東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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臨海学校(準備編)
シャルロットの一日


 学年別トーナメント、及びエキシビションマッチ終了から一夜明け、時刻は現在午前11時。

一夏達武術部の面々は……。

 

『かんぱ〜い!』

 

 トーナメント後の休日を利用し、部室で打ち上げを行っていた。

 

「姉御!ジュースお注ぎします!」

 

「私……武術部じゃないのに参加して良かったの?」

 

「お前はまだ良い……。私は今まで散々因縁つけてきたのに……」

 

 ちなみに、この宴会には停学が解けたばかりのラウラ、エキシビションマッチに参加した鈴音と箒も参加している。

 

「小さい事気にすんなって!宴会ではそういうのを水に流すもんだぜ!」

 戸惑う鈴音と箒に魔理沙は豪快に笑いながら声を掛け、2人に料理を盛り付けた皿を差し出す。

 

「食えよ。一夏の手料理だ、めちゃくちゃ美味いぜ」

 

「あ、ありがと……」

 

「……頂こう」

 

 差し出された料理を受け取り、戸惑いがちにそれを口に運ぶが……。

 

「ちょっ!?何コレ超美味しい!!」

 

「う、美味い……すまん、お代わり貰えるか?」

 

「おう、どんどん食え!」

 

 久しぶりに食べた一夏お手製の料理に、2人は今までの戸惑いを忘れて箸を進めたのだった。

 

「ただでさえ料理上手だったのに……もう、店だせるレベルよこれ。何か女として負けた気分……」

 

「美味い……こんなに美味いなんて感じた食事は、久しぶりだ……」

 

 

 

「やっぱ宴は良いよなぁ〜〜、これで酒があれば最高」

 

「ん?一夏、お前酒飲めるのか?」

 

「まぁな、宴会の時とかには騒ぎに乗じて……」

 

 自身の言葉に反応する弾に、一夏は極々普通に返す。

 

「酒か……勇儀姐さん達によく付き合わされたなぁ…………。

あの人達の肝臓、セラミカルチタン合金なんじゃないのか?」

 

「ハハッ、あながち間違いでもないな、その例え」

 

「飲酒にツッコミを入れるのは置いといて、

何ですの?そのセラミカルチタンとは……」

 

 2人の会話にセシリアは顔に『?』マークを浮かべる。

なお、セラミカルチタン合金とは、ISの武装開発中にとある河童が偶然精製に成功した合成金属であり、軽量かつ頑丈な強度を持った新素材としてあらゆる分野から注目されている代物である。

ちなみに、弾の使用するメタルブレードもそれで作られた物である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、武術部メンバー(+2名)がドンチャン騒ぎを送る中、河城重工の地下に設置された訓練用アリーナでは……。

 

「…………っ!」

 

 飛び出してくる複数の訓練用ターゲットユニットを見据え、少女は目を鋭く細める。

そして身に纏うIS……いや、ISに似たパワードスーツの手に鋏型の刃物を展開し、それを標的目掛けて投げ付けた。

鋏型のカッターは弧を描くような軌道でユニットを真っ二つに切り落とし、撃墜していく。

 

「!?」

 

 ところがココで異変が起きた。

少女の背後から新たなユニットが飛び出してきたのだ。

だが、少女はそれで怯む事無くブーメランのように戻ってきたカッターをキャッチし、そのまま振り返りざまにユニットを叩き切って見せた。

 

『切れ味、及び強度のノルマ達成。じゃあ、ラスト行くよ!』

 

 スピーカーから流れるにとりからの通信の直後、大型の丸太がアリーナの中央に置かれる。

少女は静かにそれに近付いてカッターでそれをカットし始める。

 

「…………よし、出来たよ!」

 

 そして数分後、丸太は星を象ったオブジェへと姿を変えたのだった。

 

『精密動作も十分だね。OK、ご苦労様!』

 

 にとりからの労いの言葉に、少女……シャルロット・ビュセール(旧名:シャルロット・デュノア)はアリーナから退出して身に纏うパワードスーツを解除する。

 

「乗り心地はどうだった?」

 

「うん、ISとほぼ同じだった。作業機としては十分すぎるぐらいだよ」

 

 スポーツドリンクを受け取りながらシャルロットは問いに回答する。

シャルロットが先程まで乗っていたのはISをベースに開発された工業作業用パワードスーツ『スカイ・ワーカー(略称SW)』の試作機。

ちなみに、使用していた装備は材木伐採用鋏型カッター『ローリングカッター』という。

 

「ローリングカッターとスーパーアームはこれで完成。

次はハイパーボムのテストをするから、その時はよろしくね。

はいコレ、スペック表」

 

 スペックの書かれたプリント用紙を受け取り、シャルロットはそれに目を通す。

それに写っていたのは非情にシンプルな球状の爆弾を模した物だった。

 

「如何にもって言うか、シンプルなデザインだね。

爆弾かぁ……発破工事にでも使うの?」

 

「うん、大体そんな所。用途としては主に不要建造物と岩盤の破壊作業だね。

取り敢えず起爆方法は時限式と遠隔操作式、あと接地式の三つを考えてるよ」

 

「OK。じゃあ日取りが決まったら連絡をお願いね。それまでにスペック表は頭に叩き込んどくから」

 

 笑みを浮かべてシャルロットはその場を後にした。

 

(爆弾で発破工事か……。

豪快にドッカ〜ン、みたいな感じに……ちょっと楽しみだったり)

 

 ちょっとアレな事を考えながら……。

 

 

 

 

 

「八雲社長、ビュセールです」

 

「入って」

 

 昼食を終えた後、シャルロットは社長室へとやって来る。

紫の隙間で幻想郷に戻るためだ。

ノックと共に苗字を名乗り、それに対して紫からの返事を確認してから入室する。

 

「お疲れ様。どう、幻想郷での暮らしは?」

 

「ええ、凄く良いですよ。お父さんの仕事も最近軌道に乗ってきたし。里の人達とも大分打ち解けて」

 

 紫の問いにシャルロットは嘘偽りの無い本心である事が見て取れる満面の笑顔で答える。

 

「そう、それは良かったわ。……あら?」

 

 シャルロットの答えに笑みを浮かべる紫だが、不意に壁の方を向く。

 

「どうかしました?」

 

「来客よ」

 

「え!?ボク、隠れときましょうか?」

 

 紫の言葉にシャルロットは慌てるが紫はそれを手で制する。

 

「大丈夫よ、彼らは幻想郷側(私達)の協力者で、後ろ盾だから」

 

 視線を逸らさず壁を見詰め続けながら、紫はシャルロットに手招きしながら自分の傍に来るように促す。

 

「……予定より少し早かったわね」

 

 紫がそう呟いた数秒後、紫の視線の先にある空間が突如歪み始めた。

 

「な、何?」

 

 シャルロットが驚きの声を上げる中、空間の歪みは大きくなり、やがてそこから一人の男が現れた。

逆立った茶髪を一部金髪に染め、額には×型の傷が刻まれ、服装は上は袖を肘あたりまで捲くったスカジャン、下はややボロくなっている長ズボンを履いている。

一言で表すなら硬派な不良という外見をしている男だった。

 

「ん?何だ、先客か?」

 

「早かったわね、アキラ。何かあったの?」

 

「いや、他の仕事が速く済んだから早めに来させて貰っただけだ。それより、先客がいるようだが?」

 

 アキラと呼ばれた男はシャルロットを見て警戒するような表情を浮かべる。

 

「この娘なら大丈夫よ。

アナタも知っているでしょう?デュノア社の事は。彼女はその当事者よ」

「!……なるほど。アンタのシマで引き取ったっていう娘か」

 

 警戒を解き、アキラは視線を紫に戻す。

 

「で、ご用件は?」

 

「いつも通り、報告だけだ。ただ、俺は今回までだがな」

 

「あら、どういう意味?」

 

 シャルロットそっちのけで会話を進める二人。

その雰囲気からは多少は気心の知れた友人同士といったものが感じられる。

 

「数日後にIS学園に警備員としてウチから一人派遣する事が決まった。それが俺だ」

 

「それは残念。アナタからのお土産楽しみにしてたのに」

 

「そりゃ嬉しい褒め言葉だ。

ま、安心しろ。アレぐらいたまにアンタの所の連中に持たせて渡してやるよ。

ほらコレ、今日の分。そっちの嬢ちゃんも持ってけ。そこら辺の冷食よりずっと美味いぜ」

 

 アキラは手に持ったビニール袋から紙袋で包んだものを取り出し、シャルロットに手渡す。

 

「あ、どうも」

 

 戸惑いがちにそれをシャルロットは受け取って中身を確認する。

袋の中からは、香ばしい甘い匂いが漂っている。

 

(たい焼き……しかも凄く良い匂い)

 

「良かったわね。それ、かなりの絶品よ」

 

 紫の言葉にシャルロットは内心納得する。

匂いだけでも十分美味と解る程にそのたい焼きの出来は良かったのだ。

 

「さてと、ココからはちょっと込み入った話になるわ。

シャルロット、悪いけど、先に幻想郷に戻ってもらえるかしら?」

 

「はい、分かりました」

 

 多少この後の話に興味は感じるが、シャルロットは紫の言葉に素直に従い、スキマを通って幻想郷への帰路へ着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いわ、その感覚を維持して。

維持した分だけ魔力の消耗を減らしやすくなるわ」

 

「はい」

 

 時刻は昼12時。

幻想郷に戻り、シャルロットはそのまま飛行で命蓮寺へ向かい、白蓮指導の下で魔力のコントロールを学ぶ。

 

「凄いわね。エリザより覚えが早いわ」

 

「やっぱり若いと身体が覚えるのも早いのかしら?」

 

 その様子を眺めながら一輪は感心し、エリザはやや羨ましそうにシャルロットを見詰める。

 

「身体が若返ってるのによく言うよ。

お父さんもお父さんで修行して徐々に若々しくなってさぁ、昨日だって夜中に二人してイチャイチャしてた癖に。このままじゃ来年か再来年には……」

 

 母の年寄り染みた発言にシャルロットは呆れ顔で突っ込みを入れるが……。

 

「わひゃっ!?」

 

「シャルロット、『口は災いの元』って言葉、知ってる?」

 

「い、今覚えました……ゴメンナサイ」

 

 失言の代償として額に極小の魔力弾を喰らい、シャルロットは母の強さの一端を思い知らされたのだった。

ちなみに、これから約1年半後、シャルロットの考えは本当になる事を今はまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 午後3時。

その日の修行を終えて、シャルロットは寺子屋近くの広場へと出掛ける。

 

「あ、シャル姉ちゃ〜〜ん!」

 

「お待たせ。待った?」

 

 シャルロットを待っていたのはサッカーボールを持った寺子屋の生徒達だ。

 

「大丈夫。俺達も今終わったばっかりだから。それより早くサッカーしようぜ!

今日こそシュート決めてやる!!」

 

「OK!今日も簡単には勝たせないよ!!」

 

 子供達のはしゃぐ姿にシャルロットも自然に顔に笑顔が浮かび、子供達の輪の中に入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつもすまないな。ほら、タオルだ」

 

「あ、慧音さん。お邪魔してます」

 

 サッカーを終え、一息吐いた所に寺子屋の教師である慧音がタオルを持って現れる。

 

「一夏が外界で働き始めて、サッカーに付き合ってくれる奴が見つからなかったからな。正直助かってるよ」

 

「いえ、ボクも結構楽しんでますから、お互い様です」

 

「そうか、そう言ってくれるとありがたい。」

 

 シャルロットからの返答に慧音は嬉しそうに笑みを浮かべる。

だが、直後にその表情に翳りが浮かぶ。

 

「なぁ、シャルロット。外の世界と幻想郷を見比べて、お前はどう思う?」

 

「そうですね……幻想郷は危険はあるけど、凄く良い所だと思います。

逆に、外界は目に見える危険は無いけど、歪んでる。…………幻想郷(こっち)に来てから、そう思うようになりました」

 

 表情を真剣なものに変え、シャルロットはそう答える。

幻想郷には人を襲う妖怪や異変といった人間に危険なものがすぐ近くにある。

しかし、一方で人間に友好的な妖怪も居るし、人間側も対抗できる術を持っている。

それ故か、種族による差別などは殆ど無い。

一方で外界は、河城重工の活躍でかなり緩和できたとはいえ、未だに女尊男卑思考を持つ者も多い。

それに反発して過激な報復を行う男性がいつ出てきてもおかしくないのだ。

 

「そうか……。やはり、外界には女尊男卑が未だに根付いているのか?」

 

「大分マシにはなったんですけどね。でも、どうしてそんな話を?」

 

 シャルロットの問いかけに慧音は遊び疲れて座り込んでいる子供達を見やる。

 

「幻想郷は、外の世界で力を保てなかった者や、存在をも保てなかった者達が集まる最後の砦であり、楽園だ。

そんな場所だからこそ、あの子達には人種で……ましてや、男と女というだけの理由による差別なんて知らないままでいて欲しいんだ。

ココに、幻想郷にまで差別主義の社会が流れてあの子達がそれに苦しめられてしまう事を想像すると、凄く怖い」

 

「……大丈夫です。そうならないために一夏達は頑張っているんですから。

だからボクも、出来る限りそれを手伝うつもりです。

それがボクと、ボクの家族を助けてくれた幻想郷の人達への恩返しなんですから……!」

 

 不安を覗かせる慧音の手を握りながら、シャルロットは力強い笑みを浮かべて答えてみせる。

その姿に、慧音は安心した様に表情を緩めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜7時。

シャルロットは帰宅し、先に帰っていたエリザと共に夕食の準備にかかる。

 

「ただいま」

 

「あ、お帰り、お父さん」

 

 仕事から帰宅したセドリックを迎え、食卓を囲み、家族団欒を楽しむ三人。

家族というものの大切さ、かけがえの無さを知っているデュノア一家……いや、ビュセール一家にとって、その当たり前とも言える風景が、この一家にとって何よりの幸せだった。

この幸せを守るため、セドリック、エリザ、そしてシャルロットが戦わなければならなくなる日はそう遠くない未来の事なのかもしれない……。

 




SWと装備について解説

スカイワーカー
現在河城重工にて開発中のISを基に作られた作業用のパワードスーツ。
ISと違いコアは存在せず、遠隔操作による機能停止が可能となっている。
大きさは通常のISよりも一回り小さく、パワー、スピード、SE量などはISの約5〜7割。
(ただし、コストをかけて改造すれば通常のIS並みの性能を持たせる事も可能)

一言で言えば『ISの下位互換か劣化コピー』

しかし、男女共に操縦できる汎用性に加え、ISと比べて量産性が高く、操縦も容易のため、訓練や作業には非常に適している。
一機での戦闘力はISより下だが、数やパイロットの腕前次第ではISに勝利することも出来る。

名前は影鴉さんの案から命名。
提案していただいた皆さん、遅れてしまいましたが真にありがとうございます。




鋏型カッター『ローリングカッター』
鋏をモチーフにした森林伐採と木材加工を目的としたカッター。
セラミカルチタン製で切れ味が良く、
投擲すればブーメランのように手元に戻ってくる性質がある。
弾の持つメタルブレードと比べると、破壊力は低いが生産性が高く、作業に適している。
手に持って直接使用することも可能。



碗部追加装甲『スーパーアーム』
土木作業、建築作業を目的とした特殊装甲。
装備する事で通常のISを大きく上回るパワーを得ることが出来る。
しかし、非常に大型かつ重量級のアームなので、期待の機動性は下がってしまう。



大型不要物破壊爆弾『ハイパーボム』
不要建造物と岩盤を破壊するために作られた球体形の爆弾。
シンプルなデザインだが、導火線は火をつけるタイプではなく、電球を発光させて起爆する仕組みになっている。
起爆法は時限式、遠隔操作式、接地式の3タイプがある。





次回予告
臨海学校の準備を兼ね、ショッピングモールへ出掛ける武術部員達。
一方弾は、美鈴とのデートに気合を入れて挑むが、果たして結果は?

次回『デートと騒動』

美鈴「こんな所で何物騒なモン出してるんですか?」

弾「こんな奴、殴る価値も無い」



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