もし、宝物殿の一部が別の場所に転移していたら? 作:水城大地
暫く、自分の状態に呆然自失になっていたウルベルトだが……我に返ると頭を抱えていた。
残念な事に、今のこの姿そのものに関しては、実は心当たりがあるのだ。
「……これって……確か、モモンガさんの所のパンドラが、ゴーレム作成能力のテストの一環で作った奴、だよな?」
頭の中で思い出すのは、かつてまだ仲間で賑わっていた頃のナザリックだ。
パンドラズ・アクターの設定は、色々と問題が発生して難航を極めたのだが、その中の一つが外装と共に持たせる能力配分だった。
なにせ、互いに拘りを多く持つ濃いメンバー構成であるが故に、弐式炎雷のようにピーキーな能力設定の奴がいない訳じゃなくて。
その中で、能力面だけなら割と調整が楽だと、早い段階で組み込まれた者達もいる。
その中の一人が、実はるし☆ふぁーだった。
本人の性格や行動の面から、【問題児】として扱われているが、彼がパンドラズ・アクターに持たせる主軸として主張したのは、ゴーレム関連の製作能力だったのだ。
まぁ、本人的にも【ゴーレムクラスター】として、色々な意味で名を馳せているのだから、それを踏襲させたいらしい。
まぁ、それはさておき。
当然だが、コンセプト通りの能力が使用可能になっているか、確認するのは当たり前と言う話になった。
それで、パンドラズ・アクターの外装をるし☆ふぁーに変えさせて、何を作らせるかと言う話になった時に、誰かをモデルにしてゴーレムを作らせようという事になったのだ。
そのモデルが、俺、ウルベルトだった。
最初は、どんなゴーレムを作るのかと思えば、小さな二頭身のディフォルメされた、その癖特徴は良く捉えられている素晴らしい出来映えの人形タイプのもので。
目の前に、それを完成品として差し出された時は、流石に対応に困ったものである。
あの時、モモンガさん以外のその場にいた奴等は、全員それを見て笑い転げやがったんだよ。
……あぁ、思い出した。
あんまり皆が笑う事にムカついたから、その場でパンドラに対して【これと同じタイプのものを全員分作る様に】って命じたんだっけ。
確か……小型の割に高性能で、一発だけなら超位魔法や高位戦闘スキルも扱えたんだよな。
せっかく作ったし、ディフォルメされている事さえ除けば、出来もかなり良いものだからって話になって、最終的にモモンガさんが管理する事になったんだよ。
あぁ、そうだよ……それで間違いない奴だ。
つらつらと、当時の事を思い出していくうちに、幾つかその当時との違っている事があるのに気付く。
まず、今の己の身体の関節などの動きだ。
精巧な人形タイプとは言え、あくまでもゴーレムである以上、人間などのようにしなやかな動きの再現に関しては、かなり難しかった記憶がある。
にも拘らず、目を覚ましてから今までそんな不自由を感じた事は一度もない。
更に言うなら、全身は固い金属系素材から産み出されており、柔らかい部分など髪の毛一つ存在していなかった筈なのだ。
それなのに、今の自分の身体は触れたら柔らかな体毛に覆われ、ふさふさでもこもことしているのが良く解った。
つまり……その辺りに関しては、本来のアバターである種族に合わせたものに変化しているといっていいだろう。
そう考えれば、己の身体が柔らかな毛に覆われた山羊の姿をした悪魔だとしても、納得はいった。
むしろ、そうじゃない方が違和感がある位だったのだ。
多分、自分の存在の魂(だと思いたい)が中に入った事で、それに併せたカスタマイズがなされたのだろう。
その辺りの理屈は、生産職とかを取っていないのでいまいち良く解らないが。
ついでとばかりに、自分の身体に解析魔法を掛けて必要な情報を抜き取っていく。
こんな訳の解らない状況下では、どんな些細な情報でも命取りになる可能性は高い。
まして、今の自分の身体は手のひらサイズのゴーレムベースなのだ。
いち早く危険を回避する為にも、自分に出来るだろう正確な能力把握は、当たり前の話だった。
そうして判明したのは、予想よりもまともだったこの身体の能力とレベルだろうか?
まず、やはりこの身体はパンドラズ・アクターが習作として作ったゴーレムをベースにしているらしい。
しかし、あくまでもベースにしているだけで、一部のどうすることも出来ない能力制限を除けば、ウルベルト・アレイン・オードルそのものの能力値だ。
レベルは、前と同じ百。
ただし、この姿の代償として使用出来る超位魔法は、記憶通り一日に一回のみ。
しかも、溜めの時間は変わらなかった癖に、使用した場合は強制戦闘不能……分かり易く言うなら、MP不足による気絶と言う落ちが付く。
同じ理由で、【
つまり、誰かしらサポート要員の前衛が居なければ何ともならない状況である。
使用可能な魔法の種類そのものは、殆ど本来のウルベルトの時と変わらないが、それよりもMPが問題になるのだ。
見た目より優秀とは言え、やはり小さなゴーレムがベースである。
元々魔法職として低いHPは、本来の四割弱しかない。
MPは、本来のもの六割と割と高めではあるが、ゴーレムの身体をベースにしているからか、本来の姿よりもMPの消耗率が高いので、さして意味がない状態なのだ。
その代わり、攻撃魔法の威力そのものはそのままだと言うことを考えれは、良いのか悪いのか良く判らなかった。
《このゴーレム、予想以上に能力値が高い。
MPに至っては、ゴーレムではあり得ないレベルだと言っても良いんじゃないか?
それでも、超位魔法とか【
でも、元のサイズが小さすぎるせいで、折角の高性能を生かし切れないのが、また性質が悪いな。
一応、使える魔法の中に実体を伴った幻覚系もあるけど、その魔法の使用可能な回数か一日に一回のみ、しかも効果時間が三十分とかふざけてるのかよ!
これじゃ、街の中に潜り込んでも情報を探り出すどころか、殆どまともに動けないじゃないか!》
もちろん、これに関しては効果延長のマジックアイテムを入手出来れば話が変わるのだろうが、今の自分にはその手立てすら目処が立たない。
しかも、そのアイテムを得る為には、まず、この外見では人形でも使い魔でもなく生きている事を納得させる必要があるのだ。
正直、こんな姿で生きている事を納得させるのは、かなり難しいだろう。
不気味がられた挙げ句、殺されそうになるか実験体にされそうになるか。
とにかく、まともな扱いを望むのは難しい気がした。
《ただ……この世界が【ユグドラシル】じゃない事は、まず間違いないだろう。
あの時、最終日の終了間際だったんだから、今更延期するとはとても思えない。
まして、俺は……あの時、
とても、生き残れたとは思えない状況だった。
だからこそ、この状況に困惑しているんだが……》
自分の中にある、最後の記憶を思い出しながら少し思案する素振りを見せるウルベルト。
ここで意識を取り戻す前の、リアルの一件は色々と頭が痛い部分もあるので、一先ず先送りにする事にして。
再度、この姿になってしまった要因は何だろうかと、心当りを思い浮かべていったウルベルトは、ハッと一つ思い当たることを思い出した。
そうだ、このゴーレム絡みで起きた様々な事の中に、一つこの姿になる要因になりそうな出来事があったじゃないか。
先程は、まだ動揺していたからか思い出せなかったが……冷静になって良く思い返せば、パンドラズ・アクターが作ったこの人形タイプのゴーレムに、更に細工していた奴がいなかっただろうか?
《あぁ……奴だ……そう、タブラの奴だよ!
あいつ、平然とした顔で【罰ゲームの一環で、全員で臨むクエストに向かう場合、予定外のところで死んで迷惑を掛ける行為をしたら、条件達成までその姿でいるのはどうでしょう?】とか抜かしやがってったんだ。
しかも、本当に復活先をこのゴーレムの中へ固定して、憑依状態にしようとしやがったんだよ!
だけど、実際にその設定を組むには流石に色々と無理があったのと、モモンガさんの懇切丁寧な説得のおかげで、代わりに課金アイテムを幾つか組み込んで、一回だけ経験値未使用での復活ポイントにしたんだよな。》
懐かしい、【ユグドラシル】時代の一幕。
あの時の騒動は、るし☆ふぁーですら反発するほどの厄介さだった記憶がある。
結局、実際には技術的に実行不能だった事と、モモンガによるタブラへの時間を掛けた説得が功を成し、セーブポイントとしての利用と言う話で纏まった一連の出来事は、そこに落ち着くまで割と本気で大変だった事を覚えていて。
それを思い出したウルベルトは、その内容に頭を抱えた。
《もしかして……その、タブラさんのゴーレムに付けた効果が、リアルでの死亡とゲーム内の死亡を混同して、この中で復活させる結果になったのか?》
正直、出来れば正解であって欲しくない内容だが……これが正しい気がするウルベルトだった。
と言う訳で、この姿になってしまった原因の犯人は、タブラさんでした。
今回出てきた不穏な話は、次回で出てくる予定です。