もし、宝物殿の一部が別の場所に転移していたら?   作:水城大地

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すいません、一話、抜けてました!



セバスとシクススのお蔭で確認出来た

モモンガが、自室に戻り暫くした頃。

漸く、パンドラズ・アクターの事に関する様々な感情が収まり、ナザリックに来てから確認していない事を思い出していた。

 

《……しまった、結局、闘技場を利用しての攻撃魔法のチェックをし忘れてるじゃないか?

いや、それ以外にも忘れている事は沢山有るぞ!

……アルベド相手に確認しようとしたら、宝物殿の事が発生したからなぁ……

優先事項がそちらに傾いて、確認し忘れていた。

闘技場で階層守護者達と会った時も、宝物殿絡みの事で出向くのが遅れたから、まともに観察出来なかったし。》

 

そう、モモンガは漸く冷静に……正確に言えば、宝物殿関連以外の事に余裕をもって思考を回せるようになった。

 

落ち着いて考えれば、本来ならここに来るまで何を確認し忘れているのか、考えていく。

王座の間でしていない事は、アルベドを相手に【彼らが本当に生きているのか】を、確認する為に、彼女の手に触れる事だ。

あの時、残っていた彼女を側に呼び最初に軽く手に触れはした。

だが、アルベドの痛みをこらえる表情を見て、慌てて手を離してしまった直後だったのである。

 

あの、ナザリックを揺るがすほどの轟音が響き、宝物殿の一部が抉り取られるように消えたのは。

 

当然、その続きをするなんて時間も精神的な余裕もなく、その後にする予定だった【ユグドラシルで禁止事項に当たる行為】の接触、つまり胸に触れる行為の確認もしていない。

そう、彼女相手に何もしていないのだ。

闘技場でも、彼らが無駄話一つせずに緊張した面持ちで既に揃っていた事もあり、予定していた攻撃魔法の確認等、必要なことは何も確認出来ていなかった。

むしろ、彼らの様子が緊張し過ぎていて、今更彼らの前で攻撃魔法や自身の能力の確認など、恐ろしくて出来なかったのである。

 

その事もあり、彼らを余り側に近寄らせてもいない。 

 

これは、仕方がない対応だとモモンガが思う。

アルベドに手を触れた時の反応から、同士討ち(フレンドリー・ファイア)が解禁されている可能性(これも、完全には確認出来なかった)があり、彼らから確固たる忠誠を向けられるまで、裏切られるかもしれないという不安の中にあったのだから。

 

確かに、今、彼らから向けられる忠誠心は本物だ。

 

それでも、実際に彼らに触れて脈がある生物なのか、直接確認した訳ではない。

そんな事もあって、彼らに対して命ある個々の生物として生きた存在なのか、意思を宿した精巧なアンドロイドのような存在なのか、いまいち認識が曖昧なのだ。

見た目通り生きている存在なら、あれだけの忠誠心を向けられていれば、余程何か失態を犯さない限り失望される心配はないだろう。

しかし、アンドロイドのような存在なら……何らかの干渉で意思が簡単に書き替わって、あっさりと裏切られるのではないかと、一抹の不安が残る。

 

これは、彼らとの齟齬を無くす為にも、早急に確認すべき案件だろう。

 

己の攻撃魔法と同士討ち(フレンドリー・ファイア)の件は、どう確認したものかと頭を悩ませ。

そこに部屋のドアをノックする音が響く。

 

「……入れ。」

 

一瞬、部屋に入れるかどうか迷ったものの、逆に今考えていた事を試す良い機会だと思い直し、入室を許可する。

すると、中に入ってきたのは暫く退室を命じてあった一般メイド一人と、執事のセバスだった。

セバスは、モモンガの落ち着いた様子を見てスッと頭を下げる。

 

「モモンガ様、このような事態ですので、お側に仕えさせていただきたく、こうして参りました。」

 

頭を上げてそう述べるセバスに、徐に頷くとモモンガは迷う事無く彼を手招いた。

 

「丁度良いタイミングできたな、セバス。

実は、お前に頼みたい事があったのだ。

協力してくれるな?」

 

目の前に立つセバスに問えば、勿論だと同意を得られ。

これで、迷う事なく試す事が出来ると内心安堵の息を吐く。

そして、出来るだけ威厳をもってセバスに命じた。

 

「では、その手を前に出すがいい。

少し、実験をしたいことがあるのだ。」

 

その言葉に従い、素直に己の腕をモモンガの前に差し出すセバス。

その手首を、負の接触(メガティブ・タッチ)の効果をそのままに掴む。

すると、アルベドと同じ様に痛みを堪える顔をしたセバスを見て、モモンガは確信した。

やはり、負の接触(メガティブ・タッチ)はセバスに対して効果を発揮し……つまり、同士討ち(フレンドリー・ファイア)が発生しているのだと。

 

《……これは、色々と注意が必要かもしれないな。

同士討ち(フレンドリー・ファイア)が、通常化しているなら、範囲魔法による攻撃でも味方を巻き込む可能性がある訳か。

そして、それは俺自身にも言えるだろう。

同士討ち(フレンドリー・ファイア)が当たり前なら、当然仲間からの常時発動型特殊技術(パッシブスキル)も、同じだと思った方がいい。

この、負の接触(メガティブ・タッチ)がいい例だ。

自分で意識して切らないと、常に発動したままだとするなら、ナザリックのNPCも同じ事が言えるのだろう。

……やはり、攻撃魔法とか闘技場で他の事も含めて確認するべきだったな。》

 

つい、宝物殿絡みで少し動揺しすぎていた事を、モモンガは少しだけ反省する。

精神沈静化が掛からないギリギリで、じわじわ蝕むような焦燥感に煽られ、冷静さを何処か欠いてたのは間違いないだろう。

そんな事を考えつつ、セバスに人と変わらぬ脈があり、体温も存在する事を確認した所で、握っていた手を離した。

 

負の接触(メガティブ・タッチ)を切らずに触れたのたが……その様子では、やはり痛みを感じたのだな?」

 

痛みがなくなり、表情を常の穏やかな笑みを湛えた顔に戻っているセバスに問えば、彼は素直に頷いた。

 

「はい、確かにおっしゃる通りでございます。

ですが、お気になさる必要はございません。

あの程度の痛みなど、ダメージにはなりませんので。」

 

こちらの問いに、迷う事なくそう答えるセバスの様子を見れば、そこに嘘はないのだろう。

まぁ……多少の痛みは感じたとしても、レベル百のモンクに通るようなダメージではないので、当然の反応ではあるのだが。

だが、これで一つ確信は持てた、

 

セバス達NPCは、それぞれが自分の意思を持ち、生きている存在なのだと。

 

人の姿を持ち、脈があり、いくぶん低めの(これは竜人だからなのか)体温がある存在を生きていると言わずして何と言うのだろうか?

まぁ、シャルティアのような真祖吸血鬼やコキュートスの様な種族は、この喩えに値しないだろうが、そんなことは些細な話でしかない。

 

用は、モモンガが彼らを生きた存在だと認識できるかどうかの話なのだから。

 

これで、少しだけモモンガの中にあった不安要素は消えたと言えるだろう。

同士討ちが(フレンドリー・ファイア)に関しても、一応は確認が出来た。

後は、本当にここが別の仮想世界ではなく、自分達は本当に異世界に転移したのだと、その確信が欲しい。

もちろん、今の段階でもそれに近いものは抱いているが、最後の確証が欲しかった。

なので、その為に一先ずセバスを一時的にこの場から立ち去らせる必要があるだろう。

 

「……セバスよ、私の部屋のクロークが少々散らかっていてな。

その整理を頼めるメイドを、数人呼んできてくれないか?

その間、私の身の回りの世話は……あー、シクススだったな?

この者に任せよう。」

 

その指示に、セバスはスッと頭を下げると部屋から出ていく。

何も言わずに向かったので、彼としてもモモンガ様が一人で行動していなければ、取り敢えず問題はないのだろう。

これで、確認する状況は十分に整った。

そう判断すると、モモンガはシクススを手招きする。

 

「……シクススよ、こちらに来るがいい。

お前にも、一つ実験に付き合って貰いたいのだ。」

 

そう言えば、セバスとのやり取りを見ていた彼女は素直にこちらにやって来る。

己が仕える主人の言葉だ。

そもそも、彼女に逆らう気など無いのだろう。

自分の前に立ったシクススに、モモンガはセバスの時と同じように手を出すように指示を出す。

何処か、戸惑いながらも手を差し出すシクススに、その理由を思い当たったモモンガは、安心させるように声を掛けた。

 

「……そう、心配せずとも大丈夫だ。

お前相手に、セバスの時のような負の接触(メガティブ・タッチ)を切らずに触れるという真似はしない。

そもそも、違う実験だからな。

では、触れるぞ?」

 

そっと、手首に指を添えるように触れれば、柔らかな肌の感触とそこにトクン、トクン……と、脈打つ血管の流れを感じた。

次に、触れる場所を肘の内側に変えれば、同じく脈打つ血管の流れと共に、ふわりと香る石鹸の柔らかな香り。

腕の位置を持ち上げたことで、袖が服と擦れ合いそこから匂いが薫ったのだろう。

悪い匂いではないし、香水などより余程好感が持てるものだ。

 

《……ただ、先程より少し脈が早くなっている気がするんだけど……》

 

少し、様子が変わったのを気付きながら、それでもまだ確認したいことは終わっていないので、二の腕に触れるとシクススに問う。

 

「……その、だ。

お前の心音を確認したいのでな、胸に触れても構わないか?」

 

脈を計るという行為の延長線上だと、説明しながら問えば、ビクビクと何処か怯えながらも頷くシクスス。

一応は同意を得たので、そっと、胸の谷間近くに指先を触れる。

ふっくらと柔らかな感触を押し上げつつ、服の上から心臓の真上辺りに触れれば、ドクン、ドクン、と先程よりも大きく脈打つものを感じた。

 

あぁ、これは確かに生きている者の命の鼓動だ。

 

彼女の胸元に触れたことで、その確かな感触を感じ取りつつ、更にセクハラ十八禁の禁止行為に触れる行為か可能な事を確認した。

どんな理由があろうとも、女性の胸に触れる行為は禁止事項に当たる。

それが出来た時点で、確かにこの世界は仮想空間ではなく、現実なのだろう。

漸く、モモンガはそう確信出来た。

協力してくれた彼女に、礼を言おうとした時である。

 

ドアのノックが響き、彼女がそれに驚いてバランスを崩したのは。

 

「キャッ!」

 

彼女の口から思わず飛び出る、小さな悲鳴。

それを、かの執事が聞き漏らすこと等あり得ず、勢い良く押し開かれる扉。

倒れかけた彼女に手を伸ばし、引き寄せて抱き止めたのだが……それを見た、セバスと他のメイド達がどう見るかなど、言うまでもなくて。

 

「……これは、お邪魔いたしました。

部屋の片付けの件は、後程改めて参ります。」

 

そう、頭を下げて退出仕掛けるセバスにメイド達。

彼らの誤解に直ぐ様気付いたモモンガは、必死に呼び止めた。

ここで下手な誤解をされるのは、あまり良くない。

なぜか、そう判断したのだ。

 

「ま、待て、セバス!

何を勘違いしているのだ!

私の実験に付き合わせ、緊張していたシクススが、ノックの音に驚いて転びかけたに過ぎん!

余計な勘違いで、気を使われると迷惑だ!

それと、今見た事は他言無用だ。

シクススはあくまでも協力しただけだからな。

それよりも、部屋の片付けの方を早く頼む。

一応、収納されてはいるが、整理整頓されているとは言い難いからな。」

 

少しきつめの口調で言いながら、メイド達を呼んだ目的を再度告げてやれば、彼女達はてきぱきと、己の役目を始めていく。

自分の側に控えるセバスとそれを見つつ、モモンガは少し疲れたように内心溜め息を漏らしたのだった。

 

 




この話だけ、スマフォのネタのメモ書きの中に紛れてアップしなかった……
順番で一話分ネタの書き出ししただけで、話として完成もしてなかったんです。
もちろん、pixivにも上げずにメモの中に埋もれてました。

昨日の感想で、上げた話をもう一度一から全部読み直して、一話抜けているのに気付きました。
すいません。
今日一日で完成させたので、かなり不足部分があるかもしれませんが。

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