コミケ前に何とか更新できました。
「《魔符『ショットガンスパーク』!!》」
一夏の両手から放たれる魔力の光線が幾重にも拡散し、命蓮を撃ち抜かんと襲い掛かるが、その光線を命蓮は瞬く間に回避、あるいは負傷した右手から無事な左手に持ち替えたブーメラン型ブレードで迎撃してしまう。
「クソッ!『一夏君、後ろ!!』……っ!?」
命蓮の神速とも言うべきスピードに臍を噛む一夏。
だが、不意に援護を行っている早苗の大声で命蓮が瞬時に自身の背後に回りこんでいることを察知し、間一髪で振り下ろされる刃を防いで見せた。
「魔理沙さん!チャージはまだなの!?」
「あと50秒だ!」
そして魔理沙は、早苗のオンバシラによって守られながら、マスターキャノンをチャージし続けている。
「残り一分切ったか、こうなったら……」
魔理沙の言葉を聞き届け、一夏は意を決したように目を鋭く細め、全身に待とう魔力を一気に高めた。
「ラストスパートだ!行くぜ、偽者野郎!!」
高められた魔力を一気に解き放ち、一夏は命蓮目掛けて一気に突撃した!
「……っ!」
鬼気迫る一夏に、命蓮に逃げる素振りは無い。
その場に留まり、両手にブーメランを構えて迎え撃つ姿勢だ。
「うぉおおおおお!!!!」
「っ!!」
そして肉迫すると同時に一夏と命蓮、それぞれから繰り出される拳と刃の連打。
息吐く間も無いラッシュとラッシュのぶつかり合いに空気が震える。
手数の多さこそ命蓮が上だが、対する一夏は手数の差をパワーで補って対抗する。
命蓮は先の打ち合いで利き腕である右腕を負傷したこともあり、攻撃スピードが僅かに落ちていた。
一夏も負傷はしたが負傷箇所は胸であり、戦闘に支障が出るほどではなかったのが幸いし、二人のラッシュはほぼ互角に近いものとなっている。
しかし、それでも命蓮との実力差が徐々に浮き彫りとなっていき、次第に一夏は押され始め、体中に切り傷が刻まれていくにつれてラッシュの勢いは衰え、隙が生まれやすくなっていく。
「ッ!!」
「うぐぁぁっ!?」
そしてラッシュ合戦開始から約20秒、遂に二人の差は決定的なものとなり、隙を突いて命蓮は一夏を胸元の傷をなぞるかの如く再び斬りつけた。
「う……ぐ…っぁ……」
傷口を広げられた事で出血量は大きく増え、一夏の顔からは血の気が引き、同時に意識が薄れそうになる。
「一夏君!!」
「っ!?……来るな!!」
そんな一夏の危機に早苗は思わず飛び出しそうになる。
しかし、早苗の叫び声で意識を取り戻した一夏はそれを制止し、命蓮に再び掴みかかる。
「さ、早苗姉ちゃん以外に、誰が無防備な魔理沙を守るって言うんだ!?
あと少しぐらい、俺がコイツを……抑えてみせる!!」
言うや否や一夏は先程の打撃攻めから一転、命蓮の胴体を己が腕で抱え込み、そのまま一気に両腕に力を込め、命蓮の身体を締め付けた!
プロレス技で言う所の『ベアハッグ(サバ折り)』である。
「ぬぉおおおおっっ!!」
「うぐっ……ガッ……!」
全身に残った全ての力を搾り出し、命蓮の身体を締め上げる一夏。
鬼気迫る表情とそれに比例して強まる力にこれまで無表情だった命蓮に苦悶の色が浮かび始める。
だが、命蓮もただ攻められているだけではない。
締め上げられたままブーメランを振り上げ、それを一夏の右肩目掛けて突き立て、サバ折りから抜け出そうとする。
「ぐぁぁっ!!……は、離す、もんか……!!」
肩を刺されながらも、最後の執念で一夏は命蓮に喰らい付き、決して力を緩めようとはしない。
そして遂に残りのチャージ時間は10秒を切った。
「…………れ」
「え?」
不意に、一夏の耳に届いたその言葉。
それは今、自身がその腕で締め付けている命蓮の口から出たものだった。
「早…く、僕、を……こ、ろ………して、くれ」
「な、何…を?」
思わず問いかけてしまう。
この時、一夏が命蓮の表情は、ほんの僅かではあるが今までの機械的な無表情から深い悲しみを持ったものに変わっていた。
「……グハッ!?」
だが、それに唖然とする事は隙を生じさせる事と同じ事。
一瞬だけ力を緩めたその隙を突き、命蓮は再び無表情に戻り、サバ折りの体勢から抜け出し、一夏を蹴り飛ばしてしまった。
「し、しまっ『いや、もう十分だぜ!』……!?」
思わぬ失敗に後悔の声を上げた一夏だが、それを阻む魔理沙の声。
振り返った先には、マスターキャノンのフルチャージが完了した魔理沙の姿があった。
「一夏ぁ!ボードに捕まれぇ!!」
叫び声を上げると同時に魔理沙はスプレッドスターから飛び降り、マスターキャノンを構えて海面へ落下しながら発射体勢に入る。
同時に、魔理沙の元を離れたスプレッドスターは一夏目掛けて高速で飛ぶ。
そして一夏がそれに捕まって命蓮から距離を取った事を確認し、マスターキャノンの引き金に指を掛けた。
「!?」
マスターキャノンを前に、命蓮はすぐさま回避行動に移るべく身を翻す。
如何に大規模な破壊力と攻撃範囲を持ったマスターキャノンと言えど、命蓮程のスピードを持った相手に当てるのは至難の技。ましてや、それが自由落下しながらであれば尚更だ。
だが、魔理沙の表情に焦りは無く、ただ不敵な笑みを浮かべるのみである。
「お前に喰らわせるのは、ビームじゃない…………大量の潮水だぜぇ!!」
「っ!!?」
魔理沙が砲身を向けた先は命蓮ではなく、海面。
そして着水とほぼ同時にマスターキャノンから放たれたビームにより、海面から凄まじく巨大な水柱が上がり、それが津波となって命蓮を飲み込んだ!!
「や、やった!今のは違いなく直撃よ!!」
「へへ、ちょこまか動く奴には面で攻めるってな!」
そして早苗が魔理沙を回収し、魔理沙は水中への落下を免れたのだった。
「た、倒せたのか?」
「いや、あれ程の強さだ。ダメージはでかいだろうけど、あれで死ぬとは思えないぜ。
それは直接戦ったお前なら解るだろ?」
「…………」
合流した一夏の呟きを魔理沙は否定する。
そして、その言葉に一夏は複雑な表情を浮かべる。
先程自らの死を願う命蓮の言葉が頭から離れないのだ。
「とにかく、周りの警戒は私と早苗がやっておく。一夏、お前は魔力を集中させて傷口を出来るだけ塞ぐんだ。
次に奴が出てきた時が勝負所だぜ……!」
再び気を引き締めながら指示を出す魔理沙と、それに従って警戒態勢を維持する早苗。
一夏も魔理沙の指示通りに傷口を塞ぐ事に専念しようとするが……。
「待って、何かこっちに来る……この機体反応は!?」
不意に早苗の非相天則のレーダーが新たな機影をキャッチする。
そして、その先から来た機体と、それを駆る人物は…………。
「イィチィカァァァッ!!!!」
狂気、怒り、嫉妬、憎しみ……あらゆる負の感情に飲まれ、禍々しい魔力と血の様に紅いISをその身に纏った少女、篠ノ之箒が叫び声を上げながら一夏達に迫る…………。
次回予告
憎しみに飲まれ、怒れる獣の如く荒れ狂う箒。
そして、秘められし狂気を解き放ち、遂に牙を剥く束。
しかし、そんな絶体絶命の状況の中、思わぬ人物が現れる。
そして、箒の身にある異変が……。
次回『援軍と二つの心』
?「やれやれ、目覚めて早々馬鹿でかいヤマに関わることになるとはねぇ」
箒「お前らが!お前らみたいな化け物が!!」
?「もう、やめてくれ……。もう、こんな気持ちのまま暴れたくない」