東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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23日から13連休で実家に帰省するため、急いで書き上げました。

ちょっと早いですが皆さん、良いGWを!!


悪夢の死闘劇(前編)

「あ…うぅ……」

 

 ハワイ沖、海上の小島の岸に打ち上げられたアメリカ軍の軍人……本来、福音のパイロットになるはずだった女性、ナターシャ・ファイルス。

全身がボロボロになりながらも、彼女はISスーツに備え付けられた緊急用の小型通信機を起動させる。

 

「き、基地本部……こちら、ナターシャ・ファイルスより、緊急報告。

福音追跡部隊……わ、私を、除き…………全、滅」

 

 息も絶え絶えになんとか報告を言い終え、ナターシャは意識を失った。

自分を打ちのめし、仲間の命を瞬く間に奪った男の記憶に怯えながら。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 福音との戦いは事のほか順調に進んでいた。

途中密漁船が戦闘圏内に進入するというアクシデントはあったものの、早苗の乗る非想天則のオンバシラによる防御で船は上手く守られつつ安全圏へと移動させて事なきを得た。

福音に関しても一夏と魔理沙の二人掛りでは大した脅威にはならず、今や撃墜も時間の問題だった……。

 

「これで、最後だッ!」

 

 一夏による渾身の一撃が福音へ打ち込まれ、福音はボロボロの状態になりながら海面へとまっ逆さまに墜ちていく。

 

『!!?!!?!?!』

 

 海面に叩き付けられたその刹那、福音から火花が走り、そのまま福音は海上で爆ぜた。

 

『よし、良くやった。後は撃墜位置をアメリカ軍に送り次第、こちらに帰還しろ。今通信コードをそちらに送る』

 

「了解!」

 

 千冬からの通信に一夏達一息吐き、安堵の表情を浮かべる。

軍用機である福音を相手にしたとはいえ、一夏達3人にはまだまだ体力的にも精神的にも余裕は十分にあった。

 

『お、織斑先生!!あ、開けてください!篠ノ之さんが……!!』

 

 だが、思わぬ事態は誰もが予期し得ない場所からやってくる。

箒と同室の少女・布仏本音が司令室の扉を叩き、篠ノ之箒の異変を知らせた、その時に……。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 千冬達司令室の面々は思わぬ来訪者の出現に色めき立つ。

部屋からの出入り禁止令を出しながら、加えて本音の慌て様はただ事ではないのは容易に理解できるものだった。

 

「布仏、篠ノ之がどうしたんだ!?」

 

「い、居なくなったんです。

皆、いつの間にか倒れてて、気が付いたら篠ノ之さんが居なくなってて……」

 

「何だと!?……くそッ!」

 

 本音からの報告に千冬は懐から携帯を取り出し、旅館近辺に待機中の白蓮へ電話をかける。

 

「……白蓮さん、千冬です!生徒の一人が行方を眩ませた!

そちらにも捜索の協力を頼みたい!

ああ、名目は私個人による依頼で構わない。すぐに……『無駄だよ』…!?」

 

 白蓮に対し、協力を要請しようとする中、不意に聞き覚えのある声が割り込んでくる。

 

「た、束……」

 

「箒ちゃんなら、もう行っちゃったよ。紅椿に乗っていっくんの所にね……。

まぁ、束さんが行かせてあげたんだけど」

 

 束の言葉に周囲が騒然となる。

箒は専用機受け取りを拒否していたにも拘らずそれを使って一夏の下へ向かった。

一体どんな手を使って箒を心変わりさせたのか……誰も見当がつかない。

 

「束……お前、箒に何をした!?」

 

「んー?教えてあげてもいいけど……」

 

 ニヤニヤと笑いながら束は広間の扉へ目を向ける。

それとほぼ同時に足音と共に白蓮、一輪、布都の三人が駆け込んできた。

 

「千冬さん、一体何が!?」

 

「おぉー、早いねぇ。さてと、これで観客は全員揃った訳だし、始めようか。

盛大な秘密暴露タイムをね」

 

「っ!?」

 

 この時、千冬が見た束の顔は、今までに見た事が無い程、邪悪な笑みを浮かべていた。

 

「た、束……お前、一体何を……」

 

「教えてあげたんだよ。箒ちゃんに、真実をね」

 

「真、実……」

 

 千冬の脳裏に最悪の考えが過ぎる。

あれだけ頑なだった箒を一気に心変わりさせてしまう事実に心当たりがあったからだ。

 

「お、お前……まさか……」

 

 声が震える。それだけはやめてくれと言わんばかりに千冬の顔が青褪めていく。

 

「その、ま・さ・か♪どうだったちーちゃん、いっくんのお味は?」

 

「っ!!」

 

 図星を突かれた千冬の顔が絶望に染まる。

そしてそれに呼応して周囲のざわめきも大きくなる。

 

「え、何?い、一夏の味って……」

 

 思わず口を挟んでしまったのは鈴音だった。

かつては一夏に思いを寄せた彼女にとって、束の言葉は今まで謎だったある疑問に最悪の答えを出すものだったからだ。

 

「あ、意外と察しが良いね。

その通り!実はいっくんとちーちゃんは……」

 

 口の端を吊り上げて、束は手に持ったディスプレイを起動させ、音量を全開にして祖の映像を映し出した。

 

「なぁ!?」

 

「えぇっ!?」

 

「嘘!?」

 

「こ、これは……!?」

 

「あ、あわわ……!」

 

「い、一夏の…一夏の彼女って……!?」

 

 弾が、セシリアが、簪が、真耶が、ラウラが、そして鈴音が目を見開いて驚きの声をあげる。

映し出された映像、それは数分前に束が箒に見せた一夏と千冬の情事の光景だった。

 

「そう!実は二人は禁断の近親相姦だったのです!!」

 

 まるでイベントの司会者が行う重大発表のように大げさな身振りで答える束。

しかしそれが気にならない程にセシリア達の動揺は大きく、全員が硬直したように動けずにいた。

 

「それじゃあ、次の真実……これは説明するの面倒だから」

 

 そこまで言った直後、束の目が突如として金色に光りだす。

 

「ッ!(ま、魔力!?)……み、皆ココから離れ『必要ないよ』」

 

 束の体から魔力を感じ、千冬は急速に理性を取り戻してセシリア達に逃げるように促そうとするが、それも虚しく束の体から魔力の光が放たれる。

 

『―――――っ!!?』

 

 成す術無く光を浴びた千冬達。

直後に頭の中に多大な量の情報が流れ込んでくる。

 

幻想郷、妖怪、魔法、霊力、それらは全て河城重工の者達が隠し続けてきた事実の数々。

そして先のクラス対抗戦とラウラの暴走事件、この二つの事件に使われた無人機とハッキングシステムのデータの詳細。

それらが事細かに、そして鮮明に脳内に直接刻み付けるように送り込まれたのだ。

 

「な、何だよ?これ……」

 

「げ、幻想郷?……そんなのが、本当にあるっていうの?」

 

「あ、姉御達が……妖、怪?」

 

 この情報に最も混乱しているのは弾や簪を始めとした幻想郷の存在を知らない者達だ。

これまで親しくしていた者達の多くが人間ではない事を無理矢理理解させられた、それによって生じる衝撃と混乱は計り知れない。

 

「……これは、記憶写しの魔術。やはりアナタ、魔力を持っていたのね。

その上あの事件も裏で糸を引いていたなんてね。

大方妹にもこの術を使って色々と吹き込んだとって所ね」

 

「束……!貴様という奴は!!

何の関係も無い者達を巻き込んで、その上、自分の妹にまで何て事を!!」

 

 アリスが冷静に判断する中、千冬は束の所業に憤りを露にする。

 

「あれぇ〜〜?そこの試験管から生まれたおチビちゃんはともかく、箒ちゃんの事はちーちゃんが撒いた種でしょ?」

 

「結果が分かっていながら自分の妹をどん底に落とした奴が何を!」

 

 まるで悪びれる様子の無い束に千冬の顔色に浮かぶ怒りの色が増す。

 

「ふ〜ん、生徒のために怒り心頭ってヤツ?しばらく会わない内にすっかり先生らしくなったねぇ〜。

でも、そろそろ束さん以外を見た方が良いんじゃないの?…………いっくんの方とか」

 

「何?」

 

 束の言葉に千冬は一夏達の姿を映すモニターに振り向く。

そして通信越しに会話を聞いていた一夏達もそれに反応し、周囲を見回して警戒心を強めた。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「っ!…………何だ?何か来る!?」

 

 通信越しに聞こえた束の言葉により、周囲を警戒する中、不意に魔理沙が何かに気づく。

だが、その時……

 

『――――――!!!!』

 

 一瞬、僅か一瞬の出来事だった。

閃光の様な“何か”が一夏達の間を通り過ぎ、直後に一夏達の戦闘を中継していた人形型ビット『蓬莱』が突如として声にならない機械音を立て、真っ二つに分断された。

 

「な……」

 

「何だよ?今のは……」

 

「み、見えなかった……?俺の目にも、ISのセンサーにも、まるで……!?」

 

 驚愕から一夏達は身動きも取れず、ただ呆然とその人物を見る。

その身体には純白のISを身に纏い、手には巨大なブーメランの様な刃物をもった男だった。

そして最も目を引くのは金髪に紫のグラデーションが掛かったその髪だ。

 

「……………………」

 

 やがて背を向けていた男は、静かに振り返り、一夏達にその素顔を見せる。

 

「こ、コイツは……この顔は……!?」

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 時間を僅かに戻し、旅館の広間にて……

 

「あ……あぁぁっ…………!!」

 

 中継映像が途切れるその刹那、蓬莱に搭載されていたカメラは、男の顔を確かに移していた。

そしてその顔を見たある人物が、声と身体を震わせ、その場で膝を突いて座り込む。

 

「何で……何で……!?どうしてアナタが…………」

 

 その女性、聖白蓮は悲鳴に似た声を上げながら悲壮の表情を浮かべる。

最後の一瞬に映った男の顔……それは白蓮にとって何よりも信じがたいものだったからだ。

 

「命蓮っ…………!!」

 

 かつて千年以上前に死に別れた最愛の弟、聖命蓮。

彼の姿が、其処に在った…………。

 


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