東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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魔性の力を打ち破れ!!一夏と椛の鉄拳!!(後編)

 一夏とラウラが対峙する頃から遡る事数分前、アリーナでの異変を察知した魔理沙達幻想郷の面々、それに加え教師陣と生徒会長の更識楯無を初めとした2~3年生の専用機持ちはアリーナの前でシールドに遮られ、アリーナへの侵入を阻まれていた。

 

「ダメです!ちょっとやそっとの攻撃じゃビクともしません!!」

 

 嘆くように声を上げ、真耶は臍を噛む。

守るべき生徒が中に取り残されているのに何も出来ない自分が、真耶にとっては何よりも恨めしく感じていた。

 

「全員下がれ!私のマスターキャノンの最大出力で!!」

 

 バーニングマジシャンを装着し、魔理沙は地に足をつけて身体をしっかりと固定し、照準を合わせる。

 

「皆離れてろ!下手すると巻き添え喰らっちまうぜ!!」

 

 周囲の人間に避難するように勧告し、魔理沙は引き金に掛けた指に力を込める。

 

『リミッター解除、モードを試合用から戦闘モードに移行……』

 

 バーニングマジシャンから流れる無機質な機械音声。

それを聞きながら魔理沙は目を鋭く細める。

 

「行っけぇぇーーーー!!」

 

 そして凄まじい破壊力を持つ極大のビームが放たれ、バリアに直撃してそれを突き破った……ように見えた。

 

「!?……ヤバイ!!」

 

 突然何を思ったのか、魔理沙はビームの軌道を慌てて逸らす。

結局、狙いを大きく外されたビームはアリーナの外壁を抉るのみに留まり、ビームは遥上空へと飛んでいった。

 

「ちょっと、どうしたのよ?折角バリアを突破したのに……あ!」

 

「突破?コレを見てそんな事言えんのか?」

 

 魔理沙の思わぬ行動に一瞬非難の視線を向ける楯無だったが、すぐに状況を察して口を噤む。

 

「何これ?……バリアが直ってる?」

 

「バリアを破る攻撃は防がず素通りさせてアリーナに風穴を開けさせるように仕向ける……。器用なバリアだこと」

 

 種明かしをするとこうだ。

魔理沙のマスターキャノンはバリアを突破し、破壊できるだけの攻撃力はあった。

だが、発射されたビームがバリアに直撃したと同時にバリアはマスターキャノンのビームに合わせて自ら風穴を空けたのだ。

勢いが相殺されずに飛ぶマスターキャノンのビームの威力は当然落ちることなくアリーナを砲撃するので、もしも魔理沙がこの事実に気づかなかったら……。

 

「あのまま撃ってたら中にいる一夏や簪達もドカンって訳だぜ……」

 

 冷や汗の混じる魔理沙の言葉に楯無は顔を青くする。

危うく妹が味方の砲撃で吹き飛ばされる所だったなど、考えただけで身の毛がよだつ……。

 

「でもアリーナのバリアにこんな機能は無い筈ですよ!」

 

「これはアリーナのバリアではないわ」

 

 レミリアと魔理沙の分析に真耶は反論するものの、背後から現れたアリスが口を挟む。

 

「アリーナ周辺を調べてみたけど、至る所にバリアの発生装置が見つかったわ。ただ、それ全部バリアの中なんだけどね。無理に砲撃で破壊すれば間違いなくアリーナは崩壊。中の人間もろとも潰れてしまうわ」

 

 アリスから知らされる新たな悪い情報にその場にいる全員を沈黙が支配する。

 

(だったら私のミストルテインの槍で一点突破すれば……)

 

 一方、会話を余所に楯無は思考を切り替えて別の策を思いつくが……。

 

「一点突破はもっと無謀よ。仮にバリアを破れるとしても、魔理沙の時と同じ方法で受け流されるわ。そして無防備に身体半分入った状態でバリアが閉じられたら……どうなるかは言わなくても解るでしょ?」

 

「う……(確かに、あの反応速度でビームの太さにあわせて開閉するバリアでは……)」

 

 心を読まれたかのように飛び出すアリスの指摘に楯無は黙り込む。

流石に絶対防御があるとはいえ、目の前のバリアの展開に巻き込まれればISごと真っ二つにされかねない。

 

「そんな……それじゃあ、私達は指を咥えているしか出来ないんですか!?」

 

 真耶は悲痛な声を上げ、打つ手を思い浮かべることが出来ない自分に苛立ち、唇を噛み締める。

 

(簪ちゃん……このままじゃ簪ちゃんが……)

 

 そしてそれは楯無も同じ事だった。

自分は仮にも生徒会長であり、簪の姉なのに……今この時に何も出来ず、妹を守れない自分が何よりも憎かった。

 

「……一つ方法があるわ」

 

 だがそんな空気を吹き飛ばす者がいた……レミリアだ。

 

「品の無い原始的な方法だけど……上がダメなら下からいけば良い。そこまでバリアが伸びていなければの話だけどね」

 

「……地中!?」

 

 レミリアの言葉に勘の良い者はすぐにその意図に気付き、それぞれその《行動》に適した武装を展開する。

 

「文、内部の一夏と千冬に連絡を、アリスは周辺の警戒、後はそれぞれ得意分野を活かして穴を掘りなさい!敵の妨害と小分けでの避難を想定して穴は複数掘って!!異論は無いわよね、山田教諭?」

 

「か、構いません。私達も作業に役に立つ道具を用意します!」

 

 レミリアの外見からは想像も付かない程の完成度の高い指揮に周囲の者達は全員彼女が一年生だという事実も忘れて作業に取り掛かった。

 

(掛かる時間は早くて数十分。それまで持ちこたえるか、片を付けるか……。頼んだわよ一夏、千冬)

 

 

 

 

 

 一夏と千冬が文からの連絡を受けた頃、救援を求めて退避していたセシリア達だったが、彼女達もまた通路内で無人機2機と出くわし、交戦を余儀なくされていた。

 

「クッ!もう少し広い通路を選ぶべきでしたわ……こう狭いと、ライフルとビットでは……」

 

 後衛を務めるセシリアが愚痴るように言葉を漏らす。

元々広範囲の攻撃をベースにしているセシリアのブルーティアーズに通路という狭い空間は機体の性能を十分に発揮できない悪環境だった。

そのため、必然的に弾と簪が前衛、セシリアはその援護という図式が出来上がるという流れになっていた。

 

「クソ!コイツら思ったよりパワーがあるぜ……一応負ける気はしねぇけど、この状況じゃ……」

 

「ビーム砲を使わないのはありがたいけど、流石にこうも足枷があると……」

 

 前衛を務める弾と簪はそれぞれが敵と鍔迫り合う。

不幸中の幸いか、現在交戦している無人機は先の対抗戦とは違い、ブレードとマシンガンで武装し、耐久力がアップした白兵戦仕様のものとなっているが、それでも弾達が遅れを取る程の相手ではない。

だが、弾たちには決定的な足枷が存在した……

 

「おいお前ら!いつまでそうやってるんだ!?助かりたいなら俺達を手伝え!!」

 

「い、嫌ぁ!助けてぇっ!!」

 

「ごめんなさい!許して!!もう二度と悪い事なんてしません!!男を差別したりしませんからぁ!!」

 

「私生まれ変わって良い子になります!まじめに勉強します!!だから命だけはぁっ!!」

 

 弾の怒鳴り声にも反応せず、襲撃メンバーはガタガタと震えて泣き叫ぶだけで全く動かない。

いや、恐怖で体中が竦んで動けないと言ったほうが正しいのだろうが、どっちにせよ弾達にとってはとんだ足手纏いでしかない。

 

「ハァ、ハァ……コイツら、あんだけ目茶苦茶な事言いながら襲撃かけといていざと言う時にこの様かよ!?」

 

「クッ……同感。これ、無事に終わったらこの人達全員から有り金巻き上げても罰当たらないよね?」

 

 息を切らしながら悪態を吐く弾と簪。

震えて戦力にならない女達を守りつつ無人機と戦い、更には訓練時から連戦続きで疲労もピークに達しつつある弾達にとって3対2とはいえ、戦況は非常に厳しいと言わざるを得ない。

 

「っ!……何か来ますわ!」

 

 センサーが複数の機影を捉えたのを確認し、セシリアは声を上げる。

一瞬弾と簪は援軍が来たのかと期待するが……。

 

「て、敵ですわ!しかも背後から2機!!」

 

 セシリアのやや悲鳴混じりな凶報に弾と簪は揃って表情(かお)を顰める。

唯一優勢だった人数の多さが逆転されては最早勝ち目は絶望的だ。

 

「は、挟み撃ち……このままじゃ……」

 

「どうすりゃ良いんだよ……畜生!」

 

 前門の虎、後門の狼とでも言うべき状況に三人の表情は徐々に焦燥の色が浮かんでいく。

 

「っ!?……また機影?これは、打鉄!?」

 

 崖っぷちの状況の中、セシリアは再び声を上げる。

その直後、三人は別の意味で驚愕する事になる。背後に迫っていた無人機が一機、突如バチバチと火花を走らせて崩れ落ちたのだ。

 

「な、何だ……?」

 

「オルコット、更識、五反田……よく持ち堪えてくれた。後は私に任せろ」

 

「織斑先生!!」

 

 そして崩れ落ちた無人機の先から、身に纏う打鉄を返り血のようにオイルで汚し、刀を抱えて仁王立ちする千冬の姿がそこにあった。

 

「言いたい事は色々あるが、まずはこいつらの大掃除だな。……全員伏せていろ。10秒で片付ける」

 

 有無を言わせぬ眼光でその場にいる全員を従わせ、千冬は残り三機の無人機と対峙する。

もちろん無人機もただ黙ったまま立っている筈もなく、それぞれがマシンガンとブレードを構えて千冬に攻撃を開始するが……。

 

「遅い!」

 

 まるで素人のパンチを避けるボクサーの如く、3機からの集中攻撃を軽々とかわし、千冬は無人機に接近、すれ違いざまにブレードを振るい、無人機を1機斬り裂いて見せ、無人機に深い傷を刻み付ける。

直後に千冬は傷を負わせた無人機を抱え、対面の無人機に投げつけた。

 

「終わりだ!」

 

 そして仕上げとばかりに残り1機の無人機をブレードで器用に一本釣りの様に引っ掛け、重なり倒れている2機の無人機に叩き付けた。

 

「ハァアアァァァァッ!!!!」

 

 そして雄叫びと共に千冬は高々と飛び上がり、ブレードをしっかりと握り締めて固定しながら急落下、そのまま無人機3機をまとめて串刺しにして見せた。

 

「……フンッ!」

 

 とどめを確認し、千冬は3機の無人機を纏めてブレードに刺さったまま引き上げ、壁に投げ飛ばしてしまった。

投げ捨てられた無人機は壁を突き破ってアリーナの外へ放り出され、そのまま機能を停止したのだった。

 

「す、凄ぇ……」

 

「こ、これが初代ブリュンヒルデ……織斑先生の力……」

 

「で、でも、昔ビデオで見た試合より強いんじゃ……」

 

 圧倒的な千冬の強さを前に弾達3人は呆然としながらそう口にするのがやっとだった。

 

「昔より強い?当たり前だ。……今の私は現役時代より強いからな」

 

 余裕と頼もしさを感じさせる笑みを見せ付け、千冬は弾達へと歩み寄ったのだった。

 

 

 

 

 

 そして場所は変わりアリーナ中央。

椛とラウラの戦いに乱入し、ラウラの凶刃を止めた一夏はラウラと睨み合いを続けていた。

 

「本当……良いタイミングで来ますよね、一夏さんって。妖夢さん達が惚れるのもなんか納得しますよ」

 

「そんだけ軽口が叩けるなら心配の必要は無さそうだな。……あとは任せとけ、コイツは俺がキッチリ引導を渡す」

 

 傷ついた椛を一瞥し、一夏はラウラに向き直る。

対するラウラは憎悪に満ちた瞳で一夏を射殺すように睨む。

 

「織斑、一夏ぁぁァァっ!!」

 

 余裕すら見せる一夏の態度が気に食わないのか、ラウラは激昂しながら一夏をAICで捕らえようとするが……。

 

「そらっ!」

 

「うわっ!?」

 

 前もってラウラの動きを察知していたかのように一夏は足元に転がっている粉々に砕けている瓦礫を蹴り上げ、ラウラの顔に浴びせる。

 

「ぐ……下らん真似を!」

 

「効率的な行動を取っただけだ。批判される謂れは無い」

 

 顔に掛かった砂埃を手で払い落としながら非難するラウラを一蹴して一夏はラウラと距離を取り、再び構えなおす。

 

(……とはいえ、ちょっとやそっとで倒せる相手じゃないな。追加された武器全部使って叩くしかないか)

 

 ラウラが纏うISから放たれる禍々しくも凄まじい魔力を間近で感じ、一夏は鋭く目を細めて表情をより真剣なものに変える。

 

「お前さえ……お前さえいなければぁぁっ!」

 

 視界を回復させてすぐにラウラは臨戦態勢を取り、怨嗟の声と共に一夏めがけてレールカノンの砲撃を見舞おうとする。

 

(速い!)

 

(私の時より威力とスピードが上がっている!?)

 

 紙一重で回避する一夏、そして後方から観戦する椛はラウラの攻撃に内心戦慄を禁じえない。

ラウラは、正確に言えば彼女の愛機シュヴァルツェア・レーゲンの戦闘力は確実に向上している。

 

「貴様がァァぁぁっ!!!!」

 

「!?……うぐぁっ!」

 

 回避した先にラウラは文字通り目にも止まらぬ速さで先回りし、一夏にプラズマ手刀の一撃を見舞う。

間一髪で反応して一夏は身体を宙に浮かして魔力を腕に集中させてガードすることによって、クリーンヒットを避けるが受けたダメージは決して低くはない。

下手をすれば先の椛同様腕がへし折れていただろう。

 

「こりゃ、とてもじゃないがISの武装でどうこう出来る相手じゃないぞ……仕方ない!!」

 

 軽く舌打ちした直後、一夏は体中に魔力を循環させ、己の肉体を強化する。

 

「いくぜ!」

 

 気合と共に一夏は踏み込み、先程とは比較にならない速度でラウラに接近し、拳を繰り出した。

 

「ぐぅっ!!」

 

 咄嗟にプラズマ手刀で応戦したラウラだったが、一夏の勢いは止まらず両者共にその場に仁王立ちしたまま鍔競り合う形となった。

 

(こ、これは……レーゲンのパワーと互角だと!?)

 

 一夏とダークネスコマンダーのパワーにラウラは思わず驚いてしまう。

椛との戦いで思わぬパワーアップを果たし、最強のISに進化したと思っていた自分の専用機と互角に鍔迫り合えるなど思っても見なかったのだ。

 

「クソッ!」

 

 苛立たしげに悪態を吐き、ラウラは鍔迫り合いの体勢を解き、レールカノンを展開して至近距離から一夏に見舞おうとする。

 

「遅い!」

 

 だがその手は悪手だった。

いくらシュバルツェア・レーゲンがパワーアップし、それに伴い機体の影響でラウラ自身の集中力や感性も高くなっているが、身体能力と反応速度はそれに比例しているという訳ではない。

身体能力と反応速度という面では魔力で肉体を強化している一夏には敵うはずもなく、レールカノンの銃身は発射体勢を取る前に掴み取られ、押さえられてしまう。

 

「我流・火縄封じ……!!」

 

「ガハッ!!」

 

 直後にラウラの顔面を一夏の裏拳が捉える。

火縄封じ……元は近距離戦において魔理沙のゼロ距離マスタースパークを封じるために一夏が昔プレイしたゲームを基に編み出した体術だ。

 

「クゥ!一発喰らった程度で……!」

 

「一発喰らわせれば、追撃には十分だ!!」

 

 一夏の攻撃をもろに喰らって出来たラウラの隙……それを一夏は見逃さない。

間髪入れずにラウラ目掛けて足蹴りを叩き込む!

 

「ぐぁぁッ!!」

 

 強烈な蹴りにラウラは堪らず悲鳴を上げ、身体は後方に吹っ飛ばされる。

 

(く、くそぉ!……だ、だが奴は致命的なミスを犯した!!)

 

 ラウラは口元に笑みが浮かべ、そのまま先程展開したレールカノンを構える。

 

(奴の射撃武器は腕を真っ直ぐ伸ばす必要がある!それはつまり射撃戦に切り替える瞬間、奴の攻撃が緩むという弱点。そこを突きさえすれば!!)

 

 過去の試合映像と資料から得たダークネスコマンダーの特性を見抜いていたラウラは思わぬ形で到来したチャンスを決して見逃さない。

格闘から射撃へ切り替えるその一瞬を狙い、レールカノンをぶっ放した!

 

「だから、お前は甘いんだよ!!」

 

 レールカノンの砲撃を見据え、一夏はDガンナーを展開して腕を曲げたままジャブを繰り出すかのように荷電粒子の弾丸を連射してみせた。

 

「何ぃ!?」

 

「いつまでも欠点を放っておくかよ!」

 

 驚愕するラウラに、一夏は余裕の笑みを見せつけ、誇らしげに返す。

先日の聖蓮船での異変の折、一夏のダークネスコマンダーは追加武装と同時にDガンナーの改良を済ませていた。

元々Dガンナーにはジェネレーター接続の問題から発射時に腕を真っ直ぐ伸ばす必要があったが、にとり達河童によってその弱点が改良され、フルチャージでなければ腕を真っ直ぐ伸ばさずとも発射可能となり、更に連射性を向上させたのだ。

 

「くそぉ!何で……何で貴様なんかが!!」

 

 唯一優位に立てる筈だった射撃戦すらも一夏を追い詰める事が出来ず、ラウラは血が出るほどに唇をかみ締め、激昂しながら一夏目掛けてなりふり構わずに突っ込む。

 

「貴様がぁっ!!」

 

「チッ!」

 

 振るわれるプラズマ手刀を一夏は舌打ちしながらDアーマーで受け止める。

一方でラウラは憎悪をよりむき出しに力任せに押し込もうとする。

 

「貴様が!貴様さえいなければ!!貴様が生き返ったりしなければ!!私は教官の傍に居る事が出来たのに!!」

 

 極限まで達した怒りと激情にラウラは己の本音を全てぶちまける。

 

「…………それが、お前の本心かよ?」

 

 そう返した一夏の目は、ただひたすら静かで冷たく、しかしどこかに怒りを覗かせるようだった。

 

「それの何が悪い!教官は私の全てだ!!教官は私の家族になってくれたかもしれない人だったのに!!なのにお前がそれを奪った!弟というだけで!!私の方が教官の役に立てるのに!私の方がぁ!!!!」

 

「甘ったれんなぁぁーーーーっ!!!!」

 

 ラウラの言葉に一夏の瞳が一瞬で怒りに燃え上がる。

そしてそれに呼応するかのように一夏のDアーマーはラウラのプラズマ手刀を破壊し、そのままラウラを弾き飛ばした。

 

「なっ!?……ぐがっ!!?」

 

 直後にDアーマーの手がラウラの頭を鷲掴み、一夏はそのままラウラをアイアンクローに捕らえたまま投げ飛ばす。

ただ投げ飛ばすだけではない。LAAを用いてアームを伸ばし、ラウラの頭部を捉えたまま投げ、彼女をアリーナの壁に叩き付けたのだ。

 

「がはぁっ!!」

 

 体中に掛かる強烈な衝撃にラウラは肺の中の空気が一瞬全て排出されたような感覚を覚える。

 

「う…が……っ!」

 

 一夏は声にならない呻き声を上げるラウラを掴んでいるアームを引き戻し、再び目の前でラウラを睨みつける。

 

「笑わせんなよ、千冬姉以外を見ようともしないで、手前勝手な都合だけ叫んで、それで『千冬姉が自分の全て』だと?甘ったれるのも大概にしやがれ!!」

 

 体中に渦巻く激情を叩きつけるかのように一夏は再びラウラを投げ飛ばし、地面へ叩きつける。

 

「ガッ!」

 

「歯ぁ食いしばれ!!」

 

 とどめの一撃とばかりに一夏は飛び上がり、右拳に力を集中してラウラ目掛けて振り下ろす。

 

「私は…私はぁ!!」

 

 だが、ラウラはこの時まだ諦めてはいなかった。

全身の残った力を振り絞り、一夏の攻撃を寸での所で回避した。

 

「何!?」

 

 満身創痍の筈であるラウラによるまさかの回避成功に一夏は勢いを止めるのを一瞬忘れてしまい、Dアーマーの拳は地面に深々と突き刺さる。

 

「し、しまった!?」

 

「貰ったぁぁっ!!」

 

 まさにそれはラウラにとって千載一遇の好機だった。

腕が地面に突き刺さり、一瞬完全に身動きが取れなくなった一夏をラウラは見逃さず、遂に一夏をAICに捕らえた。

 

「やっと、捕まえたぞ!!」

 

「クッ!」

 

 狂喜に満ちた表情を浮かべ、ラウラはレールカノンを展開してゼロ距離から連射を叩き込んだ。

 

「グァァッ!!」

 

「フハハハ!!最後の最後で私の執念が勝ちを得た!!これで終わりだ!死ねぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 レールカノンを連射しながら狂喜乱舞するように叫び、ラウラは一夏の眼前に砲身を突きつける。

 

「……だから甘いって言ったんだよ」

 

 砲撃に晒される中、一夏はニヤリと笑みを浮かべる。

それもただの笑みではない。勝利を確信した笑みだ。

ラウラがその事実に気づいた直後、ラウラの背後の地面から何かが飛び出してきた。

 

「え?……ぐぁぁっ!!?」

 

 それはLAAのによって伸びたDアーマーの手だった。

遠隔操作で動かされたDアーマーの拳がラウラの背後に叩き込まれたのだ。

 

「ま、まさか……地中で、既に腕を伸ばして……」

 

 ラウラは全てを察した。

Dアーマーの腕が地面に突き刺さった際、既にDアーマーの拳はLAAで地面を掘り進んでいた。

AICで動きを止められるのはあくまでも目で視認し、イメージをしっかり把握できているものだけ。

地面に突き刺さったDアーマーの右腕、即ち一夏の右腕はその対象外だ。

 

「……お前が、千冬姉の事をどう思ってるかは解った。けどな、千冬姉とも他人とも向き合わないで勝手抜かすのは気に入らない。……キッチリ向き合ってから出直せ。それがお前のためでもある!」

 

 最後にそう言い、一夏は今度こそラウラにとどめの一撃を叩き込んだ。

 

「がはっ……」

 

 僅かに呻き声を漏らし、ラウラは遂に地面に倒れ伏す。

その表情は今までの狂気と憎悪とは違い、どこか穏やかさを感じさせるものだった。

 

「………はぁ、手間かけちまったな。椛、大丈夫か?」

 

 ラウラが倒れた事を確認し、一夏は一息吐いた後、椛の方へ歩み寄る。

 

「ええ、何とか……でも腕一本折れちゃってます。我ながら様ぁ無いですよ」

 

 椛は苦笑いしながら答え、立ち上がる。

一夏と椛はこの時、完全に安心していた。

事態は漸く収拾されたのだと、二人はそう信じて疑わなかった。

この時までは……

 

「ぐ……あ……うぁアアああああああああアアアアあぁっっぁぁっ!!!!!」

 

「「!?」」

 

 突然響き渡るラウラの悲鳴。

数分前にシュバルツェア・レーゲンが変化した時とは違い、今度は間違いなく悲鳴と呼べる叫び声だ。

 

「な、何アレ!?」

 

 思わず椛は声を上げる。

ラウラのシュバルツェアレーゲンは更に形を変えつつあった。

それも最早原型の名残すらない、正真正銘の異形の姿へと……。

 

「ち、違う……こんなの違う!私はこんな姿、望んでないのに……!!」

 

「ボーデヴィッヒ!ISを解除するんだ!!早く!!」

 

「で、出来ない……レーゲンが、言う事を、聞かない……い、嫌だ……何かが、私の中に……助け……」

 

 助けを求める声を最後にラウラの声は途切れた。

後に残ったのは異形の怪物と化したシュバルツェア・レーゲン。そしてそれと対峙する一夏と椛だけだ。

 

「ア゛ア゛ア゛ァァッッーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 異形のISは 言葉にもならぬ無機質な咆哮を上げる。

直後に、両腕が触手のように伸び、一夏と椛を襲った。

 

「グッ……さっきよりも感じる魔力が多い。完全に暴走しているのか!?」

 

「それより、このままじゃ中にいる彼女の身が危ないですよ」

 

 シュバルツェア・レーゲンだったものを前にして一夏達は戦慄しつつも、予断を許さぬ状況だという事だけはしっかりと理解する。

 

「椛、千冬姉達に暗号通信を送って退避してくれ。緊急用コード0だ」

 

「!……了解です」

 

 一夏の言葉に椛の表情が一瞬強張るも、椛は言われたとおり携帯端末から千冬達にメールを送る。

緊急用コード0……それは外界において能力、およびスペルを使用するという禁じ手だ。

 

「だけど、後半部分は拒否。私も戦います」

 

「おいおい、お前その腕で」

 

「足止めぐらいは何とかなります。それに、早く片をつけないとあの馬鹿軍人の命が危ないですからね。……さすがに、誰とも向き合えずに死ぬなんて、可哀相っていうか、見てられないっていうか……とにかく私も戦います!!」

 

 僅かに意地を張って見せ、椛は白蘭鋼牙を展開し、無事な左手で持って構える。

 

「……分かったよ。その代わり、一撃で決めるぞ!」

 

「分かってます!!」

 

 一夏も了承し、二人は臨戦態勢を取る。

そして少しの間間を置いて、椛が駆け出した。

 

「私が触手を引き付ける!一夏さんは本体を!!」

 

 襲い来る触手に、左手の剣だけで応戦する椛。

敵の一撃一撃は非常に重く、それを弾く椛の全身に強い負荷が掛かるが椛はそれを意に介さず、全身全霊の力で応戦する。

 

「だぁぁぁーーーーっ!!!!」

 

 雄叫びと共に椛の渾身の一撃が触手を弾き飛ばし、シュバルツェア・レーゲンに大きな隙が生じる。

 

「今です!!」

 

「よっしゃあ!!」

 

 椛の合図に一夏は気合と共にスペルカードをスタンバイし、シュバルツェア・レーゲンへと突貫していく。

だがその距離が残り数メートルに迫った時……

 

「!?」

 

 一夏は思わず絶句した。

シュバルツェア・レーゲンの胴体から更にもう一本の触手が生えたのだ。

後数メートル、そしてスペルカードを準備しているところを攻撃されては作戦は失敗してしまう。

一夏は身をかわして距離を取り直そうとするが……

 

「そのまま行って!!」

 

 だが、椛の一喝がそれを遮った。

椛は新たに生えた触手に飛びつき、そのまま自分の身体に巻きつけて触手の攻撃を防いだのだ。

 

「今です!!」

 

「《魔拳『貫掌』!!》」

 

 椛によって生じた隙を突き、一夏のスペルカードがシュバルツェア。レーゲンに叩き込まれる!

いや、正確に言えばそれは機体に対してではない。

絶対防御、機体の装甲……それらの全ての防御を打ち砕き、ラウラに直接衝撃を与え、シュバルツェア・レーゲンから押し出し、彼女の身体を解放したのだ。

 

「椛!」

 

 ラウラが解放され、すぐに一夏は方向を転換し、椛に巻きつく触手に向かう。

直後、Dアーマーの肘部から刃物が飛び出して触手を断ち切った。

追加武装の一つ肘部ブレード『聳狐角』だ。

 

「とどめは任せた!やれ、椛!!」

 

「《狗符『レイビーズ・バイト』!!》」

 

 触手から解放された椛から繰り出される牙を象った弾幕が放たれる。

 

「オ゛オ゛ォォォッッッ!!!!?!!?」

 

 弾幕はシュバルツェア・レーゲンを噛み砕くように襲う、文字通り完全に破壊し尽くした。

ラウラ・ボーデヴィッヒ専用機、シュバルツェア・レーゲンはたった今、完全に破壊されたのだ。

 

「ハァ、ハァ……終わり、ましたね」

 

「……ああ」

 

 全身から来る疲労感に椛はその場に座り込む。

一方で一夏は気絶しているラウラを抱え上げる。

アリーナの通路からは徐々に声が聞こえ始めている。どうやら外側での作業や無人機との戦いも終わりを迎えたようだ。

一夏はアリーナに入ってくる救助隊を眺めながら、この後の後処理に思いを馳せるのだった。

 

 




ダークネスコマンダー追加武装紹介

Dガンナー改
Dガンナー最大の欠点だった『発射時に腕を伸ばす必要がある』という問題を解決した改良型の射撃武器。
フルチャージでなければわざわざ腕を伸ばす必要が無く、連射性と速射性がアップしている。
しかし、その反面エネルギーの燃費も増えた。

肘部ブレード『聳狐角(しょうこかく)』
肘部に内蔵されたナイフ状のブレード。
フェイントや牽制に便利。


次回予告

 暴走した謎のシステムから解放され、自身が起こした現実に打ちのめされるラウラ。
そんなラウラに椛は、そして千冬は……

次回『向き合うべき時』

千冬「お前には、全て話す……私がお前に慕われる資格なんて無い、その理由を……」

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