東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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覚悟の戦士達(前編)

「まったく……何体あるのよこいつら……!」

 

 一夏と束の戦いから少し離れた場所、

飛び交う弾丸を掻い潜りながら、レミリア達残留組は無人機を相手に戦い続けていた。

無人機の数は一向に減る事無く、次々と現れ、レミリア達は千冬達の援護に行く事ができずにいた。

 

「結構撃墜したけど、この数は異常ね……。

何かからくりが有る……と見るべきでしょうね」

 

「その通りじゃ。アレを見てみい」

 

 考察するアリスにマミゾウから口が挟まれる。

マミゾウは目を細めながら、ある一体の無人機を指差した。、

 

「何あれ、木の葉?」

 

「アレは儂がつけたものじゃ。

実は儂も際限なく出てくるコイツらを妙に思ってのぅ。それで撃墜した機体の残骸に落下する直前にいくつかに木の葉を貼り付けておいたんじゃが……」

 

 撃墜した機体の残骸に付けておいた木の葉……その木の葉を貼り付けた機体が目の前で戦闘している。

つまり、その事実が現す事は……

 

「自己再生機能……!なるほど、海や砂の中なら再生してるのを隠すには打って付けね」

 

「となれば、対処法は簡単ですね……!」

 

「コアを破壊するか、修復できないぐらい粉々に破壊してやればいい訳ね……!」

 

 アリスの言葉に美鈴、そしてそれに釣られてレミリアがニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 織斑一夏が辿り着いた時、目にした光景はまさに悪夢だった。

 

能力を打ち破られ、茫然自失とした咲夜、

叩きのめされ、砂浜に倒れ伏す妖夢、

そして、鼻から血を流して震える最愛の姉、千冬……。

 

それらを目にして込み上げてくる怒りをその身に感じ、硬く握った拳を震わせながら、一夏は砂浜に降り立ち、悠然と立つ束の前に歩み寄る。

 

「束さん……いや、篠ノ之束……!

アンタ、自分が何したか……千冬姉(親友)()に何をしたか分かってんのか!?」

 

「……箒ちゃんの事は(戦ってる片手間で)くーちゃんから通信で聞いたよ。

いやぁ、こればっかりは想定外だよ。まさか、分裂しちゃうなんて。

紅椿に付けた魔力と霊力の増幅装置が、生体修復の効果と掛け合わさってこんな結果になっちゃうなんてね」

 

「そんな事を聞いているんじゃ『ねぇ、いっくん聞いてよ』……?」

 

 怒り交じりの声を束は遮り、そのままゆっくりと今だ震えている千冬に目を向ける。

 

「ちーちゃんさ、酷いんだよ。

私、ちーちゃんの事を親友って思ってた。これに関してはマジなんだよ。

ちーちゃんも私の事親友って今でも思ってるみたいだけど、私と決別する道を選んだ。

私はね、ちーちゃんには味方でいて欲しかったの。

いずれ攻め込む幻想郷との戦いでも一緒に戦ってくれると思ってたんだ。

なのに、コイツは…………!!」

 

 徐々に束の表情が冷徹なものから激情を内包したものへと変わっていく。

瞳の奥で憎悪の炎を燃やし、その炎は今にも目に映る千冬を焼き殺す勢いだ。

 

「何故そうまでして幻想郷を嫌う?幻想郷がアンタに何をしたんだ!?」

 

「……言う必要は無いでしょ。

ただ、あえて言うなら……ムカつくんだよ。モノホンの化け物の癖に人間の真似してのほほんとしちゃってさぁ……」

 

 束のその言葉が言い終わるよりも前に、一夏は地を蹴っていた。

 

「オラァッ!!」

 

 繰り出された渾身の一撃。

だが、これも千冬や妖夢達の時と同じように簡単に防がれ、腕を掴まれてしまう。

 

「猪突猛進で考え無しな所は昔と同じなのかな?

今のいっくんの力量なら、束さんの実力の察しぐらいつくと思うんだけど?」

 

 束は余裕の笑みを浮かべながら、掴んだ腕を握る手に徐々に力を込め、一夏の腕をへし折らんとする。

しかし、一夏は…………

 

「確かに、今の俺じゃ逆立ちしたってアンタにタイマンで勝ち目なんて無いって事ぐらい解ってるさ。……だがなぁ!!」

 

 一夏が自身の怒りと激情を開放するように目を見開いたその刹那、その怒りに呼応するかの如く肉体から出る魔力の輝きがその強さを増し、束に掴まれている右腕からはその光がスパークとなって迸る。

 

「っ…何これ、魔力が増大して!?」

 

 一夏の身に起こった異変に束が思わず疑問符を浮かべたその一瞬を一夏は見逃さなかった。

 

「この、外道がぁぁーーーーっ!!」

 

 即座に掴まれた右腕を振り解き、逆に束の左腕を掴み返して、その腕を一気に捻り上げる。

 

「グゥゥゥッッッ!?」

 

 捻られた左腕から『ベキィッ!』と嫌な音が激痛と共に脳髄にまで鳴り響く。

つい数分前に自身が白蓮にそうしたのと同じように、束の腕はへし折られたのだ。

 

「ダアァァァァァァーーーーッ!!」

 

「うぐぁぁっっ!!」

 

 束が折られた腕を押さえる間も無く、一夏の怒りが咆哮となって木霊し、同時に彼の正拳突きが束の顔面に打ち込まれ、束の身体を吹っ飛ばした!!

 

(……どうなってるの?私の計算ではいっくんの戦闘力は精々ちーちゃんの約1.3倍ぐらい。

それが突然数倍にアップしている……命蓮との戦闘の影響を加味しても絶対ありえない……!?)

 

 吹っ飛ばされ、砂浜に叩き付けれて全身に砂を被りながらも、束は一夏の異常な力を冷静に分析する。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

 

 しかし、そんな分析を余所に一夏は追い討ちをかけるべく、束目掛けて飛び掛かると同時に右拳を振り下ろす。

 

「ちっ!」

 

 だが、一夏からの追撃に束は逸早く反応し、振り下ろされた腕を掴み取って、そのまま勢いを利用して一夏の身体を放り投げる。

 

「消えろ……!」

 

 空中に放り出された一夏を狙い、束は右手から巨大な魔力弾を発射する。

 

「クッ……!!」

 

 迫り来る魔力弾に、一夏は両手を突き出してそれを受け止める。

 

「ぐぐ……ハァッ!!」

 

「……やっぱり、おかしいね」

 

 魔力弾は数秒ほど一夏の手に留まり、直後に掻き消された。

そしてそれを静かに眺め、折られた腕を治療しながら束は目を細める。

 

「やるね、いっくん。

今の弾、束さんはいっくんの力量じゃ防げないレベルのものをぶっ放してやったつもりなのに、それを防いで掻き消したなんて。

見た所、魔力の量も大きく底上げされてるみたいだけど……」

 

「いちいち説明する義理なんて無い!」

 

 語りかける束を無視して、一夏は再び突貫する。

それに応えるかのように束の表情(かお)に好戦的な笑みが浮かぶ。

 

「じゃあ、良いよ。

自分で考えるし、大体想像付くから……!!」

 

 そして自らも魔力を高め、一夏目掛けて拳を突き出す。

それに対して一夏も拳撃を繰り出し、二人の拳がぶつかり合った!

 

「ハアァァァァァッ!!」

 

「…………っ!!」

 

 ぶつかり合った二つの拳が鬩ぎ合い、鍔迫り合う。

そして、両者から溢れる凄まじい魔力が突風となって砂を巻き上げ、二人のパワーを物語る。

 

(クッ……予想してたとはいえ、なんて強さだ!即席とはいえ魔力を数倍に底上げしたってのに!!)

 

「魔力の波長が命蓮との戦闘前に比べて変化してる……それに加えて、霊力と、妖力も感じる?

…………あぁ、そう言う事か」

 

 束が確信めいた言葉を発すると同時に二人の身体が離れ、弾け飛ぶように二人の距離が再び開く。

そして、着地しながら束はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、こう言った……。

 

「いっくんもなかなかずるい真似してくれるね。

まさか、実質とはいえ数人掛かりも同然で来るなんてね」

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 時は数分前に遡る……。

 

「……なんという魔力だ。これが本当に人間の持つ力なのか?」

 

 聖蓮船に収容され、一夏を医務室に運んだ後、魔理沙達は旅館側の仲間達との合流を急いでいたが、旅館までの距離が縮まるにつれて束の持つ異常な魔力を魅魔は感知していた。

 

「やばいぜ。速く行かないと……!」

 

「村紗さん!もっとスピードは出ないんですか!?」

 

「全速力で飛ばしてるわよ!けど、どう少なく見積もっても後10分は掛かる!」

 

 悪化する戦況を前にして、魔理沙達の心中で焦燥感が増す。

既に千冬の魔力は著しく減少し、束と戦っていると思われる咲夜と妖夢も劣勢に立たされている。

10分という決して短くない時間を彼女達が持ちこたえきれるかはかなり厳しいだろう。

 

「こうなったら、私が先に行って時間を稼ぐぜ!私の機体なら全力で飛ばせばこの船より速く着ける筈だ!」

 

「待て!」

 

 痺れを切らし、魔理沙は踵を返してブリッジから出ようとするが、それを魅魔が静止する。

 

「あれ程の魔力を持つ相手だ。無策に行った所で瞬殺されるのがオチだ」

 

「くっ……!でも、このままじゃ……!」

 

「何か手は無いんですか?」

 

 師から論破され、苦虫を噛み潰しながら魔理沙は唸る。

そして、早苗からの問いに、魅魔は一度目を伏せ、やがて重苦しそうに口を開いた。

 

「無い事は無いが、危険な手段だ。

使った後、どれ程の反動が来るか私でも分からんぞ」

 

「どんな方法だよ?」

 

「簡単さ。一人の肉体に数人掛かりでエネルギーを送り込めば良い。霊力に魔力、妖力問わずにな。

そうすれば戦闘力は何倍にも跳ね上がる」

 

「あ、なるほど。ドラ○ン○ールみたいな感じですね。それなら解りやすいです!」

 

 魅魔の説明に早苗は納得したように笑みを浮かべる。

しかし、それとは対照的に魔理沙は冷や汗を流す。

 

「感心してる場合じゃないぜ……。

数人分のエネルギー、しかも自分とは違う性質の力も一人の身体に詰め込むんだぞ?

一体どれだけの負担が掛かるか……」

 

「その通りだ。人であれ妖怪であれ、持つエネルギーの絶対量は決まっている。

それに過剰なエネルギーを送り込めば肉体は過負荷を起こし、やがて自壊する。

最悪の場合、再起不能……いや、運が悪ければ命すら危ない」

 

 魅魔の言葉に二人は息を飲み、暫く沈黙する。だが……

 

「でも、ここでアイツらを見殺しにしたら、この先ずっと後悔する。だから、私はやるぜ!

魅魔様、すぐにやり方を『待ってくれ』……一夏!?」

 

 覚悟を決めて名乗り出た魔理沙だったが、不意に横槍が入る。

その声の主は治療を受けているはずの一夏だ。

 

「一夏君、治療中の筈じゃ?」

 

「もう応急処置は済ませたよ。それより、先行する役、俺にやらせてくれないか?」

 

「何言ってんだ!?そんな状態で行かせられるわけないだろ!」

 

 思わぬ一夏からの言葉に、魔理沙は声を荒げて静止するが一夏の意志が変わる様子は無い。

 

「無茶なのは分かってる。

だけど千冬姉は、千冬姉は自分の手で助けたいんだ。

だから、頼む!俺に行かせてくれ!!」

 

「い、一夏君……」

 

 深々と頭を下げ、懇願する一夏。その勢いに魔理沙と早苗は思わずたじろいでしまう。

 

「……小僧、一夏と言ったな?

確かに、お前のやろうとする事は余りにも無茶だ。はっきり言って自殺行為も良い所さ。

だが、この方法は肉体が頑丈な者が適任だ。そういった意味では、男であるお前が最も適している」

 

 神妙な表情で魅魔は口を開く。

その言葉に一夏は表情をより引き締め、彼女に向き合う。

 

「なら、決まりだな。魅魔さん、それに皆も、俺に力を貸してくれ!」

 

 再び頭を下げる一夏。

しばしの沈黙が流れた後、不意に魔理沙のため息がそれを打ち破る。

 

「ったく、さっきもそうだけど、無茶しすぎだぜお前は。

……絶対死ぬなよ。それが行かせてやる条件だぜ!」

 

 魔理沙からの激励の言葉を皮切りに、他のメンバーも一夏を旅館へと向かわせる準備に入ったのだった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「いやー、まさかそんな手があったなんてねぇ。束さんもびっくりだよ。

ココまで効果を出すこともだけど、そんな捨て身の戦法をやってのけるいっくんの胆力もさ……。

うーん、参ったなぁ。長期戦でいっくんのスタミナ切れを狙いたい所だけど、それじゃ魔女っ娘と糞巫女に合流されて面倒になちゃいそうだし……」

 

「考え込んでる暇は無いぜ!」

 

 一夏の強さの秘密を察し、束は困ったように首を傾げながら考え込む。

だが、そんなふざけた隙を一夏は見逃さず、一気呵成に攻め込み、突貫する。

 

「うわわっと!?危ない危ない。」

 

 しかし、やはり束に隙は無く、繰り出した拳は紙一重で受け止められてしまう。

 

「しょうがないなぁ。それじゃあ……」

 

 束の表情(かお)から笑みが消える。

それと同時に、先の戦いで千冬に向けられたと同じ……いや、それ以上の殺気が一夏を捉えた。

 

「ちょっと本気、出しちゃうね……」

 

 そして、束の身体から眩く、神々しい光が溢れ出した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「神と(あやかし)を喰らって得た、この力……実験台になってもらうよ!」

 

 

 

 

 


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