東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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今回で箒の行く末が決定します。

さて問題、箒は救済か?アンチ継続か?


援軍と二つの心(後編)

「やれやれ、冬眠から目覚めて早々こんな馬鹿でかいヤマに関わる事になるとはねぇ」

 

 命蓮の攻撃から魔理沙を守り、二人の間に割って入るように現れたSWを身に纏ったその人物・・・魅魔は、目の前で無表情に刃を携える命蓮を見ながら愚痴るように呟く。

その一方で、彼女の背後で守られている魔理沙は驚きの余り目を見開いている。

 

「み、魅魔様、どうしてココに?」

 

「見れば解るだろ?助けに来てやったのさ。

聖蓮船とか言う船に乗ってきてたんだが、一先ず私が先行したんだが……。

お前達、なかなかえげつない相手と戦ってるじゃないか」

 

 再び視線を命蓮に戻し、魅魔は目を鋭く細める。

そして静かに手に持った杖を握りなおして臨戦態勢を取る。

 

「魔理沙、あとそこの緑髪の早苗とか言う奴。お前達は小僧(一夏)が抑えている小娘の相手をしろ。

命蓮(コイツ)とは、私が戦う」

 

「ま、待ってくれ魅魔様!そいつの強さは、いくら魅魔様でも一対一じゃ……痛っ」

 

「生意気抜かすんじゃないよ。私は弟子に心配されるほど耄碌した覚えは無い」

 

 心配する魔理沙を軽い拳骨で黙らせ、魅魔は不敵に笑みを浮かべる。

 

「さてと、それじゃあ……!」

 

 直後に魅魔と命蓮の周囲が光に包まれ、やがてそれは光の結界となって二人を包み込む。

 

「一緒に潜水と洒落込もうじゃないか!」

 

 そして二人は結界共々海中へと落下したのだった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「ウァ゛ァァァァァァ!!

殺ス!殺す殺す殺す殺す!!コロォォォォス!!!」

 

 魅魔乱入の傍らで、箒と対峙する一夏は、命蓮戦での負傷と疲労、更に箒への負い目から反撃も儘ならず防戦に徹していた。

 

「うぐっ!ほ、箒…………!」

 

「お前が、変わらなければ……カワリサエシナケレバ、私はァァァァッ!!」

 

「っ!?……お前……うぐぁっ!!」

 

 二本の刀を振り回し、尚も止まら斬撃が一夏の身体を傷付け、堪らず箒を引き離し、距離を取る中、一夏は箒のある変化に気が付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………箒は泣いていた。

その目に浮かぶ涙は怒りと憎悪からか、はたまた悲しみと悔しさから来るものなのかは定かではないが、それを見た一夏の心は言い様の無い罪悪感に締め付けられる。

 

(……俺のせいなのか?

俺が、もっと早くにお前と向き合っていたら、こうならずに済んだのか?)

 

 もしも箒の想いに早い内に気付き、向き合っていたら……。

箒に千冬との関係を打ち明けて謝罪していたら……。(これはこれで大問題が起こる可能性大だが)

 

 そう考えると箒を放置していた事への罪悪感が溢れ出す。

 

(どうすれば良い?……どうすれば今の箒を止められる?)

 

 力ずくで止める事は出来なくもない。

だが、これ以上問題を先延ばししても事態は悪化の一途を辿るだけ。

それならば、今すぐに箒を正気に戻すべきだと一夏は思う。

 

『一夏君、聞こえる!?こっちは増援が来てくれたから、今そっちに向かうわ。

だからそれまで何とか無事でいて!!』

 

 思考する中、早苗からの通信が入る。

どうやら戦っているうちに随分距離が開いてしまったらしい。

 

「早苗姉ちゃん……っ!」

 

 早苗の存在に一夏はハッとなってある出来事を思い出す。

 

(そうだ……あの時、早苗姉ちゃんは……)

 

 思い出したのはエキシビションマッチでの一戦。

あの時早苗は嫉妬と独り善がりな怒りで暴走し続ける箒に対し、

『お前は自分の嫌っている姉と同類だ』という言葉で大きな精神的ショックを与え、箒の頭を冷やしたのだ。

それと同じ様に箒の心に大きな衝撃を与える事が出来れば……。

 

(今の箒に言葉は通じない……だったら、それ以外の方法なら!)

 

 漸く思いついた策に、一夏は覚悟を決める。

そして空中で制止したまま直立不動の姿勢となり、自身を射殺すように睨みながら突っ込んで来る箒をただまっすぐと見据えた。

 

「死ネェェェェーーーーーーーッ!!!!」

 

 怨嗟と殺意に満ちた叫びを上げながら、箒は刀を一刀流に切り替え、一気に一夏目掛けて振り下ろし、その凶刃は一夏の左肩へと落とされた!

 

「ぐがぁぁっ!!…………ぐ…クッ……!」

 

 機体の絶対防御、そして魔力による防御を超えて肩に食い込んだ刃をDアーマーの手でガッチリと握りながら、一夏は不意に不敵な笑みを浮かべた。

 

「な!?き、貴様……何故!?」

 

 その様子に箒は驚愕する。

 

何故一夏はこの状況で笑うのか?

なぜ避けようともしなかったのか?

 

 そして、その疑問は驚愕へと変化し、箒の心に動揺が走ったのを一夏は決して見逃さない。

 

「どうしたよ箒?こんな攻撃じゃ俺は殺せないぞ。

俺を殺すんなら、これぐらい力入れて攻撃しろォっ!!」

 

 雄叫びの如き大声を上げ、一夏は掴んだ刃を更に己の肩に食い込ませる!

そして広がった傷口から血が噴き出し、箒の顔に目潰しのように飛び散った。

 

「う、うわっ!?な、何を…………っ!?」

 

 思わず刀から手を離して箒は手顔に付いた血を拭う。

そして拭った手に付着した真っ赤な血により一層の動揺が走る。

 

「血……一夏の、血…………あ、あぁぁぁぁっ!」

 

 目の前にいる血まみれとなった一夏の凄惨な有様、そして己の手についた血は自身が犯した凶行を無理矢理認識させる。

いくら暴力沙汰を多く経験した箒と言えど、人を直接刃で斬り付けた経験など無い。

そしてそれが如何に陰惨な結果を生むのか、箒は今、身を以って知ったのだ。

 

「ハァ、ハァ……や、やっと落ち着いたな。箒……」

 

 そして一夏は、息も絶え絶えになりながらも、一夏は箒に向き直り、口を開く。

 

「箒……俺は、確かにお前に憎まれても仕方ない。

姉弟なのに、千冬姉の事を女として愛してしまった。…………それが、お前や鈴を裏切っている事も承知している。

けど、魔理沙達は……幻想郷の皆は、俺達の命を助けてくれた。本当にただ、それだけなんだ。

だから、もうこんな事はやめてくれ。

俺が憎いなら、いくらでもその憎しみをぶつけてくれて良い。

だけど束さんの言葉に踊らされて、こんな凶行に走るのだけは!!」

 

「ぐ、うぅ…………!!」

 

 肩の激痛に耐えながら箒に語りかける一夏。

対する箒はその言葉に耳を塞ぎながら首を横に振り続ける。

 

「う、うるさい……うるさいうるさいうるさい!!

全部お前が、お前らが悪いんだ!私を裏切ったお前が、勝手に一夏を変えた化け物が『違う……』……だ、誰だ!?」

 

 不意に聞こえてきた声に箒は周囲を見回すが、誰も居ないし通信も入っていない。

 

「ど、どこに『もう、やめてくれ……。もう、こんな気持ちのまま暴れたくない』……黙れ!どこにいるんだ!?姿を見せろ!卑怯者が!!」

 

「ほ、箒……?お前、一人で何を……」

 

「え?」

 

 一夏の言葉に箒は気付く。

まるで泣いている様に語りかけるその声は、自分の口から出ているものだという事に……。

箒は今、一人で……自分一人の口で会話しているのだ。

無意識に出てくるその声と…………。

 

『あの時、千冬さんは自分と一夏の事を教えてくれようとしていた……。

一夏だって私の事を、気にかけてくれたじゃないか……。

もう嫌なんだ!これ以上私の身勝手で誰かを傷付けるなんて!

そんな事を続けていたら、本当に独りぼっちになってしまう……そんなの、嫌だ』

 

「だ、黙れ!そんなの関係無い!!

私は悪くない!悪いのは全部コイツらなんだ!!

殺してやる!私を裏切った一夏も、一夏を変えた妖怪共も、千冬(あの女)も!!皆殺してやる!!」

 

 相容れることの無い二つの意思。

それに反応するかの如く、突如として紅椿が輝き出した!

 

「な、何だ!?」

 

 強烈な光に、視界を遮られる中、一夏は箒から感じる魔力と霊力の変化を肌で感じ取る。

箒の持つ魔力と霊力、そして心は今まさに暴走し、真っ二つに別れたのだ。

 

『やめろ』

 

「黙れ!」

 

『やめろ』

 

「黙れ!」

 

『やめろ』

 

「黙れぇぇっ!!もう、お前のような心……要るものか!私の中から消えろぉーーーーっ!!」

 

『もうやめてくれぇぇーーーーーっ!!』

 

 ぶつかり合う二つの心に呼応し、紅椿の光は更に増し、周囲を閃光で照らす。

 

「っ!?」

 

 眩い光の中、一夏は一瞬だが確かに見た。

紅椿が箒の体中に吸い込まれるように消え失せ、直後に箒の肉体が二つに分裂し、二人の箒が誕生した瞬間を…………。

 

 

 




次回予告

 二人に分裂した箒。
その混乱の中で刺客として現れたクロエ。

そして、魅魔と命蓮の戦いの行方は……。


次回『水中戦と二人の箒』

?「一夏……すまない、一夏……」

?「これで邪魔な感情は消えた!」

クロエ「流石に、想定外です……!」











前書きの答え・両方(無理矢理感はあるけど)

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