東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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長々とお待たせして申し訳ございません。

8月はコミケやら職場の部署異動やらでバタバタしてしまい、書く気力が沸かず……本当にすいません。



外道少女と人造少女

 一夏達がそれぞれの休日を満喫する頃、某所に建造された研究所の中では……

 

 

 

「まだ魔力の流れにムラがあります。コレで何度目ですか?」

 

「うるさいわね!そんな事ぐらい自分でも分かってんのよ!!」

 

 呆れた口調で指摘する少女……『くー』ことクロエ・クロニクル。

彼女の指摘に対して金髪の少女……ノエル・デュノアは声を荒げて返答する。

 

先のフランスにおけるデュノア社襲撃と壊滅事件の際、束とクロエに拾われたノエルはクロエ指導の下、魔力の扱いを叩き込まれていた。

 

「くーちゃーん!悪いけど後でアレ(ノエル)と一緒に食材の買出しに行ってくれる?」

 

「了解しました。

ノエル、訓練は中断です。行きますよ」

 

(あのイカレ女……またかよ!)

 

 束からは様々な雑務を押し付けられており、しかも束はノエルの事を名前ではなく『アレ』と呼んでほぼ道具扱いだ。

ぶっちゃけノエルの魔力が乱れる原因の半分は束にあったりする。

 

(こっちに来て早々変な薬を注射されるし(これといった異常は無かったから良いけど……)、こんな無表情の人形女に息が詰まりそうな雰囲気で指導されて、挙句の果てには雑用って……。

いつか私が天下取った日にはコイツら絶対奴隷以下にしてやる……!)

 

 復讐心を密かに募らせながら、ノエルはクロエの後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本 中国地方のとある繁華街

とある方法で日本へ上陸した二人は人目につかない場所で準備を整える。

 

「それじゃ、お金は渡しましたから。買う物を買って、後でココで落ち合いましょう」

 

「それは良いけどさ、こんなに金必要?」

 

 財布の中身を見ながらノエルは呆れた表情でぼやく。

その中には実に数十万分の札束が入っている。元々大量に食料を買う予定があるにしてもこれは多すぎる。

というか、コレだけの金をどこから調達してきたのか甚だ疑問だ。

 

「さぁ?……束様は余った分は好きに使って良いと言ってましたので、それで良いのでは?」

 

 クロエの方はあまり興味が無いようで、無表情で準備を進める。

 

「それじゃ、私は行きます。また夕方にココで……」

 

「フン……」

 

 去っていくクロエの背を眺め、ノエルは鼻息を鳴らしてから自分もまた買出しへと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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「はむっ……ん〜〜、やっぱたこ焼きは最高ね♪

始めはムカついたけど、買出しに出て正解だったわ」

 

 それから約一時間後、買出しを早々に終えたノエルは残りの金(かなり大金)で買い食いを楽しんでいた。

日本文化に造詣が深い彼女にとって、たい焼きやたこ焼きを始めとした好物のジャンクフードに舌鼓を打っていた。

元々フランス在住の上に母の目もあった為(クローデット曰く『高貴な身分の自分達は下等な貧乏人の猿のジャンクフードなど食すべきではない』という理由でジャンクフードは禁止されていた)、めったに味わえない食べ物なので、結果的ではあるがそれを手に入れ、ノエルは上機嫌だった。

 

「あの糞ババア(クローデット)ってば本当見る目無いわね。

値段でしか食べ物の価値を見出せてない馬鹿が食を語るなっての」

 

 ノエルは生まれてこの方、母であるクローデットに愛情を感じた事など全く無かった。

そしてそれは『母親として』という意味で言えば自覚の有無は違えどクローデットも同様だったかもしれない。

幼い頃からノエルはクローデットに様々な英才教育を強いられてきた。

教養から軍事に至るまであらゆる分野を学び、そして常に優秀な成績を求められ続けた。

そしてクローデットの求める結果を出した際に必ず出て来る褒め言葉は決まってこの一言……

 

 

  『さすが私の娘よ』

 

 

 中学に入学した頃、ノエルは何となく理解した。

母であるクローデットは自分のことなど全く見ていない。

良い点数を取れば自分の娘だから当然だと言い、期待に応えられなければ父の若い頃の成績や実績と比較してヒステリックに怒鳴り散らす。

クローデットにとって自分は、自身の名声を上げるためのアクセサリーでしかないのだと。

 

 悲しみは沸かなかった。

元々母に愛情なんて持ってなかったし、寧ろ無能の癖に自分を装飾品にしているクローデットに対する怒りと屈辱が強かった。

 

父親であるセドリックに関しては、自分の事を血の繋がりに関係なく娘として見ようとしていたが、プライドの高いノエルにとって彼は目の上の瘤としてしか見れなかった。

 

「チッ……嫌な事、思い出したわ。…………ん?」

 

 母を思い出し、一瞬表情を顰めるノエルだが、直後にある人物を目にする。

 

「クロエ……まだ買い物終わってないの?」

 

 メモ用紙を手に周囲をキョロキョロと見回しているクロエの姿にノエルは呆れ顔で近付く。

 

「アンタ私より買うもの少ないのにまだ時間掛かってるわけ?」

 

「すいません……私、こういうの苦手で……。

正直、どこで何を売ってるのかよく解らないんです」

 

「はぁ……ちょっとメモ貸して」

 

 申し訳無さそうに俯くクロエにノエルはため息を吐き、メモを受け取って残りの買い物を確認する。

 

「これなら、そこの店(スーパー)で大体買えるわ。

場所は店員に聞けばすぐ分かるから、さっさと買ってきなさい。

それぐらいアンタのお粗末な頭でも出来るでしょ?」

 

「……助かります」

 

 的確に指示をこなすノエルに、クロエは一瞬意外そうな表情を見せつつも、やがて頭を下げて店へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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「お待たせしました。漸く終わりましたよ」

 

 ノエルの指示もあり、クロエは無事に買い物を終え、ノエルと再び合流した。

 

「遅すぎよ。買い物ぐらいまともに出来るようになれ間抜け。……はむっ」

 

「…………」

 

 手に持ったたい焼きを齧りながら文句を垂れるノエル。

そんなノエルに対し、クロエの視線はある一点に釘付けになる。

 

「…………な、何よジロジロ見て」

 

「……………………………い、いえ何も」

 

 明らかに挙動不審なクロエ。

彼女の視線の先に写る物は、たい焼きである。

 

「食べたいなら食べたいって素直に言え!たい焼きの2〜3個ぐらい言えばあげるわよ!

ホラ、コレあげるからその鬱陶しい視線をどうにかしなさい」

 

「す、すいません。…………はむっ。

〜〜〜〜〜〜〜〜っ!……美味しいです」

 

 差し出されたたい焼きを頬張り満足そうに笑顔を浮かべるクロエ。

そんなクロエにノエルは呆れ顔だ。

 

「アンタ腹ペコキャラだったっけ?」

 

「ノエルの作るご飯が美味しい所為です。お陰で私は食欲に目覚めました」

 

 ちなみに、クロエの言葉に嘘は全く無い。

何故ならクロエと束は料理が出来ない。

クロエの場合、料理など碌に知らずに生きてきたため、知識も技術も不足している。

束は練習すればすぐに覚えられるかもしれないが、そもそも覚える気自体が全く無いので意味が無いのだ。

 

「そ、そりゃどうも。……ん?」

 

 自分に合うまで食に関心の無かったクロエを若干気の毒に思いつつ、ノエルは自分に近付く人影に気が付いた。

 

「ねぇ、そこの金髪の娘ちょっと良いかしら?」

 

「あ?」

 

 近付いてきたのは柄の悪そうな女だった。

所謂不良かチンピラの類だろうか、ノエルとクロエを見ながらニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。

 

「随分羽振りが良さそうじゃない?実はさぁ、私今お金無くて困ってんの。

だから恵んでくr「消えろ雌豚」……は?」

 

 チンピラ女が言い終わる前にノエルは口を開いてそれを遮る。

 

「聞こえなかった?消えろって言ったのよ。

大体さぁ、雌豚の分際で人間様相手に何のたまってんの?」

 

「て、テメェェ!!」

 

「フン……!」

 

 豚呼ばわりされて逆上し、遅いかかって来るチンピラ女だが、ノエルはその攻撃を難無く避けてチンピラ女の顔面に膝蹴りを叩き込んでその鼻をへし折った!

 

「ガァアアアッ!!」

 

「まったく……この国はいつから動物が喋れるようになった訳?メス豚は豚小屋で残飯でも食ってろブスが!」

 

「ギャアアアアっ!!」

 

 鼻を押さえて蹲るチンピラ女の顔面をノエルは容赦なく掴み、そのままコンクリートの地面に何度も叩きつける。

 

「や、やべ、…て………ゆるじ、て…………」

 

 無様に命乞いをするチンピラ女。

その様子にノエルは目付きをより一層鋭く、そして冷たいものに変える。

 

「虫唾が走んのよ、アンタ。能無しの癖して偉そうにして……あの糞ババアみたいでさぁ!!」

 

 嫌な思い出に表情を歪めながら、ノエルは感情の向くまま倒れているチンピラ女の胸板を踏みつける。

 

「グエェェッ!!」

 

 『ベキッ』という音が幾重に重なって鳴り響く。

それと同時にノエルは足の裏にチンピラ女のあばら骨をへし折った手応えを感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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「まったくもう……変な騒ぎ起こさないでくださいよ。逃げるのも結構面倒なんですよ」

 

「良いじゃない別に。どうせ世界中から追われる身よ、私達は」

 

「はぁ……もう良いです。どっち道買い物は済ませられましたからね」

 

 チンピラを再起不能にした後、二人は周囲の人間が騒ぎ立てた事でその場を離れ、そのまま野次馬を撒いて束のラボへの帰路に着く。

 

「ところでノエル、今日の献立は?」

 

「アンタねぇ……たい焼き食ったすぐ後だってのに、もう晩飯の事考えてんの?」

 

「仕方ないじゃないですか!ノエルの作るご飯が美味しい所為です!!」

 

 腹ペコキャラが板に付き始めたクロエに呆れるノエル。

対してクロエは頬を赤く染めて抗議する。

 

「…………ありがと」

 

 自分の料理を何だかんだ言いつつも賞賛するクロエの言葉に、ノエルは小声で返答した。

 

(……『ありがとう』か、らしくないわね。たかが料理褒めてもらったぐらいで)

 

 自分の言葉にノエルは内心自嘲する。

思えば家柄や立場などのしがらみ無しで褒められたのはこれが初めてかもしれない。

それでこんな言葉が出てしまったのだろうとノエルは自分にそう言い聞かせたのだった。

 

(まぁ、今はコイツらの機嫌取っておいて損は無いし、今日は美味いもの作ってやろうかな?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、コレが件の調査結果です」

 

「ありがとうございます」

 

 同時刻、IS学園の武術部の部室では、美鈴が文から一通の書類を受け取っていた。

調査の内容は先のエキシビションマッチで習っていないはずの技を繰り出した鈴音に関してだ。

あの後美鈴は鈴音に技の事を聞いてみたが、返ってきた答えは『昔拳法をやっていた祖父の動きにアレンジを加えた』というものだった。

その話を聞いた時、美鈴の脳裏にある予感が走った。

 

「こ、これは……!?」

 

 受け取った資料に目を通し、美鈴は目を見開いて動揺を露にする。

 

「あらあら……これはまた、奇妙な縁ね。ココまで来れば運命とも言えるわ」

 

 横から資料を除き見ながら彼女の主であるレミリアが呟く。

 

「まさか、鈴音さんが、お師匠様の……」

 

 気が付けば美鈴の目には涙が浮かび始めていた。

資料に書かれたある項目……彼女の家系図の書かれた鈴音の先祖の名前、

……その名はレイ・クウゴ。かつての美鈴の師匠である心山拳師範だった。

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

臨海学校も遂に目前。
その前にやるべき事がある者、それが出来た者はそれを成す。
臨海学校はあともうすぐだ。

次回『それぞれの役目』

勇儀「嬉しいねぇ。最近は本当に嬉しい事だらけだ」

紫「アナタを、雇いたいの」

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