もし、宝物殿の一部が別の場所に転移していたら?   作:水城大地

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今の現実を確認したら、予想以上のムリゲーを押し付けられていた

どれ位、洞窟の中でゴロリと地面に横たわっていただろうか?

 

そうして、冷たい地面の上に横たわっていた事で、少しは冷静さを取り戻せたとウルベルトは小さく溜息を付いた。

今の段階で、リアルに関して何かを考えたりする必要は……多分、もう無いだろう。

何を考えたとしても、自分は死んでしまっているのだ。

 

それを伝える術はないし、自分の気持ちや考えを伝えた所で、残るのは向こうで生きているペロロンチーノを含めた親しい友人たちの後悔だけなのではないかと、漠然と思う。

 

むしろ、確実にウルベルトの事を身代わりにしてしまった形になったペロロンチーノは、今の段階で後悔しかしていない筈だ。

そこに追い打ちを掛けるのは、流石にウルベルトも躊躇われた。

今回ばかりは、こちらが無理を言ってペロロンチーノの家に泊めて貰えるように頼み込んだ結果であり、タイミングが悪かっただけだからだ。

 

それに……ウルベルトが身代わりにならなければ、ペロロンチーノが死んでいた可能性が高い訳で。

 

≪……あいつの場合、刺された事に慌てて救急車とか警察とかには連絡しそうだけど、モモンガさんに会いに行く事とかは頭から抜けそうだし。

それで致命傷を負っていたら、こんな風に俺みたいな状況にもならず、そのまま死んでそうな気がするんだよな……

まぁ……そう考えると、かなり不本意ではあるが、これで良かったのかもしれない。》

 

今の自分の姿と、現在の状況に不満はあるものの、それ以外は別に何も問題を感じていない。

そもそも、リアルに未練があるかと問われれば、はっきりと【否】と言えてしまえる位には、危うい立ち位置に置かれたのが自分だった。

何より、ウルベルトがこの姿になった事から、ある推測も成り立つ訳で。

 

《……俺がこの姿になってここに居る訳だから、少なくてもモモンガさんは来ていると思って間違いないよな?

このゴーレムを、自分のアイテムボックスにしまって持ち歩いてたの、モモンガさんだし。》

 

そう考えると、出来れば早めにモモンガと合流したいと、思わなくはない。

彼なら、色々なアイテムを持っていた筈だから、この自分の現状を少しでも改善する術を持っていそうだからだ。

そうは思う……思うのだが。

 

《この、今の俺の姿を、モモンガさんの前に晒す?

この、ある意味無様としか言いようのない姿を!?

【悪の魔法詠唱者(マジックキャスター)】として、モモンガさん相手にも散々【ユグドラシル】で【悪の美学】を語り、そう振る舞っていた俺が!?≫

 

過去の自分を思い返しただけで、あっさりとモモンガに会う事を諦める位には、今の姿を彼に見せたくないのだと、本気で思う。

 

ただ……今のウルベルトが見せたくないと思っているのは、小さなゴーレムとなり果てた自分の姿であり、過去の発言に関しては欠片も恥じている訳ではない。

むしろ、あれだけの発言をしていた自分が、こんな【悪の魔法詠唱者(マジックキャスター)】に相応しくない姿になってしまった事を、非常に恥ずかしいと思うのだ。

 

彼の中で、あれほど誇らしく自分の思うままに振る舞えていた事は、いまだに誇りに思える事なのだから。

 

それはさておき。

もう一つ、モモンガと接触を躊躇う理由が、ウルベルトにはあった。

それは、とても簡単なものだ。

この姿になった発動条件を考えると、一つ、空恐ろしい事が考えられるからである。

モモンガの側には、他のギルメンがある程度まで揃っているかもしれないと言う、恐ろしい光景が。

 

≪……無理だ……絶対に無理だ……

まぁ……モモンガさんは、多分、きっと……この姿を見ても、笑ったりはしないだろう。

だがな、あいつらは……他のギルメンは、違う。

ペロロンチーノは、俺が身代わりになって死んだ時点で家に居なかったんだから、リアルに居るのは間違いない。

たっちの奴は、端末を受け取る際に【今夜は夜勤なんでどうしても行けません、モモンガさんに宜しく伝えてください】って言ってたから、アイツも確実にリアルに居るだろう。

だから、あの二人に見られる心配は、まぁ……しなくてもいいだろう。

けどな……絶対にこの姿を見たら、笑う奴等が居るじゃないか!》

 

この試作品ともいうべきゴーレムを、パンドラズ・アクターが作った時に、その場にいて散々笑い転げた面々の顔が、次々と浮かんでは消えていく。

あの時ですら、完成したこのゴーレムを前にあれだけ笑い転げた連中である。

今、こうしてこの姿となり果てたウルベルトを見たら、間違いなく爆笑では済まないだろう。

むしろ、ここぞとはかりに弄りにくるだろう可能性も高くて。

そう考えるだけで、この状態での合流するのは、酷く躊躇われた。

 

もちろん、このままで何も手を打たずにいる状況で過ごすのも、良い訳がない。

それ位の事は、ウルベルトだって理解しているのだ。

それでも、やはり……

 

「……済まない、モモンガさん。

やっぱり、俺には無理だ……」

 

少なくても【ユグドラシル】なら、大概の事を笑い飛ばして己を貫いたと、自信を持って言えるウルベルトだが、流石にこれは無理だった。

この姿を晒すのも苦痛だが、それよりもこの姿になった事で、元に戻るまで仲間の負担になるのも苦痛だからだ。

もちろん、そんな事をいっている場合ではないのかも知れないと、頭の端で思わなくもない。

ないのだが……やはり様々な思いがグチャグチャに浮かんでは消えていく。

 

 

いずれ顔を合わせるにしても、今はまだ彼らに会うのは勘弁して欲しかった。

 

 

はぁ……と、情けない表情で溜息を付くと、ゆっくりと体を起こす。

あちらこちら小さく、見た感じはかなりアンバランスな造りをしていても、やはり高性能ゴーレムボディの面目躍如と言うべきか、割とこの姿でも自由な動きが可能だ。

もちろん、色々と手が届かない場所などもあるし、不便なことには変わりないのだが……それでも、一度横になったら起きれないなんて状況にはならない事に、ウルベルトはホッと安堵の息を吐く。

 

一々、起き上がる為に飛行(フライ)の魔法を使うのは、非効率的だったからだ。

 

それはさておき。

今は、他に考えるべき事が沢山あった。

まずは、この姿になった経緯と元に戻る為の手段だろうか。

 

先程思い出した情報を踏まえるなら、これはタブラが仕掛けようとしていた【死亡によるペナルティ】が、様々な条件が重なって実際に発動したと予想していいだろう。

これに関しては、状況的に考えても間違いないと思う。

出なければ、本来のウルベルトのアバターが目の前に存在して居るのに、この姿になった理由が思いつかないからだ。

 

もちろん、この場所に何も存在せずに今の姿になったのなら【死亡寸前で強引にログインしたため、入るべきアバターが他に見つけられなかった】と、そう考える事が出来た。

しかし、こうして目の前には封印されている状態とは言え、本来のウルベルトの器もあって。

だとすれば、今の状態をどうすれば解除できるのだろうか?

 

そもそも、実際にタブラの仕掛けが発動したとして、ではその仕掛けの解除条件はどうなっているのだろうか?

きちんとその辺りを把握しないと、後から解除できませんでしたなんて事になったら、それこそ目も当てられないだろう。

正直、この姿を出来るだけ人前に晒したくないと、本気で思っているのだから。

 

やはり、それを確認するためにも、一度目の前のウルベルトの本体の状況も確認するべきだろう。

 

この、全身を覆う氷のようなものがどんな効果をもっているのか判らない為、容易に魔法で調べる事を躊躇っていたのだが、そうも言っていられないだろう。

情報不足の状態では、どう対処していいのか対策すら思いつかないのだ。

一応、タブラの仕込んだ仕掛けが原因だろうと漠然とわかっていても、それがどうしてこんな状態になっているのかが根本的に判っていないのだから。

 

「……やっぱり、調べるしかないよなぁ……」

 

いつまでも、こうしてただこの状態の本体を見ている訳にもいかない。

そう自分の中で腹を括ると、ウルベルトは魔法で丁寧に探知を掛けていく事にした。

もちろん、最初の段階で魔法による妨害がないか、きちんと確認した上でだが。

 

丁寧に時間を掛ける事、数十分。

漸く、目の前の身体から魔法を駆使して集めた情報を解析して纏めながら、ウルベルトはその場でがっくりと項垂れながら膝を付く。

それと同時に、本気で頭が痛くなるのを感じていた。

予想していたよりも、今の身体から目の前の本来の姿に戻る条件が、面倒なものだったからだ。

 

「……予想、していない訳じゃなかったけどな……

でも、流石に【復活の為に、十万の命を集めて氷の中で眠れる悪魔に捧げよ】はないんじゃないですかね、タブラさん。」

 

はーっ……と、もう溜息しか出ない条件だ。

そもそも、想定となっている【十万の命】は、どう定義したものを指している?

この辺りに居るだろう、()()なら全部対象なのか?

ある程度までの強さを持った()()()()()が対象なのか?

それとも……()()()()()が対象なのか?

 

一応、はっきりと人間種と限定していないのだから、逆にモンスターなどを含めた大きな定義だとして、だ。

それでも、流石に【十万の命】を集めるのは、本気で骨が折れるなんて()()ではない。

 

【ユグドラシル】時代だって、レベル上げの為にモンスターを一定数刈り取るのに、どれだけ時間が掛かったのかを考えれば、この世界の常識が判らない状況では空恐ろしい事になっているだろう。

 

「……これは、どう考えても俺一人では何とも出来ない状況じゃないか。

だからと言って、誰かの手を借りようにも、なぁ……」

 

こうなってくると、会いたくないとかそういう問題じゃなくなってきたと言っていいだろう。

元々、前衛なしに戦うのは難しい後衛の魔法職なのに、この姿ではさらにその能力を安定して発揮するには、前衛職は必須と言っていい。

誰かしら、前衛職の協力を得て【狩り】をこなしていかないと、いつまでも元の姿に戻る事は出来ないと、考える必要があるだろう。

 

もし、この後無事にギルメンたちと合流し、その中でタブラと会えたとしても、一度発動してしまっている仕掛けを解除するのは、難しい筈だからだ。

 

これに関しては、多分ウルベルトの考えで間違いないだろう。

以前、そんな話をナザリックの【ギミック担当】達がしているのを聞いた事があるからだ。

この世界でも、【ユグドラシル】の常識がそのまま通用するのかどうかはさておき、魔法での調査で確認した情報なのだから、それを前提にしておいた方がいいだろう。

下手に、別の解除方があることを期待して、手を拱いている方が時間が惜しい数だからだ。

 

≪とにかく、今は誰かの協力が欲しい。≫

 

そう考えた所で、そもそも彼らがどこに居るのかも判らない状況だと思い出し……ウルベルトは小さく舌打ちした。

 

とにかく、今のウルベルトの状況では、あらゆる情報が足りなさ過ぎた。

今、自分がいるこの場所が、一体どこなのか。

【ユグドラシル】ではないここは、一体どんな世界なのか。

ナザリックやモモンガさん達が、この世界ではどうなっていて、実際にはどこにあるのか。

 

自分を取り巻く状況が、まだまだ分からない事だらけだと言う現実を突き付けられ、ウルベルトはただ頭を抱えたのだった。

 

 




結構、ねんどろいど外見から本体へ戻る為の解除条件の難易度が高すぎる事が判明しました。

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