先に言っておきます。
ラウラファンの方、ごめんなさい!!
そして椛のキャラが崩壊してるかも?
女子たちの追っかけを振り切り、一夏達三人は何とか遅刻する事無くグラウンドに到着した。
「全員揃ったようだな。今回はまずこちらが指定した二人と模擬線を行う。……織斑、前へ出ろ」
千冬の指示に従い、一夏は他の生徒達より前に出て千冬の隣に立たされる。
「全員知っているだろうが、織斑は正式な訓練を受けており、実力もそん所そこらの代表候補程度では一撃も与えられん。……もう察しは付いただろうが、一人目の対戦相手は織斑だ、そしてもう一人は……」
「ひゃぁぁぁ!!ど、退いてください〜!!」
千冬の言葉を遮るように悲鳴が響く。
振り向いた生徒達の視線の先からはラファール・リヴァイヴを装着した真耶が落下してくる。
制御が上手くいっていいないのか、落下地点は予定を大きく外れている。
このままでは地面に落下するのは時間の問題だ。
ISを装着しているので致命傷を負う心配は無いだろうが落ち方が悪ければ骨折の危険はあるだろう。
そんな中、一人の人影が瞬時に専用機を展開して飛び上がった。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます、犬走さん……」
専用機『白牙』を身に纏い、椛は地面に激突する寸前の真耶を抱えて救助する。
「もう一人は…彼女、山田先生だ」
呆然とする生徒達を千冬の言葉が現実に引き戻す。
「お前達はそれぞれ二人一組になって戦ってもらう。ただし、制限時間は一戦につき5分、それ以前に決着が付きそうなのであれば私が止める。……だれか対戦相手に立候補する者は?」
「「私がやります!!」」
真っ先に挙手したのは箒とラウラだ。
二人の挙手を切っ掛けに他にも数人の生徒が挙手し、箒達と合わせて計7人だ。
そしてその中にはセシリア、弾、鈴の姿もあった。
「……ジャンケンで4人決めろ」
これから約数分後、数回の相子を経たジャンケンの結果、一夏の相手に箒とラウラ
、真耶の相手には弾とセシリアが選ばれたのだった。
「決まったようだな?5分だけ時間を与える。その間作戦と連携を打ち合わせるように」
『はい!』
千冬の指示に頷き、4人はそれぞれのチームに分かれてその場から少し離れ、その場には残りの生徒達と千冬と真耶が残された。
「オルコットだっけ?転校初日だが、今回はよろしく頼む」
「ええ、こちらこそ」
フレンドリーに声を掛ける弾にセシリアもそれ相応の態度を持って返答する。
お互い第一印象は悪くないようだ。
「それで、連携の事だけど、どうする?一応俺は訓練の時に何度か他の奴と連携した事もあるけど……」
「私は、生身でなら多少はありますが、ISの訓練では殆ど経験が無いですわ。……それ以前に初対面同士の私達では碌な連携も出来ないでしょう?」
表情をお互いに真剣なものに変えて二人は苦々しく唸る。
以前の二人だったら真耶が相手では油断していただろうが現在はお互い訓練の甲斐あって『相手の外見や非戦闘時の素振りで判断したら痛い目を見る』という事を痛感している。
ちなみにセシリアの連携訓練でのパートナーは専ら簪である。
「それなら、お互いが出来る限り邪魔にならない事を心掛けるか。……俺は近〜中距離の格闘戦が得意だけど、オルコットは?」
「それなら丁度良いですわね。私は遠距離、射撃がメインですから。余り手の込んだ武器(ビット等)を使わず、主武装でお互いの得意距離を担当、というのがベターでしょう」
「ああ、打ち合わせ時間も碌に無いし、シンプルに行くか。後は、合図(サイン)を決めておくか……」
お互いに決して自己主張せず、かと言って決して謙虚になるわけでもなく、5分間の作戦会議は忌憚無く進んだ。
(一夏、ココで私の力を示して目を覚まさせてやる!!)
(織斑一夏!さっきは不覚を取ったが、今度こそ教官や他の連中が見ている前で潰してやる!!)
逆に一夏と対戦する箒・ラウラ組は無言のままお互いの目的のみを考え、パートナーである相手との会話など殆ど無かった。
「……邪魔だけはするな」
「こっちの台詞だ……貴様は後ろで指でもしゃぶっていろ」
「なんだと……!」
そして口を開けばこの有様……弾・セシリア組とは雲泥の差だった。
「準備は出来たな?ではこれより模擬戦を開始する。まずは五反田とオルコットからだ。山田先生、お願いします」
「はい」
千冬からの指示を受け、三人はグラウンドの中央に集まる。
直後にセシリアはブルーティアーズ、弾は約一週間前に手に入れた専用機『ヒートファンタズム(熱き幻想)』と、それぞれ専用機を展開して真耶のラファールを迎え撃つ。
「始め!」
「(先手必勝だ!)行けっ!!」
千冬の合図と同時に真っ先に動いたのは弾。
両手に投擲用丸鋸型カッター『メタルブレード』を展開して真耶目掛けて投げつける。
(っ!?……速い、だけど狙いが甘いです!)
真耶はメタルブレードの直線的な動きを即座に見切って回避すると同時に両手に装備されたアサルトライフルを発射する。
「Right(右)!」
しかし真耶の攻撃とほぼ同時にセシリアからが大声で指示を出し、弾は即座に右に回避する。
そして、弾が回避すると同時にセシリアのライフルが火を噴き、真耶目掛けて弾丸が放たれる。
味方の回避を援護し、敵に追撃を加える……連携において基本中の基本とも言えるパターンだが、基本だからこそ集団戦において非常に重要な要素であると言える。
「やりますね。…でも!」
しかし流石は元代表候補とでも言うべきか、真耶の反応速度もかなり高く、これを回避してみせるが……
「そこだ!」
「!?」
間髪いれずに弾が急接近し、それとほぼ同時に弾の手には近接戦用可変ビームランス『ブリッツスピア』を展開、そのまま接近する勢いに乗せて槍を突き上げた。
「チィッ!」
息も吐かせぬ2人の連携による連続攻撃に真耶は一瞬苦悶の声を漏らすが、それでも彼女は弾の槍を紙一重で回避する。
「…取った!」
「クゥッ!!」
しかし弾は周囲の予想に反し、笑みを浮かべてみせ、突き出した槍をそのまま振り下ろし、そのまま真耶の身体を薙ぎ払おうとする。
槍の利点であるリーチの長さは使い様によって突きだけではなく薙ぎ払い等でも大きな効果が期待できる。
懐に入られると弱いと言う弱点はあれど、それは逆に言えば槍の有効範囲内ではあらゆる局面に対応できるという事でもある。
「まだ!」
しかし刃先が相手を向いていない状態では決定的なダメージを与えられる武器にはなりえない。
それを熟知している真耶は即座に反撃に移り、槍の柄の部分に掴み掛かる。
平たく言えば一夏が対レミリア戦で見せた戦法の真似である。
「掛かった!」
「!?」
しかし真耶の反応に弾はさらに口の端を吊り上げてみせ、真耶は『ギョッ』と目を見開く。
突然槍の刃先の関節が稼動し、真耶の方を向いたのだ。
さらに、出力を一気に上げる事でビームはその刃を伸ばし、槍は大鎌へと変化した。
「グゥッ…な、何て無茶苦茶な武器……」
「今だ!オルコット!!」
間一髪直撃を避け、刃が胴に掠める程度のダメージに抑えた真耶を余所に弾の大声が響く。
「貰いましたわ!!」
「!?」
真耶の視線の先にはセシリアが既にスタンバイしていた。
そして回避直後の真耶目掛けて間髪入れずに狙撃を見舞った。
(避けられない!?……だったら!!)
回避直後でほぼ硬直状態の真耶に回避する術は無い。
だが、防ぐというのであれば話は違う。
真耶は即座に手に持った二丁のアサルトライフルの内、片方を自身とセシリアの射線上に来るように投げ捨てた。
火薬の詰まった重火器(アサルトライフル)はレーザーとぶつかると同時に爆発を起こし、結果的にセシリアの撃ったレーザーは真耶に命中する事無くアサルトライフルの爆発の中に消えてしまった。
「そこ!!」
「キャァッ!!」
さらに間髪入れずに真耶のラファールはレールガンを展開、発射しセシリアにダメージを与えることに成功する。
「オルコット!」
「よそ見している暇は無いですよ!」
ダメージを受けたセシリアに弾は一瞬気を取られるが、それが命取りだった。
その僅かな隙を見逃さず、真耶は武器をアサルトライフルに切り替えて弾目掛けて連射した。
「うわっ!?」
何とか回避行動を取るものの、それも虚しく弾は数発の弾丸を喰らってしまった。
「中々、良い具合じゃない?」
弾・セシリア組の戦いを眺めながらレミリアは呟きを漏らす。
「ああ、二人とも慣れないチーム戦で自分達の力が出来るだけ潰し合わないように立ち回っている。でも、やっぱりまだ個人技中心ってのは否めないな」
「そうね。今の二人なら、チーム戦よりもシングル戦の方が良い結果が出せるわ」
レミリアの言葉に一夏と咲夜も揃えて口を開き、弾とセシリアの能力と戦闘を冷静に分析する。
「チッ…余裕ぶって戦闘分析か。調子に乗って……」
一方でラウラは後方から一夏達を睨み付けながら舌打ちする。
弾達の試合は眼中に無いかのように終始目もくれない状態だ。
「……調子に乗ってるのはどっちだか?」
そんなラウラの隣から冷めた視線と言葉が飛ぶ。
2組に在籍する椛だ。
「今何と言った?」
「別に…ただ少しは軍人らしく冷静に見るべきものを見たらどうです?」
ラウラの怒りの篭った視線を物ともせず、椛は冷めた表情と視線を向け続ける。
真面目な椛にしては珍しく喧嘩腰だった。
(あら、珍しい……あの椛が)
そんな様子に文は目を丸くする。
普段の椛ならココまで露骨に喧嘩腰になることは滅多に無い事だ。
「そこまで!試合終了だ!」
そんな彼女達を尻目に、千冬から試合終了の合図が掛かり、文は再び視線を弾達に向けた。
「はぁ……最後ら辺は結構押されっぱなしだったな」
「ええ、チーム戦の経験が薄いのが恨めしいですわ」
額から流れる汗を拭いながら弾とセシリアはお互いに苦笑いしながら試合を振り返る。
真耶からダメージを受けて以降、二人は序盤での勢いが無くなり、真耶の目と勘が二人の連携に慣れた事も手伝い、連携は的確に妨害され、二人は真耶に決定的なダメージを与える事も出来なかった。
しかし、それでも決して二人は足を引っ張り合う事無く、最後まで粘り、真耶も二人にそれ以上のダメージを与える事も出来ず、結局時間切れという結果に終わった。
「ハァ、ハァ……そんな事無いですよ。二人共良い連携でしたし、これでも結構危なかったんですよ」
少し肩を落とす二人を激励するように真耶は肩で息をしながら弾とセシリアを賞賛する。
その言葉に二人も好感を覚えたのか、表情を少し緩めた。
「二人共、初めての連携にしては上出来だ。今後も精進するようにな。……次の試合、織斑、篠ノ之、ボーデヴィッヒ、前へ出ろ!」
真耶が弾とセシリアに労いの言葉を掛けた後、千冬は次の試合に移るべく、一夏達の名を呼び、三人はそれぞれ機体を駆ってグラウンドの中央に集まった。
(なお、箒は訓練機、打鉄を使用)
(一夏、今すぐに私がお前の目を覚まさせてやる!)
(漸くだ、漸くコイツを潰せる!)
(……コイツ等、この授業の目的解ってねぇな)
お互いにパートナーであるはずの相手への気遣いなど全く見せず、戦意のみ前面に押し出す箒とラウラの様子に一夏は内心で溜息を吐く。
「始め!」
「行くぞ一夏ぁ!!」
千冬から開始の合図が飛び、猪の一番に箒が飛び出し、一夏目掛けて近接専用の日本刀型ブレードを構えて飛び掛った。
「ハァアアアアア!!」
気合の一喝と共に振り下ろされる刀に一夏は全く動じる事無く当たる直前に軽く身を捻ってかわして見せる。
箒の剣速は一般生徒と比較すればかなり速く、接近戦だけで言えば下位の代表候補にも決して引けは取らないだろう。
しかし一夏はこれ大きく上回るの剣速、太刀筋を持つ妖夢や、凄まじい密度の弾幕を繰り出す幻想郷の実力者を相手に戦い、修羅場を潜り抜けた経験を持つ猛者だ。
剣道の延長程度の太刀筋でしかない箒の一撃は虚しく空を切り、無防備に晒した背後に一夏の裏拳をモロに喰らってしまう。
「あぐっ!……く、クソ!」
「!?」
箒が悔しそうに唸るのを余所に一夏は別方面からの殺気を察し、即座にその場から飛び退く。
「待t…うわぁっ!!」
一夏を追い掛けるべく、自身もブースターを吹かしてその場から移動する箒だったが、突如として暴風に吹き飛ばされる。
上空からラウラの放ったレールカノンの一撃が箒ごと一夏を狙い、地面に着弾して、その余波を受けた箒を吹き飛ばしたのだ。
「き、貴様!何をする!?」
「黙れ、突っ込むしか能の無い愚図が。囮として使ってやっただけ役に立てたと思え」
まるで悪びれる様子の無いラウラに箒は表情を歪めて睨み付ける。
しかしそんな事はまるで気にも掛けず、ラウラは一夏の方に目を向ける。
「私を他の生温い連中と一緒だと思ったら大間違いだぞ。教官の恥さらしが」
「俺が千冬姉の恥?なら、お前はドイツの恥だな」
敵意をむき出しにするラウラに一夏は静かに怒気を孕んだ声で悪態を吐く。
「ほざけ!!」
怒りの咆哮と共に再びレールカノンを発射するラウラ。
一夏は弾道を読んでこれを回避し、先程ラウラが一射目で破壊した床の瓦礫を拾い上げ、それを幾辺かに割って野球ボールの様にラウラ目掛けて投げ付けた。
(フン、一応それなりの冷静さは持っているようだな……だが、こんな石礫など私には無意味だ!)
「……AICか」
迫る石礫の動きが突如として停止する。
ラウラの専用機『シュバルツェア・レーゲン』最大の武装、AIC(アクティブイナーシャルキャンセラー)……慣性を打ち消して対象の動きを止める1対1での戦いではある意味反則とも言える武装だ。
河城重工の情報網にもこの武器の概要は既に掴んでおり、一夏は目を細めて軽く舌打ちする。
(だけど、強力な武器ほどそれに頼りやすい……破ってしまえばどうにでもなる!)
表情を引き締め、一夏は守勢から一転、ラウラとの距離を詰めて攻勢に打って出る。
「発動前に叩こうとでも言うのか?馬鹿め!」
一夏の突撃を嘲笑い、ラウラは再びAICを発動しようとするが……。
「甘いぜ!!」
ニヤリと笑みを浮かべ一夏は突然体勢を崩して地面に手を着く。
直後、一夏のDコマンダーに先日追加された関節部のスプリングが働き、腕だけで高く跳躍してラウラの頭上を飛び越えた。
「な、何だ!?」
思わぬ一夏の行動にラウラのAICは不発に終わる。
一見無敵にも見えるAICだが、その実対象のイメージがはっきり集中して出来ていないと効果を発揮しないという弱点がある。
詰まる所、操縦者であるラウラの対応出来ないフェイントやトリッキーな動きには全く効果が無いのだ。
「この動きについてこれるか?」
全身の関節部のスプリングをフル活用し、床を跳ね、時にはラウラと箒を踏み台にしてアクロバットを披露して見せ、トリッキーに跳ね回る。
「は、速過ぎる……」
「しょ、照準が定まらん……!?」
箒とラウラは一夏を捉えようと目を走らせるが、一夏のアクロバット、かつトリッキーな動きはまるで捉えきれず、焦燥を募らせていく。
「く、クソォ!このぉぉぉーー!!」
焦燥に耐え切れず先に飛び出したのは箒だった。
「(ニヤッ)…掛かったな!」
飛び出した箒が振るう刀を、一夏の足蹴りが打ち据え、刀は弾き飛ばされた。
「ッ!?」
「隙ありだぜ、箒!」
武器を失い、動揺する箒の身体を一夏はがっしりと掴み、そのままフルパワーで振り回し……
「せぇーーのぉっ!!」
そしてラウラ目掛けて一気に投げ付けた。
「うわぁぁっ!!」
「ば、馬鹿!来るな!!」
自分に激突しそうになる箒にラウラは冷や汗を流しながらAICで箒の動きを止めるが、それは悪手だった……。
「態々そっちで動き止めてくれてありがとよ」
動きを止めたラウラと箒の視線の先には、荷電粒子砲『Dアーマー』を展開した一夏の姿。
ココに来て二人は自分達がまんまと一夏の策に引っ掛かった事を理解した。
「喰らいやがれ!!」
Dガンナーから放たれるフルチャージショットの一撃が二人を襲う。
最早ラウラはともかく、箒には回避不可能だ。
「チッ!!」
「グァァァッ!!」
回避不能な箒を見捨て、ラウラは一夏の砲撃から何とか身をかわした。
逆に、一夏の砲撃が直撃した箒の打鉄のシールドエネルギーはあっという間に底を突き、箒は脱落となる。
「お前、箒を助けて一緒に避ける事も出来ただろうが!?」
「こんな雑魚、足手纏いにしかならん!切り捨てて当然だ!」
一夏の非難にラウラは苛立ちながら言い返す。その言葉に一夏の顔色が変わる。
「そうかい……それじゃあ、今からお前が晒す事になる無様な姿も、実力が無かったと諦めるんだな!!」
「黙れぇ!!」
一夏の発言に激昂しながらラウラはワイヤーブレードを展開して一夏を捕らえようと躍起になるが一夏は再びスプリングによるアクロバットでそれを回避してみせる。
「クソッ!ちょこまかと!!」
「そこぉ!!」
ワイヤーブレードを振るうラウラ目掛け、Dアーマーの右拳が発射される。
(こ、これはワイヤー……いや、違う!!)
情報とは違い、Dアーマーに装備されているのはワイヤーではなく、ホース状のコードだった。
これこそDコマンダーの新武装の一つ、『LAA(ロング・アーム・アタッカー)』……ワイヤーを伸縮自在の配線コード式に変える事でより詳細なコントロールと手の動作を可能にした物だ。
「だ、だがこんな物AICで!」
一瞬驚くも、ラウラはすぐに判断を切り替えてAICを発動してDアーマーの動きを止める。
しかし……
「ごがっ!!」
「一箇所に集中しすぎなんだよ!」
突然側面から顔面に強烈な一撃が叩き込まれた。
残った右のLAAが、ラウラが左拳に集中している間に大きく旋回してラウラの死角から彼女の顔面を殴り飛ばしたのだ。
「き、貴様ぁ……」
「これで終わりだと思うか!?」
「フゴォッ!!?」
ラウラの集中が途切れたため、解除されたAICの支配から解放された右拳が復活し、ラウラの顔面の中心……正確には上唇と鼻の間にある人間の急所の一つ、人中に拳が叩き込まれた。
ココに衝撃を受ければ人間はまともに動けなくなる。ISのシールドエネルギーで守られていようと衝撃自体は防ぎきれない。
故にラウラはふらふらとその場に倒れ込む。
「これで、トドメだ!」
そして最後のダメ押しとばかりに一夏はラウラに組み付き、腕を極める。
HRで喰らったものと同じアームロックだ。
「ギャアアアアア!!!」
HRで受けたもの以上の関節技にラウラは悲鳴を上げる。
この状況では自慢のAICも意味を成さない。
箒が生き残っていればこの状況から脱出出来ただろうが、当の箒は既に脱落して真耶に戦闘範囲外に運ばれている。
そして彼女の脱落の原因を作ったのは他ならぬ自分自身だ。
「そこまで!」
一夏がラウラの腕を締め上げる中、千冬から試合終了の合図が飛ぶ。
ここまでの試合時間、約4分の経過だった。
「クソ、クソぉ……この借りは、絶対倍にして返してやる……!!」
目に涙を浮かべ、痛めつけられた腕を押さえながら、ラウラはシュバルツェア・レーゲンを纏ったままの状態で他の生徒達の下へ戻る。
「無理ですね。今のアナタじゃ……」
そんなラウラに皮肉が浴びせかけられる。
相手は試合前に一悶着起こした犬走椛だ。
「き、貴様……!!」
表情を怒りに歪め、プラズマ手刀を展開して身構えるラウラに椛もISを腕だけ部分展開し、蛮刀型ブレード『白蘭鋼牙』を展開してラウラの眼前に突きつける。
「気に入らないんですよ、アナタ……軍人でありながら、下らない私情で動いて。それで代表候補なんてよく言えますね」
(ああ、なるほどね……)
そんな椛を見つめ、文は一人納得する。
椛は元々生真面目な性格をしており、妖怪の山という組織的な環境で育ってきた。
そんな彼女にとって、形は違えど自分と同様に組織(軍隊)に所属する者でありながら、私情のみを優先しているラウラの姿勢は非常に気に入らないものと言える。
「やめんか二人共!!」
そんな一触即発の雰囲気を千冬が一喝する。
「…すいません」
「申し訳ありません、教官」
椛とラウラはそれぞれ一言ずつ謝罪して矛を収め、事態はとりあえずの収束を向かえた。
「さて、全員今の戦いを見てチーム戦における連携の重要性が理解できたと思う。ISで試合を行う以上、タッグ戦やチーム戦は避けては通れない壁だ。以後、しっかり頭に叩き込むように」
千冬の言葉で締めくくられ、授業は一段落を迎え、以後は滞りなく授業は進んだ。
最もその授業中、ラウラは終始一夏と椛を睨みつけていたが……。
「……あ、あんな強い人相手にどうやってデータなんて盗めっていうの?」
授業が終わり、シャルル……いや、シャルロットはロッカールームで一人頭を抱えていた。
織斑一夏の実力が非常に高いという噂は聞いていたが、実際に見てみれば想像していた以上の化け物だった。
自分とてカスタム機とはいえ専用機を持つ代表候補である以上、そん所そこらの雑魚よりは強いという自信はあるが、一夏相手に太刀打ちできるとはとても思えない。
そんな彼、牽いては彼の所属する河城重工を敵に回してしまったら自分はどうなってしまうと言うのだろうか?
「ボクは、どうすれば……」
「随分と下らない事で悩んでいるわね」
「!?」
突如として背後から聞こえる冷たい声にシャルはギョッとして振り向く。
直後にシャルは壁に押さえつけられ、喉元にナイフが突きつけられる。
「ヒッ……」
「大声出さない方が良いわよ。咲夜の手元が狂ってしまうかもしれないわ」
「悪いな。本当は手荒なことはしたくないんだが……」
シャルの背後に自分を押さえつける人物とは別に二人の人影が現れる。
「お、織斑…一夏。……ど、どうして?」
その二人は織斑一夏とレミリア・スカーレット。
そして自身にナイフを突きつけている少女は十六夜咲夜
「アナタの事、洗いざらい喋ってもらうわよ。……シャルロット・デュノアさん」
「!……うぅ……」
自身を偽名ではなく、本名で呼ばれ、シャルロットは目を強く閉じて項垂れる。
それはシャルロットが観念した瞬間だった……。
椛専用機名『白牙』は影鴉さん、近接戦用ブレード『白蘭鋼牙』はたけしさんの案から取らせて頂きました。
文と椛の専用機名の多数の応募、ありがとうございます!!
一夏の新装備については次回、弾達の専用機の情報は後々(本格的な活躍を見せる際に)公開します。