もし、宝物殿の一部が別の場所に転移していたら?   作:水城大地

33 / 42
大変長らく放置してすいませんでした。

起承転結に分けて、【起】の部分で一旦話を止めて書き溜めしようと考えていたんですが、あまりに長く放置する事になってしまったので、【承】に入る前の幕間の部分だけ投稿する事にしました。
その幕間も長いので、先ずは前半部分を投稿させていただきます。





次章までの幕間
戦闘後のブレイクタイム


無事、ウルベルトの本体を周囲の氷ごと取り出す事が出来た所で、早急にこの場所から移動する事になった。

パンドラズ・アクターはもちろん、ウルベルトもMPは既に残り少なく、とても転移門(ゲート)を開く余裕がなくて、どうするべきか迷っていたら、ウルベルトから無言で差し出されたスクロール。

それは、ウルベルトが、MP不足になった時に使えるようにと、アイテムボックスの中に備えとして幾つか持っていた、転移門(ゲート)のスクロールらしい。

それを使って、パンドラズ・アクターたちはこの場から二日前にパンドラズ・アクターが使った、野営地の奥にある開けた場所へ素早く移動した。

 

とにかく、今の余力がない状態でウルベルトとオルファ―ナを開放した追手との戦闘になる事が、非常に怖かったからだ。

 

転移門(ゲート)を潜ると、速攻でそれを閉じながら周囲に追跡者が居ないか確認する。

この状況下で、パンドラズ・アクターがそこを移動先に選んだのは、追跡者がいた場合の戦闘の可能性を視野に入れたからだ。

ここなら、ある程度まで森の木々で視野が塞がれる分、戦闘になっても再度転移門(ゲート)を展開して逃げる事も可能だろう。

 

だが……それは無用の心配だったらしい。

 

どうやら、ウルベルトとオルファーナを封印していた相手は、こちらの動きに対応しきれていないらしく、暫く待っても何も変化はなかった。

「もしかしたら、こちらの世界では元々追跡や監視系の魔法の習得者が少ないのでは」と、パンドラズ・アクターは以前から推測していたのだが、どうやら間違いではないらしい。

元々、こちらの世界の住人の魔法詠唱者(マジックキャスター)が使える魔法の位階が低い事もあり、この段階で追跡がなければ心配無用らしいと言うのが、オルファーナから得た情報の一つだった。

もちろん、彼女が現役だった二百年前に通用した常識だから、魔法詠唱者《マジックキャスター》のレベルに関しては多少の誤差はあるようだが、似たような感想をパンドラズ・アクターも情報収集時に感じたので、間違いではないだろう。

 

何はともあれ、あれだけの戦闘をした後と言うこともあり、一先ず全員が安心して休める場所を確保してしまいたかった。

 

《ウルベルト様は勿論ですが、私もいい加減MPの不足は否定出来ませんからね。

先ずは、この場所で使用していた【グリーン・シークレット・ハウス】を取り出して、そちらでウルベルト様にお食事と休息を取っていただかなくては。

あぁ、忘れていました!

その前に、ウルベルト様用のお風呂を用意する必要がありますね。

今回は、MP的に道具作成は使えませんし、仮の物しかご用意出来ませんが……明日には、きちんと今の身体に合ったものを作成しないと、ご不便を掛けてしまいます。

オルファーナ嬢は、ウルベルト様との契約が復活した事で、既に回復済みとの事ですし、申し訳ないとは思いますが……今夜の見張り役をお願いする事にいたしましょう。

現状では、先ずMP回復が最優先事項ですからね。》

 

正直、オルファ―ナ一人に見張り役を任せる事に関しては、申し訳なさが先に立つのだが……今の自分ではMP不足で役に立たないのだから仕方がない。

今のオルファーナなら、見張り役を安心してまかせられるのだし、彼女もウルベルトの為に役に立つ事が出来るのを喜んでいるので、失敗はしないだろう。

それに、自分にはウルベルトに対して食事などを提供する等、身の回りの世話があるのだ。

適材適所だと思い切って、自分のやるべき事をするべきだろう。

そんな風に、パンドラズ・アクターが自分の予定を組み立てていると、ウルベルトが目の前に現れる。

今まで、ウルベルトは外の警戒の為に魔法を使うオルファーナの様子を、丁寧に観察しつつ時に注意を与えていたので、こちらに意識が向くとは思わず少し驚きながら、何か用かとウルベルトの言葉を待った。

 

「……そういや、俺の本体の封印はいつやるんだ?

移動して安全を確保したら、すぐ封印するのかと思ってたんだが……違うんだな?」

 

首を傾げて問うウルベルトに、パンドラズ・アクターは困ったように肩を竦めながら頷く。

確かに、その辺りの事情はまだ説明していなかった事を思い出したからだ。

ウルベルトの為に、急いで湯船となる物を探していたパンドラズ・アクターは、【グリーン・シークレット・ハウス】の中にあった、大きな陶器の器を手に取るとウルベルトと見比べながら口を開いた。

 

「……残念ながら、現時点ではウルベルト様の封印は難しいですね。

封印には、私の職業レベルを使用する必要がありますので、そちらの調整もしなくてはなりませんし。

一先ず、お風呂の準備をいたしますので、お互いに汚れを落として、お夜食を取って一休みしてから、詳しい話をする事にいたしましょうか。」

 

見たところ、ウルベルトの仮の湯船として使っても、大きさは問題なさそうな器は、深い藍色をした花器だった。

縁は、横に広がっているものの、底はどっしりと構えた安定した形で、ウルベルトが湯船として使っても転がる事はないだろう。

そう、手にした花器を見定めたパンドラズ・アクターの横にウルベルトは立つと、その手元の花器どうするつもりなのか覗き込んで中を見た。

かなり広く、自分がゆったりと浸かれるサイズのそれを前に、パンドラズ・アクターが用意した意図を察したのだろう。

困ったように首を竦めると、文句を言う様子も見せずに支度を待つようだった。

 

「申し訳ございません、ウルベルト様。

今夜のところは、こちらを仮の湯船として、お使いいただきたくお願い申し上げます。

本来ならば、ウルベルト様に合わせてきちんとした物をご用意すべきなのでしょうが、今の私にはMPが不足しているためにそれも叶わず……

今回限りでございますので、どうかご了承下さいませ。」

 

ウルベルトに不便を掛けてしまう事に、パンドラズ・アクターは本気で申し訳なく思いながらそう告げる。

本音を言えば、花器をウルベルトの湯船として使うのは、パンドラズ・アクター的には本当に不本意なのだ。

少しでもMPに余裕があれば、彼が気に入るデザインを試行錯誤して作り上げたいところだが、それが出来ないか代用品でもそれなりに見栄えがするものを探していたのである。

この花器を選んだ理由は、深みのある藍が重厚さを醸し出しながら、それでいて横に広がる渕は繊細さを醸し出している所が、ウルベルトの仮初の湯船として相応しいと、パンドラズ・アクターの美意識に認められたからだ。

 

せめて、相応しい品を作る事が出来なくて代用品を用意するのならば、それなりの品を用意出来ないのは宝物殿を預かっていた宝物殿領域守護者の名折れだと、パンドラズ・アクターは考えたのである。

 

タオルなどの備品は、相応の品が元々ここに備え付けてあるので、それを使えば問題ないだろう。

着替えに関しても、以前聖遺物級(レリック)になるように調整して作った、現在のウルベルトサイズでそれなりのデザインの物が、何故か手元に数点あったのでそれを使えば問題はない。

そもそも、今夜一晩やり過ごせればパンドラズ・アクターのMPが回復するので、一晩限りの仮初の物なのだとはわかっているのだが、それでもやはり妥協するのが難しくて。

 

「……なぁ、一応最低限の安全は確保出来ているんだし、今夜はあり合わせでも構わないぞ?

むしろ、お前だって初めての大掛かりな戦闘と死亡を経験した事でかなり疲れているんだから、そこまで無理をしなくてもいい。

もし、どうしても俺のために何かをしたいって思うなら、早くお互いに風呂を済ませて食事の支度にとりかかってくれないか?

パンドラが作る夜食がどんなものなのか、正直気になって仕方がないんだ。」

 

そんな風に、ウルベルトから促された事で、漸く思い切る事が出来たのだ。

だって、仕方がないだろう。

ナザリックの僕にとって、【至高の御方】に奉仕出来るのは最高の喜びなのだ。

特に、最初の時は時間の関係で余りきちんとした食事の支度が出来なかったのだから、【今出来る最高の物を】と、パンドラズ・アクターが張り切るのも当然の話だった。

とは言え、ウルベルトがお腹を空かしていると言うのなら、待たせるのも問題だろう。

ウルベルトに提供するものだから、当然調理する前から衛生面にも気を配る必要がある為、自分だって身綺麗にする必要はある。

湯船そのものは、今用意した花器で代用する事を許されたから問題ないとして、だ。

それ以外の部分では、色々と道具のサイズ的な意味合いでお手伝いする必要性も踏まえるなら、一緒に入るのが合理的だろう。

素早くそう判断すると、これ以上ウルベルトを待たせない為にも、サクサクと準備を進めていくパンドラズ・アクターだった。

 

***********

 

一先ず、お互いに風呂を使って身綺麗になったところで、ウルベルトに湯上りの一杯として希望されたコーヒー牛乳を提供した後、パンドラズ・アクターは夜食の準備に取り掛かる事にした。

簡単に出来て、それなりに腹持ちが良いものをと考えた結果、用意する事にしたのは手早く簡単に出来る卵と鳥団子の野菜のスープだ。

この【グリーン・シークレット・ハウス】にストックされていた料理素材の中に、鶏もも肉があったので、手早くミンチにしてみじん切りの玉ねぎとすり下ろしたニンジンを混ぜ、塩コショウで味を調えて団子を作る。

野菜は三種類。

白菜と大根は、短冊にして笊に入れて水切りしつつ、じゃがいもは賽の目に切ってから、水に晒して灰汁抜きをしておくのを忘れない。

出汁は、昆布と鰹の合わせ出汁にするつもりで、まず昆布の出汁を取る準備を始める事にした。

鍋に水を張り、濡れ布巾で軽く拭った昆布を中に沈め、暫くそのまま置く間に、少し大きめの鰹節を取り出す。

削り箱で鰹節を丁寧に削り、少し多目に必要な分の削り節を確保した所で、鍋を中火で火に掛けて湯が沸騰する直前に昆布を取り出すと、用意した削り節を中にたっぷり掴んで放り込んでからひと煮立ち。

鰹節の分の出汁が取れた所で、それを布巾で丁寧に鰹節のカスが入らない様に濾し、合わせ出汁は完成した。

完成したばかりのまだ温かい出汁を、スープに使う分だけ鍋に入れてから火に掛け、まずはじゃがいもから、大根、白菜の順番で野菜を投入していく。

それぞれの野菜が軽く煮えた所で、先程作った肉団子を崩れないように丁寧に入れ、浮き上がってくる灰汁を取りながら具材に火が通るように軽く煮立てる。

その間に出た灰汁を、全て丁寧に取ったところで塩と醤油で少し濃い目に味を整えるのを忘れない。

水で溶いた片栗粉を、そこにちょっとだけとろみがつく様に混ぜ、最後に軽く泡立てた卵を上から回し掛ける様に流し入れる。

その後、弱火で一分おけば具沢山の卵と鳥団子の野菜スープの完成だ。

 

そんな風に、テキパキと夜食の準備を進めていると、料理の様子が気になったのか、いつの間にかパンドラズ・アクターは邪魔にならない場所にウルベルトが陣取っていた。

もしかしたら、出汁の良い匂いに釣られて来たのかもしれない。

そんな事を思いつつ、完成したスープを盛り付けようとしたところで、パンドラズ・アクターはふとある事を思い付いた。

 

「……あの、ウルベルト様に一つご提案があるのですが、宜しいでしょうか?」

 

何かと視線で問い掛けてくるウルベルトに対して、パンドラズ・アクターはにっこりと笑顔を浮かべながらアイテムボックスに手を伸ばし、そこから一つの指輪を取り出した。

 

「こちらのアイテムなのですが、【巨人の指輪】と言う、その名の通り一種の巨大化の効果を持っておりまして。

この指輪を付ければ、基本的に今の外見のままと言う条件は付きますが、五倍のサイズに一時的に姿を変える事が出来るという、一種のジョークアイテムなのです。

【基本的に】と申し上げましたのは、こちらのアイテムを併用する事が可能だからでございます。

こちらは、ウルベルト様もご存知かと思われますが【人化の腕輪】でございます。

異形種から人間の姿に変化させる腕輪であり、外見年齢は異形種の外見年齢に合わせると言うものです。

双方ともに連続使用可能時間は、約十二時間。

その後、冷却時間を同じく十二時間開ければまた使用可能と言う、今のウルベルト様にとっては結構便利なアイテムかと思われます。

ただ……今の外見の五倍になると言う事なので、どう頑張ったとしても知らない者が見れば五歳程度の幼児にしか見えませんが……お食事や、お風呂の関係でサイズ的な意味合いでご不便を掛ける事はなくなるのではないかと思いまして。

……もし宜しければ、ご使用になられませんか?」

 

パンドラズ・アクターがこのアイテムを用意したのは、無理に今のサイズのウルベルト用の道具を揃える事を優先するより、こちらのアイテムを使った方がウルベルトとしても色々と自分の手持ちのアイテムを使用しやすいのではないかと、そう考えたからだ。

どうしても、手のひらサイズのゴーレムだと使用不能なアイテムが幾つも存在している。

だが、このアイテムを使用してウルベルトが五歳字程度の外見まで変化すれば、今まで使用可能なアイテムでも使える物が増えるのは間違いない。

 

何より、これから情報収集の為に人の街を訪れる度に、ウルベルトに鞄の中に隠れて貰う必要もなくなるだろう。

 

もちろん、状況によっては隠れて移動する必要性も出てくるかもしれないが、それでもウルベルトの行動の自由の枠は確実に増やせるのは間違いない。

パンドラズ・アクターとしては、出来るだけウルベルトに不便を強いるのは避けたかった。

幸い、今の外見でそれなりに収入を得る手段は持っているのだし、ウルベルトが望む事を叶えられなくては、ナザリックの僕として失格だろう。

 

そう考えたからこそ、手持ちのアイテムの中で使えそうな物を思い出した時点で、速攻で提供してみる事にしたのだ。

 

どうやら、ウルベルトもこのアイテムの有効性は良く判っているらしい。

二つのアイテムを見た瞬間から、期待に満ちた目をしてアイテムの事を見ている。

だが、まだ使うのには幾つか気になる事があるらしく、少しばかり迷う素振りを見せた後で口を開いた。

 

「……使う前に、幾つか聞いても大丈夫か?」

 

流石に、色々と余裕が出来たからアイテム使用に関しても慎重になっているらしい。

この手のアイテムの中には、使えば便利だがその代わりペナルティが存在している事もある為、そこを確認したいのだろう。

最初の時点で、パンドラズ・アクター自身も【ジョークアイテム】と口にしているから、余計に心配したのかもしれない。

そんな事を考えつつ、パンドラズ・アクターが素直に頷いて了承して見せると、気になっていた事を口にした。

 

「まずは、連続で使用しない場合は冷却時間がどうなるか、だ。

例えば、今から食事をするために使用した場合、そのまま強制的に十二時間使用になるとかだと、次に使いたいタイミングで使えない場合があるからな。

後は、ペナルティが発生するかってことも問題だ。

それこそ、強制連続使用な上にペナルティでレベルダウンなんて事になったら、オルファ―ナの時みたいな戦闘が発生した時に、完全に俺が役立たずになる可能性だってある。

そういう問題があるなら、使えないと判断せざるを得ないかならな。

……で、実際のところはどうなんだ?」

 

やはり、パンドラズ・アクターが考えたのと似たような点が気になったらしい。

どの疑問ももっともなものばかりなので、一先ず完成した料理は保存状態にした上で、丁寧に答えていく。

 

「そうですね、どちらも連続使用しない場合の冷却時間は、使用した時間の半分でチャージ完了します。

つまり、今から食事などで一時間ほど使用した場合、使用を終了してから三十分時間を置けば、再び連続使用可能時間は十二時間に戻るという訳です。

ペナルティに関して上げるなら、お察しの通り【人化の腕輪】の使用中は異形種レベル分のレベルダウンになります。

ですが、腕輪を外して使用を中止さえすれば、元のレベルに戻りますのでそれほど問題はないかと。

【巨人の指輪】に関して言うなら、ただ外見が大きくなるだけでレベルも能力も強化されませんので、大きなペナルティは反射速度が三割減になる以外は大きなペナルティはありませんね。

こちらも、指輪を外して使用を中止すれば、元に戻りますので特に問題はないかと思われます。

外見年齢的にも、五歳児の幼児があまり早く動けるのも逆に人目を引く事になりますので、むしろ三割減で動きが制限される方が、周囲の目を欺く意味でも都合が宜しいかと申し上げさせていただきます。

後、念の為に使用方法ですが、両方とも指輪をはめて念ずるだけで使用出来ます。

【人化の腕輪】の外見は、【プレイヤー】なら【リアル】の外見をモデルに、我々が使用する場合は、人間の外見に近いものはそれに合わせて変化しますが、それ以外の場合は性別以外を【ランダム】に設定するようです。」

 

一つずつ、丁寧に質問の内容に対して説明していけば、ウルベルトも納得がいったらしい。

それまでいた場所から、キッチンカウンターの側に下りると、パンドラズ・アクターが差し出した指輪と腕輪の二つとも手に取り、そのまま開いている指と手首に填めていく。

元々、手のひらサイズのゴーレムであるウルベルトの指には、指輪は填まっていなかった。

再会した際に、能力強化の意味でパンドラズ・アクターが提供したものと、先程までの戦闘中で使用したものを一つ合計二つ身に着けているだけだ。(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは、本体の指に填まっているので、今のウルベルトの指にはない)

その為、今のウルベルトなら余裕をもって装備する事が可能だったからこそ、パンドラズ・アクターはこれを提供する事を決めたのである。

腕輪と指輪を填めてすぐ、ウルベルトの姿が五歳程度の黒髪の男の子へと変化するのを確認したパンドラズ・アクターは、ウルベルトが自分の姿が変化した事を確認出来るように姿見を取り出すと、そっと彼がいる側に置いた。

自分の側に姿見が置かれた事に気付いたウルベルトは、クルクルと器用に身体を動かしては、どこにも異常がないか確認してく。

暫く動き回り、漸くウルベルトは自分の状態に納得したらしい。

ニコニコと、今までで一番ご機嫌な様子でパンドラズ・アクターを見ると、そのまま笑顔全開でお礼の言葉を口にした。

 

「ありがとうな、パンドラ。

今までより、格段に不便さが減ったわ。

やっぱり、身体が小さいと油断したら潰されそうで怖かったんだよな、うん。

後は、パンドラが作ってくれた夜食が、さっきみたいにちょっとだけしか食えないって事が無いのが嬉しいね。

という訳で、そろそろ夜食を食わないか?

さっきからずっと、匂いだけで減ってる腹が刺激されて仕方がないんだよ。」

 

お腹が空いて堪らないと、そんな様子でウルベルトに強請られたら、これ以上待たせるなんて真似はパンドラズ・アクターには出来なかった。

 

「今すぐ盛り付けてお持ちしますので、あちらのダイニングテーブルにてお待ちいただけますか?」

 

そう慌てて告げると、急いで少し大きめのスープボールを戸棚から取り出し、鍋の中のスープをたっぷりと注いでいく。

熱々のスープは、野菜や鳥団子が沢山入った具沢山だし、溶き卵と片栗粉でとろみが付いていてお腹に溜まるから、夜食として食べるならこれだけで十分お腹は膨れるはずだ。

夕食として出すなら、量を少なくして他の副菜やご飯も用意したが、夜食と言う括りでは少し多すぎるだろう。

そんな事をつらつら考えつつ、具を取りやすいように箸と蓮華の両方を用意して膳の上に並べると、ウルベルトの元へと急いで運んで行った。

 

「お待たせいたしました、ウルベルト様。

調理の様子をご覧になっていらっしゃったので、ご用意したものは判っていらっしゃるかと思いますが……溶き卵と鳥団子の野菜スープでございます。

一応、蓮華とお箸をご用意させていただきましたが、お好きな方をお使いください。

後、片栗粉でとろみを付けましたので、中々冷めにくくなっております。

その点をご注意いただけると、美味しく召し上がっていただけるかと。」

 

丁寧にテーブルの上に載せながら、ウルベルトに対して料理の説明をし終えた所で、ふとパンドラズ・アクターはウルベルトの視線が低い事に気が付いた。

そして、すぐにその理由に思い当たる。

この【グリーン・シークレット・ハウス】にある家具は、基本的に成人向けだ。

当然だが、幼児サイズの今のウルベルトには大きすぎるし、大人用の椅子に幼児が普通に座ったら、高すぎて届かない部分があるのは当たり前の事だろう。

急いで配膳する事に気を取られ、その事をすっかり失念していた事に気付いたパンドラズ・アクターは、すぐに隣の部屋に移動してソファから幾つかクッションを手に取ると、素早く戻って来て隣の椅子へと積み上げていく。

ある程度の高さを確保し、これなら問題ないだろうと判断した所で、申し訳なさそうにウルベルトへと声を掛けた。

 

「……大変失礼いたしました、ウルベルト様。

お手数をお掛けいたしますが、こちらの席へ御移りいただけますでしょうか?」

 

あえて、それ以上言葉を重ねずにそう促せば、ウルベルトも無言で移動してくれたので、お互いにこの点に関しては深く追及しない方がいいのだろう。

お互いに、この問題点に気付かなかったのだからと、お優しいウルベルト様は、暗黙の内にこの失態を見逃してくださったのだから。

改めて椅子に座ったウルベルトの前に、用意した膳を置くとにこやかに笑いながら、一声掛ける。

 

「……では、お召し上がりくださいませ。

私は、食後の口直し用の水菓子を用意して参りますので。」

 

にっこり笑顔で告げると、軽く頭を下げてからパンドラズ・アクターは再びキッチンへと戻る。

冷蔵庫から、既に頭の中で選んでいた果物を水菓子として取り出した。

パンドラズ・アクターが口直しに選んだのは、完熟したマンゴーである。

種を避けるように皮ごと三枚に切り、皮の内側の実を一口大の賽の目にカットして、皮から実を押し出すように裏返したら、大皿に盛る。

真ん中の種がある部分も、外側の皮を剥いておいた。

この部分は、種を避けながらかぶり付くのもありだと思ったからだ。

そこまで処理をした所で、そちらも同じ大皿に盛り付けて、鮮度よく保存出来るカバーをかけたら、その大皿ごとウルベルトが待つダイニングへと向かった。

 

「お待たせいたしました、ウルベルト様。」

 

ウルベルトに声を掛けつつ、手にしていた大皿をテーブルの上に載せると、丁度器に盛り付けた分のスープを食べ終えた所だった。

まだ、蓮華を手にしたままで考えている様子を見ると、食べ足りないのかもしれない。

この後の予定は、お互いに疲れた身体を休めて、消耗したHPとMPの回復させる事だったのだから、多少食べすぎる位なら構わないだろう。

むしろ、回復するのにもエネルギーが不足していて、その補充分として食事を欲しているのだとしたら、食べてもらわないと困る。 

 

「……お代わり、なさいますか?」

 

首を傾げながら、パンドラズ・アクターが問い掛ければ、バッと勢い良くウルベルトの首が跳ね上がる。

どうやら、お代わりを言い出せずにいたらしい。

こちらから、お代わりを勧める声を掛けた事で、それは嬉しそうに笑うウルベルトの姿を見てしまえば、とても駄目だとは言えないだろう。

もちろん、パンドラズ・アクターには言う気もないが。

 

「……では、直ぐにお持ちしますね。」

 

膳ごとスープボールを持ち上げ、パンドラズ・アクターが奥に引っ込もうとした所で、ウルベルトから声がかかった。

 

「……その、次に持ってくる分は、パンドラも一緒に食べよう。

一人で食べるのは、なんか……少し味気ないんだ。」

 

お菓子の時は、確かにパンドラズ・アクターもご相伴に預かったから、今回もそうだとウルベルトは思って居てくれたのかもしれない。

だから、自分だけ先に食べさせるこの状況が、これから先はずっと続くのは嫌だと、そう考えたからこそ、今のウルベルトの言葉だと思うだけで、パンドラズ・アクターは嬉しかった。

彼がそう望むのなら、この旅の間はそれで通しても良いかもしれない。

もしかしたら、パンドラズ・アクターが甲斐甲斐しく側に控えて世話をしながら、ウルベルト一人で食べさせるよりも、二人で会話をしながら食事をする方が、楽しいと思われているかもしれないと、今までのやり取りから漠然とそう思った。

 

「では、今からお持ちする分は、私の分も一緒に持って参りますね。

あぁ、そう言えば忘れておりました。

ウルベルト様にご用意する分は、先程と同じで宜しかったでしょうか?」

 

膳を手にしたままで問えば、嬉しそうに笑いながら頷くウルベルト。

どうやら、パンドラズ・アクターと一緒に食べる事も嬉しいが、また同じ量を食べれることも嬉しいらしい。

そんな風に、嬉しそうな顔をされてしまったら、パンドラズ・アクターにはこれから旅が終わるまで、ウルベルトと一緒に食事をする以外の選択肢は無くなってしまっていた。

 

《……これも、ウルベルト様から望まれ、喜ばれている事なのですからね。

誰からも、文句を言われる謂れはありませませんよね、うん。》

 

にこにこと笑いつつ、そんな事を考えながらウルベルトのお代わりと自分の分を用意していくパンドラズ・アクターだった。

 




前書きでも書きましたが、放置してすいません。
もう少し早く続きの書き溜めを終了させる予定だったんですが、諸事情からあまりすすんでいません。

それでも、幕間だけでも投稿する事にしたのは、更に続きを投稿するまでに間が空く事が確定したからです。
詳しい理由は活動報告に書きますので、宜しければそちらをご覧ください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。