東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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Season3放送記念!
孤独のグルメとのクロス番外編です!!


番外編・河城重工食堂のおまかせ定食と牡丹肉のハンバーガー

 春も後半に入った今日この頃。

俺、井之頭五郎は、数日前に経営する輸入雑貨のホームページに注文が入り、依頼主にいくつかのサンプルを見せるために取引先へ車を走らせていた。

 

「しかし……まさかあの大物企業の社長が……」

 

 依頼人は八雲紫……そう、何を隠そうあの有名な河城重工の女社長だ。

そんな大物から注文を承るとは……正直な所、かなり緊張してしまう。

 

「たしか、待ち合わせはココだよな?」

 

 近くの100円パーキングに車を留めた後、待ち合わせ場所に到着し、俺は周囲を見回してそれらしき人物は居ないか探す。

 

「失礼ですが、井之頭五郎さんですか?」

 

 キョロキョロと辺りを見回す俺に背後から突然声が掛かる。

振り向いてみるとそこに居たのは金髪をショートカットに切り揃えたスーツ姿の若い女性だった。

 

「え?はい、そうですが……」

 

「お待ちしておりました。河城重工副社長の八雲藍です」

 

「ああ、これはどうも。私、井之頭と申します」

 

 軽く頭を下げながら俺に名刺を差し出す藍と名乗る女性に、俺は慌てて自身の名刺を取り出す。

 

「どうぞ、車の方へ。本社までお送りします」

 

 挨拶もそこそこに藍さんは俺を車に乗るよう促し、本社があるという山奥へと車を走らせて行った。

 

 

 

(おいおい……なんだか凄い所へ来ちゃったぞ)

 

 入り組んだ山道を車で走り数十分、河城重工本社へやって来た訳だが、山奥に科学の結晶であるISの工場が建っていて、その近くには神社っていうのはまた何と言うかミスマッチだなぁ……。

 

「…………」

 

 そして俺の目の前では河城重工の女社長、八雲紫が注文したインテリアが写って居る俺のノートパソコンをまじまじと見つめている。

 

「…………」

 

「…………」

 

 このサンプルを品定めされるときの空気は、やはり緊張する。しかも相手が誰もが知る大物となればその緊張は格段にスケールアップするから厄介だ。

 

「……コレ良いわね。凄く良い、アナタのセンスの良さがよく解るわ」

 

 どうやら気に入ってもらえたらしい。

 

「井之頭さん、だったわね?アナタ良いセンスしてるわ」

 

 べた褒めされた。美人から褒められると年甲斐も無く嬉しく思ってしまう。

やはりそこら辺は俺も男って事か。別嬪さんには弱い……。

 

「あなた、自分の店とかは持っていないの?」

 

「いえ、そういうのはちょっと……」

 

 結婚もそうだが、趣味程度でならともかく、下手に自分の店とかを持つと守るものが増えて人生が重くなる。

男は自分の身一つでいたいもんだ。

 

「そう……この後、何か用事とかはあるかしら?出来ればもう少し他のサンプルを見ておきたいのだけど」

 

「ああ、大丈夫ですよ。今日は他に何も無いですし」

 

 これだけ有名な企業からの依頼だ。他の用事が重ならないようにしっかり気を使っておいて正解だったようだ。

 

「待っているだけなのも何でしょうし、良かったら昼食とかも兼ねてココを見物してみたらどうかしら?」

 

「え、良いんですか?」

 

 こういう所って機密とかそういうのがたくさんあるのではないだろうか?

 

「大丈夫よ。素人にわかるようなものではないし、それにそういうのはもっと秘密の場所で扱ってるから」

 

「そう、ですか?それじゃあ……」

 

 結局お言葉に甘える形になった。

何だかんだ言っても有名企業の見物なんてそうそう出来るもんじゃないからなぁ。

 

 

 

「ほらほらぁっ!拳に重みが足りてないよ!!もっと踏み込んで来い!!」

 

「押忍!!」

 

 とりあえず適当に歩き回っていると、最初に目に映ったのは道場らしき畳張りの部屋。

赤毛にバンダナを巻いた少年が、体操着にも似た服を着た金髪の女性に立ち向かい、軽くあしらわれている光景だった。

 

(中々良い筋だ……)

 

 俺も昔、祖父ちゃんから古武術を叩き込まれたから、何となくではあるが分かる気がする。

あのバンダナの少年はきっとまだまだ伸びる。

 

「よーし、交代だ。弾、少し休んでいな」

 

「ハァ、ハァ……押忍!」

 

 フラフラだが、威勢良く返事をして弾と呼ばれた少年は背を向けて歩き出し、やがて壁にもたれかかりながら座り込んだ。

精一杯頑張って、大物になれよ……。

 

 

 

 次に目に付いた場所は休憩所だ。

多くの従業員や訓練生達が他愛の無い世間話に花を咲かせたり、トランプなどで時間を潰したりしている。

 

「王手」

 

「げげっ……ま、待った!」

 

「ダメ。もう三回使ってるよ」

 

「うぐぐ……」

 

 帽子を被った二人の少女が将棋に興じている。

いや、将棋にしては駒が多い……これは、所謂大将棋という奴だろうか?

 

「そういえばさ、今日のお昼何食べた?」

 

「んー?おまかせ定食。今日は胡瓜のお新香が付いてたからね」

 

「え、本当!?うわぁ、知ってたら絶対それにしてたのに……」

 

「夜に食べれば?大量に入荷したって言ってたから、夜にも残ると思うって食堂のおばちゃんが言ってたよ」

 

 胡瓜のお新香か……そういえば昼飯まだだったなぁ。

それに何だか、食べ物の話を聞いてると……。

 

(腹が、減った……)

 

 

 

 

 約束の時間までまだそこそこあるし、昼飯を食えば丁度良い頃合いになるだろう。

向こう(紫)も「昼食とかも兼ねて」って言ってたしな。

 

 

 

 

 

「いらっしゃい」

 

 食堂に入ると同時に調理人らしき中年の女性が声を掛けてくる。

食堂内には俺以外にも何人かの客が席に座って飯を食っている。

 

「こちらお冷(水)になります。メニューはあちらの方に書いてますので」

 

 店員に案内されて壁に張られたメニューを一通り見回す。

 

(色々あるなぁ)

 

 こういうのを見てるとなんだか高校時代の学食を思い出すなぁ。

さて、何にするか……いや、ここはやはり。

 

「すいませーん、おまかせ定食ください」

 

「はい、少々お待ちください」

 

 注文を済ませると少し心にゆとりが出来て、俺は他の客の様子を眺める。

 

「んぐっ、んぐっ……プハァ〜〜ッ。美味い!」

 

 ふと目に付いたのは小柄な少女。いや、酒を飲んでるみたいだから女性か?

どうみても十代半ば(下手すりゃ前半)の少女が美味そうに酒を飲んでいる。

 

「萃香ちゃん、飲みすぎなんじゃないの?」

 

「ん〜?大丈夫大丈夫。この一本で最後だから。それに今日私非番だしぃ〜〜」

 

 慣れた様子で食堂の店員が萃香という女性(?)に注意し、彼女はそれを軽く受け流す。

 

「はい、お待たせしました。おまかせ定食です」

 

 お、来た来た。来ましたよ。

 

『おまかせ定食』 650円

・鮎の塩焼

良い色艶をした鮎の塩焼きが2匹、串に刺さった状態で皿に盛られている。

 

・キュウリのお新香

キュウリを丸2本使っている。

 

・豚汁

具沢山でボリューム満点。

 

・ライス

茶碗に並々盛られて程良い量。

 

(こりゃあ美味そうだ)

 

 肉、魚、野菜、米……皆揃ってて良いバランスだ。

さて、どれから手を付けるか……。

 

(ここはまず、魚から行くか)

 

 早速俺は串に刺さった鮎に手を伸ばして、それに齧り付いた。

 

(美味い!良い塩加減だ)

 

 噛む度に魚の旨味と塩気がミックスされ、口の中一杯に広がっていく。

無意識のうちに二口目、三口目と口が動き、その旨味を噛み締めていく。

 

(あっという間に一匹平らげてしまった)

 

 次は、豚汁だ。

 

(里芋、人参、大根にゴボウも入ってるな)

 

 コレも美味い!出汁は勿論、出汁が具に良く染み込んで味をより引き立てている。

合間合間に食べるライスとの相性も抜群だ。

 

(そしてこのキュウリ、コレも良い。濃い味が多い中でさっぱりした味わいは凄く爽やかに感じる)

 

 うん、美味い!美味すぎて箸を休める暇が無い。

気が付けば俺は、全部食べ尽くすまでノンストップで箸と口を動かし続けた。

 

「おばちゃーん、お酒の締めに牡丹肉のハンバーガー一つねー!」

 

(ん、牡丹肉のハンバーガー?)

 

 耳に届いた聞き慣れない単語に、俺は思わず怪訝な表情をしながら声の主である萃香に視線を向ける。

 

「お?おにーさん、この食堂初めて?だったらここのハンバーガーは食べとくべきだよ」

 

「へぇ……それじゃ、こっちもそのハンバーガーを一つ」

 

「は〜い」

 

 薦められると妙に食欲がまた湧いて、ついつい注文してしまった。

 

「にしてもお兄さん、いい食べっぷりだねぇ。どう、一緒に飲まない?」

 

「ああ、いや……私、全然飲めないんですよ」

 

 よく間違えられるが、俺は全くの下戸だ。

よほど前世で酒で痛い目に遭ったのだろうか……。

 

「へぇ〜、勿体無いねぇ〜〜。私なんか毎日飲んでるよ」

 

 どうやら彼女は見かけに反して随分な酒豪らしい。俺の逆バージョンだ。

 

「はい、牡丹肉のハンバーガー、お待たせしました」

 

『牡丹肉のハンバーガー』 130円

牛肉の代わりに猪の肉で作ったハンバーグを材料にしたハンバーガー。

織斑一夏考案のメニューで食堂一押しメニュー。

 

(おお!?これは……)

 

 見るからに美味そうだ。

おまかせ定食を食い終わったばかりなのに、見ているだけで食欲がそそられる。

 

(どれどれ、味は……う、おぉぉ……!!)

 

 凄く美味い!こりゃあ大正解だ。

脂身が少ないからか、同じひき肉でも普通のハンバーガーとは歯ごたえが違う。

何て言うか……良い意味で男の料理って感じだなぁ……。

 

「ふぅ〜〜、ごちそうさまでした」

 

 あっという間にハンバーガーを平らげ、俺は満腹感を感じながら一息吐いたのだった。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、注文の品、よろしくお願いしますね」

 

「はい」

 

 食堂で美味い飯を食い終わったあと、俺は社長室で注文を確認して、その後副社長の藍さんに車で駐車場まで送って貰った。

 

「紫様……社長がまた注文するかもと言ってましたよ。その時はまたよろしくお願いします」

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

「それじゃあ、私はコレで……」

 

 優しげな笑みを浮かべて去っていく藍さんを見送り、俺も自分の車へと戻る。

それにしても、良い場所だったな。

社長の紫さんは終始タメ口だったけど、それを不快に感じさせない何かがあったし……きっと、ISなんかが無くてもあの人は大物になっていただろうなぁ……。

 

「さて、帰って注文の品を発注しないとな」




次回予告

 新装備の受領と万屋の仕事を片付けるべく、一夏達は幻想郷へ戻る。
しかしそこには新たな異変が起きつつあった。
千冬、早苗、魔理沙、霊夢は異変解決に動き出すが……。

次回『未確認飛行物体を追え!!』

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