もし、宝物殿の一部が別の場所に転移していたら?   作:水城大地

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さて、もう一人の人物が登場します。


第一章 ウルベルト視点
一体、何でこうなったんだ……


……一体、なんなんだろうか?

 

何か……自分の顔に、生臭い空気が掛かけられていて、すごく気持ちが悪い。

あまりの気持ち悪さに、思わず目を閉じていられなくなってパッと開けると、そこにあったのは視界を覆い尽くすような、巨大なウサギタイプのモンスターの顔だった。

鼻をヒクヒクさせながら、鋭い牙をチラリと覗かせつつ、何時でも襲いかかれる様にこちらの様子を窺っていて。

 

それを見た瞬間、俺は思わずズッと腰を引いて片手を上げて、魔法の矢(マジック・アロー)を唱えていた。

 

すると、それに合わせるかのように俺の背後に浮かび上がる、十個の魔力の塊。

まるで狙い定めたかのように、その魔力の塊は巨大なウサギもどきに向けて降り注ぎ……そのまま巨大ウサギもどきを消滅させていた。

その様子を、ただ茫然としたまま視線で追う事しか出来ない、俺。

 

あまりに突然な事に、咄嗟に呪文を唱えていたのだが、まさかそれが本当に使えるとは思わなかったのだ。

 

だが、咄嗟に声に出して口で唱えてみて、すぐに使い方が頭の中に浮かんだのである。

まるで、息をするかのように自然に、魔法の使い方がすぐに解ったのだ。

馴染んでいたものを、漸く取り戻したかのような感覚の中、俺は、自分に身の危険を感じさせたウサギもどきへ向けて、作り出した魔法の矢(マジック・アロー)を放っていたのである。

 

「……何なんだよ、この状況は……」

 

一先ず、魔法によってウサギもどきを倒したことで、身の危険を感じる状況でなくなったのは、何となく理解できる。

今、自分がいるこの場所には、他に生き物の気配はしなかったからだ。

安堵の息を吐いた俺は、改めて出来るだけ注意深く周囲を見渡す。

一体、何がどうなって自分がどこにいるのかもわからない状況なのだ。

少しでも情報を正しく得る事は、生き残るためにも必要だった。

 

すると、ここはどこか薄暗い洞穴の中らしいことが解った。

 

目を覚ました時は、眼前にウサギもどきがいたせいで、その事にしか気が回らなかったが……落ち着いたからこそ、この状況が普通ではあり得ない事に、漸く気付く。

何故なら……臭いがするのだ。

そこで、一つ思い出す。

 

最初、自分がこの場で目を覚ました理由も、あまりに生臭い吐息を感じたからだ、と。

 

一体、何がどうなっているのか、全く解らない。

そもそも、何で最初の段階で、この異常な状況に動揺しなかった?

普通だったら、もっと動揺して混乱している筈だろう?

 

それなのに、俺はまるでそれが異常ではない事の様に、対応してしまっている。

 

なぜ、そんな風に冷静に対応できたのだろう?

解らないなりに、このままこの場に留まるのは駄目だと、漠然とした予感がした。

そんな時……ふと、何か意識が惹かれるものを感じて。

どうせ、何も解らないのならば……今、自分が置かれている状況を変える為にも、動いてみる方がいい。

 

直感が赴くまま、ゆっくりと自分が惹かれる方へ移動していくと、どこかから差し込む光の中で、キラキラと輝くものがあった。

 

キラキラ、キラキラ……

 

どこからか、差し込む光を吸収して乱反射しているそれは、透明度が高い水晶か氷なのだろうか?

良く判らないが、それがひどく気になって仕方がない。

少しだけ、近寄ってみる。

何の変化も怒らない。

もう少しだけ、近寄ってみる。

すると、その中にぼんやりと人影が見える事に気付いて……思わず駆け寄っていた。

 

そこに浮かぶ人影に、嫌と言うほど見覚えがあったからだ。

 

だが、乱反射しているのは透明度の高い表層部分だけらしく、よく中までは見えない。

そこで、その全身が良く見える位置まで駆け寄ると、差し込む光では安定しない状況を安定させる為に、迷わず火球(ファイヤーボール)の呪文を唱え。

話すことなく、手元に留めたそれに照らし出され、水晶の様なものの中に浮かぶ姿を確認した俺は、予想通りの姿に目を奪われていた。

 

そこにあったのは、己の、【ユグドラシル】における【アインズ・ウール・ゴウン】の【悪の魔法詠唱者(マジックキャスター)】ウルベルト・アレイン・オードルのアバターをそのまま巨大化して封じ込めたものだったからだ。

 

「……はは、何だよ、これは……

一昔以上前の、巨大怪獣映画の悪役怪獣扱いかよ!

そりゃ、俺は【悪の魔法詠唱者(マジックキャスター)】だったけど、怪獣扱いされる謂れはねーぞ!!」

 

余りにもあんまりな扱いを受けている、己のアバターの姿を目の当たりにして、我慢できずに叫ぶ。

そのまま、己のアバターを封じ込めている、水晶のようなモノのもとへ駆け寄ると、ダンッと思い切り握り締めた拳で殴り付け。

ふと、ある事に気付く。

 

封じ込めているそれを殴る己の手が、異様に小さいのだ。

 

小さいと言うより、バランスがおかしい。

自分の視界に入る腕は、小さく細く……その癖、人のものではないのだ。

それは、まるで目の前のアバターを弄って小さく変化させたみたいな、それ。

 

慌てて水晶のようなものに反射するだろう、己の姿を見た途端に、ピシッと音を立てて固まり。

次の瞬間、思わず絶叫を上げていた。

 

「なんじゃ、こりゃぁぁ!!」

 

一昔以上前の、人気ドラマの有名なシーンのような叫び声を上げたウルベルトの視界に入った己の今の姿。

それは、頭を大きく手足や身体を小さくディフォルメした、所謂【ねんどろいどバージョン】と呼ばれるだろう姿の、ウルベルト・アレイン・オードルだったからだった。

 

 

 

 




という訳で、もう一人のお話のメイン、ウルベルトさんの登場です。
あくまでも、彼の視点での序章なので、今回はいつもとは違って短いです。
これ以上、下手に書くより次の話で書いた方がいいかなと思いまして。

彼が【ねんどろいど】外見と言うのは、実はpixiv版の四択の段階で決まっていました。

もちろん、それに関しては四択の投票時はもちろん、ルート決定後も伏せてましたが。
外れたルートの事を書くより、ホン編を進める事を優先したので。



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