東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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今更ですがあけましておめでとうございます。

今年初の投稿です。


燃えろ弾!男の底力!!

 

「アームロックは手技へのカウンターアンクルホールドとドラゴンスクリューは相手の足技の種類に合わせて使い分ける懐に入られたら上手く距離を取る但し絶対慌てたらダメ…………」

 

 中堅戦が終わり、エキシビションマッチも後半を迎え、副将戦を間近に迎える中、弾は一心不乱に今まで教わってきた技の掛け方や対処法などを呟き続けている。

その表情はやや緊張気味だ。

 

「弾さん……緊張するのは解りますけど、句読点が無くなってますわよ」

 

「す、スマン……分かっちゃいるんだけどな」

 

「まぁ、気持ちは解るよ(私だって魔理沙が相手だったら……)」

 

 やはり意中の相手、しかもデートが懸かった試合ともなれば緊張してしまう。

残り後2分という状況で、弾は何とか落ち着きを取り戻そうと思考を巡らせる。

 

(こ、こういう時は……そうだ!勇儀姐さんと萃香さんから受けた特訓を思い出すんだ)

 

 

 

 

 

『ホラホラァ!もっと速く避けないと大怪我しちゃうよぉ~~!!』

 

『うわぁぁぁ!!な、何で瓢箪なんかでコンクリートの床をぶち割れるんだよぉーーーー!?』

 

 萃香の瓢箪という名のハンマー攻撃を必死に避け続け……。

 

 

『ぐへぁぁっ!!!!』

 

『おいおい、この程度で気絶しちゃ、専用機なんて夢のまた夢だぞ』

 

 勇儀の怪力で叩きのめされ……。

 

 

『何だよその蹴りは?まるで腰が入ってないじゃん。ついでに身体も軽すぎるよ!』

 

『のわぁ~~~~~!!』

 

 萃香にジャイアントスイングで投げ飛ばされ……。

 

 

『101…102…103…104……グァッ…………も、もう……限k、カハッ…………』

 

『そこのバンダナ坊主、たるんでるぞ!!』

 

『ギャヒーーーーッ!!』

 

 腕立てでへばって勇儀に蹴っ飛ばされ……。

 

 

『ほら飲んで飲んで♪』

 

『ちょっと待って!俺まだ未成年……』

 

『あぁん!私らの酒が飲めないってぇのかい!?』

 

 しまいにゃ酒飲みに付き合わされる始末……。

 

 

 

 

 

(よく生き残って合格出来たよな、俺……。やっぱ美鈴さんに惚れたのがでかいよな)

 

 涙も流れる前に蒸発してしまいそうな過酷な訓練を思い出し、それを突破するきっかけを弾は再認識する。

そして、これから行われる戦いは、その集大成なのだと弾は思う。

 

「よっしゃあ!やってやるぜぇ!!」

 

 落ち着きを取り戻した弾は両手で顔を叩いて気合を入れ、アリーナへと飛び立った。

偶然にもそれは、美鈴がアリーナに姿を現したのとほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

「お互い、良いタイミングですね」

 

「ああ」

 

 アリーナ中央で2人は立ち止まり、美鈴は落ち着いた様子で口を開く。

こちらも先の鈴音VS妖夢での驚きから冷め、落ち着いたようだ。

 

「最初から全力で行かせて貰うぜ!そして、絶対に俺を認めさせてやる!」

 

「ならば、私もその気で行かせて貰います!病院送りになっても恨まないでくださいよ」

 

 挑発を含んだ軽口を言い合い、両者共に身構える。

だが両者共にまだ武装は展開していない。

まるで西部劇の早撃ち勝負の様に、いつでも武器を出せるようにして相手の様子を伺っている。

 

『試合開始!!』

 

「オラァッ!」

 

「セイッ!」

 

 試合開始の合図と同時に展開されたのは、ナイトクラッシャーと極彩。

鉄球による殴打と特殊装甲による拳撃がぶつかり合い、火花が散る。

続けざまに2発目、3発目と打撃が繰り出されていくが、徐々に地力の差が出始め、弾は美鈴の勢いに押されていく。

 

(やっぱり強ぇ……パワーもスピードも俺や鈴よりずっと上だ)

 

 流石は鈴音の師匠格とでも言うべきか、全体的に鈴音の身体能力の数段上を行っている。

 

(真っ向勝負じゃ勝てねぇか……。

それがどうした!だったらそれ以外で攻めりゃ良い!!)

 

「ハァァッ!」

 

 弾の考えを余所に美鈴の蹴りは弾の脇腹を捉えてより一層鋭い蹴りを放つ。

 

「ぐっ!肉を切らせて……骨を断つ!」

 

「わわっ!?」

 

 しかし、弾は脇腹に喰らった蹴りをがっちりと抱え込んで固定し、そのまま先の試合で妖夢が見せたドラゴンスクリューを繰り出した。

 

「クッ!」

 

 しかし、その程度でダメージを受けるほど美鈴は甘くはない。

即座に両手で受身を取り、地面に叩きつけっれる衝撃を最小限に抑えた。

 

「まだまだぁ!」

 

「ウグッ……こ、これは……!?」

 

 美鈴が体勢を立て直すよりも先に、弾は掴んだ足を持ち上げて美鈴の膝から足首にかけての関節を極め、締め上げる。

やや変形型だが、IS版アンクルホールド(足固め)だ。

 

「ウググ……このっ!!」

 

「うおっ!?」

 

 美鈴も負けてはいない。力任せに技を外し、逆立ち状態のまま弾の身体を足で挟み込むように掴み、勢いをつけて投げ飛ばした。

 

「チッ!まだまだぁ!!」

 

 だがしかし、投げ飛ばされても尚、弾は追撃の手を緩めない。

吹っ飛ばされながらも、可能な限り体勢を整え、ブリッツスピアのビームボウガンを展開し、美鈴目掛けて連射した。

 

(チィッ!避けきれない……ならば!!)

 

 迫るビーム刃に美鈴は僅かに舌打ちして、紅龍の爪先部分にナイフ状の刃を展開し、飛んでくるビームを全て蹴りで迎撃して見せた。

先の聖蓮船の異変の際に新たに追加されたビーム展開装置付小型ブレード『鶴足』だ。

 

「う、嘘だろ……」

 

 思わず声が漏れる。

飛んでくるビームを避けずにキックで全て相殺してしまうなど、どれほどのスピードと動体視力、そしてこちらの動きを読む洞察力を有しているというのか?

解っていたつもりだったが改めて確認させられてしまう。自分はとんでもない実力者の女に惚れてしまったという事を……。

 

(上等じゃねぇか……!

だったらそれに見合う男になりゃ良い!!)

 

 果てしない目標に弾は笑みを浮かべる。

かつて実家と決別し、何もかもを捨てて自立を目指してひたすら我が道を突っ走る弾にとっては、自分自身の価値を上げる事は絶対に避けては通れぬ道。

そんな彼に恐れるものなどは無い!

 

「これで終わりと、思うなよ!!」

 

 気合を入れ直し、弾は武装をダイブミサイルに切り替えて攻撃する。

 

「これなら蹴りで迎撃するのは無理だろ!」

 

「甘い!」

 

 弾の台詞を切り捨てるように遮り、美鈴の操る鶴足は突如として発光し、蹴りと共にビームの刃が発射され、ミサイルを迎撃し、撃ち落した。

 

「ゲゲッ!俺の槍と同じ事が……」

 

「元々同時期に開発されたものですからね!……今度はこっちの番です!」

 

 防御から攻撃に打って変わり、美鈴は空中から弾目掛けて連続蹴りによるビームの雨を降らす。

自らの得意とする弾幕を基にした技『彩雨』である。

 

「セイヤァァーーーーーッ!!」

 

「うおおぉぉっ!?ちょ、待てって……グオッ!」

 

 慌てて避けようと後退するが、密度の高い弾幕はそれを許さず、弾はクリーンヒットを許してしまう。

 

「まだまだぁ!!」

 

「だぁぁしゃらくせぇ!!どうせ避けらんねぇなら!!」

 

 続けざまに来るビームの連射に弾は思考を守りから攻めに切り替え、ビームの雨の中に頭から飛び込んだ!

 

「うぉおおお!!」

 

(ヤケクソ?……な訳無いわよね。

…………あ!?……そういう事か。考えましたね!)

 

 一見無謀な自殺行為に見える弾の行動だが、実際は全く違う。

ビームが来る方向に当たる面積を少なくしてダメージを最小限に抑えているのだ。

 

「喰らえぇぇーーーー!!」

 

「だけど、甘い!」

 

 一気に接近してブリッツスピアによる刺突を見舞おうとする弾だが、美鈴はこれを難なく受け流し、そして……。

 

「グガァァッ!!」

 

 美鈴のカウンターパンチが弾の顔面に直撃した…………が、

 

「やっと、隙見せたな……オラァ!!」

 

「な!?」

 

 殴られたまま弾はニヤリと笑い、美鈴の腕を弾き、その勢いに乗せて美鈴の首筋……牽いては頚動脈のある部位に手刀を打ち込んだ!!

 

「ガッ!…カハッ……!」

 

「貰ったぁ!!」

 

 急所に受けた衝撃に美鈴の息が一瞬止まる。

それを見逃さず弾は紅龍の両脚部を掴み、抱え上げ……。

 

「萃香さん直伝だ!どぉりゃああぁぁぁっっ!!」

 

「うわぁぁ!!」

 

 そのままジャイアントスイングで一気に振り回しアリーナのバリアに叩き付けた!!

 

「グアァァッ!!」

 

「これで終わりじゃねぇぞ!コイツも喰らいやがれ!!」

 

 弾の手を緩めない怒涛の追撃はまだ続く。

再びナイトクラッシャーを展開し、美鈴目掛けて振るい投げる。

平常時の美鈴であれば、ヒートファンタズムの武装の中では最も鈍重な武器であるナイトクラッシャーの一撃など楽に凌げるだろうが、脳震盪でふらついている状態では話が別だ。

結果として美鈴はナイトクラッシャーを諸に喰らってしまうという憂き目に遭った。

 

「ガァァッ!!」

 

 衝撃に流されるまま、美鈴の体は真っ逆さまに地面に叩き付けられる。

この時点でも大ダメージだが、これで終わらないのが戦いの常……。

すぐさま弾はブースターを吹かし、美鈴目掛けて突貫。

更に少しでもダメージを増やそうと、ありったけのメタルブレードを乱射するという徹底ぶりだ。

 

「オラオラオラオラァァッッ!!!!」

 

「ぐ、が……っ!!」

 

 凄まじいラッシュに苦悶の声を漏らす美鈴。

そしていよいよ美鈴との距離が僅かとなった時、弾はフィニッシュとばかりに再びナイトクラッシャーに武装を切り替える。

 

「終わりだぁぁーーーー!!」

 

 直接殴打を喰らわせようとナイトクラッシャーを振りかぶる弾。

もはやこの時、弾は勿論ながら、控室で試合を見守っていた簪達、そして観客席の一般生徒や教員も弾の勝利を疑わなかった。

 

「……ッ!」

 

「へ?」

 

 一瞬の出来事に弾の口から間の抜けた声が出る。

ほんの一瞬だった……弾の一撃が当たるその刹那、美鈴は身を翻した。

その結果、確実に入る筈だったナイトクラッシャーの一撃が空を切ったのだ。

 

「……《シマリス脚!》」

 

「カッ!?」

 

 思わぬ一撃に悲鳴を上げる間も無く弾の体はアリーナの外壁へ吹っ飛ばされ、そのまま壁に激突し、まるでボールのようにバウンドした。

 

「《連環撃》……!!」

 

「ぐおぉぉぉぉっっっ!!!!」

 

 続けて繰り出されるは目にも留まらぬ拳と蹴りの連撃。

絶対防御ですら完全には防ぎきれぬ鈍痛と衝撃が弾の身体を穿ち、上空へと打ち上げる。

 

「黄……震……」

 

 そして落下してくる弾を美鈴は静かに見据え、その長くしなやかな脚を振り上げ……

 

「……脚!!」

 

 弾の背中を着地と同時に踏み抜いた!!

 

「ゲハァァァァァッ!!!」

 

 凄まじい衝撃に弾は胃液を吐き散らし、やがて白目を剥いて崩れ落ちた。

 

「っ!…………やってしまった」

 

 見るも無残な弾の姿に美鈴は漸く我に返る。

 

(出してしまった……体術のみとはいえ、本気を……)

 

 最後の連続攻撃の際……美鈴は本気を出していた。

弾の執念ともいえる怒涛の猛攻は美鈴の本気を引き出していたのだ。

 

(もしIS戦でなければ……いえ、気や妖力が加わっていたら、私は弾さんを殺してしまう所だった……)

 

 自分の行動にやるせなさと後悔を感じ美鈴は倒れている弾から目を背けるが……。

 

「待…て、よ」

 

「!?……そ、そんな馬鹿な!?」

 

 背後からの声に美鈴は動揺を露わにする。……弾が立ち上がったのだ。

足元はフラフラで体全身が疲労でガタガタに震え、ブリッツスピアを杖替わりにしながらも、その瞳に映る闘志は一切の曇りなく燃えている。

 

「ま、まだ意識があるなんて……」

 

「負け、ねぇ……負け、られるかよ……俺は、まだ…………負け、て…………な……い…………………」

 

 片膝を着いたままながらも、弾は槍を構える。

だがしかし、突如としてそこでISは解除された。

 

「!……立ったまま気絶してる…………」

 

『試合終了―――――勝者・紅美鈴!』

 

 

 弾の気絶とIS解除が確認され、試合終了の音声が会場に鳴り響く。

それからしばらくの間、会場内は静寂に包まれたが、やがて会場中から拍手の音が吹き荒れた。

 

「前言撤回ですね……。アナタは殺したって死ぬような軟(やわ)な人じゃない。

……とても魅力的で、立派な、男です」

 

 気絶する弾に美鈴は穏やかに微笑みながら深々と頭を下げて一礼し、敬意を表する。

戦いの中、どんな状況にも屈せずに攻め続け、決して闘志を揺るがす事の無かった弾に、美鈴は心の奥底で痺れ、憧れ、敬意を感じていた。

それがこの礼に表れていた。

やがて美鈴は、弾を背負って皆が待つ控室へと歩き出す。

 

「あれだけ凄い戦いぶりを見せられたら。デートの誘い断れないなぁ。

何て言って承諾すれば……」

 

 この日この時、美鈴には悩みが一つ増えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

いよいよ最終戦・簪VS一夏。
姉をも破った一夏の猛攻に、簪はどう立ち向かうのか?

次回・『今を超えろ!!』

楯無「う、嘘……でしょ?」

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