長々と間を空けて本当にすいません。
命蓮共々海中へと落下した魅魔……二人は海中深くで相対する。
なお、水中において足枷となるISとSWは(武器以外)既にパージしている。
「っ……!」
真っ先に動いたのは命蓮だ。
魔力弾を片手で連射して牽制し、顔の周囲に空気の膜を精製し、マスクの要領で口元を覆って窒息を防ぐ。
(なるほど。海中に潜る寸前、空気を確保しておいたか。
見事な判断力と迅速さだ。魔理沙達が苦戦するのも理解出来る。
まともに戦り合えば私でも無事じゃ済まないね)
魔力弾を捌きながら魅魔は命蓮の力量の一端を認識し、目を鋭く細める。
「……あくまで、まともに戦えばだけどね!」
それと同時に不敵に笑い、左手に込めた魔力を一気に高め、散弾銃のようにぶっ放す。
「っ……!?」
命蓮は即座に回避に移り、魔力弾の射程範囲から即座に逃れる。
しかし、逃げた先には……
「スピードが落ちてるぞ!
まぁ、そのためにわざわざ水中に連れ込んだんだがな!」
命蓮の眼前には、顔に余裕の表情を浮かべた魅魔が迫り、魔力を携えた杖を構えていた。
魅魔の言葉通り、水による抵抗と先の戦闘での負傷と疲労が命蓮の動きを阻害しているのだ。
「っ!!」
高機動戦が不利ならばと、命蓮は即座に接近戦に切り替え、ブーメランを手にして魅魔に斬りかかる。
「ぅおっ!?」
水圧で勢いが落ちたとはいえ、それでもその斬撃は十分に速く、紙一重でそれを避けた魅魔の髪を僅かに切り落とした。
(スピードダウンしても、これだけの速度とは恐れ入る。
もしも勝負が空中戦、もしくは奴が万全だったら私でも危なかったかもね。
…………故に、貴様はココで仕留める!)
「っ!?」
魅魔の放つ雰囲気が一変し、凄まじい敵意と殺気を放つ。
そして魅魔の全身から魔力が吹き荒れ、命蓮の身体を吹き飛ばした。
「手間は掛けん。これで終わりだ……!」
そして、直後に右手に魔力を集中させ、その魔力を極大のレーザー状にして一気に放った!
弟子である魔理沙の得意技、マスタースパークを魅魔独自に真似たものだ。
「グ…ォ…!!」
さしもの命蓮もバランスを崩していた体勢では回避が儘ならず、成す術無く光に飲まれたのだった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「……ど、どうなってるんだぜ?」
「し、篠ノ之さんが……二人?」
「お、俺にも何がなんだか……さっき箒の機体が光ったと思ったら突然……」
二人に分裂するという(幻想郷側の視点から見ても)余りにも現実離れした現象に、それを目撃した一夏達は二人の箒を抱きかかえながら呆然としていた。
(なお、分裂した箒はそれぞれ髪の色が黒髪と白髪になっており、一夏が黒髪と早苗が白髪を抱きかかえている。)
「う……ぁ……い…一、夏……」
「あ!ほ、箒……大丈夫か?」
最初に目を醒ましたのは一夏の抱える黒髪の箒だった。
まだ意識が完全にハッキリしているわけではないが、一夏の姿を見て目元に涙を浮かべる。
「一夏……すまない、一夏……」
「……良いんだ。お前が謝る事なんて、何も無いよ」
泣きながら謝罪の言葉を口にする箒(黒髪)に、一夏は申し訳無さそうに目を伏せ、箒の身体をしっかりと抱え直す。
「ぅ……くっ……!」
箒(黒髪)の目覚めに呼応するかのように今度は早苗の抱える箒(白髪)が動き出す。
「あ!こっちも気が付い『ウア゛ァァッ!!』……え?キャアァァッ!!」
それは完全に早苗の不意を突いた出来事だった。
目覚めた箒(白髪)は咆哮を上げると同時に瞳が赤く光り、消え失せていたはずの紅椿を身に纏い、それと同時に魔力が噴き出して早苗を吹き飛ばした。
「早苗!こ、コイツ……何を?」
「…………」
吹き飛ばされた早苗をキャッチし、魔理沙は箒(白髪)を睨みつける。
一方で、箒(白髪)はそんな魔理沙達に目もくれず自分の身と分裂したもう一人の箒(黒髪)を暫し見詰め、やがて口角を吊り上げて笑みを浮かべた。
「クク、フハハハ!これで、これで邪魔な感情は消えた!
もう邪魔者は居ない!貴様ら、全員皆殺しだぁーーーっ!!」
そして哄笑を上げながら再び先程と同じかそれ以上の殺意を見せ、箒(白髪)は一夏に襲い掛かろうとするが……。
「……そこまでです」
「ガッ!?」
突如として姿を現した一機のISとそれを身に纏う少女、クロエ・クロニクルによる当て身を受け、箒(白髪)は気絶させられ、そのままクロエに抱えられる。
「まったく、そんな未完成な魔力ではこの人達に敵わないというのに……。
流石に、想定外です……!」
苦々しく呟き、クロエは一夏達から距離を取って退却しようとする。
だが、一夏達はそれを良しとせず、逃げ場を塞ぐように取り囲む。
「待て!逃がさねぇぞ!!
お前、何者だ?束さん……いや、篠ノ之束の仲間か!?」
「……まぁ、今更隠す必要も無いですね。
私の名はクロエ・クロニクル……束様の駒です」
「こ、駒?」
問いに対して自身を『駒』と称したクロエの応対に一夏は目を丸くする。
「あと、私はアナタ達といちいち戦う気は無いので……ノエル!」
クロエがその名を呼んだ直後、一夏達から少し離れた場所で水柱が上がり、その中からISを纏ったノエルと、彼女が抱える形で全身を負傷した命蓮が姿を現す。
「ノエル・デュノア!?……生きてたのか?」
ノエルの姿に驚く一夏達。
そんな彼らを一瞬だけ睨むも、結局無視してノエルは命蓮と共にクロエに駆け寄る。
「そろそろ無人機での足止めも限界です。退却しましょう」
「ええ……」
そしてクロエはノエルの身体を掴み、それと同時は二人は煙のようにその場から“消失”したのだった。
「ま、また消えちまった……どうなってんだ?
あ!それより魅魔様は?」
唖然とする中、魔理沙は魅魔の身を案じ、周囲を見回す。
直後に、先程の得るが出てきた海面のすぐ近くから魅魔が姿を現す。
しかもその手には以前にクラス対抗戦時に現れた無人機の残骸を握っていた。
「魅魔様!無事だったのか!?」
「当たり前だ。
しかしすまない、コイツら機械人形どもと目付きの悪い女(ノエル)に邪魔されてあの男を逃がしちまった」
命蓮を取り逃がしてしまった事に、魅魔は苦虫を噛み潰したように表情を顰める。
しかし、すぐに魔理沙達に向き直って真剣な眼差しで三人を見詰めた。
「詳しい事は移動しながら話す。とりあえず、すぐに他の連中のところに向かうぞ」
この会話のすぐ後、一夏達はこちらに向かってきた聖蓮船と合流し、千冬達とこの事件の元凶たる女、篠ノ之束の元へと向かうのだった。
次回予告
命蓮を辛くも退け、千冬達の待つ旅館へと急ぐ一夏達。
そして、旅館では束が遂にその恐るべき力を見せる。
次回『天災』
束「消えろよ……!」
千冬「ココには無関係の生徒達もいるんだぞ!?」