もし、宝物殿の一部が別の場所に転移していたら?   作:水城大地

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自分の持ち物の確認と、合流出来そうな相手を探してみた

正直、余りにきつい条件を目の前に突き付けられ、それをクリアするには単独では無理と言う現実を前に、ウルベルトはどうするべきなのか思案に暮れていた。

 

今の自分には、実際には出来る事はあまり多くない事も、きちんと把握しているからだ。

MPそのものだけなら、この外見のわりに本来のアバターの六割と、割と多いと言えるだろう。

だが、その分魔法を使う為に使用するMP消費量が本来の五割増しと、それを打ち消すだけのものになっていて、意外に使えない。

 

威力はそのままだと言う点は、少しだけ救いがあると思えるのだが、それでも使い処を間違えれば割と簡単にMP切れを起こして動けなくなるだろう。

 

他にも、小さくとも高性能なゴーレムボディのおかげで、魔法職でありながら紙装甲と言われるほど物理耐性は低くないが、それでも本来のアバターのHPの四割程度の体力しかない事とか。

物理耐性はそこそこだが、装備がほぼ遺産級レベルのもので固められていたり、アイテムボックスがほぼ碌に使えないアイテムばかり状態(それでも一応使えた)になっていたりしたのである。

 

もう……とにかく、このままでは元に戻る処かモモンガたちと合流するのも危うい気がしてくるほど、今の自分の状況は良くなかった。

 

装備に関して言えば、むしろこのサイズで、よくもまぁ遺産級(レガシー)の品を装備させてくれたものだと、パンドラズ・アクターの器用さに感心させられていた。

正直言って、装備に関してはあくまでも見せかけだけの張りぼてだったとしても、試作品のゴーレムでは仕方がない状況だったのだ。

それを考えれば、遺産級(レガシー)のものでもきちんと装備させてくれているだけ、かなりましだと考えるべきだろう。

 

もしかしたら、後からモモンガが念の為に預かった全てのゴーレムに遺産級(レガシー)の装備させたと言う可能性も、まぁ……なくはないのだが。

 

アイテムボックスに関しては、中に高価な品がほとんど入っていない状態なのについては、自分で納得している。

三年前、ナザリックを最後に訪れた時に、手持ちのもので高価なアイテムの大半は、モモンガに預けておいたからだ。

自分がいない間、【もし何かあった時は使って欲しい】と、それらを彼に託したのは間違いではないと思う。

 

あの時、いつ戻れるのか判らない状況下において、ギルド長であるモモンガに託すのが、最善の判断だったと今でも思っているので、これに関しては後悔はない。

 

よくよく考えてみれば、このゴーレムボディになった状況下でもアイテムボックスを使える事の方がすごい事であり、使えない可能性の方が高かったのだ。

そう思えば、使えないアイテムボックスの中身が充実していても、余り意味がないだろう。

更に考えれば、このゴーレムボディの総HPならば、手持ちのアイテムで十分回復出来てしまう状態なのだ。

 

下手に高価な分、その効力が高いアイテムを持っているより、余程使い捨てして惜しくないと思えるだろう。

 

≪……そうやって考えると、割とアイテムボックス内の内容は、悪くないのかもな。

無駄に高価で効力が高いアイテムとかだと、かえって勿体なさ過ぎて使いそびれそうだし。

【アイテムの価値が高すぎて、使い惜しんでいる間に死んでしまいました】とか……一番笑えない状況だからな、今の俺は。

まぁ……その代わり、MPブースト系とかの補助アイテムとかも無かったんだけど。

これに関しては、下位の補助装備系アイテムは全部部屋のクロークに突っ込んでいたから、【無くて当然だ】と最初から諦めてたけどな。≫

 

つらつら考えつつ、今、この場で直に出来る確認作業を続けていく。

 

アイテムボックス内にあるのは、大半が安価な治療薬(ポーション)などの消耗品系アイテムだった。

それでも、一応武器として聖遺物級(レリック)の杖が数本入っていて。

思わず、それを見付けた時に本気で嬉しさから小躍りしてしまった位には、他に今後の活動の主軸として使えそうな物は入っていなかった。

 

「……落ち着け、俺。

これで武器は手に入ったんだから、それでよしと思うべきだろう。

しかもこれ、炎属性持ちなら追加効果で【火球(ファイヤーボール)】をMPを使用せずに使える、モンスタードロップアイテムでも特典付きの杖じゃないか。

更に装備効果として、炎属性及び氷属性攻撃無効化とか、もう……もう!

良かった……念の為に炎属性持ちの悪魔にしておいて。

まぁ……焼け石に水かもしれないけど、今の俺には十分有効なアイテムだよ、これは。」

 

一通りその効果を確認し、【火竜の杖(スタッフ・オブ・サラマンダー)】を撫でつつ、小さく呟くウルベルト。

この程度の武器ですら、今の何もない自分にはありがたいものだった。

本来の俺からすれば、こんなのゴミアイテム同然の杖だとしても、今の俺には必要な武器だ。

 

よくもまぁ……この杖がアイテムボックス内に残っていたものである。

 

暫く、その理由を考えるように杖を見つめ。

そして、思い当たった答えに、ウルベルトは何とも言い難い顔をしながら頭を抱えた。

 

≪……あー……なんとなく、理由は分かった。

この杖の全体的な印象が、火竜(サラマンダー)とか言いながら、どこか俺の作った理想の悪魔(デミウルゴス)を思わせる雰囲気だからか。

だから、つい、手放せなくてアイテムボックスの中に突っ込んどくとか、どれだけ自分が作った最高傑作(デミウルゴス)の事、気に入っているんだよ俺は!

いや……まぁ、うん。

そりゃ、三年前まで住んでた部屋では、デミウルゴスを十分の一スケールのフィギュアにして飾ってたし、海外に飛ばされてる間もギルメン全員と取ったスクショと一緒にデミウルゴスとのツーショットも持って行ってたけどさ。

良いじゃないか、俺の自慢の最高傑作(デミウルゴス)なんだから。≫

 

自分の作った中でも、最高傑作だと自負している第七階層守護者【デミウルゴス】を思浮かべつつ、そう開き直るウルベルト。

なにせ、自分の中にある思いの丈を込めて作った、文字通り【理想の結晶】であるかの悪魔は、どこに出して引けを取らない最高の出来だとと自負しているのだ。

 

この辺りの感覚は、同じ様に思い入れをもってNPCを作った人間でないと、判らないかもしれないが。

 

とにかく、どんな理由であれ自分の手持ちの武器があった事は喜ばしい事だった。

可能な限り手持ちのアイテムの確認も済み、この杖以上に使えそうな物は無い事も確認したので、次にするべき事を考え始める。

 

「……やっぱり、情報収集、だな……」

 

自分が現在いる場所の事すら、何の情報も掴んでいないと言う状況が、どれだけ空恐ろしい事かと言う事を、ウルベルトはちゃんと理解していた。

ここがどんな場所で、どんな存在が中心となって存在しているのか、きちんと把握しないとこの洞窟の外に出る事すら出来ない。

そもそも、この洞窟の中ですら、本当に安全なのかと言う点すら、最初の状況を考えれば怪しかった。

 

一応、あの時にウサギもどきのモンスターを倒してから、この洞窟の中に入り込んでくる存在はいない。

 

だからと言って、安全だと思い込むのは危険だろう。

もしかしたら、こちらの隙を少し離れた場所から窺っているのかもしれないのだ。

幾ら注意しても、注意したりないと言う事はないだろう。

 

油断などしている余裕など、今の自分にはどこにも存在していないのだから。

 

「……さて、情報収集するにしても、この世界で魔法による探知対策がどうなっているのか、いまいち判っていないのが痛いな。

これで誰か仲間がいるなら、多少の無理も出来るんだが……」

 

そう、単身の上に魔法耐性はもちろん物理耐性などの守りが弱い状態で、下手に魔法を使うのは正直迷う所だった。

これで、まだ何らかのアイテムなどで身代わりが可能な状況なら、ある程度まで強硬手段に出れるのだが、それもない。

本来の姿なら、探知対策(カウンター・ディティクト)などの対策も万全で、装備だって今の物以上を身に着けていたから、無理も出来ただろうが……今は違うのだ。

 

どうしても、ウルベルトが慎重に行動してしまうのは、仕方が無い事だった。

 

 

**************

 

 

ウルベルトが情報収集を始めてから、一体どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。

それこそ、普通に外の世界を観察する分には問題ない事を理解した後は、MPが続く限り色々な形で情報を集めてそろそろ三日が過ぎると思しき頃。

外の様子を観察する際に、太陽の動きで日付を把握していたウルベルトは、そろそろ本命を仕掛けようかと考えていた。

 

本命……それは、モモンガ若しくはナザリックの関係者を捜す事だ。

 

ここで、なぜ直接ナザリック地下大墳墓を探さないかと言うと、あの場所は世界級(ワールド)アイテム【諸王の玉座】によって探知魔法を阻害する効果によって守られている為、探す事が出来ないからだ。

それなら、モモンガもナザリック関係者も探せないのではないかと指摘されそうだが、自分と同じように単身でこちらの世界に来ている可能性も、まだ捨てきれていない。

だからこそ、とある方法を使って探索してみようと思ったのだ。

 

その方法とは、【千里眼(クレアボヤンス)】を使っての【自分の作成したアイテムを所持している者】の探索だった。

 

この方法を使用すれば、探索する対象との距離は問題にならない。

もちろん、指定したアイテムを相手が見つからなければ反応しないから、その探知対象を誤認する心配もない筈だ。

何より……この方法で見付けられる可能性がある対象は、全部で三人しかいない。

 

一人は、自分が生み出した最高傑作であるデミウルゴス。

二人目は、己が所属していた【アインズ・ウール・ゴウン】のギルド長である、モモンガ。

そして三人目は……己が、色々と気に入って装備などを与えていた、モモンガが作成したNPCでありナザリックの宝物殿を預かるパンドラズ・アクター。

 

三人のうち、こちらの世界に来ていて尚且つ外に出ていそうなのは、上から二人だろう。

三人目のパンドラズ・アクターは、まずモモンガが外に出すとは思えなかった。

なので、デミウルゴスかモモンガを捜すつもりで魔法を使ったのだが……

 

 

予想とは全く違い、この方法で見付ける事が出来たのは、なんと【まずあり得ないだろう】と予想していたパンドラズ・アクターだった。

 

 

*******

 

 

最初、【千里眼(クレアボヤンス)】を使用して見付けたのは、人間の姿をしたモモンガなのではないかと思った。

だが……よく観察してみれば、モモンガにしては年齢がかなり若すぎたし、髪の長さや雰囲気もかなり違う。

その時点で、モモンガの可能性は一旦外した。

もちろん、アイテムなどの影響下によって自分の様に外見が変化した可能性も考慮すべきだろうが、それにしてはどこか雰囲気が幼過ぎて。

他人の空似を一瞬考えたが、それだと最初に【千里眼(クレアボヤンス)】での探査対象から外れてしまうのだ。

自分が作成したアイテムを持つ、ナザリック関係者の中でモモンガの外見に良く似た存在になれるもの。

そう考えれば、答えは自ずと導き出されていた。

 

モモンガの手で生み出された、上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)であるパンドラズ・アクターだと。

 

そう理解してしまえば、【千里眼(クレアボヤンス)】越しに見る相手の幼さも納得出来てしまった。

NPCの中でも、宝物殿の中にあり完成するまでに時間が掛かり過ぎた事もあって、特に経験値が足りないパンドラズ・アクターだからこその幼さだ、と。

どうやら、彼は現在、人間種の作った街の中に居るらしい。

 

一応、この世界の常識などを情報収集しては見たものの、自分のいる場所はトロールが主体なのか人間が少なすぎて、どこか情報が足りなさ過ぎるようだ。

 

自分の中にある人間としての知識を当て嵌めると、割と上手く人の中に溶け込んでいるように見えるが、それでも何処かぎこちない素振りが見える。

この辺りは、パンドラズ・アクター自身が殆ど他人と接触した事が無いと言う点から考えても、仕方がない部分なのだろう。

 

≪確か……パンドラの属性はナザリックでもあまり居ない中立で、カルマは-五十だった筈。

だから、あんな風に普通に人間と会話できるんだよな。

他のNPCだと、属性が悪よりだから……別の意味で悪目立ちしてるだろうな。≫

 

この辺りに関しては、流石にデミウルゴスはどう対応するのか、微妙に予想が出来なかった。

属性は極悪だが、頭が良い設定にしてあったから、もしかしたら逆に上手く人間を利用しているかもしれない。

まぁ……その辺りは実際に自分の意志で動いているデミウルゴスを見た訳ではないし、何とも言えないのだが。

 

それにしても……と、ウルベルトは独りごちる。

 

「……自分の意志を持って動くようになると、パンドラはあんな感じなんだなー……

いや、うん。

まさかNPCが、本当に自分の意志を持って動くようになるとは、思ってなかったんだけど、俺。

そうなったらいいと思って、こうして魔法で探してみたんだけど、実際に見てみるとすごく感動的な気がするな、うん。

モモンガさんも、この事を知っているのかな?

もしかして、ナザリックごとこっちの世界に来てるなら、今頃モモンガさんはすごい事になってるんじゃないかな?」

 

クスクスと楽しげに笑いながら、【千里眼(クレアボヤンス)】で暫くパンドラズ・アクターの様子を伺っていたウルベルトは、一旦そこで魔法を打ち切った。

色々と他にも試していた為、今の段階で残りのMPが少なくなってきたからだ。

 

「……今ので、パンドラはすぐに見つけられるのは判ったし、合流するならMPが回復した明日以降だな。」

 

これからの行動の目途が立ち、ホッと安堵の息を漏らしたウルベルトだった。

 

 

 

 




ウルベルトさん視点に、パンドラが出てきました。
これで、合流フラグの成立です。
次は、パンドラ視点になる予定です。

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