短くてすいません。
復活した聖命蓮が一夏達の前に現れる少し前、河城重工では、社長室に数名の人員が招集されていた。
「たった今、アリスから暗号通信で連絡があったわ。
例の女……篠ノ之束が一夏達の前に現れたってね」
束の名を出した紫の様子に、社長室に集められた面々に緊張が走る。
普段の胡散臭いほどに飄々としたそれとは違い、紫の表情は真剣そのものだった。
「そして、その直後にアメリカ軍の軍用ISの暴走。
確証こそ無いけど……この一件、かなり厄介なものになるかもしれないわ」
「それで、俺達に援軍になれって事か?」
紫の説明を聞き、最初に口を開いたのは先日河城重工に雇われることが正式に決まった高原日勝だ。
「えぇ。そうなるかもしれないから準備して……」
そこまで言って紫は言葉を止めて、視線を別の方向へ向ける。
その直後、紫が目を向けた先の空間が突如として歪み出し、やがてそこに一人の男……IS学園に出向している筈の、田所アキラが姿を現した。
「紫!たった今、炎魔(ウチ)の協力者から連絡が入った!
篠ノ之束による敵対行動と魔力反応を確認、すぐに応援を送ってくれ!俺も一緒に行く!!」
アキラからの凶報に紫は細めた目をより鋭くする。
どうやら事態は紫自身が考えているよりもずっと深刻のようだ……。
「その話、私も乗らせてもらおうか」
「アナタは……」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「どうなってるんだ?俺と、同じ顔……?」
「驚いてる場合かよ?コイツ、いかにも臨戦態勢って感じだぜ」
目の前に現れた一夏と瓜二つの顔を持つ男……聖命蓮に対して、一夏達は警戒しながら身構える。
「…………」
一方で命蓮は全くの無言。
不気味さまで感じさせる無表情のまま、彼は手にしたブーメラン型の刃を構えなおす。
「来るわ!気をつけて!」
警戒心を強め、早苗は命蓮を迎え撃つべくドッズライフルを展開して、命蓮を牽制するが……。
「…………っ!」
一瞬、命蓮の目が鋭く細められたとほぼ同時に、早苗の視界に閃光が迸った。
「え『……遅い』ガッ!?」
時間にして1秒未満。
その僅かとさえ呼べない時間で、命蓮の姿は早苗の背後に移り、手に持った刃で早苗を背後から斬り付けた。
「な、何が……?」
「……墜ちろ」
背中にダメージを受けた早苗を命蓮は容赦なく蹴り飛ばし、早苗は海面へ真っ逆さまに落ちていく。
「キャアアッァァーーーーッ!?」
「「早苗(姉ちゃん)!」」
落下する早苗を追いかけ、一夏と魔理沙は間一髪の所で早苗をキャッチする事に成功する。
「大丈夫か!?」
「うぅ……な、何とか、生きてるけど」
「喋ってる場合か!また来るぞ!!」
魔理沙の言葉に一夏と早苗は慌てて周囲を見回す。
魔理沙の言葉通り命蓮は凄まじい速度で水上を滑空して一夏達に迫ろうとしていた。
「クソッ!」
回避が間に合わないと考えるや否や、魔理沙は一夏達を蹴飛ばし、その反動で自分も後方へと移動して間一髪で命蓮の攻撃を回避した。
「は、速ぇ……このスピードは、文以上だ!」
嘗て無い超スピードに一夏は戦慄を隠す事が出来ない。
命蓮が真上を通った海面は大きく裂け、その様はまるで水で出来たクレバスを思い浮かばせるものだ。
もしも魔理沙の機転が無ければ、自分達がこうなっていたのではないかという思いが嫌でも湧きあがってくる。
「弾幕だ!広範囲に弾幕を張るんだ!!」
一足速く正気を取り戻した魔理沙の怒鳴り声が響く。
その言葉に一夏と早苗も我を取り戻し、即座に指示通りに弾幕を張る。
ISの装備は勿論、今回に限って言えば魔力・霊力弾も織り交ぜ、三人がかりで全方位に弾幕を張り巡らせる。
「…………無駄だ」
しかし、その高密度の弾幕の中であっても命蓮は無表情を崩さない。
迫る弾幕にブーメランを構え、自身に襲い来る弾を次々と斬り捨てていく。
「来た!上からだ!!」
だが、結果としてそれが幸いし、掻き消された弾幕から命蓮の動く軌道を知る事が出来た。
「そこだ!!」
接近する命蓮に対し、一夏は聳狐角を展開してカウンターを狙う。
「っ!!」
だが、直後に命蓮は全身を発光させ、更にそこから目にも留まらぬ速さで急加速。
そのまま一夏とすれ違うように駆け抜け、二つの刃が交差した。
「っ!?」
「うぐぁっ!!」
すれ違い、再び距離が出来た一夏と命蓮。
両者共に刃が相手に命中し、それぞれが呻き声を上げる。
命蓮はブーメランを持った右腕を左手で押さえている。
SEと絶対防御の影響、そして攻撃の入りが少し浅かった事もあり、外傷は特に見られないが命蓮の様子から察するに、右腕を痛めたのは間違いないだろう。
「一夏君!?」
「ぜ、絶対防御が……!?」
一方、一夏は胸元を手で押さえ、顔から大量の汗を流しながら苦悶の表情を浮かべる。
押さえられた胸からは薄っすらと血が滲んでいる。
先程早苗が受けたものよりも鋭く、そして強烈な一撃は、絶対防御とSEを突き抜け、一夏の肉体にダメージを与えたのだ。
それが機体の能力故か、はたまた命蓮の攻撃がそれ程までに凄いのか……。
どちらにせよ一夏達にとって戦況をより悪くする最悪の情報だと言う事に変わりは無い。
「つ、強すぎる……」
圧倒的なスピード、そしてそれに見合う攻撃力……その二つを併せ持つ嘗てない強敵に、早苗の呟きは一夏と魔理沙の思いも代弁していた。
「…………一夏、早苗」
不意に、魔理沙が口を開く。
その様子はいつもと違い、とても真剣で、そして何かの覚悟に満ちていた。
「私に考えがある……しばらく時間を稼いで、それとアイツを上手く引き付けてくれないか?
……かなりヤバイ賭けだけどな」
引き攣った笑みを浮かべる魔理沙。
果たして、魔理沙の策とは?そしてそれは命蓮に通用するのか……?