東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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デートと騒動

 学年別トーナメントが終了し、次に控える行事は臨海学校だ。

生徒達にとって堂々と大人数で海へ行く事が出来る絶好の機会である。

それに備えて生徒達は水着を新調すべく、生徒達は最寄のショッピングモールに挙って集まる。

勿論、今日が休日という事も相まって遊び目的も多かれ少なかれ含んでいる。

当然武術部の面々も例外ではなく……

 

 

 

モール内の映画館では……

 

『偶には先輩を立てなさいって!』

 

『最後の仕上げは、君達に任す!』

 

『っ!』

 

 スクリーンに映し出されるクライマックスシーンに、魔理沙、簪、早苗の三人は揃って手に汗を握りながらスクリーンを見詰めていた。

 

 

 

 

 

「いやぁ、凄かったなぁ!」

 

「うんうん!凄く興奮した!!」

 

「私も!ロボット物の興奮とラブロマンスの切なさがもう最高!」

 

 映画終了後、魔理沙達は興奮の残る表情で感想を言う。

尤も、魔理沙の場合は初めて見る映画そのものに対して興奮している部分が大きいが。

 

「しかし、早苗も簪も本当ロボットものが好きだよな?」

 

「うん。私ね、信じられないかもしれないけど、昔本物の巨大ロボットを見た事があるの」

 

「それ私も!…………え?」

 

 魔理沙の言葉に返答した簪に同調した早苗だが、直後に場の空気が凍りついた。

 

「そ、それ見たのってもしかして、11年前に筑波でだったりする!?」

 

「う、うん。親戚の家に遊びに行った時に外で遊んでたら、あの黒くて巨大なロボットが空を飛んで戦車や戦闘機を薙ぎ払って……。

言っても誰も信じてくれないし、メディアにも取り上げられてなかったから、夢だったんじゃないかと思ってたけど…………」

 

「わ、私と全く同じ……」

 

「?」

 

 顔に疑問符を浮かべる魔理沙をそっちのけで簪と早苗は再びヒートアップするのだった。

彼女達が件のロボットの関係者と邂逅するのは、そう遠くない未来だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてブティックでは、念願のデートを得た弾が美鈴の水着と服選びに付き合っていた。

 

「ど、どうですか?」

 

「…………」

 

 試着室で水着を着用し、頬を少し赤く染めながら姿を見せる美鈴に弾は言葉も無く目を見開く。

 

「や、やっぱり似合ってないですかね?」

 

「い、いや全然!似合い過ぎて言葉が出ないっていうか、見惚れちまったっていうか……」

 

 不安げな表情になる美鈴に、弾は顔を茹蛸のように真っ赤にして漸く言葉を出す。

まぁ、思春期真っ只中の少年にとって、美鈴の様に顔もスタイルも抜群な女性とデート、それも水着選びという眼福極まりない状況では緊張してしまうのは当たり前であるが……。

 

「そんなに似合ってますか?」

 

「そりゃもう……(興奮して危うく鼻血が出そうな程に)」

 

「じゃあ、これにします!」

 

 嬉しそうに笑う美鈴に、弾はいつだったかネットで見た『守りたい、この笑顔』という言葉の意味が何となく理解出来た気がした。

 

 

 

 

 

 

「すいませんね。私の買い物に結構時間使っちゃって」

 

「いやぁ、全然構わないっすよ(……むしろ眼福でした)」

 

 申し訳なさそうにする美鈴だが、弾は心底幸せそうな表情だ。

 

「買い物済ませたし、これからどうします?」

 

「そうっすね……昼飯食ってから、その後は映画とかどうっすか?……折角のデートだし」

 

 デートという単語を少し強調して弾は出来る限り自然な動きで美鈴の手を取った。

美鈴はそれに反応して一瞬身体を強張らせるも、抵抗する事無くそれを受け入れたのだった。

 

 

 

 

 

 初々しいやりとりの中、二人はオープンカフェへ向かい、少し遅めの昼食を取る。

そんな時だった……。

 

「アンタ、もう一遍言ってみなさいよ!」 

 

 突然皿の割れる音と共に甲高いヒステリックな声が聞こえてくる。

弾達を含む周囲の者が目を向けた先には、派手な服装をした女がテーブルに座る男に食って掛かっていた。

 

「ふざけんじゃねぇよ。何で俺が見ず知らずの女の飯代払わなきゃいけないんだ!?」

 

 男の言葉で弾達は大体の状況を理解する。

要するに騒ぎを起こしてる女は男にカフェの食事代を強請っているのだ。

ISの進出以来女尊男卑が社会に浸透して以降、その尻馬に乗る女が増える中、少数ではあるが、このような露骨な態度を公私問わず取り続ける悪質な者も出てきた。

この女はまさにその典型だろう。

河城重工の開発した男女共用スーツで、それもかなり成りを潜めたものの、それでも女尊思想を捨てきれず、悪質な行為を繰り替えす女はいる。

中には『男女共用にするなどISを汚す行為に他ならない』、『河城重工を今すぐ抹殺すべき』などと過激な思想を叫び続ける権利団体まである程だ。

 

「何よ!逆らう気!?警察に突き出すわよ!!」

 

「やってみろよ!逆にお前が捕まるだけだがな!!

大体女が上なんて時代はもう終わってんだよバ〜〜カ!!」

 

 男は嘲笑を浮かべながら、女に唾を吐きかける。

普通なら下品極まりないと白い目で見られる行為だが、相手がそれ以上に問題があるので誰もそれを咎めない。

寧ろ女に対して『ざまぁみろ』といった視線の方が強い。

だが、女はコレで終わるような利口さを持ち合わせていなかった……

 

「グ……グ……男が、私に逆らってんじゃないわよぉぉっ!!」

 

 絶叫と共に女はポケットからある物を取り出して男に飛び掛った。

 

「うわっ!?ま、待てお前それシャレに……」

 

「うがああぁぁぁ!!!!」

 

 男の言葉も耳に入らず、目を血走らせながら女は手に持ったナイフを振り回し続けるが……、

 

「こんな所で何物騒なモン出してるんですか?」

 

「ギャアアアッ!!」

 

 突如として飛び出した美鈴はナイフを振り回す女の腕を掴み、そのまま地面に組み伏せる。

 

「ハァ、ハァッ……こ、このアマぁっ!!」

 

 ナイフの恐怖から解放された男は、先ほどまでの恐怖が怒りに変換されたように表情を憤怒に歪ませ、組み伏せられる女に殴りかかろうとするが。

 

「止せよ!」

 

 しかし、振り上げられた男の腕を弾が掴み、それを止めた。

 

「な、何だよお前!?放せよ!!」

 

「こんな奴、殴る価値も無い。

それにアンタ、今こいつを殴ったら……コイツと同類になっちまうぞ」

 

「うっ……わ、分かったよ」

 

 抵抗して弾の手を振り解こうとする男に対し、弾は目付きを鋭くして睨みつける。

弾のその眼光と言葉に気圧されたのか、男は抵抗するのをやめ、手を降ろした。

 

「さて……アナタ、傷害と殺人未遂の現行犯ですね。誰か警備員と警察を呼んでください!」

 

「ち、チクショォーーーーーッ!!」

 

 押さえつけられながら女は断末魔にも似た叫びを上げる。

これから数分後、女は駆けつけた警備員に拘束され、そのまま警察に逮捕されたのだった。

ちなみに、騒動を鎮圧した弾と美鈴には周囲から拍手が送られ、店側からお礼として映画の無料券を渡されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、某所のホテルで、一夏と千冬は……

 

「早いうちに水着買っといてよかったね。凄く似合ってるよ、千冬姉」

 

「ま、まじまじと見るな。恥ずかしい……んんっ!!」

 

 買ったばかりの水着を着ながら赤面して恥らう千冬の口を、一夏は自らの唇を押し付けて塞ぎ、そのまま舌を絡ませて千冬の抵抗力を奪っていく。

 

「ごめん、目茶苦茶興奮した。っていうか、今現在進行形で興奮してる」

 

「い、一夏ぁ……早くきてぇぇ」

 

 この後目茶苦茶セックスした。…………とだけコメントしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………///」」

 

 時刻は夕暮れ。

弾と美鈴は、二人揃って顔を真っ赤にしながら劇場から出てくる。(魔理沙達とは違う時間帯なので鉢合わせすることは無かった。)

 

「す、凄かった、ですね……///」

 

「あ、ああ……」

 

 お互い土盛りながら言葉を交わす二人。

二人が見た映画は、分かり易く言えばラブロマンス物である。ただし、目茶苦茶濃厚な奴だが……。

 

「し、舌が絡み合って……あ、アレとそれが合体……」

 

(や、ヤバイ……無意識の内に映画のあの光景を美鈴さんに置き換えてしまう……)

 

 初心な二人には刺激が強かったらしく、それぞれ別の意味でおかしくなりそうな理性を必死に抑える弾と美鈴。

暫しの間沈黙が場を支配する。

 

「あ、そうだ!喉渇いてませんか?私、買って来ます!

弾さん、何か飲みたいものあります?」

 

「え?ああ、じゃあコーラで」

 

「はい!ちょっと待っててください」

 

 沈黙を破り、美鈴はそそくさと少し離れた場所にある自動販売機へと向かったのだった。

 

「……あ、俺が行きゃ良かった。

こういうのは俺が奢るもんなのに……」

 

 混乱していたとはいえ、気を回せなかったことを少し後悔しつつ、弾は何とか落ち着きを取り戻し始めた。

 

そんな時…………

 

「……お兄?」

 

「ん?…………蘭!?」

 

 不意に声を掛けられた弾の視線の先に現れる一人の少女……見間違える筈も無い。自身の妹である五反田蘭だ。

 

「お前も、来てたのか?」

 

「……うん」

 

 弾の言葉に、蘭は気まずそうに頷く。

 

無理も無い反応だと弾は思う。

以前蘭が同級生との喧嘩の際に起こした傷害事件(過失)以降、弾と実家(というよりは家長である祖父)との関係が悪化して以来、二人は碌に会話する事も出来なかった。

だが、そんな中でも弾は、通っていた学校を退学同然の形で別の中学へ転校した蘭に、何もしてやれない事を後ろめたく思っていた。

そして蘭もまた、日に日に家庭内で孤立していく弾の姿に心を痛めていた。

 

「…………元気してたか?

お袋から話しだけは聞いてたけど、今の学校上手くいってるのか?」

 

「うん。大丈夫」

 

 気まずそうにしながらも、しっかりと頷く蘭に弾は安心したように息を吐く。

それに釣られて、蘭も顔に僅かながら笑みが浮かぶ。

 

「お兄、専用機のパイロットになったんでしょ?

IS関連の雑誌に載ってたよ。代表候補の人と互角に戦ったって」

 

「マジか!?全然知らんかった……」

 

 自分がいつの間にか誌面デビューしていた事実に驚く弾に、蘭の表情は徐々に明るさが戻ってくる。

 

「でも、お兄は凄いよね。

家を出て一人で働いて、今じゃ専用機のパイロットだもん。

それに比べて、私なんか……」

 

 しかしすぐに表情を曇らせてしまう。

兄の躍進に比べ、自業自得で身を持ち崩した自分の情けなさ。

そしてその兄を家から出す原因を作ってしまったのは、他ならぬ自分だという変えようの無い事実に、蘭の心は締め付けられる。

 

「お兄……家に戻ってくる事は、出来ないの?」

 

「……無理だ。正直あの糞ジジイの面を見たら、俺はアイツをぶっ殺しちまうかもしれねぇ」

 

「っ!」

 

 弾の暗くもハッキリとした返答に蘭は言葉を失う。

弾の言葉には嘘偽りの無い本気の意思が感じられた。つまりはそれ程までに弾は祖父を憎んでいるという事だ。

そしてその憎しみを生んでしまったのが自分であるという事実が蘭に重くのしかかる。

 

「言っとくけど、お前だけの所為じゃない。

たぶん事件が起きなくたても、俺はいつか糞ジジイと決別してたと思う。根拠は無いけどな。

あの事件は、きっかけに過ぎないんだ……。

ま、気にするな何て言わねぇけど、思い詰めるな」

 

 蘭の肩に手を置き、弾は蘭に対して優しく笑い掛ける。

 

「お兄……」

 

「蘭、コレだけは言っとくぞ。

俺は何があっても、お前の……」

 

「弾さ〜〜ん、買ってきましたよ!」

 

 弾が言葉を言い終わらない内に美鈴が買出しから戻ってきた。

 

「あ、美鈴さん」

 

 美鈴の姿を見て、弾は先程のベタ惚れモードに戻り、シリアスな空気は一気に払拭される。

 

「あれ?弾さん、この子は?」

 

「お兄、その人……誰?」

 

「あーその、えーと……」

 

 想い人と妹の思わぬ邂逅に、弾はやや狼狽するものの、一先ず落ち着き、咳払いしてから美鈴に向き直る。

 

「まず美鈴さんから、コイツは俺の妹の五反田蘭です。

コイツも買い物に来てたみたいで、美鈴さんと自販機に言ってる間にたまたま会ったんです。

蘭、この人は俺と同じ河城重工のパイロットの紅美鈴さんだ。今日は一緒に買い物に来ててな……」

 

「あ、はじめまして。紅美鈴です」

 

「こ、こちらこそ……兄が世話になってます」

 

 弾からの紹介に美鈴と蘭は顔を見合わせ、お互いに深々と頭を下げる。

 

(お兄……まさか、この人の事…………)

 

 しかし、蘭は内心でかなり動揺していた。

弾の美鈴に対する態度と、今までに見た事の無い表情に、蘭の頭の中で不意にそんな疑問が過ぎる。

 

「……もしかして、デート中だったり?」

 

「「…………///」」

 

 郷だけで何度目か分からない頬の紅潮に、蘭は自分の推測が事実であると確認する。

しかも、デート相手の美鈴も脈ありと見受けられる反応だ。

 

「へ、へぇ……お兄、デート出来る相手見つけたんだ。

凄いじゃん。リア充って奴?」

 

 蘭は顔で笑いつつも、その言葉の端々には動揺が表れている。

今の今まで女っ気(鈴音は一夏に惚れていたのでノーカウント)の無い兄の姿しか知らなかった蘭にとってその光景は鮮烈だった。

それと同時に、蘭は心の中で影が差していくのを感じ始める。

 

(こんな表情のお兄、初めて見た。……何か、複雑だなぁ)

 

 兄に春が来た事は喜ばしい事だとは思いつつも、長年一つ屋根の下で過ごしてきた兄が自分の知らぬ場所で自分の知らぬ相手を見詰めているという事実に、何とも言えない複雑な思いが込み上げてくる。

 

「じゃあ私、そろそろ帰るね。お父さん達心配させるといけないし……」

 

「あ、ああ……」

 

 別れを告げ、蘭は逃げる様にその場を去っていく。

蘭が去った後には、呆然と立ち尽くす弾と美鈴が残されたのだった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 日も落ちた頃、弾と美鈴は帰りのモノレールから降り、そのまま寮への帰路に着く。

 

「今日は色々とありがとうございました。凄く楽しかったです」

 

 多少のハプニングはあったものの、デート自体は十分楽しめた美鈴はにこやかに笑い掛ける。

 

「そんな……俺の方こそ、こんな突拍子もない誘いを受けてくれて本当嬉しいっす」

 

 美鈴の笑顔に弾もはにかみながら笑みを浮かべる。

 

「美鈴さん……もし良かったら、いつかまた今日みたいにデートとかしてくれませんか?

今度は、試合の結果とか、そういうの抜きで」

 

「は、はい……私なんかで、良いなら」

 

 やがて二人はどちらからとも無く自然と手を握り合う。

それは、二人の関係がまた一歩前進した証なのかもしれない。

 

 

 

ちなみに、寮に帰った後、美鈴はレミリアにデートの事で散々弄られる事になるのはまた別の話。

 

「ねぇ美鈴、私は一向に構わないわよ。

彼を幻想郷……牽いては紅魔館に迎え入れても。

もちろん紅魔館で働けるぐらい鍛えてあげるから」

 

「あぅぅ……で、でも種族の違いとか色々ありますし…………///」

 

「なら彼を私の眷属に……」

 

「も、もう許してくださぁ〜〜い!」

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

 久しぶりに二人きりの時間を過ごす一夏と千冬。
そんな時、ふとしたきっかけから二人は、ある出来事に思いを馳せる事になる。
それは幻想郷で暮らし始めた頃に遡る……

次回『出生の謎』

一夏「最近、夢を見るんだ」

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