東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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絶望の差×希望の援軍と決断(後編)

「よし、ここまでくれば大丈夫ですね」

 

紆余曲折があったものの、予定された合流ポイントに辿り着き、文は安心したように息を吐く。

ポイントには学園の救援部隊は到着までまだ数分掛かるが、晴海とジンヤが呼んだ炎魔の部隊が既に到着し、彼らの手によって一般生徒達の安全は確保され、結果として護衛任務は成功したも同然だった。

 

「安心してる場合じゃないですよ。これから他の皆の加勢に行かなきゃ行けないんですから」

 

「分かってるわよ、まったく気が重いわね……」

 

そう、ココからが彼女達にとって本当の戦いなのだ。

先の旅館での一件を直接見た彼女達によって篠ノ之束の脅威が如何ほどのものかは充分解っている。

だが妖怪や幻想郷への憎悪や敵意を剥き出しにしていた彼女を野放しにすれば幻想郷そのもの の脅威にもなりかねない以上彼女との戦いを避けるわけにはいかない。

 

「準備出来てる?出来てるならさっさと行くわよ!」

 

「了解です。椛、アンタは?」

 

「大丈夫です。いつでも行けます!」

 

先程無人機を撃退した晴美、ジンヤも加わり、それぞれが準備を完了し、出撃の体勢に入る。

 

「予備のエネルギーパックは準備しています。射命丸さん、遠慮なく全力で飛ばしてください」

 

「ええ、かなり速いですから、舌噛まないでくださいよ」

 

3人が文の操縦する迦楼羅の腕などをしっかりと掴み、固定されたことを確認し、迦楼羅はフルスピードで飛び立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃったわね……」

 

「うん……」

 

呆然とそう呟きながら、鈴音は猛スピードで旅館へと戻っていった文達を眺める。

それは簪達武術部員達も同様だった。

頭はまだ混乱している。だが、それ以上にある思いが心から離れずにいた。

 

「ねえ、皆……私達、このままで良いのかな(・・・・・・・・・・) ?」

 

簪の問いかけに皆黙り込む。

これまで学友として共に過ごして河城重工の者達が人間ではなく妖怪だったという事実に対する驚きと戸惑いはまだ消えない。

だが、それでも彼女達に対する仲間意識や尊敬の念、あるいは思慕の情は自分達の心の中に消える事無く根付いているのだ。

そんな者達を戦場に残し自分達は安全な場所に引っ込んでしまって良いのか?

そんな思いが簪達の中で渦巻き、心をきつく締め付ける。

 

「美鈴さん、俺は……」

 

絞り出したような声を出し、弾は苦々しい様子で目を閉じ、やがて何かを決意したかのように目を開いた。

 

「悪い、皆。……俺、行って来る」

 

「え?」

 

不意にそう言って背を向けた弾にすぐ隣に居た鈴音は目を丸くして彼を見る。

 

「やっぱり、見殺しになんて出来ねえよ……!」

 

言うや否や弾は専用機を展開し、空へと飛び上がる。

 

「あ、オルコットさん達、ココに居たんですか?これから他の人達と一緒に…………ご、五反田君、アナタ何をして……!?」

 

丁度その時、専用機持ち達を呼びに来た真耶と他の一般教師達の目の前で弾は来た道を引き返し、旅館へと向かって飛び立って行った。

 

「ちょ、ちょっと!何やってるの!?」

 

「あ、アナタ達、彼をすぐに止めに! !」

 

突然の出来事に慌てふためく教師達、そんな教師達を余所にセシリア達は顔を見合わせる。

そして、どこか吹っ切れたような清々しい笑みが浮かべながら、彼女達は頷きあい、そして……。

 

「先生方、申し訳ありません。ですが……!」

 

最初に動いたのはセシリア。

弾と同様、専用機を展開して空へと飛び立つ。

 

「弾一人に良い格好はさせないんだから!」

 

「私達は姉御達より遥かに弱い。だが、それでも弾除けぐらいにはなれる!」

 

「学園側に伝えておいてください。謹慎でも退学でも好きにしろって。

だから、今回だけは無理を通す……!!」

 

鈴音、ラウラ、そして簪もそれに追従し、教師達の制止を振り切り仲間達の救援に向かったのだった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「あ~、面倒臭い。束さんの最優先事項は裏切者(ちーちゃん)への報復だってのに、何で邪魔するのかなぁ?予定が狂っちゃうよ、もう」

 

心底面倒臭そうに頬を膨らませて抗議する。

しかし、それがただ慢心しているだけではなく、確固たる力に裏づけされた絶対の自信である事を知る咲夜と妖夢は、戦慄から来る冷や汗を流しながら、手に持った武器を握りなおす。

 

「や、やめろ……やめるんだ。あ、アイツに…………束に敵うはずがない!逃げろ、逃げてくれ……!!」

 

怯えた表情のまま、千冬は二人を制止する。

その様子を一瞥しつつ、二人は制止の声を無視して前に出る。

 

「あれだけ気丈な千冬さんの心をココまでへし折るなんて、とんでもない相手ですね」

 

「ええ、妖夢、この際くだらないプライドは捨てなさい。全力で奴に仕掛けるわよ!」

 

覚悟を決め、二人はISを展開して静かに身構えて動き出し、束を挟み込む形で立ち並ぶ。

 

「二人の魔力と霊力、それとISも合わせて、ちーちゃん3.5人分って所かな?

哀しいよ。束さんはたかがそれくらいの評価って訳?」

 

「さあ、どうかしらね! !」

 

最初に動いたのは咲夜だ。

両手に展開したナイフを素早く束へと投げ付け、直後に自身も瞬間加速を駆使し、束の頭上目掛けて飛び上がる。

 

「遅すぎるよ……」

 

「うぐあっ! ?」

 

しかし束は直立不動のまま飛んできたナイフを左腕一本で全て薙ぎ払って防ぎ、更には頭上から飛び掛かってきた咲夜を魔力弾で難無く迎撃してしまった。

だが、ココで妖夢が動き、束を背後から強襲する!

 

「ハアァァァァッ! !『だから、遅いんだって』カハッ! ?」

 

が、これも不発に終わる。

妖夢の剣が届くよりも先に束の後ろ蹴りが妖夢の鳩尾に叩き込まれた。

 

「まだよ!」

 

今度は再び咲夜の攻撃。

吹っ飛ばされながらも、EXナイフを一本展開して束の顔面目掛けて投擲する。

しかし無理な体勢で投げたが為に、その軌道は余りにも読み易く、束は首を傾げてそれを避けようとする。

 

「今だ!!」

 

「っ!?」

 

直後に、妖夢が大声と共に楼観弐型を展開と同時に投げる。

しかし、その狙いは束ではない。束が避けたEXナイフだ。

妖夢の投げた短刀と咲夜のEXナイフが束の顔の間近でぶつかり合って爆ぜ、束は至近距離での爆発を諸に喰らう。

 

「やった!いくら奴でも零距離での爆発なら『はいはい、負けフラグ乙』……な! ?」

 

尚も変わらず余裕と嘲りの声が響く中、晴れた煙の中から現れたのは、眩いばかりに輝く白金色のISを身に纏って平然と立っている束の姿。

汚れ一つ無いその姿には、先の一撃でダメージを受けた様子はまったく無い。

 

「うん、なかなか良い攻撃だよ。

確かに、生身でアレを喰らってたら流石に束さんでも火傷しちゃうからね。

けど、私がISの生みの親って事を忘れたの?その私自身が機体を持ってないわけが無いじゃん。

この機体の防御力なら、これくらいの爆発なんで全然平気なんだよねぇ〜〜。

 

「そ、そんな……ぐがああッ! ?」

 

当てが外れ、狼狽する妖夢の身体に束の足蹴りが容赦なく打ち込まれ、それと同時に脇腹付近から『ベキッ』と嫌な音が鳴る。肋骨が圧し折れたのだ

 

「が、ぁ……」

 

吐血しながら砂浜に膝をつく妖夢。

しかし束は妖夢の首を掴んで倒れ込む事を阻止しその体を咲夜の方へと向ける。

 

「……盾にする気?」

 

「まぁね。吸血鬼の飼い犬の君にこんなのが盾や人質になるのかどうかは知らないけど?」

 

「そうね……でも、ちょっと勘違いしてないかしら?」

 

言葉と同時に咲夜は妖夢へと目を向ける。そして次の瞬間……

 

「私を舐めるなあっ!!」

 

自身の首を掴む束の手を無理矢理振り解き、妖夢はそのまま束の腕に組み付き、腕ひしぎの体勢で関節を極める。

 

「ぐっ……!こいつ、まだ!?」

 

妖夢からの思わぬ反撃に束は表情(かお)を顰め、妖夢を振り解こうするが……。

 

妖夢(その娘)のタフさをね。

そして、私に盾なんて意味を成さない……! !」

 

世界が静止する……咲夜が己の能力を発動し、時間を止めたのだ。

 

「アナタが如何に化け物染みた力の持ち主だとしても、この能力(ちから)の前では、アナタの時間は私のもの……幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』」

 

静かに、呟くようにスペルを発動し、咲夜は束の背後に回り、大量のナイフを至近距離まで投げる。

 

「これで終わりよ……!」

 

そして、再び束の前へと回り、彼女の開いている口の中目掛けて最後に残ったの一本のナイフを投げる。

 

(絶対防御といえど、体内への攻撃は防げない。卑怯かもしれないけど、手段は選んでられないわ)

 

口内に刀身が進入した所で動きを止めたナイフを確認し、咲夜は勝利を確信して束に背を向ける。

後は能力を解除してしまえば空中で静止したナイフは再び動き出し、束の喉を突き破り、背中は針鼠の如く姿へと変わり果てるだろう。

 

「そして、時は動き出s『ところがギッチョン!』…… !?」

 

突然聞こえたその声に、咲夜は目を見開いて振り返り、そして目にする。

口の中で静止しているはずのナイフをその手で掴んで取り除き、止まった時の中を平然と何事も無かったかのように動く束の姿を.……。

 

「な、何故……まだ、時は止まって……」

 

ありえぬ光景に、咲夜は動揺を抑えきれない。

如何なる強者であっても自分の『時を操る程度の能力』によって生み出される時の止まった世界に入ってくる事など、ただの一度だって無かった。

それが今、覆されたのだ。何よりも最悪な形で……。

 

「覇ぁっ!!」

 

「あ、ありえ……きゃああああっ!?」

 

動揺する咲夜を余所に、束は気迫の声と共に衝撃波を全身から放ち、動揺して無防備な咲夜、更に背後からのナイフも全て吹き飛ばしてしまった。

 

「これが私の『全てに抗う程度の能力』……」

 

「っ!?…な、何が…フゴォッ!?」

 

束が呟くのとほぼ同時に止まっていた時が動き出す。

そして、突然目の前で咲夜が吹っ飛ばされるという光景に困惑する妖夢の顔面が砂浜へと強かに叩き付けられた。

 

「が……ぁ……」

 

呻き声が妖夢の口から漏れ、全身が脱力して砂浜に倒れ伏す。

そして妖夢の意識が完全に落ちるのと同時に纏っていた白楼観が解除されて元の待機状態にまで戻ったのだった。

 

「はい、一丁あがリっと。

トドメは、まあ後で良いか。本命がそろそろ来る頃だしね……」

気絶した妖夢を払い除けるように蹴飛ばし、束は静かに虚空を見上げる。

 

「か、ハッ…う……ぐっ、っ…………っ!?」

 

束に吹き飛ばされ、心身共にダメージを負った咲夜はふらつきながらも何とか起き上がり、動きを止めた束の様子に不信を感じて、彼女の視線の先を追う。

そして彼女は見た。水平線の先に現れ、徐々に大きくなるある人物の人影を……。

 

「篠ノ之束…………よくも、千冬姉を……皆を…………!」

 

織斑一夏、到着。

 




次回予告

聖蓮船より先んじ、遂に到着した一夏。
しかし、束の狙いは他でもない一夏自身にあった。
千冬達3人を容易く破った束の強さを知りつつも、戦いを挑む一夏。
彼にはある秘策があった…………。

そして、次々と現れる無人機の大群に援護を阻まれるレミリア達の前には、簪達が決死の覚悟を胸に駆けつける!

次回『覚悟の戦士達』

一夏「今の俺じゃ、逆立ちしたってアンタにタイマンで勝ち目なんて無いって事ぐらい解ってるさ。……だがなぁ!!」

弾「……そんな事、関係無ぇ!!」









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