東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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計画と妖獣と陰謀と

「……うぅ」

 

 白蓮が目を覚ましたとき、視界に飛び込んできたのは病室の天井だった。

白蓮の乗るベッドの近くに設置された数台の椅子には監視を務める霊夢と魔理沙、そして治療を終えて体の至る所に包帯を巻かれ、絆創膏が張られた星の姿がある。

 

「聖!?目が覚めたのですね!?」

 

 白蓮の無事を確認し、星が安堵と喜びの混じった表情を見せ、それを皮切りに村紗や一輪も病室に入ってくる。

 

「アナタ達、皆無事だったのね?でもどうして此処に?……あら?此処は……」

 

 自分の居る場所が法界ではなく病室のベッドの上だと気付き、白蓮は今まで法界に居たはずなのにと周囲を見回す。

 

「あの後、聖と例の二人(千冬と早苗)が聖蓮船の甲板で気を失ってる所を彼女達が救助に来てくれて……」

 

 村紗が白蓮に大まかな事情を説明する。

法界での戦いが、霊夢達は合流した一夏の能力で魔界への結界を素通りして法界に入り、千冬と早苗を救出。

さらに村紗達の助命嘆願に応じ、白蓮と星を保護して現在地である永遠亭まで運んだのだ。

ちなみに、聖蓮船も村紗のコントロールを受けて回収され、現在は永遠亭の上空に浮かんでいる。

そして、白蓮が治療を受けている際に村紗達は現在の幻想郷と外界の実状と一夏達が外界にて行っている活動と調査を大まかではあるが説明を受けていた。

 

「では、その一夏という少年が……」

 

「はい、条件付で私達と彼女達の間を取り持ってくれたんです」

 

「条件?」

 

「ええ、助ける代わりにこちら側とキッチリ話し合えと……」

 

 白蓮の疑問に村紗が答える。しかし、その表情はどこか困惑している様だった。

 

「……どうかしたのですか?」

 

「いえ、ただその……彼の外見が……」

 

「……?」

 

 村紗の口調は妙に歯切れが悪く、星や一輪達も村紗同様顔を顰めている。

そんな仲間達に白蓮は怪訝な表情を浮かべ、平然としている霊夢と魔理沙に目を向ける。

 

「まぁ、もうすぐ来るから。会ってみりゃ分かるぜ」

 

 それだけ言うと魔理沙はドアの方に目を向け、直後に足音が近付いてくる。

やがて病室の前で足音は止まり、扉が音を立てて開く。

 

「よぉ、気が付いたって聞いたから見舞いも兼ねて来させてもらったぜ」

 

「!!?」

 

 扉の先から一夏が姿を見せる。

そしてその姿……性格にはその顔を見た白蓮の表情が固まった。

 

「……命、蓮?」

 

 白蓮の脳裏に懐かしい記憶が一気に湧き上がる。

かつて自分の身が若かりし人間であった時代、幼き頃より共に過ごし、自分に法力を伝え、死を極端に恐れる切っ掛けを作った僧侶としての師にして最愛の弟、聖命蓮と同じ顔がそこに在った。

 

「命蓮…ああ、命蓮っ!」

 

 湧き上がる懐かしさに何かが決壊したかのように目から涙が溢れ出し、白蓮は疲労の残る身体の事も気にせず、一夏に抱きついた。

 

「ぬぉぉおっ!?いいい、いきなり何を!!?」

 

 白蓮の(傍から見て)突拍子も無いその行動に一夏は瞬く間に混乱してしまう。

そしてそんな一夏と白蓮を見て星、村紗、一輪、ナズーリンは「あーあ、やっぱり」と溜息を吐いた。

 

「どうしたんですか?急に騒がしくなって……え?」

 

 さらにトラブルはトラブルを呼ぶかのように近くの病室に千冬、エリザと共に入っていた早苗が騒ぎを聞きつけて部屋に入ってきた。

 

「oh no……」

 

 一瞬にして全身が固まった早苗の姿に、この数秒後に起こる修羅場を想像し、魔理沙は右手で顔を覆って頭を振った。

 

「さ、早苗姉ちゃんっ!?ち、違うんだ!コレは……」

 

「命蓮、命蓮っ……!!」

 

「フフ…アハハハハハ!ソコノ僧侶ノ人、一夏君ニ何シテルノカO・HA・NA・SHIシテモライマショウカ?《秘術『グレイソーマタ……」

 

 そして魔理沙の予想通り、早苗は暴走した……。

 

「ギャアア!!こんな所でスペルカードなんて出すなぁぁ!!」

 

 結局この後、一夏達は10分近く掛けて暴走した早苗を止めるのだった……。

 

 

 

 

 

 同じ頃、外界のIS学園にて1年1組副担任の山田真耶は、駆け足で学園の校門に向かっていた。

事の切っ掛けは数分前、警備主任の者から自分に客人が来たとの連絡が入り、確認するよう頼まれた事が切っ掛けだ。

最初は自分なんかに客人とは一体誰なのかと不思議に感じはしたものの、客の風貌と「二ッ岩と言えば分かる」という伝言を聞き、客の正体が幼い頃から姉のように慕っている同郷の知人だという事を知り、逸早く彼女に会うべく走っていた。

 

「マミゾウさん!」

 

 喜色と懐かしみを顔に浮かべながら真耶は校門前で待つ女性の下へ駆け寄った。

肩の下辺りまで伸ばした長さの茶髪に丸メガネを書け黄緑色の紋付羽織を着た和装の女性だ。

女性の名は二ッ岩マミゾウ。真耶とは子供の頃からの近所付き合いで幼い頃から真耶を妹、もしくは娘のように可愛がってくれている女性だ。

 

「おお真耶、久しぶりじゃのう」

 

 独特の年寄りくさい言葉遣いでマミゾウは真耶を出迎える。

 

「お久しぶりです。でもどうしてココに?」

 

「何、ちょいとばかりココの近くに用事があって、そのついでじゃ。渡しておきたい物もあるしのう」

 

 真耶からの疑問をのんびりとした様子で返しながら、懐から葉っぱの刺繍が入った御守袋を取り出し、真耶に手渡した。

 

「これは?」

 

「ちょっとした御守じゃ。最近はあいえすの業界も物騒になっとるからのう。ま、気休めみたいなもんじゃが持っていて損は無いぞ」

 

「そのために態々こんな所まで……ありがとうございます」

 

 マミゾウからの気遣いに真耶は内心嬉しさを感じる。

幼い頃から真耶はマミゾウによく可愛がってもらっていた。

年齢不詳で年寄りくさい所はあるものの、真耶にとってマミゾウは尊敬する姉のような存在だった。

 

「この後何か予定とかありますか?何でしたら一緒にお茶でもしませんか?」

 

「いや、そうしたいのは山々なんじゃが、この後まだ予定があっての。また今度時間が取れた時にでもな」

 

 申し訳なさそうにに真耶からの誘いをマミゾウは断る。

その後は少しの間雑談を交わしていたして二人だが、やがて時間が流れ、別れる時が来た。

 

「もう時間か、お互いそろそろ戻らんとな」

 

「あ、そうですね。名残惜しいけど……」

 

「何、また会えるじゃろうて。それじゃあまた会おうぞ。たまには佐渡にも戻ってくるようにの」

 

「はい、お元気で」

 

 別れを告げ、真耶は学園へと戻って行き、マミゾウは背を向けて学園から離れる。

 

 

 

「…………そろそろその変化を解いたらどうだ?佐渡の二ッ岩」

 

 マミゾウが学園から離れ、人気の無い場所まで来た辺りで突然ドスの利いた声と共にスーツ姿の女性……八雲藍が姿を見せる。

 

「……おやおや、久しぶりじゃのう八雲の九尾。あの子猫は元気にしとるか?……それで、九尾の狐ともあろう者が儂(わし)に何の用じゃ?」

 

 藍の言葉を皮肉るように返し、マミゾウの姿は一瞬煙に包まれ、直後に別の姿が現れる。

背丈はやや低くなり、顔付きは基本的に先程の姿より少し幼く、服装は羽織から黄土色の無地のノースリーブに、頭には小さな葉っぱを乗せ、そして何より目を引く身の丈程大きく、丸みと太さを兼ね揃えた尻尾。

ココまで来ればその筋の知識を持つ者なら察することが出来る。二ッ岩マミゾウ……彼女の正体は化け狸、日本狸の重鎮であり『佐渡の二ッ岩』の異名を持つ大物妖怪だ。

 

「別にお前に用など無い。内偵の天狗(文)を迎えに来てやっただけだ。……それより、ISなんぞに無縁の貴様が何故此処にいる?」

 

「何、友人に万一の事が無い様、保険を掛けに来ただけじゃよ。人間社会に溶け込んでおると人間の知人や友人も多くての。……ついでにお主等に忠告に来てやったんじゃ」

 

 お互いにそっけなく相手の質問に答え合う。どう見ても二人が親密な関係ではない事は確かだ。

 

「お主等、最近は随分派手に動きまわっとるのう。最近じゃ何処も彼処も河城重工の名が飛び回っとるぞ」

 

「そうだろうな。……それで、忠告とは何だ?宣戦布告でもする気か?」

 

「フン、馬鹿を言うな。神も妖怪も満場一致でお主等の行動を黙認しとるわい。儂は未だしも、大抵の神や妖怪達はあいえすとかいう物には相当煮え湯を飲まされ続けておるんじゃ」

 

 皮肉交じりにマミゾウは吐き捨てる。

外界にも多少なりとも神や妖怪の類は存在し、それらの存在は人間からの信仰心(妖怪の場合は畏怖の念など)で力を保っているが、ISの登場以来世の中は女尊男卑の風潮が広がると同時に女性によるIS開発者、篠ノ之束と初代ブリュンヒルデ、織斑千冬を信仰すると言う宗教まで現れる始末(神奈子達、守矢神社の面々が外界で信仰心を失って幻想郷に流れた一因もISにある程)だ。

さらに世間の目がISにのみ向けられたとあっては妖怪が恐れられる事もめっきり少なくなってしまい、人を驚かす事さえ出来なくなってしまう。

外界の神、妖怪にとってもこれ以上のISの神格化は是が非でも避けたい事である。

 

「河城重工によってISを男女兼用になって汎用性が増せば、ISに対する選民やエリート意識が薄れ、信仰も取り戻しやすくなるという訳か」

 

「ああ、しかし忠告というのはそこではない」

 

 マミゾウは今までの飄々とした様子が失せ、真剣な表情で藍を見詰めて口を開く。

 

「……ココ数ヶ月の間、力を失いつつあった多数の神や妖怪の行方が知れなくなっておる。お主等の暮らす幻想郷に流れたとも思っていたが……」

 

「……それはおかしいな。私や紫様が確認した限りココ最近で幻想郷入りした神や妖怪はそれ程多くはない筈だ」

 マミゾウの言葉に藍は目を細める。

 

「……コレは儂の勘じゃが、そう遠くない内に外界と幻想郷を巻き込んだ異変が起きる。…………最悪、儂とお主が共闘せねばならんかもな」

 

「……笑えん話だ」

 

 皮肉気に苦笑いを零すマミゾウに藍は溜息混じりにそう呟いた。

 

「儂もそう思うわ」

 

 マミゾウのその言葉を最後に二人はどちらからともなくその場を立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 そして場所は再び永遠亭。

一夏達は漸く早苗と白蓮を落ち着かせていた。

 

「ぜぇ、ぜぇ……二人とも、落ち着いたか」

 

「「はい。……すいませんでした」」

 

 息切れしながらも割りと凄い剣幕になりつつある一夏の言葉に二人はしっかりと頭を下げて謝罪した。

 

「……でも、本当にそっくりですね」

 

 一夏を見ながら星が呟く。

 

「そんなに似ているのか?」

 

「ええ、昔死んだ弟にとても……」

 

 一夏の疑問に白蓮は感慨深く答える。目尻にはまだ涙の跡が残っている。

 

「あったよー、例の似顔絵」

 

 ナズーリンが一枚の紙を手に持った状態で室内に入り、それを一夏達に見せる。

 

「……うわっ!?そっくりだぜ!」

 

 開口一番に魔理沙は驚きの声を上げる。

他の者も一夏と似顔絵を見比べては驚き、白蓮や星たちの反応に納得する。

 

「マジかよ……コレ、俺じゃなくて本当に他人の空似?」

 

「これは間違えても仕方ないかも……」

 

 紙に描かれている命蓮の似顔絵は一夏と瓜二つ……それこそ双子と呼んでも差し支えない程にそっくりだった。

 

「ええ、先程アナタの顔を初めて見た時、本気で命蓮が生き返ったと思ってしまいました」

 

 一夏から似顔絵を受け取った白蓮は悲しげな表情を浮かべながら星達に似顔絵を大事に保管するよう命じて一夏達に向き直る。

 

「……それで、本題だけど、お前等はこれからどうするつもりなんだ?」

 

「ええ、やはり私達の目的は人と妖怪の平等な共存です。だけど、あなた達を見て今のこの世界(幻想郷)は魔法などが私が封印された頃よりも受け入れられているようですし……」

 

「それじゃあ、一度幻想郷を見て、それからゆっくり決めたらどう?私も態々封印しなおすとか面倒だし、第一悪人でもない連中を封印するのは流石に夢見が悪いし」

 

 霊夢からの提案に白蓮は穏やかな笑顔で頷き、承諾の意を示した。

そしてそれは対話が思いの外穏便に済んだ事を示していた。

 

「あ、あのさ。一つお願いがあるんだけど、良いかしら?」

 

 白蓮との会話が(思った以上に早く)一区切り付いた直後、一輪が口を開いた。

 

「そこの巫女と魔法使いにはもう言ったんだけど、エリザ……今、別の部屋で治療を受けてる私の眷属の人間なんだけどさ、彼女外界の出身で向こうの方に娘を置いてきてるのよ。あなた達が外界の方で活動してるって言うならエリザを娘さんに会わせてやってくれないかしら?」

 

 一輪は深々と頭を下げて一夏達に懇願する。

 

「ゴメン、面倒掛けると思うけどお願いするわ。エリザは態々私達に付き合ってくれたのよ。地底から開放されればすぐにでも帰る方法を探す事も出来たのに……」

 

「それぐらいお安い御用だぜ。なぁ、一夏?」

 

「ああ、仕事は増やしてしまうけどな」

 

 魔理沙は気風の良い笑みを浮かべて一輪の頼みを快諾し、一夏もそれに苦笑しながらも賛同した。

 

「ありがとう。恩に着るわ」

 

 一輪はより一層深く頭を下げて感謝する。

一輪だけではない、雲山や村紗、星達も同様に一夏達に感謝の意を示したのだった。

 

「それで、その娘さんの名前と出身地は?」

 

「確か、場所はフランスで、名前は…………」

 

 

 

 

 

「紫様、ただいま戻りました」

 

「おかえりなさい。……で、首尾はどうだった?」

 

 河城重工の社長室にて、帰還した藍を紫は出迎え、商談と調査の結果を確認する。

河城重工ではISの操縦スーツだけでなく、ISの武装(主にビーム兵器)の設計、開発もしており、それを各企業に売却する事で利益を得ているのだ。

(ただし、売却する兵器の設計図は試作機などが殆どであり、一夏達の専用機には最新式を使用している)

 

「はい、日本の倉持技研、イギリスの○○社、オーストラリアの○○重工との商談は成立。しかし、案の定と言いますか、女尊男卑が激しい企業の殆どは断固として此方からの商談を拒否しています。特に、フランスのデュノア社はそれが顕著ですね」

 

 報告書を紫に手渡し、若干呆れ顔になりながら藍は話を続ける。

フランスのデュノア社はIS業界では上位にランクする企業ではあるものの、近年ではかつての勢いは全く無くなり、E.U.が主導するイグニッションプランからも落選した落ち目の企業だ。

最早現状の所有技術で建て直しは見込めないだろう。

そんな企業が今までに無かった新たな技術(ビーム兵器)の買取を拒否するというのだ。

技術が増えれば利益を上げて自社を立て直す事が出来る可能性を自ら棒に振るのは自殺行為だ。

 

「業績が落ちた原因は、やっぱり社長婦人ね」

 

「ええ、社長のセドリック・デュノアが企業の手綱を握っていた頃は、業界でもかなり猛威を振るっていたのですが、現在は婦人であるクローデット・デュノアが会社を乗っ取ったのを切っ掛けに業績は一気に落ちています。一応それの裏付けも取れていますが……まったく、とんだ毒婦ですね。女尊男卑主義者の過激派を体現したような女ですよ」

 

 溜息を吐きながら藍は内心でセドリック・デュノアに同情を感じ、調査報告書に備え付けられたクローデットの写真を破り捨ててゴミ箱に投げ捨てた。

 

「それと、射命丸の調査ではセドリック・デュノアの愛人の子供がフランス代表候補としてIS学園に転入するとの事ですが……」

 

 藍は懐から転入生の写真を取り出し、紫に見せる。

写真には中性的な外見をした金髪の人物がIS学園の男子制服を身に纏った姿で移っていた。

 

「あら?この子……」

 

「ええ、男装してはいますが、れっきとした少女です」

 

「……きな臭いわね」

 

 紫は写真を見詰めながら目を細める。

女尊男卑主義者の巣窟になっているデュノア社から男装した女がIS学園に……ハッキリ言って妙な企みがあるのと考えるのが自然だ。

 

「目的は大体見当が付きますが、調査しますか?」

 

「お願いするわ」

 

 報告書を机の上に置き、紫は静かに調査を命じる。

 

「あと、外界(こちら)側の妖怪(二ッ岩マミゾウ)から聞いたのですが……」

 

「それは私の方にも話が来てるわ。ココから少し離れた神社の下級神からね。『顔馴染みの下級神の行方が分からなくなった』って」

 

「……そうですか」

 

 外界での怪現象に二人は神妙な面持ちになり、暫くの間重苦しい沈黙がその場を支配するのだった。

 

 

 

 

 

「何にせよ、異変が大事になる前に事が済んで良かったよ。まぁ、異変って言えるのか分かんないけど」

 

「……そうね」

 

 永遠亭の廊下で一夏は早苗に話しかけるが早苗は素っ気無く返事をして拗ねる様にそっぽを向く。

 

「……どうしたの?」

 

「別にぃ……せっかく初めて異変解決したのに目が覚めたらあんな光景見せられたからって拗ねてる訳じゃないんだから」

 

 遠まわしに先程白蓮に抱きつかれた事が不満だと言う早苗に、一夏は困り顔で溜息を吐く。

 

「……悪かったって。何か一つお願い聞いてあげっから機嫌直してよ」

 

「……何でも?」

 

 一夏の言葉に早苗はピクリと反応する。

その目は何かを閃いたように光っていたが一夏からは死角になって見えない。

 

「う、うん。出来る範囲でなら」

 

 そしてこの言葉を言ったのが一夏にとって最大の不覚だったのかもしれない。

 

「それじゃあ、今からする事に一切抵抗しないでね♪」

 

「へ?」

 

 直後に早苗は一夏の顔をガッチリとホールドするように両手で掴み、自分の顔の方に引き寄せてそのまま唇にキスをした。

 

「んんんんっぅぅうぅっ!??!?」

 

「ぷはっ……抵抗しないって約束でしょ?せっかく異変解決したんだもん。ご褒美ぐらい、良いでしょ?」

 

 早苗の姿と声色は、今までに見た(聞いた)事が無い程に色っぽく、官能的だった。

 

「だから、ね」

 

「何がだから?んむぅぅっ!?」

 

 間髪居れずに再び早苗は一夏の唇を奪う。

しかも今度は舌まで入った濃厚なものだ。

 

「んんっぅ〜〜〜〜!!(こ、これはヤバイって!だけど言う事聞くって言っちゃったし……)」

 

 変なところで律儀な一夏少年だった。

しかし、そんな二人の甘くて酸っぱい一時も唐突に終わりを告げる。

 

「さ、な、えぇ……貴様ぁぁ……」

 

「ち、千冬姉!?」

 

 白蓮との戦いでの怪我とラストスペルの使用で全身疲労で療養中の千冬が松葉杖を突きながら現れた。

 

「抜け駆け何て言わないでくださいね。こんなのやったもん勝ちですから」

 

 疲労困憊のブリュンヒルデなど恐るに足らずとばかりに早苗は再び一夏にキスをする。

 

「き、貴様…………だったらこっちだってなぁ!!」

 

 疲労でまともに動かない身体に鞭打ち、千冬は一夏を早苗から引き離すように飛びついた。

というか一夏の方に倒れ込んで押し倒したと言った方が正しいだろうか?

 

「早苗にしたんだから、私にもご褒美をくれたって良いよな?」

 

 そしてそのまま千冬も一夏にディープキスをかました。

 

「むぐぅぅぅ〜〜〜〜〜っ!!?!?」

 

「ちょっと!横から入るとか、キスの味が変わっちゃうじゃないですか!!」

 

「やかましい!お前より私の方が重症なんだからこっちを優先にしたって良いだろうが!!」

 

 千冬を一夏から引き離そうとする早苗に、怪我と疲労で体力に劣る千冬は恥も外聞も無く一夏にしがみ付いてそれを阻止する。

 

「ええい!さっさと諦めて離れろ!!」

 

「そっちが離れなさいよ!全身疲労なんだから無理せず入院してなさい!!」

 

「……誰か助けて」

 

 自分の真上で組んず解れつな姉と幼馴染に一夏の小さな悲鳴が溶けていった。

結局二人の争いはこの後永琳に鎮静剤を打たれて漸く収まり、二人は丸一日の間仲良く入院するのであった。

 

 

 

 

 

 そして時間はあっという間に流れ、連休は最終日となった。

異変発生からコレまでの間、白蓮達は1000年前と変わった幻想郷を知り、多少区別はされつつもしっかり共存できている人間と妖怪の関係に満足し(同時に外界での男女差別という大きな問題に対して酷く嘆いた)、今後はより一層平等な関係でいられるよう人里の近くで寺を建て、命蓮寺と名付けた。

 

一夏と千冬は万屋の仕事を一時再開して依頼や書類の片付けに奔走。

その他の仲間達もそれぞれの居場所でそれぞれの時間を過ごすのだった。

 

 そしてこの日、河城重工によって新たなIS操縦スーツ『汎用操縦スーツ』が発表された。

汎用操縦スーツ……このスーツはISへの適正の低い者の為に使用される特殊スーツであり、ランクE〜Dの者でもこのスーツを着用すればCランク並の操縦適正を得る事が出来る。

このスーツの発表により河城重工は今まで低かった女性からの支持を得る事に成功、IS業界内での地盤をより固めていく……。

 

 

 

「これは、本当なの?」

 

 命蓮寺の一室にて、自身の娘の現状が書かれた報告書を読み、エリザは目の前に居る千冬に訊ねた。

 

「ああ、間違いない。まさか、アナタの娘が……」

 

 藍から貰い受けた報告書を片手に千冬も苦々しい顔付きになる。

エリザの娘は今、とある企業の陰謀に巻き込まれていた。

それも非常に胸糞悪いものだ。

 

「私達にも協力できる事があれば是非言ってください。助けと必要としている子を放ってはおけません」

 

「私も、眷属の家族を放ってはおけないわ」

 

「聖がやるというのなら私達も協力しない訳にはいきませんね」

 

「……ありがとうございます」

 

 千冬と仲間達からの気遣いと優しい言葉にエリザは深々と頭を下げ、直後に拳を握り締めて決意を固める。

エリザの手は震えていた。娘が陰謀に巻き込まれたことへの不安、そして巻き込んだものへの怒りに……。

 

「シャルロット……必ず助けてあげるから、待っていて」




おまけ

 目当てにしていた宝船だったが、その目論見は見事に的を外し、風呂敷代を損しただけという結果だけが残った霊夢は……。

「ねぇねぇ魔理沙。この風呂敷結構大きくて便利なんだけどさ、2千円で買わない?」

 何とかして損害額を取り戻そうとしていたが……。

「寝言は寝て言え」

 当然、そんな事が上手くいく訳が無かった。

「うぅ……さようなら、お金持ち。そしてこんにちわ貧乏……」

 霊夢の財政難はまだまだ続く(笑)。





次回予告

 連休が終わり、学年別トーナメントを控えたIS学園にフランスとドイツの代表候補、そして見事最終試験をパスした弾が転入してくる。
陰謀に巻き込まれ、自由を失った少女は幻想郷に生きる者との出会いで何を得るのか?

次回『覚悟の有無』

咲夜「自由や平穏は貰うものじゃない、勝ち取るものよ。被害者面してるだけでは絶対に得る事は出来ないわ」

※本作において真耶は新潟県佐渡島出身と言う設定です。
また、文は他のメンバーと違い、学園内の調査のため半日ほど遅れて幻想郷に戻っています。

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