東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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風向きを読め!!

 第1試合の早苗と箒の戦いが大盛況で終わり、続く第2試合・セシリアVS文の対戦カードはいよいよ幕開け間近となり、セシリアは自分と同じく試合を控えている弾、簪、鈴音と共にAピットで試合に備えていた。

 

『試合開始まであと5分です。選手両名は、至急出撃準備を』

 

「いよいよ、ですわね」

 

「セシリア」

 

 出撃準備に入るセシリアに、不意に鈴音は呼び止めた。

 

「何か?」

 

「解ってるだろうけど、文さんのスピードはとにかく速い。

それでいてあの人は今まで殆ど手の内を明かしていない。たぶん、射撃型のアンタじゃ私達の中で一番文さんと相性が悪いわよ。大丈夫なの?」

 

「承知の上ですわ。

寧ろ相性が悪いからこそ、そんな相手にどこまで自分が通用するか解ると言うもの……それはココにいる皆さんにも言える事ではないのですか?」

 

 鈴音の言葉にセシリアは挑戦的な笑みを浮かべながら答え、その答えに鈴音達も同じ様に笑う。

 

「確かに、ね……」

 

「今の私達じゃ、まだあの人達には遠く及ばない。それは解ってるけど……」

 

「自分よりもずっと格上に挑みもせずに強くなれる訳ないからな。

だったら、勝ち目が無くても喰らいつける所まで喰らいついてやるぜ!!」

 

 底の知れない河城重工の面々の強さだが、少なくとも今の国家代表を相手にしても圧勝できる程の強さがあるのは間違いない。

そんな者達を目標に特訓を続けた自分達の力を試すまたとない機会……相性云々など関係ない。全力を持ってぶつかり、自分の力を試すのみだ。

 

「相性が悪い……上等ですわ!

Go for broke(当たって砕けろ)の精神で一矢でも二矢でも報いて見せますわ!!」

 

「それ良いかも。今の私達にピッタリ」

 

「ああ、格上相手にするんならこれほど似合う言葉は無いぜ!!」

 

 軽口を叩きつつ、4人はそれぞれ戦意を高めていく。

そして……。

 

『試合開始1分前です。両選手、出撃願います』

 

「では……行ってきますわ」

 

 いよいよ出撃の時となり、曇り無き瞳を携えながらセシリアはアリーナへと出撃したのだった。

 

 

 

 

 

 

「あやや、ちょうどタイミングぴったりですね」

 

「ええ。今回はよろしくお願いします」

 

 セシリアとほぼ同時に専用機『迦楼羅(かるら)』を纏った文もアリーナへ入ってくる。

 

「まさか、私を指名してくるとは思いませんでしたよ。

ほら、私って一夏さん達と比べて目立った活躍とかしてませんし」

 

「ですが、一夏さん達からアナタの強さについてはお聞きしていますわ。

河城重工で最速のスピードを持つというアナタに私の射撃がどこまで通じるか、確かめさせてもらいますわ!」

 

『試合開始!!』

 

 セシリアがライフルを展開し、構えた直後に試合開始の合図が鳴り響き、それと同時にセシリアは先手必勝とばかりにライフルの引き金を引いた。

 

「あぐっ!?」

 

 だが、苦悶の声を上げたのは文ではなくセシリアだった。

殆ど一瞬の出来事で見ていた観客達はおろか、セシリア当人にさえも何が起きたか理解できない。

 

(一体何が?射命丸さんがレーザーを上空に避けたと同時に、何か腕を振るって……)

 

「私から易々と先手を取れるなんて、思わない事です!!」

 

 上空から顔に好戦的な笑みを浮かべた文が再び腕を振るう。

 

(!?……いけない!)

 

 直感で何かの危機を感じ取り、セシリアはすぐさまその場を離れる。

衝撃音と共に地面に粉塵と共に斬り傷が生まれたのはその直後だった。

 

「あややや……流石に2発連続ヒットとはいきませんでしたか」

 

(これは……衝撃砲に近い斬撃?)

 

 文の攻撃に冷や汗を流しつつセシリアは、文がその手に持っている武器を見る。

特殊鉄扇『八ツ手ノ葉』……文を始めとした烏天狗が普段から使っている紅葉型の団扇をモデルに作られた特殊鉄扇であり、近接武器としてだけでなく、振るうことで真空の刃を飛ばす事が出来る、甲龍の龍咆と白楼観の白楼弐型を足し併せた様な武装だ。

 

「まだまだ行きますよ!」

 

「クッ!ならば私も……っ!?」

 

 続けざまに繰り出される真空の刃。当然セシリアは態々それを喰らおうとは思わず、即座に回避行動を取りつつ、自らもライフルで応戦するが……。

 

「い、いない?」

 

「こっちです!」

 

「え?……キャアア!!」

 

 狙いを定めようとライフルを向けた筈が文の声は背後から聞こえ、続けざまに風の一撃がセシリアを襲う。

 

(は、速い……)

 

 文の超高速とも言えるそのスピードにセシリアは戦慄する。

ハイパーセンサーを使ってやっと見える……あくまでも見えるだけだ。

とても普通の感覚や肉眼で捉えられるというレベルのそのスピードである。

これで戦慄しないのであれば余程の強者か馬鹿のどちらかだ。

 

「私のスピードに点で攻める狙撃は、相性悪いですよ。アナタが思っているよりずっとね!」

 

「がっ、グッ……うぐぁ!!」

 

 続けざまに繰り出される風の刃と鉄扇による直接攻撃。

まさに徹底した中距離とヒット&アウェイに、ブルーティアーズのシールドエネルギーは試合開始僅かにも拘らず3割近く減少してしまう。

 

「こ、このままじゃ、完封負けより無残な事に……だったら、出し惜しみなんてしませんわ!!」

 

 相手との実力・相性の差を早い段階で察し、セシリアはアリーナの角へと移動してビットを展開する。

 

「その戦法は……美鈴さんの?」

 

「ええ!これなら多少は攻撃の方向も読みやすくなるというものですわ!!」

 

 美鈴がアリスとの戦いで見せた戦法を見様見真似で再現したセシリアは再び攻撃を再開。

 

「あややや、やりますね。良い戦略のチョイスです。

でも、こっちは根競べをする気は無いんですよ」

 

 セシリアの行動に感心を見せつつ、文は八ツ手ノ葉を格納して新たな巨大な手裏剣状の武装を展開し、それをセシリア目掛けて投擲する。

 

「それっ!」

 

(この状況で投擲武装なんて、何をする気ですの?とにかく攻撃は回避しなければ……!?)

 

 飛んで来る手裏剣に身構えるセシリアは一瞬驚いて眼を見開く。

手裏剣は突然軌道を変え、地面を這うように飛んできたのだ。

 

「ッ!」

 

 思わぬフェイントに面食らいはしたものの、セシリアとてそれで呆ける様な馬鹿ではない。 

当然ながら跳躍してそれを躱すが……。

 

「かかりましたね!」

 

「え?……キャアアアアアッッ!!?」

 

 セシリアが疑問を挿む間も無く突如真下から凄まじい程の風が音を立てて舞い上がる。

その風圧に耐え切れず、セシリアは上空に成す術無く強制的に上昇させられる。それも、ISを身に纏っているにも拘らずだ

これこそが文が展開した武装、超高風圧竜巻発生機『トルネードホールド』の真価だ。

 

「う、動けない……」

 

 そして一度その竜巻に捕らえられれば身動きは取れなくなり、ただ天井に押し付けられるか、文からの追撃を待つだけとなり……。

 

「せーーーのぉ!!」

 

「キャアアアアアッッ……ガハァッ!!」

 

 竜巻に囚われ、乱回転するセシリアのボディに文の踵落としが炸裂し、竜巻が消失する。

自身の身体を浮かせていた竜巻が無くなった事で文の踵落としの衝撃が一気に掛かり、セシリアは地面へまっさかさまに落ち、強かに叩きつけられてしまった。

「うぐ……ぁ……」

 

 強い……強すぎる。

相性一つ悪いだけでココまで手も足も出ないだなんて……僅かな自信もあっという間にぶち壊してくれたものだ。

しかし、だからといってココで何も出来ずに終わればそれこそかつての咲夜戦の二の舞……セシリアにとってあの戦いは自分を変えるきっかけになった戦いであると同時に、最大の恥でもある。

 

「このまま、終われるものですか……!!」

 

 その恥を再現することだけは我慢できない。

残りシールドエネルギーが3割半を切ろうともセシリアは諦めるつもりは毛頭無かった。

 

(戦いの鉄則その10『勝つ為にはあらゆる手段・戦法を考えろ!!』

考えを放棄すればそれでもう終わり!ならば最後の一瞬まで考えるべき!!

何か……何か手を!!点で攻めるライフルではあの身軽さを持つ射命丸さん相手に当たる可能性は皆無!かと言ってビットでは私が無防備に……。

クッ!同時操作出来ない弱点がココで仇になるなんて……せめてショットガンか追加砲台のような武装があれば…………ん?)

 

 猛スピードで脳内で策を練るセシリアだが、突如としてそれをストップする。

自分の考えの中に大きなヒントがあったように感じたのだ。

 

(砲台……同時操作……こ、これなら出来るかも!そしてあの身軽さなら逆に言えば!!)

 

 天啓の如く閃いた策にセシリアは笑みを浮かべそうになるのを抑える。

ほんの少しでも文に強く油断させるために。

 

「完封で悪いですけど、トドメ行きますよぉ!!」

 

「!!」

 

 フィニッシュを極めるべく突っ込んでくる文を見据え、セシリアはライフル、そしてビットを自身の周囲に展開する。

彼女の策はぶっつけ本番の賭けだが、それで尻込みする様なセシリアではない。

 

「どの道勝てなくて当然。……ならば、どんな賭けでもやってみせるのみ!

やってみせますわ!Go For Broke(当たって砕けろ)!!」

 

 出撃前に言った意気込みで自分を鼓舞し、セシリアは文からの一撃を回避し、集中力を最大限発揮し、ライフルとビットを同時に操作してレーザーを広範囲に発射してみせた!!

 

「え!?何で同時に……うわっ!!」

 

 セシリアはビットと本体の同時操作が出来ない筈……その考えが根付いていた文にとってセシリアの行動は余りにも予想外過ぎた。

それ故、文の反応は一瞬遅れ、レーザーの命中を許してしまった。

 

「で、出来ましたわ!!」

 

 初の並列操作の成功にセシリアは歓喜の表情を浮かべる。

セシリアは自身の周囲に限定してビットを取り囲むように展開・配置し、それを移動式の固定砲台代わりにするという方法で、簡易ではあるが並列操作を実現させたのだ。

当然まだ操作に慣れていない以上、偏向射撃は使えなくなったが、そこは使い分ければ言いだけの話。

即ちセシリアは、自身の弱点を僅かにではあるが改善することに成功したのである。

 

「そろそろ眼と勘も慣れる頃……これで、まだまだやれますわ!!」

 

 遂に見つけた反撃の一手にセシリアは威勢良く空中を飛び回りながらレーザーを散弾銃のようにばら撒くが……。

 

「同じ轍は、二度も踏みませんよ!!」

 

 だが文も負けじと三つ目の武装を展開する。

黒い鳥を象った戦闘支援ユニット『子鴉』が文の周囲を高速で飛び回り、気流を発生させ、風の壁を生み出した。

 

「っ……レーザーが!?」

 

 気圧変化によってレーザーの軌道が変わり、無力化してしまう。

風のバリアによって守られている迦楼羅は、ブルーティアーズとの相性をと余計最悪にしていると言っても過言ではない。

 

「ですが、それぐらい許容範囲!!」

 

 ココでセシリアは新たな策を発動。

文目掛けてミサイルを発射し、使用する武器をライフルだけに絞り、狙いをより鮮明にする。

 

「目には目を!風には、風ですわ!!」

 

 そして放たれたレーザーは子鴉の風に巻き込まれかけているミサイルを撃ち、爆発させた。

 

「わわっ!……しまっ、わーーーっ!?」

 

 爆風にあおられ、文の迦楼羅はややオーバーリアクション気味にバランスを崩してしまった。

 

(やはり思った通り!あれだけ身軽なら機体そのものは非常に軽量。

ならば吹き飛ばされやすい筈!!そして……)

 

 バランスを崩す文目掛け、セシリアは突撃。

そのまま文の腕を取り、アームロックを掛けた!!

 

「アガガガ!!ちょっ、アナタまでアームロックって!?コレ流行ってたりしてるんですか!?」

 

「軽量故にパワーはやはり低い!これで……さっきの、お返しですわ!!」

 

「うぎゃっ!!」

 

 文の腕を極め、そのままセシリアはアリーナを覆うバリア壁まで全速力で接近し、そして……一気に壁に叩きつけた!!

 

「もう一発!」

 

「ググ……だから、同じ轍は」

 

 再びアームロックを極めるセシリアに、文は目付きを鋭くし、腕に力を込める。

 

「二度も踏みませんってば!!」

 

 直後に『ゴキッ』という嫌な音がセシリアの耳に響いた。

 

「え!?お、折れ……」

 

「関節外した、だけですよ!!」

 

 関節が外れる音に驚くセシリアに、ニヤリと笑って文は無理矢理アームロックを振り解く。

 

「ああっ!さ、させな……ブッ!!」

 

 慌てて再び文の腕を掴もうとするセシリアだが子鴉がセシリアの顔面に体当たりを喰らわせ、それを阻止し、更に文がキックを叩き込み、セシリアの身体を引き離す。

 

「ぐぁぁっ!」

 

「今度こそ、トドメぇ!!」

 

「ウアアァァッッ!!」

 

 そして、その隙を突き、再び繰り出されるトルネードホールドによる拘束。そしてその次に来るのは……。

 

「ラストォォォォッ!!!!」

 

「カハァッ!!」

 

 抵抗する間も無く再びセシリアは地面に叩きつけられる。

言うまでも無くブルーティアーズのシールドエネルギーは底を突き、勝敗は決した。

 

『試合終了―――――勝者・射命丸文』

 

 機械音声が文の勝利を告げ、例によって開場は大歓声に包まれる。

今回は勝利した文だけでなく、土壇場で追い上げたセシリアすらも称える声が上がっている。

 

(追い詰められるほどに強くなる……これだから、人間って馬鹿に出来ないのよねぇ。

その分、興味も尽きないわ)

 

 文もまたセシリアの健闘に素直に感服していた。

知能の低い下級妖怪は短命の人間を見下しがちだが、頭の良い妖怪ほど逆に人間の脅威というものを良く理解している。

短命ゆえに限られた生の中であらゆる知識・策を巡らせ、結果の出る努力をする人間は妖怪への様々な対抗手段を見出しているのだ。

セシリアにしても、ISという土台での戦いでは自分達に勝利する事は決して夢ではない……文は何となくではあるがそう思ったのだった。

 




次回予告

 エキシビションマッチ第3試合・鈴音VS妖夢。
美鈴直伝の心山拳で挑む鈴音は、妖夢の剣術にどこまで通用するのか?
そして、そんな中で美鈴は、自分も知らない鈴音と自分の繋がりを見る。

次回『面影』

美鈴「あ、あの動き……まさか!?」




IS紹介

迦楼羅
パワー・E
スピード・A
装甲・D
反応速度・A
攻撃範囲・B
射程距離・C

パイロット・射命丸文

武装
超高風圧竜巻発生機『トルネードホールド』
大型手裏剣状の武装。
高速で打ち出して竜巻を発生させて敵を拘束する。

投擲特殊鉄扇『八ツ手ノ葉』
紅葉型の団扇をモデルに作られた特殊鉄扇。
近接武器としてだけでなく、振るうことで真空の刃を飛して攻撃出来る。

戦闘支援ユニット『子鴉』
鳥の形をした2機に支援兵器。
迦楼羅の周囲を旋回しながら追従し、高速飛行で気流を発生させて風の障壁を生み出す。
これにより大半の実弾は防がれ、光の屈折でステルスや光学兵器を無力化できる。

文専用機。
スピード重視の機体。現状では最速のISである。
文の動体視力をフルに活用できるように設計され、風を用いた攻撃と防御を得意とする。
しかし、軽量故にパワーはダンシングドールと同レベルに低く、組み付かれるとパワー負けしてしまう。




おまけ ISキャラの現在までの戦績 その1

一夏 10勝0敗1分1無効 勝率83%
やはり主人公だけあってほぼ勝ってる。

千冬 4勝2敗 勝率67%
一夏戦・鈴仙戦と、どちらかといえば序盤の黒星の戦いが印象に残りやすいが、勝率自体は低くない。
同格以上の相手では、エリザ・白蓮に勝利している。
(ただし、白蓮戦は早苗とのタッグ)

セシリア 1勝4敗1分 勝率17%
戦闘では実力者と対戦することが多いため、クラス代表決定戦以降は、『善戦虚しく敗れる』というパターンが多い。


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