もし、宝物殿の一部が別の場所に転移していたら? 作:水城大地
相変わらず、お茶をしながらの話し合いです。
今回は、ある程度の方針決定とウルベルトさんのアイテムによる能力強化。
テキパキと、ミルクティーを用意していくパンドラズ・アクターの動きはとても手慣れた様子で、普段から何度も繰り返している自分の好みの淹れ方なのだろう。
紅茶とミルクを同時に注ぐ様は、いっそ慣れた仕種が格好良い位だ。
それに、これなら最初から紅茶とミルクが混ざりあっていて、混ぜなくてもそのまま飲めそうだと思う。
甘いフォンダンショコラを食べる分、紅茶には砂糖を入れる必要がないので、このまま飲めば良いのは手間が少なくていい。
そうして、完成したミルクティーをテーブルに置いたパンドラズ・アクターは、再び自分の席についてこちらに向き直った。
一応、ここから先は重要な話なので、手にしていたものを一旦置いて、ウルベルトは口を開く。
「それじゃ、現在抱えている問題を幾つか打開する方法を考えようか。
とは言え、パンドラのレベルダウンその物は、
やるなら俺の方だが……その前に、幾つか実際の能力値の確認が必要だろうな。
あくまで、今の俺に判っているのは、大体の威力でしかないし。
それで……対策として、パンドラならどうする?
俺としては、アイテムを使って修正するしかないだろと思ってるんたが……」
そこまでで一旦言葉を切ると、ウルベルトはパンドラズ・アクターの意見を待つ事にした。
一応、今の時点で自分が思い付く事は上げてみたので、ここから先はデミウルゴスに次ぐ頭の良さを誇るパンドラズ・アクターの意見を聞きたかったのだ。
どうせ、彼の意見が纏まるのを待つなら、その間は手元のフォンダンショコラを食べて待つ事にしよう。
先程のバニラアイスと、生クリームでは絶対に味わいが変わっているはずなのだ。
それを、こうして待つ間に味わって何が悪い。
確実に【美味しい】と分かっている物を目の前に置かれ、お預けを食らっているのは辛いのだ。
特に、食料事情が悪くてかなり苦しい環境で何年も過ごしたウルベルトには、自分の分として用意されたものを我慢するのは難しかった。
《どうせ、パンドラの答えが出るまで待つんだし、その間は食べても良いよな?
なんか、生クリームもまだフォンダンショコラに残ってる余熱で、少し柔らかくなって溶け掛けてる気がするし。
つか、もう食う!
確かに、真面目に話し合いう事は必要だけど、用意されたものを食べながらでもそれは出来るし!》
そう思い切ると、ウルベルトは一旦置いたスプーンを手に取り、フォンダンショコラが盛られた皿を持ち上げると、丁寧にスプーンを挿し入れた。
バニラアイスとは違う、ふんわり柔らかな生クリームごと
フォンダンショコラをスプーンで掬い上げると、そのまま一口頬張る。
口の中で蕩ける食感は、バニラアイスよりもとろりと広がり、少し冷めたフォンダンショコラと絡み合ってとても美味しいものだった。
冷めた事で、チョコレートクリームのようになっていた部分がもちもちとした食感に代わり、そこに生クリームが絡む事で絶妙な味わいを生み出していたのである。
《本当に、食べるまでの時間とトッピングが変わるだけで、ここまで味わいが変わるとは思わなかった。
ここまでふわふわに泡立ててあると、もっとしっかりとした食感になるのかと思ってたのに、口の中で蕩ける滑らかな口当たりがこれまた美味いんだよ、ほんと。
熱々だった時は、フォンダンショコラの部分はとろとろだったのに、冷めたら食感がもちもちに変わるって、どんな食材を使ってるんだろうな?
俺に出すもんだし、変なものは使ってないとは思うけど……
まぁ、とにかくパンドラの作ったものは、冷めても美味いって事は間違いない訳だし、気にしなくても良いか。》
内心で納得しつつ、ウルベルトはモグモグと口を動かして食べ進めていく。
その合間に飲むミルクティーも、また先程とは違った味わいで美味しかった。
ウルベルトの好みとしては、先程のストレートの方に軍配が上がるが、これも決して悪くはない。
この辺りも、用意したのがパンドラズ・アクターだったからかもしれないと、頭の端でちらりと思う。
料理人のスキルの有無で、飲食系の出来映えが変わるのだとしたら、間違いなくウルベルトには出来ないと思うからだ。
もしかしたら、ナザリックのメイドや執事などは、その立ち位置からお茶を淹れるまでは出来るかもしれないが、今の時点では判らないから、その件に関して考えるのはまたの機会にするとして、だ。
そろそろ、パンドラズ・アクターが自分の考えを纏め終える頃ではないだろうかと視線を向ければ、読みは当たったらしい。
少し迷う素振りを見せつつ、パンドラズ・アクターはゆっくりと口を開いた。
「そうですね………私の手持ちのアイテムの中に、HPを上昇させるものとMP消費率を下げる効果のものが、幾つかございます。
ウルベルト様の種族属性などを踏まえ、アイテム調整をしていくのが、一番確実な方法になるかと思われます。
アイテムに使われている素材の属性に依っては、属性による補正強化の効率に変化が出る場合もありますし。
手持ちの使える資材から、補強パーツを作る必要もあるでしょう。
それらの作業を進めるには、ある程度の時間が必要だとして……このままこの地である程度根気をいれてこの国に留まるか、それとも先を急ぎウルベルト様の本体がある場所へ移動して、そこからナザリックを探す為の手段を考えるか。
どちらを選んだとしても、一度ウルベルト様の本体は回収するべきでしょう。
どのような形になっているのか、この目で確認しないといけないですからね。
それと、私としてはきちんと御身の保護もしておきたい。
例え誰であろうと、ウルベルト様に危害を加えようとするものは許せませんから。」
つらつらと連ねられた言葉は、今のウルベルトの状況を考えれば、どれも的確なものだった。
パンドラズ・アクターの懸念はどれも良く解る。
この世界は、今まで居た【ユグドラシル】とは違う。
その点から考えて、アイテムの効果がそのままとは限らない事は、最所の段階できちんと想定すべきだった。
特に、種族による装備アイテムの効果の変化があったりしたら、この状況下ではとても笑えない話だと言っていいだろう。
だからこそ、パンドラズ・アクターはそれも含めて確認する必要性を訴えてきたのである。
しかも、その必要性を十分に踏まえた上で、今後の行動の
指標を幾つか挙げているのが凄いと言うべきだろうか?
更に、現時点では安全性が確保されていない、ウルベルトの本体の回収の必要性まで訴えてきている。
これに関しては、パンドラズ・アクターの言う通りだと、ウルベルトも話を聞いた時点で素直に同意していた。
本音を言えば、今こうして側を離れている間にも、見知らぬ誰かの手で本体に何かされていないかと言う不安は、ウルベルトの中でかなり高い。
もちろん、ここに来る前にきちんとウルベルトに出来る結界を多重展開してきたものの、【ユグドラシルプレイヤー】なら、ある程度の時間があれば解除出来ない代物ではないのだ。
そんな不安を抱えた状態で、パンドラズ・アクターと共に
ナザリックを探して旅をするのは、とても無理があるだろう。
だが、本体を何らかの形で回収して安全さえ確保してしまえれば、その不安はなくなる。
都合が良いことに、確実に安全を確保出来る手段を持った相手が目の前にいる以上、パンドラズ・アクターの負担になる事を承知の上で、任せるしかないだろう。
多分……その方が、あの場にウルベルトの本体残したままその安全を定期的に確認するよりも、パンドラズ・アクター自身の様々な面での負担は少ない筈だ。
その代わり、封印の代償としてパンドラズ・アクターのレベルダウンは免れないだろうが。
こればかりは、使用条件だから変えられないのが腹立たしいが、ウルベルトとしては封印さえ解けばレベルが戻る事に納得するしかない。
それらの事を、素早く思考を回すこと約数秒。
思考を回し始めた途端、自分が無意識に目を細めていた事に気付いたのは、パンドラズ・アクターの様子が僅かに変化したのを目にしたからだ。
こちらの反応が、どうなるか不安を感じているのだろう。
さしずめ、自分が余計な事を言って、俺を不快にさせていないかと言った所だろうか?
何となくだが、パンドラズ・アクターは俺が上位者であると同時に、自分より遥かに頭が良い存在だと認識している素振りが見える。
故に、自分が思い付く様なことは全て想定済みだと、そう思っているんじゃないだろうか?
全く、買い被りすぎだと本気で思う。
もしかして、これもNPCは全てそんな感じなんだろうか?
《……俺の予想通りだとしたら、本気でとても恐ろしい話だぞ、おい。
そりゃ、小卒では得られない類いの知識は、ある程度までネットやギルド仲間から得ているし、そこそこ頭の回転も良い方だと思っているけどな。
ナザリックで一、二を争うパンドラズ・アクター程の頭脳は持ち合わせていないっての。
それなのに、そんな期待をされてしまっていたら、こちらのストレスが半端ない気がするじゃないか。
おいおい!止めてくれよホントにさぁ……
過度の期待なんて、答えられなかった時の失望が怖くて仕方がねーだろ?
……ちょっと待て。
もしかして、モモンガさんは今まさにこの状態で複数のNPC に囲まれて暮らしているとか、そんな状態とか言わないよな?
だとしたら……あの人のストレスとかメンタル面は大丈夫なのかよ……》
自分の状況ももちろんだが、ナザリックと共にこちらに来ている可能性が高いモモンガの事を考えた途端、予想よりも高ストレス下にいそうな状況が頭に浮かび不安になってくる。
それを思えば、まだパンドラズ・アクター一人を相手にすれば良い自分が、泣き言など言っていられない。
むしろ、少しずつパンドラズ・アクターを俺で慣らしていく事で、再開する頃にはモモンガがストレスを感じなくする方向に持っていくべきじゃないだろうか?
ついてに、本来の設定より今の状態の方が、モモンガの好みだと教えてやるのも悪くないかもしれない。
長い調整期間が必要だった分、早い段階で決めた性格設定が仇になったと言うべきだろう。
ウルベルトとしては、本来のパンドラズ・アクターの設定も気に入っているが、モモンガは設定を変更するかどうかでかなり迷っていたのだ。
仲間と決めた設定だった事もあり、最終的には変更しなかったようなのだが。
そこまで考えた所で、そろそろパンドラズ・アクターの緊張感が高まっている気がする事に気付いた。
スッと、視線を手持ちの時間を確認するアイテムに落とすと、既に彼の説明が終わってから数分が過ぎている事に気付き、待たせて可哀想な事をしたとここの中で詫びておく。
口に出して詫びないのは、多分、今のパンドラズ・アクターには逆効果だと考えたからだ。
いい加減、待たせたままではいけないだろうと、ゆっくりと口を開く。
「……あー、そうだな。
一先ず、パンドラの手持ちの中に、ある物の中で一番良い性能のを使うとして、だ。
調整は、移動しながらの方が良いだろう。
この辺り一帯は、俺やお前にとって危険な国が近いんだろう?
なら、あまりその近隣に留まるのは、不安要素を残す事になるから避けるべきだな。
それなら、一旦、
どれだけ時間が掛かるか判らないし、同じ場所に戻ると描けた時間の分だけ移動していない事の不審さが目立つ事になる。
それは、現状では避けるべきだろう。
正直、面倒だが……余計な詮索を招くくらいなら、その程度の手間は掛けても良いけどな。」
出来るだけ安心させるように、少し笑いながら告げてやれば、パンドラズ・アクターの気配が安堵からか緊張に張り詰めていたものから少し柔らかく弛む。
彼から提案された内容を、必要だと思う部分だけ修正した上で了承したのも、彼の安堵を促したのだと察しつつ、ウルベルトは少しだけ気を引き締めておく事にした。
一応、これでもちゃんとウルベルトなりに精査した結果の答えだが、現在の自分達の置かれている状況を踏まえたら、パンドラズ・アクターの提案した内容に多少修正を加える位しか、自分には思い付かないのである。
それ位、彼の提案はきちんと理に適っていて、ウルベルトが修正した以上に変更するのは、逆にどこかで破綻しそうな気がしたのだ。
ならば、無理に必要以上の修正をする必要はない。
そもそも、こうしてパンドラズ・アクターの意見を聞いているのは、お互いの認識に差がないか確認する為であり、問題がなければそのままで構わないのだ。
ただ、今回は幾つか選択肢が出されたので、その中で今の状況を踏まえて精査した上で、自分の意見を足しただけに過ぎない。
ウルベルトとしては、自分よりも確実に頭が良いパンドラズ・アクターに、全て考える部分を任せても良いのだ。
だが、そうして何もかも彼に任せきりにしていると、何かあった時に対応が遅れる可能性がある。
なので、お互いに意志疎通をきちんとしておきたかったのだから。
今、味方だと断言出来る相手は、お互いしかいないのだ。
この二人の間で、意思の疎通が出来ていなかったら、それこそモモンが達の元に辿り着く前に、お互いに不満を抱えながら過ごす事になりかねないだろう。
多分、パンドラズ・アクターは、こちらが無茶な事を命じた場合、ある程度まで改善策を提案してはくれるだろうが、重ねて言えばそのまま従うのは間違いない。
改善案の提案とて、ウルベルトの身を守るために、必要だと思うものをするだけで、それが不要ならしない可能性すらあった。
その結果、パンドラズ・アクターを危険な目に遭わせた何て事になったら、ウルベルトがモモンガに合わせる顔がない。
《まぁ……パンドラの事だから、その辺りまできちんと判ってそうな気もするけどな。
むしろ、こちらの意図を正しく読んだ上で、俺の事を優先する提案をしてきたのかもしれない。
そう考える方が、多分正しいだろう。
頭の出来は、間違いなくパンドラの方が良い訳だし。
もっとも、ナザリックのNPCの中では一番経験値が不足している分、すぐに思い付かない部分がある可能性も、ちゃんと頭に置いておかないと駄目だろうな。
その辺りのフォローが、暫く俺がメインに置くべき案件かもしれない。
……まぁ、すぐに必要なくなるだろうけど。
それも含めて、今後の課題として考える事が多すぎるぜ、本当に。
とにかく、先ずは俺の強化だが……パンドラの手持ちにどんなアイテムがあるのか、予想がつかないからなぁ……》
再会した時点で、パンドラズ・アクターから聞いた話を考えると、手持ちのアイテムは持っていたとしても
この世界のアイテムレベルは、正直言ってとても低い。
ウルベルト達からすれば、到底使い物にならない
それ以上のアイテムや装備など、要らぬ騒動の種にしかならないので、奪われないように封印していると、ウルベルトは推測していたのだが……
どうやら、その推測は外れたらしい。
パンドラズ・アクターが、自分のアイテムボックスから取り出したのは、どれも見覚えがある装飾品系アイテムだったのである。
と言うより、自分にとっても馴染み深いアイテムだった。
ウルベルト自身が直接使う事はなかったが、モモンガが現在使用している最強装備が完成するまでの間、その便利さから愛用していた課金アイテムだったからだ。
この課金アイテムは、割と効率良く複数当てられたらしく、今でも予備として一つ手元においた上で、残りを宝物殿に納める事にしたと、ウルベルトはモモンガから聞いた事がある。
多分、パンドラズ・アクターが持っているのは、その宝物殿に納められていた分だろう。
しかし、だ。
割と貴重な部類のこれを、他者に奪われる可能性がある手持ち荷物で持ち歩いているとは、ウルベルトにすればかなり予想外の話だった。
なので、素直に驚いて見ていたら、パンドラズ・アクターはこちらの行動を見ることで、アイテムを知っているのかどうか判断を決めかねたかのように、手にしたアイテムを一つずつ並べながら、丁寧に説明し始めた。
「ウルベルト様が、アイテムにどこまでお詳しいのか、私は存じ上げませんので……一応説明させていただきます。
こちらの腕輪は【
これを使えば、低下しているHPとMPの双方を上昇させられますので、今のウルベルト様には効果的かと。
そして、こちらの指輪が【
ただし……今のままでは、使う魔法の種類によって五%しか削れない場合もありますので、そこは要修正かと。
双方共に
パンドラズ・アクターの丁寧な説明を聞きながら、ウルベルトはそんな効果だったなと思い出しつつ、目の前の装備を着けていた頃のモモンガの事を思い出す。
《そういや……腕輪も指輪も、装備出来る限界個数が決まっていたから、モモンガさんはどの効果を優先するか、迷ってたんだよな。
まだレベルもMAXになってなくて、HPとかMPとかの強化アイテムは必須だったし。
ほんと、懐かしいなぁ……》
そう、
今のウルベルトにとって、かなり心強い補助装備となるだろう。
これを用意してくれたなら、後からパンドラズ・アクターに追加して貰う装備効果の選択肢が広がるので、かなりありがたかった。
一先ず、一つを手に取ってみる。
「あぁ、これなら大丈夫だろうな。
モモンガさんが使っていたから、効果とかも解ってるし。
しっかし、まぁ……よく手元に残していたな?
さっきの話から考えると、お前なら封印に回してそうなレベルのアイテムみたいなんだが………」
きちんと磨き上げられ、丁寧が保存をされていたからか、新品同様のそれを丁寧に指先で角度を確認しながら、そうパンドラズ・アクターに尋ねてみると、小さく首を竦めてみせる。
どうやら、この辺りに関してもウルベルトの記憶は間違っていなかったらしい。
やはり、宝物殿内に複数存在していたからこそ、最低限保存すべき一組以外を手元に持っていたのだと考えれば、
そのお陰で、こうしてウルベルトが装備できる状態にあるのだから、その判断に関して文句はない。
ウルベルトがそんな事を考えている間に、こちらが事情を察したのを理解したらしいパンドラズ・アクターは、簡単に説明することを決めたのだろう。
何とも言い難い顔をしつつ、困ったように頬をちょっとだけ掻くと、ゆっくりと口を開いた。
「実は、もう一組手元にございまして。
そちらを保管用に回す事で、こちらは実用品として手元に残す事が出来たのです。
一先ず、場所を移動いたしましょう。
ウルベルト様のお話では、本体がある場所は人はおろか異形種すら殆ど存在しない、雑魚モンスターの住み処なのでしょう?
そこなら、多少魔法を使用しても問題ないと思われますので、そちらに移動されてから、現在のウルベルトの状況確認をさせていただきたく思います。実際にこの目で粗の威力確認した訳ではございませんから。
そこで、様々な能力を威力確認した上で、それに合わせて調整する必要がありますし。
次いでですので、本体の封印をしている氷のようなものの上に、強固な多重展開した結界を展開した上で、試し打ちの魔法で周囲を掘削しても良いでしょう。」
本当に、あっさりとした説明だけすると、パンドラズ・アクターはすぐさまこれからの予定に関して一つ提案してきた。
あっさりと思考を切り替えるあたり、状況に対応出来るだけの順応力も高いのだろう。
それに、パンドラズ・アクターからの提案は、ウルベルトも必要だろうと考えていた事だ。
どうせ、自分の本体を取り出すなら、同時に魔法の威力をパンドラズ・アクターに確認して貰う作業も組み込むべきだと。
なので、素直に頷いて同意すると、受け取ったアイテムを手早く身に付け、残りのフォンダンショコラを食べ始める。
これからやる事が決まったのだから、いつまでもダラダラ食べているよりもさくさく食べ終えて行動に移した方が良い。
特に、出来るだけ危険を避けるために、それなりに手間を掛ける事も視野に入れているのだから、削れる時間は削った方が良いだろう。
ウルベルトが食べ始めると、それに倣ってパンドラズ・アクターも残りを食べ始めたのだが、彼の好みはバニラアイスがある程度まで溶けて、冷めたフォンダンショコラと混ざって、もっちりトロトロな状態のものらしい。
先程より、どことなく食べる度に笑みが溢れる回数が増えているからだ。
《……今度食べる時は、あの状態のも試してみよう。
あんな風に、美味しそうな様子でパンドラが食べてるんだし、試してみない方が損な気がするからな。
それにしても…紅茶も茶菓子も冷めても美味しいなら、お手軽な料理はどれくらいの美味さになるのか、本気で気になってきたんだが。
まぁ……向こうで俺の本体を掘り出した辺りで、軽く何か作って貰えば良いか。》
最後の一匙を食べ終えて、満足した気分を味わいながら、ウルベルトはチラリとそんな事を考える。
どうやら、あちらも食べ終わったらしい。
そのまま立ち上がり、テキパキと食器を下げていくのを見送ると、口元を食器を下げる際に置かれた蒸しタオルで、出来るだけ丁寧に拭っていく。
何分、今の自分は山羊の姿をした悪魔であり、口元には体毛や立派な髭があるのだ。
そこへ、地味にチョコやらクリームやらが付いてしまっていて、拭かずにそのままにしておく方が、後で困りそうな様相だったのである。
ちゃんと、そこまで見越して用意万端なパンドラズ・アクターの対応に、ウルベルトは称賛の言葉しかなかった。
一先ず、一段落したら何かの形で
一通り身支度が終わった所に、急ぎ足でパンドラズ・アクターが戻ってきたので、そのままその肩へ
そのまま、グリーン・シークレット・ハウスを手早く元に戻し、アイテムボックスに収納して最後の準備を整えると、にこやかにパンドラズ・アクターは声を掛けてくる。
「それでは参りましょうか、ウルベルト様。」
掛けられた言葉に促され、ウルベルトは
それを目標の座標に据えると、パンドラズ・アクターは即座に
そして、そのまま迷う事なくそれを潜ったのだった。
また、予定まで書ききる前に文字数が長くなりすぎたので、ここで切ります。
とは言え、漸くパンドラ視点までは書き終えましたが。
次から、新しい展開に漸く入れます。