東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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鈴ちゃん大活躍の回です。

推奨BGM・在中国的戦闘


良い女の意地(後編)

 箒と鈴がそれぞれの試合を終えた後もトーナメントは順調に進む。

 

『試合終了――――勝者 五反田弾』

 

 第7試合、弾は先の鈴と同様に快勝を決める。

既に第4試合は簪、第6試合はセシリアが制し、武術部メンバーは全員二回戦進出を決めた。

 

「ちょっと良いかしら?」

 

「ん?……誰?」

 

 突然初対面の女子から弾は声を掛けられる。

 

「二回戦でアンタと当たる3組の奏衣杏子(かなでい あんず)よ」

 

(奏衣……どっかで聞いたような……誰だっけ?)

 

 奏衣杏子……彼女は3組の代表補佐であり、クラス対抗戦にて文に瞬殺された一般生徒である。

 

「これから一回戦をサクッと決めて、その後は二回戦でアンタ、準決勝と決勝で他の二人を片付けてあげるわ。

そして、私こそが1年最強だって証明して見せる……!」

 

 そう言い残し、奏衣は控え室を後にして試合へ望むが……。

 

 

 

十数分後

 

「ふえぇぇぇぇ〜〜〜ん(泣)」

 

 一回戦第八試合、奏衣杏子は…………普通に負けた。

 

(カッコ悪……)

 

 部屋の隅で膝を抱えながら泣く奏衣の姿に、弾は内心でかなり容赦の無い評価を下した。

ある意味、それを口に出さないのがせめてもの優しさだろう……。

 

言っておくが、この奏衣杏子は……単なる出オチのネタキャラである。

今後活躍とか再登場とか、そういう予定は全くありません。悪しからず。

 

 

 

 

 

『これより、2回戦第1試合・篠ノ之箒VS鳳鈴音の試合を行います』

 

 そして戦いは2回戦へと移り、箒と鈴音はアリーナの中央にて互いに向かい合って睨み合う。

 

「ねぇ…アンタってさ、接近戦が十八番なのよね?全国大会優勝らしいし」

 

 試合開始の合図を間近に控え、不意に鈴音は箒に問いかける。

ただし、それはただ単に質問しているというよりは挑発を交えた口調だが……。

 

「だったら何だと言うんだ?後ろに逃げながら射撃で攻撃する臆病な戦法で戦う気か?」

 

 そんな鈴音に対して箒はあからさまな皮肉で返す。

ところが、箒の皮肉に対して鈴音の顔に浮かぶ表情は怒りではなく、笑みだった。

 

「逆よ。アンタが接近戦をお望みって言うならこっちも接近戦で戦ってやるわよ。

私も接近戦(こっち)の方が最近得意になってきてるから」

 

 そう返し、鈴音は静かに身構える。

しかし武器は展開しない。美鈴から教わった徒手空拳の太極拳をベースとした構えだ。

 

「貴様……!私を嘗めているのか!?」

 

 鈴音の発言と行動に、箒はかつて自分に防具無しで戦いを挑んだ妖夢の姿をダブらせる。

もう既に2ヶ月近く経っているのに未だに(逆)恨みを忘れていない辺り執念深いというかしつこいというか……。

 

「そうよ、嘗めてんのよ!悪い?」

 

「なっ!?」

 

 即答で肯定してみせる鈴音に箒は絶句し、やがて顔を真っ赤にする。

最早怒りの余り出す言葉が見つからない状態だ。

 

「私が嘗めプレイして勝てば流石のアンタも自分の思い上がりが少しは理解出来るでしょ?

そんなに自分が強い正しいって言うなら私に本気出させて勝ってみせなさいよ」

 

「貴様…………もう許さん!!」

 

『試合開始!』

 

 鈴音の挑発に、ただでさえ低い箒の沸点は限界を突破し、試合開始直前にも拘らず今にも襲い掛かりそうなほどに殺気立つ。

そんな時とほぼ同時に試合開始時間が来たのは不幸中の幸いかもしれない。

 

「ダァアアアアアアアァーーーーーーーーッッ!!!!」

 

 開始の合図と全く同時に刀を構え、面打ちの要領で鈴音に襲い掛かる箒。

だが、鈴音は臆する事無く迫る刀を見切りそれを回避してみせる。

 

「避けるな負け犬が!!」

 

 回避された事に苛立ちつつ、箒は連続して刀を振るい続ける。

 

(まず、地に根を張るようにしっかり体勢を整え、相手の攻撃をしっかりと見る事)

 

 箒の悪態を交えた連続攻撃に対し、鈴音は美鈴からの教えを思い出すことに努め、箒の悪態を聞き流しながら回避に専念する。

 

「糞が!いつまで逃げてるんだ!?」

 

「逃げるのだって立派な戦法でしょうが!

我武者羅に突っ込んで美鈴さんと戦った時の二の舞なんて御免よ!」

 

 箒の罵倒を正論で返しながら鈴は的確に箒の斬撃を捌いていく。

 

「あんな腑抜け面との負け戦なんか参考になるか!」

 

「アンタ、それ弾の前で言ったら殺されるわよ……」

 

「うるさい!死ねぇぇっ!!」

 

 怒りに身を任せ、箒は一気に勝負を決めようと刀を大きく振りかぶる。

その時、遂に鈴音は動いた!

 

「貰った!」

 

 そこから先は殆ど一瞬だった。

箒が刀を振り下ろすより前に刀を白刃取りで掴み、同時に箒の顔面に膝蹴りを叩き込む!!

 

「グガァッ!?」

 

 鈴音の膝は綺麗に箒の鼻っ柱に入り、シールドを通してその衝撃が諸に伝わって箒の鼻から鼻血が噴き出す。

 

(大降りになったときこそカウンターのチャンスってね。

そして、相手のバランスを崩したときこそ一気に畳み掛けるチャンス!)

 

 美鈴からの教えを活かし、鈴音は鼻血を出してふらつく箒の左腕を掴み、一気に関節を捻り上げる。

 

「グアアァァッ!!」

 

「まだまだ……!」

 

 続けざまに今度は左肩を極め、更には右脚に蹴りを入れて痛めつける。

 

「ガッ!アグゥッ!?」

 

 そこから更に、まるで舞を踊るかの如く次々に至る部分の関節を極められ、箒は苦悶に満ちたうめき声を上げる。

 

「美鈴さん直伝……」

 

 そしてフィニッシュに残った右腕の肘の関節に掌底を叩き込む!!

 

「ギャァァァァッ!!」

 

「心山拳体術・老狐の舞!!

…………どうよ?アンタが馬鹿にした人(美鈴)の技に痛めつけられた感想は?」

 

「う……ぐ……こ、こんな……」

 

 全身の関節を痛めつけられ、まともに立つことさえ儘ならない箒を見据え、鈴音は静かに、しかししっかりと脚に力を入れて構える。

 

「これで、とどめ!セヤァァーーーーッ!!」

 

「グボァッ!!」

 

 気合一閃……その言葉が似合う掛け声と共に繰り出される鈴音の回し蹴り。

関節を痛めた箒に避ける術など無く、鈴音の華麗な蹴りは箒の顔面に叩き込まれた!!

 

『篠ノ之箒、試合続行不可―――――勝者・鳳鈴音!』

 

 鈴音の一撃にKOされ、アナウンスは鈴音の勝利を告げた。

 

「やっぱりさ、アンタ弱いわ」

 

 無様に転がる箒を見下ろし、鈴音は静かにそう呟いた。

直後に観客席から鈴音への歓声が溢れるのは、これより約数秒後の事である。

 

 

 

 

 

 




次回予告

 2回戦を順調に突破し、トーナメントも準決勝という局面に入る。
そこで実現する武術部員同士の戦い……セシリア・オルコットVS五反田弾。
果たしてこの二人の戦いの行方は?

次回『オールレンジVSマルチウェポン』

「「計画通り……!」」


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