東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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幼馴染として(前編)

 トーナメント優勝者が簪に決まり、その後行われた5位決定戦は、篠ノ之箒が辛うじて5位に入る結果となった。

なお、5位決定戦時の箒は二回戦での敗北で流石に頭を冷やしたのか、一回戦の時よりもまともな動きになっていた(ただし、力押しな戦法は変わらず)。

 

こうして、エキシビションマッチに出場する5人のメンバーが決定したところで、一日目は終了。

続く二日目にエキシビションマッチが行われる事となった。

 

 

 

 

 

 トーナメント(1年生部門)終了後のとある一室。

簪、セシリア、弾、鈴音、箒の上位入賞者5名は千冬に呼び出され、明日のエキシビションマッチの打ち合わせを行う事となった。

 

「さて……まずは上位入賞おめでとう。

これから諸君には明日のエキシビションマッチでの対戦相手を決めて貰うわけだが、

まずはこれから配る紙に対戦を希望する相手を書いてもらう。

なお、希望する相手が被ってしまった場合、1位の更識から優先とする。

同率の五反田、オルコット、鳳は不本意かもしれんが被ってしまった場合じゃんけんで決めてもらう。

あと、一応更識以外のものは第3希望まで挙げておくように」

 

 一通りの説明を終え、千冬は簪達に紙を配り、受け取った紙を5人はそれぞれ真剣な表情で見つめる。

 

(魔理沙と戦うのも捨てがたいけど、

ココはやっぱり、お姉ちゃんとの差を確かめるためにも……)

 

(あの人が戦っている所は殆ど見た事がありませんが、

一夏さん達の言う最速のスピードを持つというのであれば、私の射撃がどこまで精密なのか試すのも有りですわね)

 

(俺が指名する相手は決まってるぜ!)

 

(う〜ん、誰にしようかなぁ?)

 

(あの時の借りを返してやる!

だが、他の奴に取られた時は……コイツにしておくか)

 

 5人はそれぞれそれぞれの思いを胸に自分の希望する対戦相手の名前を書いていく。

やがて全員が作業を終えた後、千冬の手で用紙が回収され、千冬はそれに目を通す。

 

「ふむ……ほぼ重複は無いが、篠ノ之と鳳の希望が被ってしまったな。

篠ノ之、悪いがお前には第二希望の相手と対戦してもらうぞ」

 

「…………分かりました」

 

 やや不満げな表情を僅かに浮かべるも、箒は何も言わずにこれを了承。

この時点で、エキシビションマッチの対戦カードが決定した。

 

 

 

 

 

『エキシビションマッチの組み合わせが決定しました。電光掲示板をご覧ください』

 

 対戦カードの発表を残すのみとなった会場(アリーナ)に流れるアナウンス。

それを耳にした観客達は待ってましたとばかりに電光掲示板を凝視する。

簪の姉でもあるIS学園生徒会長・更識楯無もその一人だ。

 

(簪ちゃんは、誰を指名するの?

やっぱりあの霧雨魔理沙って娘かしら?

他に考えられるのは……以前に対戦した十六夜咲夜とか、同じクラスの魂魄妖夢ぐらい……。

織斑一夏……まさかね、私に勝った相手に、態々勝ち目の無い戦いを挑む筈無いし……。

ああもう!考えてると妙にイライラするわ!!

あの訳の解らない連中が来てから調子狂わされっぱなしよ。私らしくない……)

 

 乱れる思考を頭を振って無理矢理正常に戻す。

川城重工の面子……特に簪と一番仲の良い魔理沙の顔を思い浮かべると妙に心の中に何とも言い難い不快感が込み上げてくる。

簪は彼女のお陰で明るくなった。それは解っているし感謝もしている。

だがそれ以上に簪と魔理沙が近付くのが気に入らない。

まるで簪が取られてしまうような気さえしてくる。

勿論簪は誰のものでもないという事は楯無も理解している。

だが理解はしていても納得が出来ないのだ……。

 

(あの連中、本当に何者なの?

一人一人が国家代表……いえ、それ以上の戦闘力を持っているだけでも異常だというのに……。

いえ、何よりおかしいのは、そんな化け物みたいな集団が何の野心も持たず、今の今まで日本の辺境に隠れ住んでいたなんて。

あれだけ強いなら男女汎用ISスーツを開発しなくたって成り上がる事なんて十分可能なのに……。

その上、全員の経歴に何の不明点も無い…………本当、訳が解らないわ)

 

 堂々巡りになってしまいそうな所で楯無は一度思考をストップし、取り敢えずは当初の目的である対戦表を見ることに専念する。

 

「え……う、嘘!?」

 

 直後に絶句し、驚愕する楯無。

彼女の予想とは真逆の組み合わせがそこにあったのだ。

 

 

第1試合

篠ノ之箒 VS 東風谷早苗

 

第2試合

セシリア・オルコット VS 射命丸文

 

第3試合

鳳鈴音 VS 魂魄妖夢

 

第4試合

五反田弾 VS 紅美鈴

 

第5試合

更識簪 VS 織斑一夏

 

 

「どうして、よりにもよって……」

 

 対戦カードの結果に騒ぐ観衆の中、楯無の苦々しい呟きが虚しく消えていった。

 

 

 

 

 

 その日は対戦カードの発表で終わり、生徒達はその場で解散となった。

一般生徒達は寮に戻って明日の試合観戦を逃さないため休むのみだが、簪達5人はそうはいかない。

明日の試合開始お時間ギリギリまで、自分の対戦相手の対策を練る事に努めなければならない。

何せ相手は国家代表をも上回る猛者の集まり、生半可な特訓や対策では一矢報いる事さえ敵わない…………。

 

 

 

「良いか?相手がその蹴り繰り出してきたら是が非でもその脚を掴め!そのためなら多少SEを削られたって良い」

 

「ああ!」

 

 弾は一夏から新たな体術を学び、技のレパートリーを増やし……

 

 

 

「また姿勢が乱れていますよ!」

 

「アグぅッ……ま、まだまだ……、

私の集中力はこんなものではありませんわ!」

 

 セシリアは椛監督の下、時折肩を叩かれながら座禅を組んで精神統一で集中力を高め……

 

 

「反応がまだ遅いです!

一夏さんの攻撃はもっと素早く動かないと速攻でやられますよ!!」

 

「ハァ、ハァ……解ってる!」

 

 簪は美鈴からの攻撃を避け、反応速度を養う。

 

 

……エキシビションマッチまで、あと僅か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も知らぬ秘密基地……その中で篠ノ之束は無数のモニターを無表情で睨みつける。

 

「箒ちゃんのお相手は守矢の巫女、か……あれ、巫女だっけ?それとも現人神だっけ?

ま、いっか。どーでもいい事だし。

それよか……この巫女が箒ちゃんに変なこと吹き込まなきゃ良いけど。

ただでさえあのひんにゅー(鈴音)が余計な説教たれやがったせいで箒ちゃんのメンタル傷つきまくりなのに。

蛙と蛇に仕える爬虫類巫女が……私の箒ちゃんに何吹き込もうとしてんだ?」

 

 無表情が徐々に不快感を覗かせるものに変わり、束はモニターに移る早苗の顔に『ペッ』と唾を吐きかける。

 

「……一応、保険は掛けとかないとね」

 

 不意に束はニヤリと口元を歪めてあるものを手に取る。

それは『Jealousy』と書かれた薬品入りの試験管、そして一個のUSB……。

 

「失礼します。

……束様、食事が出来ました」

 

 そんな時、不意に手に丼と箸を持ったくーが室内に入る。

 

「んー、今日のメニューは?」

 

 くーの声に束は顔を普段のお気楽なものに戻す。

最も食事自体に大した興味は無いらしく、丼には一瞥すらしていないが。

 

「カツ丼です。

ノエルが作りました。美味しいですよ」

 

「ふーん、フランス人の癖に日本食ねぇ……あ、美味しい」

 

「彼女、日本通ですので」

 

 暗いラボの中、そんなミスマッチな一幕が展開される中、モニターに移る箒は一心不乱に竹刀を振り(回し)続けていた。

彼女は自分の身に大きな異変が近づきつつあることを知る由も無い。

 




前話のレミリアの年齢を修正しました。

また、pixivにノエルのイメージ画像をアップしてますので、まだ見ていない人は是非見に来てください。

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