東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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降り注ぐ厄災(後編)

「くたばれ、裏切り者!!」

 

「束ええーーーーっ!」

 

怨嗟と憤怒、二つの叫びが木霊すると同時に、その声の主同士が上空で激突する。

 

「ハァァァァッ‼︎」

 

両手に構えた魔力で作られた大剣を振り下ろし、千冬は束に斬りかかる

対する束は素手の徒手空拳で身構え、振り下ろされた剣を左手で受け止める。

 

「へぇ〜〜 ? ……流石ちーちゃん。

腕力だけなら白蓮(さっきの糞尼)を越えてるよ、凄い凄い……!

でも、ちょっと甘いんじゃない?魔力の撃ち合いじゃ勝てないから接近戦ってのは解るけど、私こっちも結構イケるんだよねぇ〜〜」

 

「ぐ…っ!まだだ! !」

 

片手、しかも利き手ではない方の手のみで本気で打ち込んだはずの一撃を受け止められ、千冬は臍を噛む。

しかしすぐに思考を切り替え、千冬は左手を剣から離し、そのまま左手から魔力弾を放った。

 

「ヘブッ!?」

 

「今だ!」

 

顏面に魔力弾を喰らって怯んだ隙を突き、千冬は再び大剣を構え、束目掛けて振り下ろす。

 

「っ!」

 

「カハッ!?」

 

しかし、束は素早く身を屈めて千冬の腹を蹴飛ばして斬撃を防ぐ。

 

「痛た……。こりゃまたびっくり!ちーちゃん、射撃やフェイントも様になってるじゃん?

いやぁ~~、人間変われば変わるもんだね。昔は剣術オンリーだったのは随分技巧派になっちゃって」

 

「いつまで減らすロを! !」

 

強がりや虚勢ではない束の余裕を感じさせるふざけた態度に苛立ちを感じながらも、千冬は再び接近戦に持ち込む。

 

「秘技『零落白夜〈双〉』! !」

 

「フン……来なよ!」

 

一気に片をつけるべく、千冬は二刀流で束に斬りかかる。

そして、それに応えるかのように束は魔力の盾を展開して迎え撃つ!

 

「ハアァァァッ! !」

 

「グッ……ク…ゥ……ッ! !」

 

二振りの剣と盾が轟音を立ててぶつかり合い、鬩ぎ合う。

そして互いに譲らぬとばかりにその力は拮抗し合い、鍔迫り合ったのだった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「急いでバスに乗ってください!」

 

千冬と束の一騎打ちが行われる最中、一般生徒と旅館の従業員達は真耶主導の下、避難の為に大型バスへ押し込まれ、

レミリアを始めとした幻想郷のメンバーは突如現れた無人機の集団と戦い、生徒達を守っていた。

 

「山田先生、この子で最後です!」

 

「良かった、これで……?」

 

束に気絶させられ、身動きが取れなくなっている生徒達の内、最後の一人を鈴音が運んで来て、漸く作業が終了すると思われたその時……。

 

「鳳さん、危ない!」

 

無人機が背後から鈴音に接近し、アサルトライフルの銃口を鈴音に向けて襲い掛かろうとしていた。

 

「あ……I ?」

 

悲鳴を上げる間も無く、無人機の指がライフルの引き金に掛かり、今にも鉛玉が鈴音を蜂の巣にせんと発射されようとした、その時……。

 

「墳っ!」

 

電光石火の如きスピードで現れた人影......美鈴が放った貫手が無人機の胴体を貫いた。

 

「め、美鈴さん……?」

美鈴の姿に鈴音は呆然とする。

普段の暢気で温厚なそれとは違い、目付きは鋭くなり、醸し出す雰囲気は彼女の専用機の名の表す通り、紅い龍を思わせる闘志と怒気……そして妖力に満ちている。

 

「ま、まだ来ますよ!?」

 

真耶の悲鳴と共に新たに2機の無人機が美鈴に襲い掛かろうとする。

しかし、美鈴はそれに動じる事無く、先程胴をぶち抜いた無人機を放り投げて襲い掛かる2機の内の片方に叩きつけ、もう一方の無人機の頭部を鷲掴む。

 

「私達が狙いだって言うんなら、無関係の人まで……巻き込むなぁっ! !」

 

解き放つように怒声を上げ、そのまま掴んだ無人機を倒れた無人機に叩きつけ、計3機の無人機を一度に叩き潰した!!

 

「す、凄い……」

 

(つ、強すぎる……これが、妖怪の力……いや、美鈴さんの本気だっていうの?)

 

「何やってるんですか!早く逃げてください! !」

 

「は、はい!」

 

唖然とする真耶と鈴音に美鈴が柄にも無く怒鳴り声を上げる。

その言葉に我を取り戻し、真耶はすぐに搭乗するラファールにスーパーアームを装着し、バスを持ち上げるスタンバイに入る。

 

「……無事に終わったら、全部聞かせてもらうんだから」

 

「分かってます……ごめんなさい。ずっと、アナタ達を騙してしまって」

 

少しだけ言葉を交わし、鈴音もバスの護送に取り掛かる。

そして文と椛を護衛として、大型バスは空を飛んで旅館を離れたのだった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「ぬうううっ! !」

 

「グ、グ……っ!」

 

長く続く千冬と束の鍔迫り合いだったが、ココに来て変化が生じる。

少しずつではあるが、千冬が束を押し始めたのだ。

 

「ど、どうした?……減らず口を言う余裕もなくなったか! ?」

 

「く、クソッ!こ、の……脳筋の馬鹿力が! !」

 

少し前までの余裕が嘘のように焦りを見せ始めた束。

その様子に千冬は今こそが攻め時だと確信し、魔力を限界まで高めていく。

 

「これで決めてやる!」

 

一気に魔力を放出させた千冬のパワーに、束の魔力盾に(ひび)割れが起こり始めた。

 

「そ、そんな……このパワーは! ?」

 

「う おおおおおおっ!!」

 

魔力を最大限両手に集中し、千冬は己の出せる最高の一撃を盾へと打ちつけ、遂に束の盾が音を立てて砕け散った!!

 

「そ、そんな!?こ、こんなのありえない! !」

 

「これで最後だぁーーーーーっ!!!!」

 

絶対の自信を持っていた防御を崩され、慌てふためく束。

その姿にほんの一瞬だけ哀しい想いを抱くも、千冬はそれをすぐに振り払ってトドメの

一撃を咆哮と共に繰り出した!!

 

「う、うわあああああ!

 

 

 

 

 

 

 

……なーんちゃって♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に緊迫した空気が変わる。そして異変が生じる。

 

束の言葉を千冬が耳にした、その直後…………束の右腕が振るわれ、千冬の手にあった二振りの剣は瞬時に砕け散ってしまったのだ。

 

「え…… ?」

 

突然の出来事に思考が追いつかなかった。

つい1秒前まで自分は束を相手に優位に立っていた筈なのに、それがまるで嘘のよう

に束の態度は戦闘前と同じ……いや、それ以上に余裕と嘲りに満ちている。

千冬は決して加減などしていない。

先の零落白夜は全身全霊をかけた一撃だった。

例えそれで束を殺してしまったとしても、それを背負う覚悟を込めて放った一撃だった。

にも拘らずその刃は簡単に砕かれ先程まで熾烈な鍔迫り合いを繰り広げた束は疲労の色一つ見せていない。

 

(まさか、今までのは全て演技とでも言うのか?)

 

その事実に気づいた時、千冬は脇腹に鋭い痛みを感じる。

 

「ガッ…は……?」

 

何が起きたのか解らず、千冬はただ吐血しながら後退る事しか出来ない。

 

「勝ったと思った?ねえ、今勝ったと思った?

ごめんね、束さん結構好きなんだよねぇ~~。上げて落とすってやり方♪」

 

耳障りな嘲笑と共に束は血に染まった人差し指と中指を千冬の脇腹から引き抜く。

それを見て漸く千冬は理解した。

束は魔力で強化された指によって自分の脇腹は貫かれたという事を。

そして零落白夜は束にとって何の脅威にもならず、一瞬にして砕かれてしまった。

とどのつまり、自分は束の掌の上で踊らされていただけだったのだ。

 

「あ……あ…………!」

 

悟ってしまった……それと同時に心が折れ、ある感情が支配していく。

(か、勝てない……どう足掻いてもどんな手を使っても……コイツには…束には……絶対に敵いっこない!!)

 

絶対的な差に完全に戦意が喪失してしまう。

大きすぎる挫折が生み出す絶望に身体が震え上がり、目から涙が溢れ出す。

千冬の心の中に残ったのは、たった一つ…………『恐怖』だけだった。

 




次回予告

無残な敗北……決定的な挫折に、千冬は戦意を喪ってしまった。
咲夜、妖夢を始めとした幻想郷の強豪達は千冬に代わって束に挑むが、それは彼女の恐ろしさにより一層拍車を掛ける結果となってしまう。
そして無人機の圧倒的な数もまた、次第に苦戦を強いてくる。
しかし、そこに遂に到着する援軍。

そして思いもよらぬ事実に困惑する弾達6人は、ある決断を迫られる。


次回『絶望の差×希望の援軍と決断』

束「これが私の『全てに抗う程度の能力』……」

晴美「さっさと下がれ、×ぃ! !」

弾「美鈴さん、俺は……」

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