もし、宝物殿の一部が別の場所に転移していたら? 作:水城大地
一体、何でこうなったんだ……
……一体、なんなんだろうか?
何か……自分の顔に、生臭い空気が掛かけられていて、すごく気持ちが悪い。
あまりの気持ち悪さに、思わず目を閉じていられなくなってパッと開けると、そこにあったのは視界を覆い尽くすような、巨大なウサギタイプのモンスターの顔だった。
鼻をヒクヒクさせながら、鋭い牙をチラリと覗かせつつ、何時でも襲いかかれる様にこちらの様子を窺っていて。
それを見た瞬間、俺は思わずズッと腰を引いて片手を上げて、
すると、それに合わせるかのように俺の背後に浮かび上がる、十個の魔力の塊。
まるで狙い定めたかのように、その魔力の塊は巨大なウサギもどきに向けて降り注ぎ……そのまま巨大ウサギもどきを消滅させていた。
その様子を、ただ茫然としたまま視線で追う事しか出来ない、俺。
あまりに突然な事に、咄嗟に呪文を唱えていたのだが、まさかそれが本当に使えるとは思わなかったのだ。
だが、咄嗟に声に出して口で唱えてみて、すぐに使い方が頭の中に浮かんだのである。
まるで、息をするかのように自然に、魔法の使い方がすぐに解ったのだ。
馴染んでいたものを、漸く取り戻したかのような感覚の中、俺は、自分に身の危険を感じさせたウサギもどきへ向けて、作り出した
「……何なんだよ、この状況は……」
一先ず、魔法によってウサギもどきを倒したことで、身の危険を感じる状況でなくなったのは、何となく理解できる。
今、自分がいるこの場所には、他に生き物の気配はしなかったからだ。
安堵の息を吐いた俺は、改めて出来るだけ注意深く周囲を見渡す。
一体、何がどうなって自分がどこにいるのかもわからない状況なのだ。
少しでも情報を正しく得る事は、生き残るためにも必要だった。
すると、ここはどこか薄暗い洞穴の中らしいことが解った。
目を覚ました時は、眼前にウサギもどきがいたせいで、その事にしか気が回らなかったが……落ち着いたからこそ、この状況が普通ではあり得ない事に、漸く気付く。
何故なら……臭いがするのだ。
そこで、一つ思い出す。
最初、自分がこの場で目を覚ました理由も、あまりに生臭い吐息を感じたからだ、と。
一体、何がどうなっているのか、全く解らない。
そもそも、何で最初の段階で、この異常な状況に動揺しなかった?
普通だったら、もっと動揺して混乱している筈だろう?
それなのに、俺はまるでそれが異常ではない事の様に、対応してしまっている。
なぜ、そんな風に冷静に対応できたのだろう?
解らないなりに、このままこの場に留まるのは駄目だと、漠然とした予感がした。
そんな時……ふと、何か意識が惹かれるものを感じて。
どうせ、何も解らないのならば……今、自分が置かれている状況を変える為にも、動いてみる方がいい。
直感が赴くまま、ゆっくりと自分が惹かれる方へ移動していくと、どこかから差し込む光の中で、キラキラと輝くものがあった。
キラキラ、キラキラ……
どこからか、差し込む光を吸収して乱反射しているそれは、透明度が高い水晶か氷なのだろうか?
良く判らないが、それがひどく気になって仕方がない。
少しだけ、近寄ってみる。
何の変化も怒らない。
もう少しだけ、近寄ってみる。
すると、その中にぼんやりと人影が見える事に気付いて……思わず駆け寄っていた。
そこに浮かぶ人影に、嫌と言うほど見覚えがあったからだ。
だが、乱反射しているのは透明度の高い表層部分だけらしく、よく中までは見えない。
そこで、その全身が良く見える位置まで駆け寄ると、差し込む光では安定しない状況を安定させる為に、迷わず
話すことなく、手元に留めたそれに照らし出され、水晶の様なものの中に浮かぶ姿を確認した俺は、予想通りの姿に目を奪われていた。
そこにあったのは、己の、【ユグドラシル】における【アインズ・ウール・ゴウン】の【悪の
「……はは、何だよ、これは……
一昔以上前の、巨大怪獣映画の悪役怪獣扱いかよ!
そりゃ、俺は【悪の
余りにもあんまりな扱いを受けている、己のアバターの姿を目の当たりにして、我慢できずに叫ぶ。
そのまま、己のアバターを封じ込めている、水晶のようなモノのもとへ駆け寄ると、ダンッと思い切り握り締めた拳で殴り付け。
ふと、ある事に気付く。
封じ込めているそれを殴る己の手が、異様に小さいのだ。
小さいと言うより、バランスがおかしい。
自分の視界に入る腕は、小さく細く……その癖、人のものではないのだ。
それは、まるで目の前のアバターを弄って小さく変化させたみたいな、それ。
慌てて水晶のようなものに反射するだろう、己の姿を見た途端に、ピシッと音を立てて固まり。
次の瞬間、思わず絶叫を上げていた。
「なんじゃ、こりゃぁぁ!!」
一昔以上前の、人気ドラマの有名なシーンのような叫び声を上げたウルベルトの視界に入った己の今の姿。
それは、頭を大きく手足や身体を小さくディフォルメした、所謂【ねんどろいどバージョン】と呼ばれるだろう姿の、ウルベルト・アレイン・オードルだったからだった。
という訳で、もう一人のお話のメイン、ウルベルトさんの登場です。
あくまでも、彼の視点での序章なので、今回はいつもとは違って短いです。
これ以上、下手に書くより次の話で書いた方がいいかなと思いまして。
彼が【ねんどろいど】外見と言うのは、実はpixiv版の四択の段階で決まっていました。
もちろん、それに関しては四択の投票時はもちろん、ルート決定後も伏せてましたが。
外れたルートの事を書くより、ホン編を進める事を優先したので。