を門番役と奥に隠れている見張り役まで拡大していただけますでしょうか?

それで、彼らが騒ぎ立てようとしたとしても一瞬で終わらせる事が出来る上、更に奥に居るだろう盗賊に気付かれる事なく中に侵入が出来ます。

中に入り込んでしまえば、後は盗賊たちを刈り取っていくだけですので、それ程面倒はないでしょう。

そうですね……オルファ―ナ嬢にお願いしてこの塒全体に【フリージング・クリスタル】を発動していただけば、かなりの数が一気に刈り取れるかと思います。」

 

最初から、この塒に居る者は盗賊であろうとなかろうと全て刈り取る方向で話を進めている為、パンドラズ・アクターは纏めて敵を倒せるならば手段を選ぶつもりはない。

一応、この塒自体を破壊する方向で話を進めないのは、この中に盗賊が溜め込んでいるだろうアイテムその他のことを考えているからだ。

最初の時点で、盗賊たちごとこの洞窟を破壊してしまった場合、その後に彼らが溜め込んでいただろうアイテムその他を探して掘り出すのも面倒である。

それなら、オルファ―ナの【フリージング・クリスタル】の効果で発生した結晶が触れたものが凍るだけの方が、色々と面倒が少なくて済むだろう。

盗賊の中には、偶然が重なり上手く難を逃れる者もいるだろうが、そう言う相手は急に発生した結晶から周囲を警戒して、その場所から動けないか逆に周囲を気にする事なく逃げ出す筈だ。

 

それこそ、自分の存在がどこにいるのか知らせるように、大きな音を立てながら。

 

盗賊たちが、オルファ―ナの攻撃でそんな風に恐慌状態に陥れば、後は本当に浮足立ち逃げ出す彼らを刈り取るだけの簡単な作業になる。

分散するだろう盗賊たちを、オルファ―ナと分担して身柄を確保して一カ所に集め、仕上げとしてそれをウルベルトに狩り取って貰えば問題がないだろう。

サクサクそう考えつつ、自分の提案に対するウルベルトの返答を待てば、くつくつと笑う声が聞こえた。

 

「クックックッ……ははははは!

確かに、それが一番簡単に刈り取れる方法だな。

この先のことを考えるなら、殲滅戦の手段の一つとしてオルファ―ナの能力を組み込むのは、確かに正しい。

そして、【それがどれだけ有効なのか試す】と言う意味では、この塒の中に居る盗賊程度の相手は、丁度良い存在だと言う事だな。

今は、出来るだけ俺が復活するための贄を、面倒事になりかねない人間たちから咎められない形で手に入れたいと考えている以上、こう言う盗賊の類を一網打尽に出来る手段は、少しでも多く確保しておくべきだ。

では、今から魔法を使うから、その先の事は任せてもいいか、パンドラ。」

 

出来る限り声を潜めて、それでも楽し気な口調でウルベルトからそう告げられ、パンドラズ・アクターの心は浮き立った。

自分の提案が、ウルベルトから【良い提案だ】と褒められたからだ。

その言葉によって、今まで以上にやる気が湧いてくる。

 

「我に仇成す者たちに、静かなる滅びの時を与えよ!

魔法効果範囲拡大(ワイデンマジック)静寂の空間(フィールド・サイレンス)!」

 

小さな声で唱えられたのは、【静寂の空間(フィールド・サイレンス)】だ。

これは、敵対する相手の魔法詠唱や特殊技能の発動を短時間封じる事が出来る、補助系範囲魔法である。

取得するのに必要な種族と職業構成があり、同じ魔法職でありながらモモンガは必要条件を満たせず、取得出来なかったものだ。

まぁ、普通に考えれば取得条件の中にある【過去現在を含め種族に悪魔を持ち、幾つかの魔法詠唱者の上級職を取得する事】なんて、面倒な構成など普通はしない。

これは全て、魔法攻撃特化を選択したウルベルトだから、【アインズ・ウール・ゴウン】の中でただ一人満たせた条件だったと、パンドラズ・アクターは記憶している。

そして、面倒な方法でしか取得できない割に消費MPが他の補助魔法よりも多く、その癖使用しても対象効果範囲が狭かった事から、実際には【使えない魔法】だと言う烙印が押されていた筈だ。

 

無理してこの魔法を使う位なら、第九位階の攻撃魔法を使用した方が余程効果的だと考えられていたから。

 

今回は、基本的には【大災厄】のような魔法を使用するような敵ではないから、こんな風に上手く使って敵に気付かれずに殲滅する為の手段として使用する事も出来る。

効果範囲を広げた事で、もしかしたら塒の中にまで影響が出ているかもしれないが、盗賊たちの中に自分の塒で魔法や特殊技能を使用する者がいるとは思えない。

と言うよりも、第一位階程度なら使える者もいるだろうが、それ以上の魔法を使える者が盗賊になっているとは思えなかった。

 

それだけの実力があれば、盗賊になど身を落とさずとも食べていく手段はこの国ならあるからだ。

 

つらつらそんな事を考えつつ、パンドラズ・アクターは気配を一気に消すと隠形の特殊技能を発動して一気に奥の見張りへと迫る。

自分に気付く様子がない見張りの首を、手にしていたショートソードで一気に刈り取ると、そのまま取って返して門番の首も同じ様にさっくりと切り落とした。

パンドラズ・アクターが、三人の首を刈り取るまで掛けた時間は、僅か三秒。

まだまだ、ウルベルトが掛けた【静寂の空間(フィールド・サイレンス)】の効果が継続中なので、そのままウルベルトにオルファ―ナを召喚して貰い、最初の予定通り盗賊を殲滅する事にした。

 

二段構えの見張りなど、自分たちの塒の周囲への警戒がしっかりしている盗賊団なら、今中に居る人数だけではなくまだ別動隊が居る可能性も出てくるからだ。

 

「それでは、中の盗賊の方はお願いしますね、オルファ―ナ嬢。

私は、ここの後始末と外に出ている盗賊の仲間が戻って来た時のことを考え、少しばかり細工をしておきたいと思いますので。

ウルベルト様は、オルファ―ナ嬢と共に中へ進み、盗賊団の魂の回収をお願いいたします。

今回の一番の目的は、そちらなのですから。」

 

こちらの言葉に頷き、召喚したオルファ―ナと共に奥へ進んでいくウルベルトを見送ると、パンドラズ・アクターは手早く首を刈り取った三人の盗賊たちから衣装を剥ぎ取った。

そのまま、用済みの遺体を入り口付近で見付けた落とし穴に落としてざっくり埋めた後、るし☆ふぁーの【ゴーレムクラフター】の能力で手早く作り出したのは、先程埋めた三人の盗賊そっくりのゴーレムだ。

もちろん、遠目で見れば似ている程度のレベルでしか作っていない。

 

あくまでも、まだ外に盗賊たちの別動隊が残っていた時、彼らに警戒されない程度の見てくれと行動をしてくれればいいのだから。

 

そのゴーレムたちに、外から人間が近付いてきたらこちらに知らせる様に指示を出し、最後に一つの仕掛けをした所で、パンドラズ・アクターはウルベルト達の後を追った。

ここに居る盗賊たちは、絶対に一人として生き残りを出す訳にはいかない。

うっかり生き残りを出して、オルファ―ナやウルベルトの情報はもちろん、自分の外見などの情報を残す訳にはいかないのだ。

その為にも、オルファ―ナが見落とした相手が居ないか、パンドラズ・アクターは一つ一つ確認しながら奥へと進んで行った。

 

*****

 

数十分後、オルファ―ナが見落とした盗賊たちを全て刈り取りウルベルトと合流したパンドラズ・アクターは、入り口に置いておいたゴーレムからの合図を受けたので、急いで【遠隔視(リモート・ビューイング)】を発動した。

この方法なら、外に居る盗賊たちに気付かれずに様子を伺えるからだ。

ウルベルト達にも見えるように、【水晶の画面(クリスタル・モニター)】を【遠隔視(リモート・ビューイング)】と同時に発動させると、そこに映っていたのはパンドラズ・アクターがゴーレムに仕掛けた罠に嵌り、その場で凍り付いた盗賊たちの集団だった。

念の為に、周囲にこの罠を逃れた生き残りが居ないか確認してみたが、発見する事が出来なかった事を考えると、全員罠に嵌める事が出来たのだろう。

 

そう、パンドラズ・アクターがゴーレムに罠として仕掛けておいたのは、その効果範囲に全員が入った所で発動するアイスブレスだ。

 

もし、本当に盗賊たちに別動隊が居た場合、この罠に彼らを引っ掛ける事が出来れば、面倒が減る程度の考えだったのだが、予想以上に効果があったようだ。

この方法なら、万が一罠から逃げられた者がいたとしても、自身の安全を優先して逃げだす可能性の方が高い。

仲間を全員、一瞬で凍らせられる様な罠を簡単に仕掛ける様な相手に、身の危険を冒してまで立ち向かう勇気があるなら、盗賊などに身を落としていないだろう。

 

「それじゃ、仕上げにあの盗賊たちを凍らせた氷像を全部壊すとしようか。」

 

遠隔視(リモート・ビューイング)】に映し出された光景を見て、軽く口笛を吹いたウルベルトはそう口にすると、ゆっくりと入り口の方へと移動していく。

その後を急いで追いながら、パンドラズ・アクターは今回最終的に得られただろう魂の数を頭に思い浮かべ、小さく口元に笑みを浮かべた。

 

『……入り口の盗賊の数を合わせると、今回回収出来た魂の総数は百十五ですか。

まだまだ先は長いですが、それでも今回は予定外の事でしたし、悪くないと思うべきでしょう。』

 

そうして、ウルベルトが【風竜の杖】の【風の刃】で氷像を全て砕き、魂の回収作業をしたのだが……パンドラズ・アクターが予想していた数と、実際に回収出来た魂の数が違っていたのだ。

実際に回収出来たのは、全部で百二十三。

盗賊たちや、彼らの被害者たちを全て合わせた数と八も誤差が発生したのである。

【一体どうして?】と、周囲を改めて確認した所、その原因はすぐに判った。

盗賊たちが使用していた、荷馬車に繋がれていた馬や洞窟の側にいたらしい鳥たちが死んでいた数が、全部合わせて八体分あったのである。

 

つまり、動物もウルベルトの指輪の魂の回収カウントの対象になると言う事だった。

 

「……これは、もしかしたら召喚した悪魔も本当に回収の対象になるかもな……

いっそ、この場で簡単に確認してみるのも悪くないか。」

 

そう呟くウルベルトに、まだ暫くまだこの場に居る必要がありそうだと、パンドラズ・アクターは理解する。

一応、盗賊に襲われた時点で後始末をしてあるが、あの夜営地に戻るのは暫く先の話になる以上、誰かが居た痕跡は消してくるべきだったかと小さく反省の念を抱いていた。

もっとも、あの場所は少し街道沿いから離れているので、夜が明ける前までにあの場所に戻る事が出来れば、夜遅くに無理をして先を進む者などそうそう居ないだろうし、多分誰にも気付かれないだろうが。

その為にも、出来るだけ早く実験が終わる様、パンドラズ・アクターは急いでウルベルトの手伝いを始めたのだった。

 




独自魔法として、【静寂の空間(フィールド・サイレンス)】が追加されました。
本文中に書いた通り、敵対する相手の魔法詠唱や特殊技能の発動を短時間封じる事が出来る補助系範囲魔法で、基本効果範囲は起点となる対象から半径三メーター以内です。

さて、あっさりと人間を刈り取っていくパンドラに違和感を持たれる方もいるでしょうが、カルマ値を考えると理由もなく人間に悪意や敵意をもって接する事はなく、ナザリックのNPCの中では割と友好的な方でしょうが、必要があれば簡単に刈り取れるくらいだと認識しています。
まして、今回は襲撃してきた盗賊とその仲間を潰しているだけなので、罪悪感はないです、はい。
そして、今回の更新で一旦話が切り替わるのでここで一旦更新は止まります。
次の更新開始は十月の終わりを目指したいですね。

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