もし、宝物殿の一部が別の場所に転移していたら? 作:水城大地
⏩戦う
逃げる
話をする
作戦を練る
柱の後ろに隠れた状態で、ウルベルトは自分の読みの甘さを痛感させられていた。
まさか、【ダイヤモンド・ダスト】が来るのが解っていながら、それでも脱出するタイミングを無視して、死亡覚悟でパンドラズ・アクターが攻撃をし続けるとは、ウルベルトは思わなかったのだ。
まだ、後半戦が始まって九分足らずしか過ぎていない。
その段階で、パンドラズ・アクターを死亡させて二つ目の蘇生アイテムを消費するつもりなど、ウルベルトには無かっただけに、かなり痛い損失だった。
だが……パンドラズ・アクターが無理を押し通して、最後の苦無の投擲と追加効果の開放をしてくれたくれたお陰で、フリーズに割りと大きなダメージを与えつつ、【ダイヤモンド・ダスト】の効果をほぼ無効化出来たのも、また事実で。
頭では、そうやってパンドラズ・アクターの行動理由が理解出来るものの、それをそのまま素直に受け入れるのは、ウルベルトには難しかった。
《……もちろん、俺にだって解っているさ。
俺が、この身体になっている事で、どれだけパンドラに負担をかけているか位。
それでも、こんな風に最初から死に戻り前提の特攻なんて、無茶な真似をパンドラにさせるつもりは、欠片もなかったんだぞ。
パンドラは、モモンガさんに無事に返さなきゃいけない、大事な預かりものなのに……
いや……俺がパンドラを『死なせる』事を前提に、最初の段階で作戦を練ったのは事実だ。
だから、頭の良いパンドラはより有効性の高い攻撃を通すために、自分が死に戻りする事になるのを承知で、それを実行したに過ぎない。
……チッ!
パンドラは、NPCである自分の命よりも俺達を優先する傾向が強いだろうと、合流した時の言動から気付いていたのに!
これは……俺の失敗だな……
俺たちが命じたら、あっさり命を差し出す事を念頭に置いていなかった俺の油断だ。
だから、その責任も含めて俺が負うべき物は大きい。
済まないモモンガさん……俺達は、この何倍もの責任や役割などと言った重責を、モモンガさんに一人で背負わせてしまっていたんだな……》
この姿になった事によって、幾つも生じてしまっている予想外に強固な制限お陰で、ウルベルトの出来る事もかなり少ない。
レベルこそ、本来の姿の時と同じ百のままだが、実際にこう言う実戦をすれば威力が下がっている事が分かる。
【ワールド・ディザスター】の効果でMP消費量が上がる代わりに威力が増す筈の魔法が、どれも消費率をそのままに、効果は普通の魔法と変わらないレベルまで落ちていたのだ。
冷静に考えれば、前半戦の段階でそれは判明していた。
前半戦使った【
本来、【
だが、実際は削り落としきれずに、パンドラズ・アクターに追撃をさせている。
つまり、ウルベルトの攻撃力は本来から比較して一割程度落ちていると換算すべき所なんだろう。
その事を、戦いながら冷静に把握したからこそ、パンドラズ・アクターはウルベルトの指示に従って下がることが出来なかったのだ。
これは、間違いなくウルベルトのミスだった。
もっと早い段階で、自分の攻撃力が下がっている事に気付いていれば、パンドラズ・アクターに特攻させなくて済んだかもしれないと思うと、自分の状況把握の甘さに腹が立つ。
苛立ちと共に、握り締めた拳を柱に打ち付けた途端、そっとそのこ拳を握り締める者がいた。
この場で、ウルベルトに対してそんな事が出来る者など、たった一人しかいない。
スッと視線を向ければ、予想通り蘇生が終わったパンドラズ・アクターがそこに居た。
ウルベルトに対して、とても申し訳なさそうな顔をしつつ、それでも真っすぐに視線を外す事無く見据えているパンドラズ・アクターの様子を見れば、自分が叱られるような真似をした事を承知しているようだ。
だからこそ、自分の不甲斐なさに苛立ちを抑えられず、柱を殴ってしまっているウルベルトを止めに入ったのだろう。
「……どうか、お怒りを御鎮め下さい、ウルベルト様。
ご命令に従わず、勝手な真似をいたしました事を、ここに深くお詫びいたします。
ですので、そのように御身を傷付けるような真似はなさらないでくださいませ。」
己の小さな拳を、押し抱く様に包み込みながら、その場で膝を付いて懇願する言葉を吐くパンドラズ・アクターの姿に、ウルベルトは大きく息を吐く事で気を落ち着けようと意識した。
蘇生したパンドラズ・アクターの姿は、かなり酷い見た目だと言っていいだろう。
フリーズの【ダイヤモンド・ダスト】による機雷攻撃を、全身で受けたのだから当然の話なのだが、それでも見ているだけで痛々しかった。
だからこそ、ウルベルトは唸るような口調でパンドラズ・アクターに宣言する。
「いいか、俺は怒っているんだからな?
このフリーズとの戦いが全部終わったら、絶対にお前に対して説教する!
お前が本気で反省するまで、説教はやめないからな?
その為にも、お前を死なせるのはあと一回だけだ。
フリーズのHPを、【
だから、そこまでは絶対に死ぬじゃねぇぞ?
判ったら、さっさと装備を整えて回復してくれ。」
我ながら、ぶっきらぼうな口調での宣言だったのにも拘らず、パンドラズ・アクターは嬉しそうな笑みを零して頷いた。
ウルベルトが言いたい事を、察しがいいパンドラズ・アクターは理解してくれたのだろう。
アイテムボックスから、駄目になった分の装備の予備を取り出し、素早く身に付けていく。
逸んな準備に忙しい中で、パンドラズ・アクターは戦闘準備がある程度整ったと、こちらに向き直った。
「……ウルベルト様。
大切な事なので、今、この場で申し上げておきます。
私は、あなた様の為にこうして戦える事がとても嬉しいのです。
あなた様と共に、轡を並べて戦える事がとても楽しくて、実はわくわくと心が弾んでおります!
えぇ、なんて素晴らしく誇らしい事なのでしょうか。
これこそ、ナザリックに仕える僕にとって最高の誉れと言わずに、何を誉れと言うのでしょう?
それ程までに、私は自分が誇らしいのです。
ウルベルト様のために戦い、死力を尽くして敵と対峙し、あなた様の盾となって死ねる事が!」
精神的に次第に高揚して、少しばかり声高に宣言する様子は、少しばかり本来のパンドラズ・アクターの言動に近い気がする。
もちろん、そのことを指摘したりしないが。
そんな事をウルベルトが考えているとは思わないのか、更にパンドラズ・アクターの言葉は続く。
「……私は、宝物殿の財貨を守る守護者として、決して至高の御方々の為に戦う事を事を許されませんでした。
そんな私が、私だけがあなた様を守るために戦えると言う、この感極まる程の喜びを、お分かりいただくのは難しいでしょうが……
それでも、あなた様が私の死を悼んでくださるからそこ、私はそんなあなた様のために何度も死ぬ事を厭わないとだと、それだけ判っていただければ、それだけで嬉しく思います。
ですので、どうか存分に私の事をお使いくださいませ。
私も、あなた様の元でこの戦闘から様々な事を学ばせていただいております!
もし……私の行動に失態がありましたら、それは纏めて後でお叱りください。
私もまた、自分に対する不出来さへの嘆き等は、全て後で致しますので。
そうですね……どうせなら、派手に泣き喚きましょうか?
まるで、人間が嘆くように。」
自分も意思を持って生きているのですから、と少し朗らかに笑うパンドラズ・アクターに、少しだけウルベルトも笑った。
ウルベルトか思ったよりも、パンドラズ・アクターには明確な意思を持っている部分があるらしい。
ただ、それでも譲れない部分はあるのだろう。
ピッと指を立てると、ウルベルトに向けて言い募った。
「……それはそれといたしまして!
良いですか、ウルベルト様。
今は、優先するべきはあなた様です。
不安定極まりないその姿で、命を落とす様な事があれば、もしかしたら条件が揃わないと蘇生が不可能かもしれませんからね!
あなた様と、共に旅をする未来を知ってしまった私は、もう一人になるのは嫌です……
ですから、何があってもあなた様の事は、この私がお守り致します。
……それにしても、これだけ時間があるのに全く攻撃してきませんね、フリーズは。
そろそろ、【ダイヤモンド・ダスト】から二分が過ぎるはずなのですが……」
ふと、気付いたことを口にするパンドラズ・アクターに、ウルベルトは苦笑を浮かべながら理由を教えてやる。
この辺りは、今後の状況把握で変化する可能性はあるが、変わらない可能性も高い話だ。
知っていても損はない知識だろう。
「……あぁ、今はフリーズの攻撃範囲外に俺たちが居るからな。
流石に、敵対する相手が戦闘領域に不在の時は、あちらの攻撃も止むさ。
ただ、リキャストタイムカウントされているから、こうして戦闘領域から出ている場合は、気を付けないと戦闘領域に入った途端に大技を喰らって即行で死亡なんてケースがない訳じゃない。
この世界で、フリーズのようなリキャストタイムが発生するような魔法を使う奴が、【プレイヤー】関係者以外で居るとは思えないが、な。
まぁ……どこでどういう落とし穴があるか、それこそ分からない状況だから、これも知識として知っておいた方がいいだろう。
と、そろそろ動かないと、本気で不味いか……」
【ダイヤモンド・ダスト】が発生してから約二分半か経過し、予測通りなら次の大技まで三分半しかない。
そして、次に来る予定なのがフリーズ最大の大技、【
この技に関しては、アイテムや補助魔法で対策可能な部類だが、そろそろ発生する【
これは、流石に酷い連続コンボであり、出来れば接近戦は避けた方がいいだろう。
もちろん、氷属性耐性アイテムの装備すれば、【
それならいっそ、最初から攻撃範囲内に入らなければ良い。
「……パンドラ、さっき使った矢はまだ余裕はあるか?
もし、ここである程度まで使い込める余裕があるなら、次の大技までの攻撃はあの矢で頼むわ。
どう考えてえも、パンドラに接近戦をさせるには、不向きなタイミングでの連続コンボが来る可能性が、特に高いからな。
さっきも言ったが、俺はお前をこの先後一回、【
その為に取れる手段は、全て実行したい。
アイテムの残数問題もあるのは、俺だって判る。
それでも……俺はここでこれ以上死なせて後悔をしたくないんだ。」
その言葉に、パンドラズ・アクターは少し考える素振りを見せたかと思うと、ウルベルトは手持ちのアイテムから幾つか矢を取り出す。
どうやら、こちらの提案を素直に受け入れてくれたらしい。
他にも、幾つかアイテムを取り出すと、ウルベルトへと差し出した。
「ウルベルト様、是非ともこちらのアイテムをお持ちください。
こちらは、炎属性の投擲アイテムです。
一つ投擲すれば、着弾地点から半径二メートルは炎が立ち上ぼりますので、上手くお使いください。
ここから先は、ますますウルベルト様のMPの残りが厳しくなると思われますので。
もし、先程と同じような状態が起きた場合、魔法が使えずにウルベルト様が大きなダメージを受けてしまうかもしれません。
そうなった場合、最悪ウルベルト様が【
それを避けるためにも、こちらのアイテムは使いきっても構いませんので、遠慮なくお使いください。
こちらは、ここを押して投げれば作動します。
押さなければ、アイテムは何をしても誘爆しないのでご安心ください。」
小さな手榴弾のような小型アイテムが、全部で五個。
これだけあれば、ここから先の杖の酷使を控えられるだろう。
そんな事を考えつつ、ウルベルトはタイマーに目を向けると、ここから先の事を考える。
ウルベルト達が、こんな会話をしている視界の先にいたフリーズは、りキャストタイムを過ぎた【
他の攻撃を止めていたフリーズが、【
こちらの攻撃が読めない分、フリーズはここに関しては攻撃ルーチンを守ったのだろう。
こちらが、転移魔法もしくはアイテムを持っている事は、フリーズも理解している。
だからこそ、少しでもダメージの大きい接近戦をさせる回数を減らす為に、【
あちらも【
「……まぁ、そんなに簡単にダメージを受けてやるつもりはないんだかな。」
首を竦めるウルベルトの横で、パンドラズ・アクターが先程とは効果が違う矢を弓につがえている。
矢に付与された魔法効果は第三位階の【
フリーズの火属性耐性を考えると、このまま矢を射るだけでは、攻撃力が足りないのでダメージを与えるのはかなり厳しいだろう。
それでも、パンドラズ・アクターがその矢を選んだのは、フリーズの頭上にかなり鋭い氷柱が幾つも発生していたからだ。
彼の狙いは、【
先程からの戦闘で、パンドラズ・アクターはフリーズが物理的な攻撃に対して、魔法を使用した攻撃よりもダメージが大きい事に気付いたのだろう。
これは、ウルベルトが直接言葉に教えたことではない。
パンドラズ・アクターに対して、確かに直接攻撃をするように指示は出したが、自分では魔法攻撃を主に置いていた。
もちろん、
次の大技まで、残りは約二分。
今の戦闘の流れなら、フリーズは【
パンドラズ・アクターが、意図的に前衛として前に出なくなった事で、攻撃範囲内に敵が居ない状態になり、フリーズもそこそこの威力を持つ技の攻撃を控えているのだと、ウルベルトには予測出来た。
《……そうだとしても、だ。
フリーズの攻撃は、本来のものに比べて幾ばくかの違和感があるんだよな……
はっきりとは言い切れないが、こちらの何かを探っていると言うのか。
どちらにせよ、ある程度まであっちの体力削らないと、抵抗されるから捕獲とかも出来ないんだよな……》
そこまで考えた所で、ふと浮かんだ違和感。
俺が【ユグドラシル時代】にフリーズ相手にして来たのは、討伐戦であって捕獲メインの戦いじゃない。
それなのに、なんで捕獲と言う単語が頭の中に出てきたんだろう?
不思議に思いはしたが、今すぐにその答えが出るなら、こんなに違和感を感じたままに放置したりしていない。
本来なら、じっくり時間を掛けて出すべき答えのような気もするのだが、残念ながら現在は戦闘中でそんな余裕などない以上、さらに考えるべきピースが出てきてからその先を考えるしかないだろう。
対処療法的な対応だが、こればかりは情報が足りないのだから仕方がなった。
ウルベルトが、自分の思考に囚われている間にも、状況は刻々と変化していく。
パンドラズ・アクターは、迷う事なく火属性と風属性の矢を交互に射ることで、付与された魔法の相乗効果を狙いつつ、物理攻撃になりそうなポイントも探しているようだった。
弓を主体に置いた攻撃に切り替えて事で、フリーズからの直接的な攻撃は回避出来ているから、自分の被ダメージと相手へのダメージソースを、きっちりとコントロール出来ていると考えるべきだろう。
こうして、遠距離からの攻撃をしていると、後で手痛いしっぺ返しを食らいそうなのだが……これも、確認しつつ良く注意しておくように、釘を打っておく必要があるだろう。
そう、ウルベルトが口を開こうとした瞬間、腕に付けたタイマーが十秒前を告げた。
思っていたよりも、自分の思考に意識が向いていた事に気付いたウルベルトは、小さく首を竦めると改めてタイマーを見る。
その間にも、カウントは進んでいて、のこすところ後六秒足らずと言ったところで。
視線を向ける事で、素早くそれを確認したウルベルトは、小さく目を細めるとカウントする為に口を開く。
「……パンドラ、【
その途端、視界全てを白の暴風が覆い隠していた。
この技の厄介な所は、この洞窟なら俺たちがいる場所も全て攻撃範囲内であり、発動中は下手に動く方が追加ダメージを受ける為、何も出来ないことだろうか?
一応、アイテムや装備で対策可能だが、これを忘れているとまず間違いなく即死効果を持つ吹雪とか、腹立つレベルなんて話じゃない。
しかも……
「……アイテムや装備で回避可能な回数は、必ず一回だけしか出来ないとか……『ふざけんじゃねぇ!!』てレベルだもんな……」
近くに居ることは判るが、姿が見えないパンドラズ・アクターの事を考えつつ、小さく溜め息をこぼした。
今回、パンドラズ・アクターにどれだけのアイテムを使わせたのか、考えるだけで恐ろしい数だろう。
今使っている装備だって、【
そう思うだけで、ウルベルトはパンドラズ・アクターに対して頭が上がらないと思っている。
何せ、全てがパンドラズ・アクターの私物から出ている事もあって、この損失の大きさはそう簡単に埋められないと、ウルベルトは思うのだ。
しかし……パンドラズ・アクターにその事を直接言ったとしても、本人は「ウルベルト様の役に立ったのだから構わない」と笑うだろう。
あくまでも、「自分の資産は、至高の方々の役に立つ為にあるのだから」と、何もかも平気で差し出す献身さは、時に危険だとウルベルトは本気で考えていた。
この危うさは、この度の間に少しずつ修正していくとして、だ。
《……絶対に、ナザリックに戻ったら、今回の分も含めて旅の間にパンドラに出させる事になるアイテムや費用は、該当するアイテムそのものか、それに相当する金額で補填してやる!
絶対に、目下の者から搾取する側になって堪るか!》
そこまでウルベルトが考えた所で、視界を覆い隠していた白の暴風が急速に収まっていく。
視界が晴れた先には、先程までと変わらずに佇むフリーズと、その左斜め手前に立ち、手にした雷を纏う
《何時の間に!?》、とウルベルトが思う間もなく、パンドラズ・アクターは手にしていた剣を使い、鋭い連続突きを放ちながら剣に付与された雷属性の魔法を解き放つ。
「
この魔法は、対象に必ずクリティカルを与える雷属性の攻撃を発動させる代わりに、この魔法を付与した武器も破壊する。
故に、自分の主力武器には絶対に付けられない魔法だが、その効果の有効さから、そこそこのドロップ武器に切り札として、補強に使う者はそれなりにいた。
そう考えると、あれもパンドラズ・アクターの能力確認の為に作成されたものなのだろう。
あれも、それなりに悪くない
「……それを、ここで使うパンドラの度胸には感心するしかないね。
これで、今のパンドラの全装備は、使い物にならなくなった筈だ。」
しかも、フリーズにクリティカルを入れると同時に、一気に後退してこちらに戻ってくる。
それを見て、ウルベルトは感嘆した。
成る程、確かにウルベルトの言葉を聞いて、自分がダメージを受け難い様に、アイテム消費を覚悟でコントロールをしているらしい。
例え
これに、先程までの攻撃でフリーズに与えたダメージと合わせれば、かなり良いところまで攻撃は通っていると言って良いだろう。
もう少しで、こちらの目標である【
だが……
《正直、この後に待っているフリーズの攻撃がかなり厳しいんだよ。
今回の【
しかも、その前に【
三連続で来られたら、本気でどれかが回避不能だと思えるからな。
だが……それを覚悟でパンドラは突っ込むと、最初から想定しておいた方がいい。
それ位の覚悟を決めないと、こっちが負ける。》
その為にも、自分の回りの氷を排除しておくべきだと、ウルベルトはパンドラズ・アクターから貰ったアイテムを、スイッチを入れながら軽く投擲していく。
先程の【
その解除をしないと、全体にダメージソースを残す事になるだろう。
この状況を放置していたら、この後のフリーズの攻撃を増長する可能性が大きいのだ。
そう考えたからこそ、ウルベルトは後の事を考えずに手持ちのアイテムを全て投擲する。
どちらにせよ、次の大技である【フリージンク・クリスタル】まで残り約一分。
もちろん、フリーズとてただ素直にこちらの好きにさせてくれる事はなく、【
なので、冷静に杖を使い【
こちらがフリーズの攻撃に対押している間に、パンドラズ・アクターが急いで新しい装備に変えているのを確認した時である。
フリーズが、このタイミングで【
「……冗談だろっっ!!」
それを見た途端、ギョッと目を見開き思わずそう叫んでいた。
まだ、先程の【
たが、このタイミングで来るかと、ギリリッとウルベルトは歯を食い縛りつつ、再び【
その横から、炎属性の苦無を四方へと飛ばしつつ、その場から飛び出したパンドラズ・アクターが、ウルベルトの撃ち漏らし手にした炎属性の剣と苦無を駆使して潰していき……
ほぼ撃ち落とした所で、後半戦四回目の【
一応、潰しきれた事で最悪の事態は避けられたが、それでもここから三連続でのコンボが来る可能性が回避された訳じゃない。
しかし、それでもパンドラズ・アクターの行動をウルベルトは止めなかった。
多分、ウルベルトが止めてもパンドラズ・アクターは攻撃を止めないだろうし、ここが正念場なのだ。
次に来る【フリージンク・クリスタル】は、確かに触れたものを全て凍らせる結晶が発生するが、全く回避が出来ない訳じゃない。
苦無など、下位アイテムを惜しまず上手く自分の周囲に投げ付ければ、その結晶にアイテムが触れて凍る代わりに、結晶も砕けてその場から消えてくれる。
ただ、使い捨ての下位アイテムが大量に必要なので、早々使えない方法でもあった。
少なくても、【ユグドラシル時代】にギルメン達がそれを選ぶまでには、色々と思い切る必要があった記憶がある。
それはさておき。
フリーズへと、接近戦を仕掛けていたパンドラズ・アクターを見つつ、ウルベルトが援護射撃として【
次の【フリージンク・クリスタル】のカウントダウンが始まったのは。
そのまま、【
「……五、四、三、二、一……ゴー、ファイヤ!!」
フリーズが発動した【フリージンク・クリスタル】に合わせて、ウルベルトも【
パンドラズ・アクター自身も、苦無を大量に周囲へ投げる事で、自身の行動範囲を素早く広げて、フリーズに対して一気に特攻を掛けようとした瞬間だった。
視界の先にいたフリーズが、信じられないモーションを見せたのだ。
【フリージンク・クリスタル】が消える直前、【
狙いは、パンドラズ・アクターのいる場所ではなく、ウルベルトのいる場所から斜め右頭上。
確実に、ウルベルトを狙って来たのは、疑いようがなかった。
あの位置では、爆砕した破片がとんで来ても、ウルベルトに避けるのが難しい。
魔法での迎撃も、かなり厳しいと判断して、ある程度のダメージを覚悟したウルベルトの視界を、覆い尽くす黒い影。
「……あっ……」
小さく漏れた声すら、覆い隠すように優しく包み込んだそれが何か、ウルベルトには一瞬解らなかった。
だが、それに続いて響いた衝撃音と振動、そして何かがパキパキと凍り付く音に、慌てて顔を上げたウルベルトの視界に入ったのは、あちこち身体の一部が弾け飛びながら、ほぼ全身が凍り付いていたパンドラズ・アクターの姿だった。
「……ウルベルト、さま……ご無事で……良かった……」
その言葉を最後に残して、受けたダメージに耐えられず、目の前で砕け散るパンドラズ・アクターを目の当たりにして、ウルベルトは怒りのまま吼えるように魔力を収縮させたかと思うと、【
「我が怒りと、深い憎しみを糧に顕現せよ、究極の災厄!この凍れる大地に滅びと憎悪、憤怒を叫び響かせろ!
― 【
その瞬間、ウルベルトの怒りそのものが、実体をもったエネルギーの塊に変わるかのように、洞窟を覆い尽くしていく。
それは、確かにウルベルトの中にあった怒りが爆発したものだったのだ。
その怒りは凄まじく、憎悪に変わって魔力として放出された結果、先程よりも確実に威力は上がっていた。
ウルベルトは、その爆発的な威力を目にして、これで勝ったと思ったのだが……
全てを滅ぼすような、そんなエネルギーの奔流が消えた後、ウルベルトの視界の先には、かなりダメージを負っていたものの、今だ健在のフリーズの姿が存在していたのだった。
これが、本年最後の更新です。
なんとか、今年中に更新が出来ました。
ですが、フリーズの話は終わりませんでした。
一応、予定通りの進行なんですけどね。
そして、パンドラの死亡は合計三回となりました。
これも予定通りです。
フリーズの話は、残り後一話で決着なのでもう暫くお付き合いください。