東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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お知らせ
『シャルロットの一日』の会話シーンを一部修正。
IS学園に派遣される人物をアキラ一人に変更しました。


出生の謎

「ふぁ……ヤベ、寝落ちしてたか」

 

 ラブホテルの一室、そのベッドの上で一夏は目を覚ます。

 

「4時半か、丁度良い頃合いだな。

千冬姉、起きて。そろそろ出る準備しないと」

 

 時間を確認し、一夏は隣で寝息を立てている千冬を揺さぶって起こす。

 

「んーー、あと5分……」

 

「…………何てベタな。仕方ないなぁ」

 

 ベたな寝惚け方に一夏は呆れ顔になりつつも、直後にニヤリと笑い、千冬の上半身を抱き起こし……。

 

「んっ…んむぅーーーーーーっ!?」

 

 そのまま超濃厚なディープキスをかましたのだった。

 

「ぷはぁっ……い、一夏ぁ?」

 

「おはよう、千冬姉。そろそろ時間だから、準備しないと」

 

「ん……分かった。

あの、あと出来れば……」

 

 一夏の言葉に頷きながら、千冬はもじもじと身を捩じらせながら上目遣いで一夏を見詰める。

 

「分かってるって。寮に戻ったらまた、ね」

 

「///」

 

 千冬の様子に一夏は不適に笑い、そのまま千冬を抱き寄せて耳元で呟いた。

 

 

 

 

 

 数分後、二人は身支度と変装を整え、ホテルをチェックアウトして繁華街を並んで歩く。

少し前までラブホで合体していたため勘違いしてしまうかもしれないが、二人はデートの真っ最中なのである。

 

「こういう所は、殆ど来た事が無いが……何か、思ったより悪くないな」

 

「デートの定番、だからね。……あ、ミスった」

 

「こっちもだ……。意外と難しいな」

 

 ゲームセンターにて、音ゲーに興じながら雑談する一夏と千冬。

特に千冬の場合、十代の頃はIS関係の仕事や活動に明け暮れていたため、遊ぶ時間など殆ど無く、今回のように羽目を外して遊びに興じるというのは本当に久しぶりだ。

 

「何というか、自分が寂しい青春時代を送ってきたと実感してしまうな。

ISばかりにかまけていて、遊びなんて碌に経験してなかったから、ずっと心にゆとりが無いままで……」

 

「それはこれから、作っていけば良いよ。人生まだまだ先は長いんだから。

それにさ、将来子供と一緒に遊びに出掛ける事だって出来るし」

 

「こ、子供って……何真顔でとんでもない事を。

き、気が早すぎるぞ///…………………あ!またミスった!?」

 

 平然と凄い事を言ってのける一夏に千冬は思いっきり動揺してしまい、それがゲーム画面にミスという形で表れる。

 

「へへ、コレで俺の勝ち♪」

 

「くっ……せこい真似を」

 

 画面に表示される1P(一夏)の勝利に千冬は顔を引き攣らせる。

 

「でも、子供作るって部分は、本気だから」

 

「……だ、だからそういう事を真顔で言うな。

………………母親か。そういえば、丁度一年前だったな。あの事をお前に話したのは」

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 それは一年程前、永夜異変を解決してから千冬が寺子屋で働き始めるまでの間の出来事である。

 

 

 

『……アナタは素晴らしい才能を持っているわ』

 

 

『どうして?今まではコレと同じ方法で力を引き出せたのに!?』

 

 

『今の技術力じゃどうにもならないというの?』

 

 

『ダメなお母さんで、ごめんね…………一夏』

 

 

 

 白衣を着たその女性の声が優しく自分に語り掛けてくる。

その暖かく、母性に溢れた姿と声に一夏は千冬に感じるものとは違う種類の安らぎを感じる。

会った事はおろか、見た事も無い筈の人物なのに、まるでずっと前から彼女の事を知っているような気がする……。

 

 

 

 

 

「また、あの夢か……」

 

 まどろみから目覚め、一夏は窓の外の景色と時計を見比べる。

時間はまだ午前4時、隣にいる千冬はまだ寝息を立てている。

一夏が千冬と再会し、幻想郷で共に暮らし始める少し前から見るようになった夢だ……。

 

「本当に、あの人が……俺の、母さん……なのか?」

 

 この夢を見るようになってからというもの、今まで気にも留めていなかった母親という存在に一夏は強い興味を惹かれるようになった。

それと同時に、自分の中にある異常な部分を徐々にではあるがハッキリと自覚し始めた。

そして、それが確かな疑念へと変わった時、一夏は……。

 

 

 

 

 

「千冬姉、聞きたいことがある。

俺の……いや、俺達の親って、どんな人達だったんだ?」

 

「っ!?」

 

 その日の朝、一夏は遂に千冬に対してその疑問をぶつけた。

それに対し、千冬は『親』という単語に強く反応し、やがて一夏から目を逸らすように背を向ける。

 

「私の家族は、お前一人だけだ」

 

「答えになってねぇよ」

 

 搾り出すようにして出した千冬の言葉を一夏は一蹴する。

一夏はそんな曖昧な言葉ではなく、もっとハッキリとした答えを求めているのだ。

 

「最近、夢を見るんだ。

白衣の女の人が、俺に語りかけてくる夢でさ、その人はハッキリ自分の事を母親だって言ってた。それに、今の技術力がどうこうとも言ってたよ……。

その技術ってさ、俺が小学生より前の記憶が無い事に何か関係があるんじゃないのか?

だっておかしいだろ?小学生より前って言ったって普通は少しぐらい記憶があったって良い筈なのに!

なぁ、教えてくれよ!俺たちの親は……」

 

「やめろぉっ!!」

 

 千冬の叫び声が一夏の言葉を強引に遮る。

千冬は震えていた。怒りとも怯えとも取れる表情で唇を震わせ、目元には僅かに涙も浮かべている。

 

「あんな……あんな奴の事なんて言いたくない!思い出したくもない!!

私達を捨てたあんな女の事なんか!!」

 

「あの女って、母親だけ?父親の事は知らないの?」

 

「っ!」

 

 激昂する千冬に一夏は冷静に返し、千冬を真っ直ぐに、そして真剣な眼差しで見詰める。

 

「千冬姉……酷な事を聞いてるかもしれないけど、教えて欲しいんだ」

 

「……………………聞いても、胸糞が悪くなるだけかもしれないぞ。それでも良いのか?」

 

 長い沈黙の後、千冬は観念するかのように目を伏せ、先程とは打って変わって淡々とした声で一夏に問いかける。

その問いに対し、一夏は強く頷いたのだった。

 

「分かった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達の母親の名前は、織斑夏菜(おりむら かな)。

父親は知らない。私を産んだ時、母は既にシングルマザーだったからな。

 

職業については、これも良く分からない。

ただ、お前が夢で見た通り白衣を着ているのは私もたまに見た事がある。

私に対して何度か健康状態を調べるという名目で採血や検尿を行った事もあった。

尤も、医者なのか科学者かは定かではないが。

 

私が8歳の頃、突然『妊娠した』と言ってきた時は本当に驚いた。

何せ父親は居ないし、母には再婚の話など一言も出なかった。

そして本当に母のお腹は大きくなって、お前(一夏)が生まれた。

結局最後まで父親が誰かは教えてくれなかったな……」

 

「それじゃ、俺と千冬姉って……」

 

「種違い、の可能性もある……。

 

話を戻すぞ……。

お前が生まれてからも、生活は暫くは今まで通り続いた。

母は私にもお前にも優しく接してくれたし、母としての勤めも立派に果たしていた。

ただ、その頃から母の行動に妙な部分が出てきた。

時折、お前を自分の職場に連れて行く日があったんだ。私にはそんな事しなかったのにも関わらずな……。

 

そして私が中学2年に進級する直前になって、母は私達の前から姿を消した。

金だけを残して、母親同士で親友だった篠ノ之の家に私達の面倒を見るよう頼んでな……。

 

後は、前に話した通りだ。

私は束の誘いで白騎士事件を起こした。自分の境遇を呪って……いや、母親に捨てられた事に対する、ただの八つ当たりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………これが、私の知っている事の全てだ」

 

 重苦しい空気の中、千冬は暗い表情のまま俯いた。

 

「……どうしてだろうな?

あんなに優しかったのに、母親として模範的な人だったのに……。

どうして……私達を、捨てて……っ……うぅっ……!」

 

 やがて声は嗚咽へと変わり、千冬は唇を噛み締めながら肩を震わせる。

 

「もういいよ。

辛い事を思い出させて、ごめん」

 

「一夏ぁ……!」

 

 咽び泣く千冬の身体を一夏は抱きしめ、千冬は一夏の胸で泣き続ける。

 

母が何故自分たちを捨てたのか分からない。

だが、どんな理由があろうとも千冬の心に深い傷を残したのは決して変えようのない事実だ。

心から尊敬し、信頼していた母だからこそ、その悲しみは途轍もなく大きいだろう。

いつの日か、母の真意を知りたい……いや、知るべきだと、一夏は密かにそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「母親か……。私は、良い母親になれるのかな?

いや、それ以前に母親になる資格があるのか?」

 

「それは、俺達次第だよ。

綺麗事かもしれないけど、子供を立派に育てて、幸せにしてあげようって気持ちがあれば、それが親としての資格なんじゃないかな?」

 

「そう、だな……」

 

 不安げな表情になる千冬の手を優しく握りながら、一夏は微笑みかけ、千冬もそれに釣られて笑顔を浮かべたのだった。

 

「そろそろ帰ろうか?」

 

「そうだな。

あ、その前に、アレをやっていかないか?」

 

 千冬が指差した先にあるのは、カーテンのかかったボックス型の筐体だった。

 

「プリクラ?」

 

「折角久しぶりのデートだからな、記念撮影みたいな事をするのも良いだろう?」

 

「良いね。やってくか」

 

 二人はボックス内に入り、変装用の衣装(帽子・眼鏡など)を外すし、コントロールパネルを操作して撮影準備に入る。

 

『撮影準備完了しました。よろしければ撮影ボタンを押してください』

 

「一夏」

 

「何?」

 

「ん……」

 

 ごく自然な仕草で、千冬は一夏に顔を寄せ、唇を軽く突き出す。

一夏は千冬の考えを察し、撮影ボタンを押した直後に千冬を抱き寄せ、千冬の唇に口付けた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 シャッター音が鳴り、フラッシュが焚かれて数秒後、撮影完了の音声が流れ、二人の唇が離れる。

 

「永久保存ものだな、このプリクラは」

 

「そうだね」

 

 満足気に笑い合いながら二人は、プリクラを回収し、寄り添い合いながら帰路についたのだった。

 

 




次回予告

束に拾われ、彼女の下に身を寄せる女……ノエル。
日々扱き使われ、知識と力を叩き込まれる中、彼女はある人物と共に買出しに行く事になるが……。

次回『外道少女と人造少女』

ノエル「この国はいつから動物が喋れるようになった訳?メス豚は豚小屋で残飯でも食ってろブス!」



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