東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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皆さん明けましておめでとうございます!!
今年もよろしくお願いします!!

今回は正月記念特別番外編・孤独のグルメとのコラボ第二弾です!!


番外編・万屋少年お手製の年越し蕎麦

 これは一夏達が外界に出て、IS学園に入学する約4ヶ月前の12月31日、大晦日の出来事である……。

 

 

 

午後6時30分

 

「はぁ〜〜、参ったなぁ……どこだココ?」

 

 車を運転しながら、俺(井之頭五郎)は一人愚痴る。

今年最後の商談を終え、晩飯を食うために店を探して適当に車を走らせていたら、いつの間にか見知らぬ森の中に居た。

 

「大晦日だってのに、晩飯抜きなんてシャレにならんぞ……ん?」

 

 視界の先に僅かだがうっすらと明かりが見えてくる。

助かった……こりゃあ僥倖だ。

 

「建物……だよな?」

 

 一軒家、というよりは小屋を改造して大きくしたような家が見える。

ご丁寧に看板も出ている。何かの店だろうか?

 

「え〜っと、『万屋・ORIMURA』?」

 

 おりむら……テレビで聞いた事がある名前だが、まさかなぁ。

 

 

 

 五郎が店の前に辿り着く数分ほど前。

 

「フフフ……遂に、遂に完成したぜ」

 

 目の前に置かれているものを見つめながら、一夏は不適に笑う。

 

「す、凄い……見ただけで最高の出来だというのが解るぞ」

 

「ああ。あとは持って行って向こうで仕上げれば……」

 

 完成したそれ(+α)を重箱に包み、一夏と千冬は厚着に着替えて外へ出る準備を整える。

そんな時だった……。

 

「ごめんくださ〜い」

 

 男の声がドアの外からノックオンと共に聞こえてきた……。

 

 

 

 店の中から声がしたので、人が居ると確信した俺は、ドアをノックして声を出す。

 

「?……はい。今出ます」

 

 中から聞こえてきたのは男の声、しかもかなり年若い少年のような声だ。

 

「すいません、今日はもう店じまいで……」

 

 出てきたのは15歳前後の少年だ。

少年は俺を見て少しではあるが目を見開き、驚いたような表情を浮かべだす。

 

「あ、すいません。ちょっと道に迷っちゃったんで道を教えてもらいたいんですけど……」

 

「(この人、迷い込んだのか?)……ああ、そうだったんですか。ここら辺は入り組んでますからね……。これから、神社に向かうんですけど、そこになら道に詳しい人が居るんで、一緒にどうですか?」

 

 何だか複雑になってきたけど……帰るにはそれ以外なさそうだし、仕方ないか。

 

「分かりました。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 一夏という名の少年の申し出に同意し、俺は少年の案内で彼とその姉と共に神社へ車を走らせる(といっても、元が入り組んでいる道なのでゆっくりとだが)。

だが、この女性って……。

 

「姉ちゃん、よく似てるでしょ?織斑千冬(ブリュンヒルデ)に」

 

「え、ええ。そうですね」

 

 本当にそっくりだ……本人なんじゃないのか?

いや、でもその人って行方不明だし……いや、逆にこんな山奥だから……。

 

「よく間違われます。名前も一緒だから特に」

 

「はぁ……」

 

 そこまで一緒だと本人だと思うなというほうが無理な気もするが……。

 

「大体、その人は弟さんが亡くなってるんです。私には弟が健在なんですよ。全く違います(うぅ……自分で言っててなんて白々しい……)」

 

「確かに、そうですね」

 

 千冬さんの言葉にとりあえず納得する。

まぁ、仮に本物だとしても、ココで暮らすだけの事情があるんだろう。

それを態々追求するのも野暮なものだろう……。

 

「あ、もう着きますよ。裏庭から入るんで分かり難いから注意してください」

 

 一夏少年の言葉に従い、俺は車のスピードを落としつつ、注意深く前方を観察する。

一分もしない内に、神社が見え始め、俺は目的地である神社に辿り着いたのだった。

 

 

 

「へぇ〜、道に迷って……けど、運が悪かったわね」

 

 庭に足を踏み入れた俺を待っていたのは巫女服を着た少女だった。

そんな彼女の視線の先には……。

 

「キャハハハ!」

 

「よっしゃあ!!もう一杯行ってみよーー!!」

 

 大宴会中だった……。

 

「こういう訳でさぁ〜〜、私も道案内どころじゃなくてさぁ……」

 

「あ、大丈夫ですよ。別に急ぎの用事があるわけでは無いんで、どこか宿泊所でも教えていただければ」

 

 年明けを見知らぬ土地で過ごすのはアレだが、背に腹は変えられない……。

 

「それはそれで悪いし……何ならココに泊まっていけば?食事は……見ての通り宴会中だから事欠かないし」

 

「え?……良いんですか?」

 

 かなりありがたい話だが、部外者の俺が宴会に参加というのはどうなんだろうか?

 

「良いのよ。どうせ皆飲んで騒ぐために来ただけの連中だし、おじさんも好きにしていきなって」

 

 何だかものすごい事になってきたような気がしてきたぞ。でも……

 

『ぎゅるるる……』

 

 腹の虫は正直……。

腹が減った…………。

 

 

 

 

「それじゃあ、申し訳ありませんが、お言葉に甘えて……」

 

「決まりね。じゃ、ゆっくりしていってね♪」

 

 こうして、俺の不思議な年越しが始まった。

 

 

 

 

 

 それにしても、周囲の人達は皆奇妙な服装や装飾品を着けた者ばかり……何かの仮装大会だろうか?

 

「ほら、おっちゃんも食えよ。美味いぜ!」

 

「あ、どうもすいません」

 

 三角帽子を被った金髪の魔理沙という少女が御椀に並々入った汁物を差し出してくれる。

ほぅ……さつま芋の味噌汁か、良いじゃないか。

 

芋汁

秋姉妹ご自慢の芋と野菜がたっぷり入った味噌汁。

これだけでも結構腹に溜まりそう。

 

「どれ……」

 

 早速一口飲んでみる。

 

(甘いな……)

 

 さつま芋独特の甘味が味噌汁に溶け込んで味噌のしょっぱさと絶妙に混ざっている。

だが、これがまた良い味だ。コレは良い、実に美味い!

 

「おーい、ミスティアの所から八目鰻貰ってきたぞ」

 

 芋汁を堪能していると一夏少年が皿に盛られた蒲焼の料理を運んでくる。

八目鰻……聞いた事はあるけど、食った事はおろか見た事すらない。

 

八目鰻の蒲焼

幻想郷で最も有名な料理の一つ。夜雀の妖怪、ミスティア・ローレライの営む屋台でお目に掛かる事が出来る。

ビタミンAが豊富でレバーのような食感が特徴。

 

「お!コレコレ!酒にはやっぱり八目鰻だよな!!」

 

 運ばれると同時に魔理沙は蒲焼を一つ手に取って豪快に齧り付く。

よし、それなら俺も……

 

「あむ……んっ!?」

 

 これは、思ったよりイケるぞ!?

レバーみたいな食感で好き嫌いが真っ二つに分かれそうだが、俺は嫌いじゃない。

彼女の言う通りきっと酒、特に日本酒とかに合うんだろうなぁ……。

う〜〜ん、酒が飲めない自分が何とも恨めしい。

俺ってつくづく、酒の飲めない日本人なんだなぁ……。

 

 

 その後も、鍋物やおつまみ系の料理など、様々な料理を堪能させてもらった。

思いがけずに厄介な事になったと思いきや、こんな風に賑やかな場所で年越しとは……まったく、事実は小説より奇なりとはこの事だろうか?

 

「お〜〜い、年越し蕎麦出来たぞーー!!」

 

 感慨にふけっていると一夏少年が境内全域に響き渡るような大声で蕎麦の歓声を告げ、蕎麦が配られていく。

年越し蕎麦……もう今年もあと十数分って所か。何だか例年通りの一年だったけど、年越しはかなり特殊な形になっちゃったなぁ。

けど、この賑やかでいて、尚且つ風情のある年越しは凄く貴重な体験だと思う。

 

「はい、蕎麦お待ち」

 

 お!良いタイミングで蕎麦到着。

……ん?これって……。

 

「これって手打ち蕎麦ですか?」

 

「ええ、一夏がそば粉から作ったんです。姉の私が言うと贔屓に聞こえるかもしれませんが、凄く美味いですよ」

 

 千冬さんの言葉に期待が高まる。

あの少年……若い歳の割に凄くハイスペックだなぁ。

 

年越し蕎麦

織斑一夏自信作、特製手打ち蕎麦。

具は葱と蒲鉾、お好みで書上げなどのトッピングも可能。

蕎麦はコシのある食感、出汁はシンプルながらも深い味。

今年最後の食事の締めにはピッタリ!!

 

「いただきます」

 

 香ばしい出汁の臭いに食欲を掻き立てられ、俺は蕎麦を口に含む。

 

「!!……美味い」

 

 思わず口に出してしまった。

目茶苦茶美味いぞ。これ、店出せるレベルなんじゃないのか?

結構満腹だったのに、いくらでも箸が進む……美味い、最高に美味い!!

 

「ああ゛ぁ〜〜……ごちそうさまでした」

 

 こうして、俺の今年最後の飯は最高の形で締めくくられた。

 

 

 

 さて、いよいよ年明けまで秒読み段階に入った。

 

「5…4…3…2…1…」

 

『明けましておめでとう!!』

 

 遂に午後12時を回って新年を迎え、皆それぞれ年明けを祝う。

何だか、見ていて穏やかな気分になってくるじゃないか。

 

(……あれ?)

 

 ふと気付くと、先程まで近くにいたはずの一夏少年と千冬さんがいなくなっている。

不思議に思って周囲を見回すと……

 

「あけましておめでとう、千冬姉」

 

「ああ、今年もよろしくな、一夏……んっ」

 

 会場の角で思いっきり濃厚な接吻をかましていた!?

俺は、夢でも見ているのだろうか?あの二人って姉弟だったんじゃ…………まぁ、恋愛は人それぞれ十人十色、今のは見なかった事にしておこう。

一宿一飯の恩もあるわけだし。

 

「今年は……騒がしい一年になりそうかな?」

 

 新年を向かえ、ワイワイガヤガヤと騒ぐ周囲を見つめながら、俺はそう呟いた。

 

 

 

「それじゃ、あとは道なりに進んでいけば山を下りられるから。そこから先は大丈夫でしょ?」

 

「はい、色々お世話になりました」

 

 翌日、霊夢という少女から道を教えてもらった俺は、車に乗って独り帰路に着く。

 

「不思議な場所だったな。でも……」

 

 良い所だった。一晩だけだが別世界の理想郷にいたような気分だった。

まるで夢みたいな話だが……。

 

「夢じゃないんだよなぁ……」

 

 宴会の終了間際、文と名乗った黒髪の少女が撮った宴会参加者全員の集合写真を眺めて、俺はそう呟いたのだった。

 

 

 

 これより数ヵ月後、テレビのニュースに織斑姉弟が映り、俺は驚愕と同時に納得したのは言うまでも無い。

あの二人、近親相姦なんだろうけど……幸せになってほしいと願う。




如何だったでしょうか?

次回からは本編に戻ります。
今後とも東方蒼天葬をよろしくお願いします!!

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