東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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ラウラ・ボーデヴィッヒ
武術部のプライド


 シャルロットの性別詐称と(偽装)自殺騒ぎから数日が経過し、騒ぎは一先ず落ち着いたものの、主に一年生の間では未だ重い雰囲気が漂いつつあった。

今の今まで華やかに見えていたISの世界の闇の一端を知り、今まで自分が抱いていたイメージとのギャップは多かれ少なかれ生徒達に影響を与えていた。

 

 

 

 そして、IS学園では……

 

「ドイツに戻ってください!アナタはこんな学園の教師で収まって良いような人ではない筈です!!」

 

 人気の無い通路でラウラは千冬に詰め寄っていた。

 

「この学園の連中はISをファッションとしか思っていない!そんな連中に何を教える事があるというのですか!?」

 

「……その認識を改めさせるのが私の役目だ。何度も言わせるな」

 

 ラウラの言葉に千冬はキッパリと答える。

 

「ラウラ、私を慕ってくれるのは嬉しいと思っている。だが、いい加減私だけでなく周りにも目を向けろ」

 

「教官!どうしたというのですか!?以前のアナタはもっと凛々しかった。なのにこの学園に来てからのアナタは……」

 

 千冬の態度にラウラは声を荒げる。

自分の知る千冬は今よりもずっと凛々しかった。

例えるのであれば世界でたった一つ、至高の刀のように触れる事さえ恐れ多い程に、ただそこに居るだけで威圧感のあるような存在だった(とラウラは認識している)。

なのに今は何だ?あの頃のような鋭い視線はなりを潜め、今ではただ優秀な教師程度でしかなくなっている。

 

「私には……無いんだ。……お前に教官と呼んでもらう資格も、慕ってもらう資格も……最初から無かったんだ」

 

「!?」

 

 千冬が一瞬だけ見せたその表情にラウラは驚愕する。

それは余りにも弱々しい、悲壮感を帯びた表情だった。

 

(あの時と、一緒だ……)

 

 ラウラは思い出す。訓練時代一度だけ、夜中に偶然こっそりと見た千冬の表情を。

あの時、千冬は一夏の生存を知らなかった頃……消灯時間を過ぎ、一人で部屋に居る時、一夏を失った悲しみを忘れられずに、ずっと声を押し殺して泣いていた。

涙の有無こそ違えど、あの時と全く同じ表情が今目の前にある。

 

「な、何で……何故なんですか!?何でそんな顔をするのですか!?」

 

 それをラウラは受け入れる事が出来ない。

自身の中の千冬の偶像が崩れそうになる事に対して必死で抗おうとする。

 

「織斑一夏(アイツ)の所為なのですか!?教官の名を汚した上に今更生き返って……なんであんな男に感化されなければいけないのですか!?」

 

「……アイツは私なんかよりずっと立派だ。私はアイツを守ってきたつもりでいたが……もう逆なんだ。私はアイツに守られっぱなしだ」

 

「っ!?」

 

 千冬の言葉にラウラは絶句し、そして唇を震わせる。

まるで現実を受け入れまいと抵抗するように……。

 

「アイツが誘拐されたのだって、私がアイツの安全を十全に確保しなかったのが原因。モンドグロッソの一件は言ってみれば私の自業自得だ。それにな……」

 

 一旦区切って千冬は再び口を開く。

そこから出た言葉は、ラウラにとって何よりも信じがたい言葉だった……。

 

「一夏はもう私など既に超えている。心も身体もな……。私はもう一夏には敵わないだろうな」

 

「…………え?」

 

 ラウラの時間が静止する。

超えている?誰が誰を?

織斑一夏が……自身が教官の恥さらしと断じたあの男が、その教官を超えている?

有り得ない……無敵の初代ブリュンヒルデが……自分にとって世界、いや宇宙最強の織斑千冬が敵わない相手がよりにもよってあの男などに……。

 

「私だけに囚われるな。その考えはいつかお前を不幸にする。……話はコレまでだ。教室に戻れ」

 

 静かにそう言い、千冬は背を向けて歩き出す。

その場には呆然と立ち尽くすラウラのみが残った。

 

「うそ、だ……嘘だ嘘だ嘘だ、嘘だぁっ!!」

 

 そして千冬が去って数分後、ラウラの叫びが通路内に木霊した。

 

 

 

 

 

「何かさ……一気に暗くなっちゃったわね」

 

 食堂のテーブルに腰掛け、鈴は頬杖を突きながら周囲を見回して呟く。

その向かいには昼食のカツ丼を掻き込む弾の姿もあった。

偶然にも昼食時間が重なった二人は旧友のよしみで相席していた。

 

「そりゃ、同じ学年の奴が自殺なんかしたんだ。暗くなるなってのが無理な話だろ。……けどさ、何も死ぬ事はないよな」

 

「まぁね……でもさ弾、もしもアンタがその手の事件とか騒ぎに巻き込まれたら、どうする?」

 

 淡々と返す弾に鈴は尋ねる。

 

「決まってる。俺は何をやってでも生きる」

 

 鈴の問いに弾は何の迷いも無く即答して見せた。

 

「俺は決めたんだ。糞ジジイと縁を切ったあの日から……必ず独立して、俺が蘭を立ち直らせてやるってな……。そして、あの糞ジジイに後悔させてやる……!!」

 

 普段は決して見せない弾の激しい怒りと憎悪に鈴は一瞬狼狽する。

鈴も弾の抱える事情はある程度知っており、彼の怒りを否定する事はしなかった。

だが、同時に血の繋がった者を憎む弾に何もしてやれない事に歯痒さを感じる。

鈴とて両親が離婚しており、片親と離れ離れの辛さを味わっているが、離婚した両親を恨んではいない。

だが、弾は肉親である事を差し引いても憎悪の感情が消えない程の怒りを抱いている。

そんな彼に対して、大した力になれない自分が恨めしく思えた。

 

「ごめん……嫌な事聞いちゃったわね」

 

「良いんだよ。事実なんだからな……」

 

 鈴の謝罪に弾は普段の調子に戻って答える。

数秒前までとは別人とも思えるほどの変わりようだ。

 

「それよか、鈴は武術部に入らないのか?お前だって代表候補なんだから、練習に着いて行けないって事は無いと思うんだが……」

 

 暗くなりかけた空気を戻そうと弾は話題を変える。

 

「う〜ん、考えなかったわけじゃないんだけどさ……自分を振った相手(一夏)が部長やってる部活に入るってのもねぇ……。ま、私は私のペースで腕磨くわよ。偶に美鈴さんに太極拳教えてもらってるし」

 

「なぬ!?…………ずるい」

 

「た、偶によ。あくまで偶に教えてもらってるだけで……」

 

 自分の想い人に直々に指導を受けている事を羨む弾だった。

 

 

 

 

 

「クローデット・デュノアが死んだ?」

 

「ええ、先日死体が発見されたらしいわ」

 

 その日の放課後、一夏の部屋に椛と文を除く河城重工所属のメンバーが集まり、河城重工から連絡を受けたアリスが纏めた報告書の内容に目を細める。

 

「しかも、あのゴミクズ(ノエル)はまだ生きている……」

 

「お嬢様に身体を引き裂かれてまだ生きてるなんて……信じられません」

 

 報告書を睨みながらレミリアは目を細め、美鈴は少し困惑する。

 

「第三者に救助されたのであれば有り得ない話ではないわ。だけど問題なのは痕跡を一切残していない事、そして娘(ノエル)だけが助かり母(クローデット)は殺されたという事よ」

 

 一切の痕跡を残す事無くノエルを回収する事が出来る人物、もしくは組織……状況が状況とはいえ数は絞られてくる。

そしてノエルだけが生き残っているという事実を考えれば、ノエルは恐らく自身を回収した者の下に着いている可能性が高い。

クローデットを殺したのも何らかの証拠隠滅とも取れる。

 

「私の甘さね……やはりあの時止めを刺しておくべきだったわ」

 

「レミリアだけのせいじゃない。こんなの予想なんて出来ないし、トドメを刺す余裕があったのは俺達全員に言える事だ」

 

 臍を噛むレミリアを一夏は気遣う。

もしもノエルが生きており、第三者の下に居るのであれば再び戦わなければならないのは確実だろう。

一夏達はその戦いに備える必要がある事を内心で感じていた。

 

「とにかくだ。今、文が現地に向かってこっそりクローデットとノエルとその周辺を調べているんだ。それが終わるまでは何とも言えないな。……あと、シャル達には折を見て話すか」

 

 魔理沙の言葉で締めくくられ、緊急の会議は終わりを告げたのだった。

 

「そうね、続きは文が帰っていてから……それはそうと、武術部の方は?」

 

 思い出したように咲夜は武術部について訊ねる。

 

「ああ、今日は椛に任せてる。アイツなら真面目だし……あと30分ぐらいして文からの連絡が無かったら手伝いに行くかな?」

 

 気楽に返しながら一夏はベッドに寝転がった。

思わぬ騒ぎが近付いている事も知らずに……。

 

 

 

 

 一方、アリーナではセシリアと簪、そして先日入部した弾の三人が椛のサポートの下、間近に控えた学年別トーナメントに向けて特訓を行っていた。

 

「行け!!」

 

「……クゥッ!」

 

「っ……ブルーティアーズ!!」

 

 中型誘導ミサイルランチャー『ダイブミサイル』を放つ弾からの攻撃を簪は回避し、セシリアはビットで迎撃と反撃、そして簪への攻撃を同時にこなす。

 

「そこ!」

 

 だが、簪は堅実に守りを固め、攻撃の隙間を縫うようにセシリアに接近して夢現による一撃を見舞おうとするが……

 

「まだ!」

 

「!?」

 

 ブルーティアーズの腰部からミサイルが発射され、簪は咄嗟に身を逸らして回避し、再びセシリアとの距離が開く。

 

「オラァッ!」

 

 そしてそこに弾が乱入するように割って入り、体勢を崩しつつある簪に槍を振り下ろす。

 

「チィッ!!」

 

 舌打ちしながら簪はスピアの攻撃を夢現で柄の部分を狙って受け止める。

ビームの部分に触れてしまえば夢現が破損してしまう恐れがあるからだ。

 

「ググ……(なんて力強さなの?)」

 

 男と女の腕力の差というべきか、簪は徐々に押されていく。

弾とて幻想郷が誇る鬼二人に訓練を受けた者、萃香と勇儀には遠く及ばないがそれでも平均を大きく上回る腕力を持っている。

 

「貰いましたわ!!」

 

「「っ!?」」

 

 だが、その腕力勝負も長続きする事無く、セシリアのライフルから放たれたレーザーに割って入られ、二人は慌てて距離を取って回避する。

 

(格闘能力と身体能力は弾さん、遠距離での射撃能力はセシリアさん、全体的な技量と汎用性は簪さんが突出している。だけど全員が良い具合に基礎能力が高水準に纏まっている。……定石だけど、トーナメントまでの訓練メニューは全員それぞれ可能な限り自分の得意分野を伸ばすか、苦手な部分をより改善するかがベターかな?どっちにするかは本人たちに選ばせれば良いし…………ん?)

 

 三人を見守りながら各々の能力を評価し、今後の訓練メニューを考える椛だが、突然こちらに近付く臭いに気が付き、自身の能力である千里眼を発動して周囲を見回す。

 

「全員ストップ!訓練は中断です!!」

 

 そして直後に大声を上げる。

弾達三人は突然の椛からの大声に動きを止め、椛を見るが椛は険しい表情でアリーナの出入り口を睨みつけている。

 

「性質の悪いお客さんが揃ってお出ましですよ」

 

 椛がそう呟いた直後、アリーナ内に15機のラファールと打鉄が入り、椛を含めた武術部メンバー4人を取り囲む。

パイロットは全員覆面などで顔を隠してはいるものの、全員揃って椛たちに敵意を向けている。

 

「何ですの?この人達は……」

 

「分からないけど、一緒に訓練しようって雰囲気じゃない事は間違いない」

 

「ああ、如何にも俺達の事が気に入らないって面してやがるぜ」

 

 警戒を顔に浮かべながらセシリア、簪、弾はそれぞれ主武装を構えて身構える。

 

「大方、私達河城重工を嫌っている女尊男卑主義者でしょうね。家の会社、その手の人種からの評判最悪ですから」

 

 椛もまた専用機・白牙を展開し、自身を取り囲む者達を一瞥する。

 

「良く解ってるじゃないの。女の恥さらしが」

 

 椛の言葉にラファールを装着した女の一人がマシンガンを展開して皮肉気に返す。

それ切っ掛けに周囲の者達も各々武器を構える。

 

「アンタの所が作ったあの訳の分からない服のお陰で私達の立場はガタ落ちよ。どう責任取ってくれるの?」

 

 リーダー格の女の言葉を皮切りに周囲の女達も次々に口を開いていく。

 

「千冬様の弟だけでも厄介なのに、また男を入学させて……どこまでISを汚せば気が済むの!?」

 

「男なんてこの学園……いえ、IS業界に必要無い!私達に奉仕さえしてればいいのよ!!」

 

「男と馴れ合っているアンタ達も同罪よ!」

 

「全員粛清してやるわ。武術部ぶっ潰して、部員全員二度とこの学園に近づけないようにしてやる……!」

 

「私達は選ばれた者なのよ!男や適性の無い能無しとは違う!!」

 

 次々に飛び出す罵詈雑言の嵐の中、椛達4人は無言ではあるが、徐々に表情を怒りに染めていく。

 

「言いてぇ事はそれだけか?どいつもコイツも腐ってやがるぜ。……下衆が!!」

 

「こんな低俗な人達と同類だったなんて……。自分で自分が許せませんわ……!!」

 

「…………最っ低!!」

 

 怒りを露に弾達は襲撃者達を睨み付ける。

 

「遠慮はいらない様ですね。……そっちがその気ならこっちも容赦はしませんよ。どっちが恥さらしか、思い知らせてあげます!!」

 

 近接戦用ブレード『白蘭鋼牙』を敵に向け、陣頭指揮を執る指揮官の如く一歩前に踏み出す。

その行動に襲撃者たちは不快そうに表情を歪める。

 

「この人数相手に、図に乗ってんじゃないわよぉ!!」

 

 激昂する感情を醜く歪んだ表情に表し、襲撃者の内の一人の女がブレードを構えて、打鉄のブースターを吹かし、椛に斬りかかる。

 

「このガキがぁぁっ!!」

 

「……そんなものですか?」

 

 怒りの咆哮と共に刃を振り下ろす女を、椛は一瞬だけ一瞥し、静かに呟きながら右手に持つ白蘭鋼牙を振るった。

 

「カッ……?」

 

 振るわれた椛の刃は、打鉄のブレードを根元から叩き切り、袈裟切りに近い形で女に叩き込まれた。

 

「フグォッ!?」

 

 直後に椛の蹴りが女の下顎に打ち込まれ、女の身体は宙を舞い、地に倒れ付した。

 

「素人に毛が生えた程度なその腕前で選ばれた者気取りですか?随分と滑稽ですね」

 

「こ、コイツ……よくも!!」

 

 椛の嘲りを含んだ挑発が引き金となり、残り14人の女尊男卑主義の女達は椛達に一斉に飛び掛った。

 

「全員ぶっ殺してやる!!」

 

「上等だ!どっからでも来やがれ!!」

 

 残る襲撃者14人を弾達は迎え撃ち、アリーナは4対14の乱闘の様相となった。

 

 

 

 

 

「喰らえ!」

 

「そんな射撃で!」

 

 ラファールのマシンガンから発射される弾丸を回避し、簪は春雷の連射を浴びせる。

 

「グッ!?……く、クソ!!」

 

「それなら皆で攻めれば!!」

 

 ラファールが2機と打鉄が1機が簪を取り囲み、それぞれがブレードを構えて同時に斬りかかる。

 

「そんな攻撃……通用しない!!」

 

 だが簪の顔に焦りの色は一切浮かぶ事は無い。

逸早く一歩前に前進し、夢現で打鉄のブレードを払い除け、そのままの勢いで駆け上るように打鉄を操縦する女もろとも踏みつけた。

 

「ふげぁっ!?……わ、私を踏み台に!?」

 

 ある意味お決まりとも言える台詞を吐く女を無視し、簪は夢現を再度握り締め、残る3機目掛けて一気に飛び掛る。

 

「ハァァァーーーーーッ!!」

 

 雄叫びと共に簪は夢現を横薙ぎに振るい、他の2機に斬撃を同時に叩き込む。

一ヶ所に集まっていた襲撃者達はいとも簡単に夢現の一撃を喰らい、そのダメージに動きを止めてしまう。

 

「これで、ラスト!」

 

「「「キャアアアアーーーーッ!!!?!」」」

 

 続けざまに発射される山嵐による48発ものミサイルの嵐が吹き荒れ、襲撃者2人を一気に爆煙が包み込んだ。

 

「な、何で……更織の落ち零れが、こんな?……ヒッ!?」

 

 呆然と尻餅を付きながら後退る女生徒に簪は向き直り、春雷の銃身を向けて近付く。

 

「確かに私は落ち零れだった。……だけど、今は違う!」

 

 強い意志を孕んだ瞳を見せ、簪は静かに、そして力強く返す。

 

「魔理沙が教えてくれた。……本当の落ち零れは、自分で強くなる事を諦めたり、他人に八つ当たりして現実から目を背け続けて心まで弱くなってしまう人だって事を。……それなら、私はどんなに負け続けてでも自分の足で強くなってみせる!!」

 

「ギャアァァッ!!」

 

 春雷から荷電粒子の弾丸が発射され、襲撃者の打鉄は瞬く間にシールドエネルギーを全て使い果たし、機体を強制解除させられたのだった。

 

 

 

 

 

「一転突破よ!専用機でも所詮は射撃型、防御を固めて接近さえすればどうにでもなるわ!!」

 

 スターライトMk-Ⅲを構えるセシリアに、打鉄を纏った襲撃者は4人程の徒党を組んで一箇所に集中して襲い掛かる。

 

「……浅はかですわね」

 

 静かにそう呟き、セシリアはライフルの銃身を真っ直ぐ襲撃者に向け、狙いを定める。 

 

「アナタ達如きにビットは必要ありませんわ!!」

 

(コイツ、嘗めやがって……でもチャンスよ!代表候補だって油断した状態なら)

 

 先頭に立つ女はセシリアの言葉に内心癪に障るものを感じるが、同時にセシリアが油断していると確信して笑みを押し隠す。

 

「ぐぁっ!?」

 

「アグッ!!」

 

 ライフルから放たれるレーザーに4人中2人がバランスを崩し、戦列から離される。

 

(クッ、何て命中率なの!?男と馴れ合ってる軟弱者の癖に!!……だ、だけどコレで終わりよ!!)

 

 予想以上に高いセシリアの実力に先頭に立つ女は苦虫を噛み潰したような表情を一瞬見せるが、すぐにそれは一転して獲物を狩る野獣の如き笑みを浮かべる。

 

「今よ!飛びかかれ!!」

 

 好機とばかりに2人はブレードを構えて飛び掛る。だがしかし……

 

「……だから、浅はかだと言ったのですわ」

 

 静かにセシリアがそう言い放った次の瞬間、今まで動く様子の無かったビットが突然動き出し、2機の打鉄を全て迎撃し、更には先程狙撃でダメージを与えた2機の打鉄に止めを刺して見せた。

 

「「「キャアアーーーーッ!!?」」」

 

「そ、そんな!?ビットは使わないって……」

 

「戦いの鉄則その7『敵の言葉に一々踊らされるな』!態々次の攻撃を宣言する馬鹿がいますか!?騙された方が間抜けなのですわ!!」

 

 非難するような視線を向ける敵に、セシリアはキッパリと断言する。

セシリアは油断によって生じる竹箆返しの重さを嫌というほど知っている。

そんな彼女が訓練機とはいえ、多数の相手を前にして油断などする筈も無かった。

そして、それは逆に言えば相手に油断させればこちらが勝利する確率は大きく上がるという事も熟知している事でもある。

それを見越しての芝居だったのだ。

 

「な、何でよ?アンタだって男は奴隷だと思っていたじゃない!それなのに何故こんな連中に尻尾を振るのよ!?この恥知らずが!!」

 

 リーダー格の女に続き、迎撃された残り1人も喚き立て、セシリアを糾弾する。

 

「恥知らず?……確かに、一度あれだけ手痛い目に遭わされた人達に教えを請うというのは、お世辞にも格好良いとは言えませんわね。……ですが、私は後悔などしてません。武術部の方々は恥を忍んででも教えを請う価値がある強さを持っている!!以前の私や今のアナタ達のように狭い視野では絶対到達できない強さを!!」

 

「黙って聞いてりゃ、偉そうな事ほざきやがって!!接近戦に持ち込めばアンタなんて!!」

 

 セシリアの熱弁を無理矢理否定するかのようにリーダー格の女はブレードを手に持ってセシリアに斬りかかるが、セシリアは軽く身を捻って回避してみせる。

 

「ク!!……このガキ、!?」

 

「戦いの鉄則その8……」

 

 刀を空振り、一瞬バランスを崩した後、女が振り返った先にはライフルの銃身部分をバットのように持ったセシリアが構えていた。

 

「ブゴァッ!!!?」

 

 フルスイングによる一撃が女の顔面にぶち込まれ、意図も簡単に女の身体は仰け反り、そのまま地面に仰向け状態でダウンした。

 

「『苦手分野への対応はしっかりと!!』。接近戦での対応もそれ相応に訓練していましてよ。そして鉄則その9……」

 

「ウゲッ!?」

 

 セシリアは足で女を踏みつけて押さえつけ、ビットを操作して砲身を残り2人に向けた。

 

「『トドメは確実に!何度でも刺せ!!』……ですわ」

 

「ヒッ……もんぎゃあああああーーーーーっ!!!!!」

 

「ギャアアアア!!!」

 

 ニッコリと笑ってセシリアはビットによる射撃を連射し、打鉄を纏う女達はレーザーの雨による強烈な一撃をモロにくらい、ノックアウトされたのだった。

 

 

 

 

「ヘッ!なんだよお前ら、3人がかりでその様か?」

 

「く、クソォ!!なんで、何で男なんかに……」

 

 肩で息をする3人の女(全員ラファールを使用)を前に、ブリッツスピアを肩で担ぎながら弾は余裕綽々と言った様子で嘲笑を浮かべる。

 

「ね、ねえ……逃げようよ。今ならまだ顔見られてないし逃げられるよ。このままやられちゃったりしたら……」

 

 ラファールに搭乗する襲撃者の一人は処罰を怖れて撤退を提案するが、3人組のリーダー格の女は憤怒の表情を浮かべて振り返り、撤退を進言した者を殴り飛ばした。

 

「あぐぅっ!?」

 

「ふざけんじゃないわよ!なんでこの私が男なんかから逃げなきゃいけないのよ!?」

 

 目を血走らせて激昂するリーダーに、内心では撤退に賛成しようとしていた三人目の女も閉口する。

一方でリーダー格の女は一人憎悪の篭った目で弾を睨み付けるが、当の弾は目の前の仲間割れに呆れ顔だ。

 

「殺してやる……男なんかが私より、代表候補であるこの私より強いなんて事あってたまるか!!」

 

「馬鹿かお前は?自分から正体のヒントばらしてどうする?」

 

 目の前の襲撃者が代表候補だという事実には少しばかり驚いたが、それ以前にそれをこの状況でばらすという馬鹿な行為に弾は失笑する。

 

「うるせぇ!!お前を潰せばそんな事無意味だぁぁっ!!」

 

 ブレードを構えて突っ込む女に弾は表情を真剣なものに切り替え、ブリッツスピアを構え、女目掛けて突き出す。

 

「馬鹿が!引っ掛かりやがって!!」

 

 女の顔に醜い嘲笑が浮かぶ。

槍が繰り出されたその刹那、女は武器をブレードからマシンガンに切り替えて素早く飛び退き、槍の射程範囲外に逃れたのだ。

槍からミサイルへ武装を切り替える時間の分断には隙が生じ、その時間の分弾は全くの無防備。そこにマシンガンを連射する……それが女の作戦だった。

 

「馬鹿はお前だ!」

 

 弾が浮かべたのは焦りではなく笑み、それも勝利を確信した笑みだ。

女がマシンガンの引き金を引き絞るよりも先に、弾は取っ手に備え付けられたボタンを押す。

 

「な!?フガァッ!?」

 

 次の瞬間ブリッツスピアのビーム刃がボウガンのように発射され、ラファールに直撃した。

弾の専用機・ヒートファンタズムは遠距離から近距離まであらゆる場面に対応できる汎用性を重視して設計された機体だ。

その主武装たるブリッツスピアに射撃能力が備わっているのはある意味当然と言える事だ。

 

「コレで終わりだ!」

 

 ビームの直撃を受けてバランスを崩した女を尻目に、弾は即座に武装を切り替え、鉄球型ハンマー『ナイトクラッシャー』を展開して女目掛けて一気に振るった。

 

「……あばよ!!」

 

「ウゴェェッ!!!?」

 

 鳩尾に叩き込まれる凄まじい一撃に、女は口から胃液を撒き散らして吹っ飛ばされた。

 

「テメェ等みたいな腐った連中にやられてちゃ、俺をココまで強くしてくれた勇儀姐さんと萃香さん、そして一夏に申し訳がたたねぇんだよ!!」

 

 気絶する女と、恐れをなして逃げていく2人のに取り巻きに向かって弾は親指を下に突き出しながら吐き捨てたのだった。

 

 

 

 

 

「カハッ、ゲホッ!!ば、化け物……」

 

「4人掛りなのに、いくら専用機だからって、こんな事……」

 

 体中に擦り傷や切り傷を作り、椛を取り囲んでいた女4人は身体を震わせる。

彼女達は学園内では余り目立っている方ではないが、成績は中の上ぐらいの部類には入り、襲撃メンバーの中でも精鋭と呼べる実力を持っていた4人(内1名は代表候補)なのだ。

にも関わらず、この様は何だ?自分達の攻撃は全て見切られ、防がれ、一矢すら報いる事も出来ずにやられた。

このとき彼女たちは自分達の認識の甘さを後悔した。

そして同時に目の前にいる白髪の少女に恐怖を抱いていた。

 

「下らないですね。そんな様で女尊男卑を謳うなんて。……ISの恩恵に縋っているだけの連中なんて所詮この程度か。だから専用機持ちになれないんですよ」

 

「な、何ですって!?」

 

 失望したような声で首を横に振る椛に、女の一人は食って掛かるが椛は冷たい視線を返す。

 

「少なくとも、専用機を持つ人達はそれ相応のものを背負っている。以前のセシリアさんとて背負うもの(実家の名誉を守るという目的)があり、専用機を手に入れる努力を怠らなかった!それだけは女尊男卑など関係無しに賞賛できます!それに比べて、アナタ達にはそれがありますか?」

 

「そ、それは……」

 

 椛の指摘に襲撃者達は黙り込む。

セシリアは実家を守るため、鈴は日本で初恋の相手と再会するため、簪は姉を目指し、弾は自立して妹を立ち直らせるため、必死の努力の末に専用機を勝ち取ったのだ。

一方で襲撃をかけた女達は女尊男卑の社会に満足し、エリート校であるIS学園の将来性のみに満足し、それを崩されて今回の襲撃行為に走った。

どちらが評価されるべきかは一目瞭然だろう。

 

「アリーナ内でのアナタ達の言葉は全て録音して、既に仲間と学園に流しています。精々反省室で自分達のやった事を振り返る事ですね」

 

「グ……クゥ〜〜〜〜!!」

 

 椛の取り出した端末を襲撃者達は最早逃げ場が無い事を悟らされ、悔しさの余り唸り、涙を流す。

しかし、それを余所に椛は出入り口を突然睨み付けた。

 

「いるのは分かってるんです、出てきたらどうですか?」

 

「……フン、鼻の利く奴だ」

 

「う゛ぅ……痛いよぉ……」

 

「助、けて……」

 

 直後に出入り口よりシュバルツェア・レーゲンを纏ったラウラが姿を現す。

その足元には先程弾から逃げた女子が2人転がっていた。

 

「観察を兼ねた高みの見物ですか?趣味悪いですね」

 

「フン、こんな群れなければ何も出来ないクズ共と一緒にするな!!」

 

 椛の言葉にラウラは不快そうに表情を歪め、床に転がる2人を放り投げる。

 

「集団行動が基本の軍人とは思えませんね。ワンマンズアーミーなんて漫画の中だけで充分ですよ?」

 

「黙れ……織斑一夏の前に貴様から片付けてやる!その上で奴を誘き寄せる、貴様を餌にしてな。……そして、奴を潰して教官の目を覚ます!!」

 

 プラズマ手刀を展開しながら、ラウラは歯を軋ませ、椛を射殺さんばかりに睨みつける。

 

「…………やっぱり、気に入りませんよ、アナタは!!」

 

 そんなラウラに対する鬱憤を晴らすかのように椛もまた声を荒げ、2人は敵意を剥き出しにして、お互い同時に飛び掛った。




IS紹介

ヒートファンタズム(熱き幻想)

パワー・B
スピード・C
装甲・B
反応速度・B
攻撃範囲・A
射程距離・A

パイロット・五反田弾

武装
近接戦用可変ビームランス『ブリッツスピア』
ヒートファンタズムの主武装である槍。
先端部は可変式になっており、ビームの出力と上手く組み合わせることにより鎌状に変形させる事が出来る。
また、ビーム刃は銃弾の様に発射可能で射撃戦にも対応出来る。

投擲用丸鋸型カッター『メタルブレード』
丸鋸型の投擲用カッター。
多少の慣れは必要だが、コントロールが非常に容易で扱いやすく、威力も高い。

中型誘導ミサイルランチャー『ダイブミサイル』
ホーミング式の中型ミサイルを発射する6連装ランチャー。
射程距離が非常に長い。

鉄球型ハンマー『ナイトクラッシャー』
チェーンに繋がれた鋲付き鉄球。
鉄球には推進ブースターが備え付けられており、ある程度の遠隔操作も可能。
また、チェーンを縮めれば短棒の代わりとして至近距離での戦いにも対応出来る。
ヒートファンタズムの武装の中では、最も単体での破壊力が高い。


五反田弾専用機
河城重工が後の量産機製作を見越して開発したテスト機。
『あらゆる距離、戦況に対応できる機体』をコンセプトに設計された汎用性重視の機体。
スタンダードながら応用の利く武装が豊富なのが強み。
データ取得とIS学園編入者の専用機として開発され、最終試験をパスした弾の専用機となる。
カラーリングは赤と白のツートンカラー(ガンダムSEED Destinyのソードインパルスをイメージ)、待機状態は額当て(NARUTOに登場する額当てのマーク無しをイメージ、弾はバンダナの変わりにしている)。


次回予告

※今回は次話と番外編の二つを同時に予告させていただきます。

椛とラウラ、互いに組織の中で育ちながらも、真逆のスタンスを持つ2人は遂に激突する。
ラウラの怒りが椛を襲い、椛の怒りがラウラを穿つ!!

次回『椛VSラウラ 白狼の咆哮』

椛「怯えろ!竦め!機体の性能を活かせないまま散っていけぇーーっ!!」



番外編

万屋の少年と輸入雑貨の中年……実はこの2人は出会っていた!?
大晦日の博麗神社にて語られる一夏達の年越し、中年は不思議な年明けを迎える事となる。

番外編『万屋少年お手製の○越し○○』

中年「俺は、夢でも見ているのだろうか?」



番外編の方は、何とか元旦ぐらいに更新できればいいけど……。

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