東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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遅れてしまいましたが、明けましておめでとうございます。

今年はもっと更新速度を上げたいなぁ……と思いつつ久々に更新出来ました。


海DE大騒動(後編)

「射撃武器は本当に無しでいいの?」

 

「おう!そこら辺は他の装備と俺の技でカバーできるしな。

それに、遠距離攻撃自体はこの武器でも出来るんだろ?」

 

 IS学園一年生達が臨海学校をエンジョイする中、河城重工の開発部では河童達が新たに戦力として雇い入れた高原日勝の専用SWの開発に取り掛かっていた。

既に機体の開発状況は、骨組みは完成し、残るは装甲と武装の取り付けのみとなっている。

 

「カナダのIS研究所が爆発事故か……物騒だねぇ」

 

「にとり〜!もう休憩終わりだよ〜〜」

 

「ん?分かった」

 

 仲間に呼ばれ、休憩していたにとりは読んでいた新聞を机の上に放り、作業場に戻って機体の設計図を見詰める。

 

「手足の装甲はDアーマー、腕はスーパーアームがベースかぁ……。

こういうシンプルイズベストな機体って開発も整備もしやすいのが良い所だよね。

よーし、パパっと仕上げちゃうよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。場面は再び臨海学校へと戻り、生徒達は旅館にて夕食の刺身や天ぷらなどの和食に舌鼓を打った後、就寝時間まで各々自由時間に入る。

 

「…………」

 

「…………」

 

そんな中、千冬は自分の泊まる部屋にて、一人の生徒と向き合っていた。

 

「織斑先s『今は自由時間だ。名前で呼んで構わん』……千冬さん、姉さんの事でお話があります」

 

 その生徒……先日まで妖夢や早苗達と幾度と無くトラブルを起こしてきた少女、篠ノ之箒は緊張した面持ちで千冬を見詰めながら口を開いた。

 

「……束が、どうしたんだ?」

 

「明日、来るそうです。…………私が頼んだ専用機を持ってくるために」

 

「!?…………詳しく、話してくれ」

 

 束の名と遂にその姿を見せるという事実に千冬は内心の動揺を押し殺しながら、努めて冷静に箒に尋ねた。

やがて箒は重々しく語り始める。

自分が河城重工の面々に対する憎しみに身を任せ、姉に専用機を頼んだ事、そして束が河城重工に対し、明確な敵意を抱いているという事を……。

 

実を言えば、箒はこの事を千冬に相談するかギリギリまで迷っていた。

いくら自分が撒いた種とはいえ、束に千冬達に電話の事を喋らないと約束した手前、それを破ってしまう事に箒は戸惑っていた。

しかし、早苗との殴り合い、そして一夏との対話で頭を冷やし、自分が『憎しみ』という邪な感情の赴くまま力を求めてしまった事を理解し、そこから来る罪悪感が勝り、箒は千冬に相談する事を決めたのだった。

 

「……そうか、そんな事が」

 

「はい。正直言って、今でも専用機が欲しいという気持ちは少しだけ残ってます。

だけど、私にはそんな物を得る資格は無いし、もし手に入れたらまた前みたいになってしまう気がして……凄く怖いんです。

……私は、どうすれば良いんでしょうか?」

 

 束と専用機の情報を語り、箒は俯きながら自分の心中を漏らす。

その問いに対して、千冬は暫し目を伏せて考え込み、やがて静かに目を開いて箒を真っ直ぐ見詰めて口を開いた。

 

「私個人の意見になるが、お前の立場を考えれば自衛の意味でも専用機は必要だろう。

嫌かもしれないが、お前は束の妹だ。

それも束が情を向ける数少ない存在となれば、人質にしようとする輩の存在も決して否定は出来ない。

そういう連中から身を守るためにも、ある程度それに対応できる力と武器を持っておく必要はある。

勿論、お前の言う通り、お前が専用機を得るのは時期尚早とも思うが、それを自覚しているのなら、特に言う事は無い。

明日までまだ時間は有る。じっくり考えて決めろ。

仮に専用機を得るとしても、その専用機に相応しくなれるよう、努力すれば良い。今のお前なら一夏達だって力を貸してくれるだろう」

 

「はい。……ありがとうございます」

 

 千冬の言葉に、自分はまだやり直せるという希望を感じ、箒は顔に安堵の色を浮かばせて千冬に頭を下げる。

そしてそのまま箒は部屋を去ろうとするが……。

 

「あ、箒……ちょっと待ってくれ」

 

 去ろうとする箒を千冬は呼び止め、戸惑うような表情を浮かべて箒を見る。

 

「……どうかしましたか?」

 

「その……一夏の恋人の件なんだが……」

 

「っ!」

 

 千冬の言葉に箒は絶句して目を見開く。

一夏の恋人……その存在は箒にとって、かつて自分を絶望の淵に叩き落し、ただでさえ酷かった自分の気性をより一層酷くした原因の一端とも言える存在である(残りは自分の視野の狭さと器の小ささだが……)。

勿論今でもその正体は気になるし、恨みが全く無いといえば嘘になる。

だが、少しは頭も冷えた今、以前のように絶対に叩き潰してやろうなどという物騒な考えは鳴りを潜めている。

 

「……教えてくれるんですか?」

 

「……お前が、望むならな。

少なくとも、お前には……知る権利はあるかもしれないから……」

 

 千冬は内心葛藤していた。

一夏の恋人……つまり自分の正体を明かせば、確実に箒から恨まれ得るし軽蔑もされるだろう。

だが、今までひた隠しにしてきたがために箒を追い詰め、数々の暴挙に走らせてしまったのも事実だ。

 

それはつまり、自分が間接的に箒を追い詰めた事に他ならない。

 

ならば、たとえ恨まれるにせよ、自分ひとりだけ恨まれている方がまだ良いのではないか?

ここで全てを話して後腐れを無くしてしまった方が却って彼女のためになるのではないのか?

そう考え、千冬はこの際自分と一夏が近親相姦の関係にある事を白状するのも一つの選択だと思っていた。

 

そんな千冬の言葉に、当の箒は……

 

「……いえ、今はまだ、知らなくて良いです」

 

 少し考え込んだ末、箒が選んだ答えは断る事だった。

 

「正直、そいつの正体は今でも気になってるし、恨み言を言ってやりたい気持ちもあります。

けど、今知ったらまた私は感情をコントロールできずに暴走してしまう気がするんです。

ですから、もう暫くして、私が人並みに落ち着きを取り戻すことが出来たら、その時に改めて教えてください」

 

「ああ……分かった」

 

 再び箒は千冬に頭を下げる。

そんな箒の態度に、千冬は心が痛むのを感じながらも、それ以上の言葉は発せず、静かに箒を見送ったのだった。

 

「私は、最低だな……箒、ごめん……本当に、ごめん……っ!」

 

 そして箒が去った後、千冬は声を押し殺して嗚咽を漏らす。

結果的にとはいえ、彼女の心を未だに踏み躙り続けてしまっている罪悪感に心を痛めながら。

 

 

 

 

 

「千冬姉……」

 

 そしてそんな千冬の姿を一夏は密かに見守っていた。

元々は窓から入って千冬と一晩明かそうと考えていたのだが、箒との会話を盗み見て千冬が罪の意識に泣く姿に、一夏は部屋に飛び込んで千冬を抱きしめたくなる衝動を必死に抑える。

 

ここで千冬を慰めるのは簡単だ。

だが、事の原因の一つでもある自分がそれをすれば千冬は自分を許せなくなってしまうだろう。

そう考えながら、一夏は屋根の上に腰を下ろし、千冬が落ち着くまでじっと見守り続ける。

千冬が気持ちを整理し終えた時、しっかりと彼女の身と心を抱きしめるために……。

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 

「束様、ただいま戻りました」

 

 束の所有する移動式ラボの中で、クロエはノエルを伴ってその姿を現す。

 

「ご苦労様。で、成果は?」

 

「問題なく完了しています」

 

 束はクロエ達に目を向けずに返し、クロエはそれに淡々と応える。

ノエルはというと、自分の出る幕は無いとばかりに壁に寄りかかって懐からガムを取り出してそれを口にしている。

 

「そう。それじゃ明日は結構大きいイベントになるから二人とももう寝て良いよ」

 

 そう言って束は再び目の前にある一機のISの最終調整に再び取り掛かる。

 

「もうすぐ会えるね。ちーちゃん、箒ちゃん。

……ちーちゃん、私の事を裏切ってないか見極めさせてもらうよ。

もし、裏切るって言うなら……」

 

 眼前のIS、そして端末に繋いでいるUSB……正確にはその中に保存された画像を見て目を細める。

 

「幻想郷なんかに味方するなら、容赦はしないから……!」

 

 

 




次回予告

臨海学校も二日目に入り、課外授業として専用機持ち達による演習が開始される事となる。
そして遂に現れる天災・篠ノ之束。
彼女から差し出された専用機『紅椿』を前に、箒が出した結論は……?

次回「力を持つ資格」

箒「身勝手な事を言っているのは重々理解してるつもりです」

?「この国も随分とハイカラになったのぉ!」





人物紹介

高原日勝(たかはら まさる)

流浪の格闘家。44歳。
魔王オディオを倒した英雄の一人。
あらゆる格闘技の技を操る格闘技の達人。

かつて格闘家の名を借りた殺戮を繰り返す破戒僧、オディ・オブライトを倒し、世界最強の座に着いた後、格闘技界の王者として君臨していたものの、まだ見ぬ強敵と新たな好敵手を求め、数年後にその地位を返上し、世界中を旅する流浪の旅を続けている。

歳は取ったものの、その強さは未だ健在。
尚且つ技は更に磨きがかかり、その戦闘力は勇儀と素手のタイマンが張れる程である。

長らく行方を眩ませていたが、河城重工で教官を勤める勇儀と萃香の噂を聞きつけて道場破りに来た所、戦友のアキラと再会し、八雲紫直々にスカウトされ、戦闘員として河城重工に所属する事になる。
(立ち位置的には傭兵に近い形である)

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