東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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二人の強者に迫る悪意(後編)

「何の冗談だよ、こりゃあ?」

 

 顔を引き攣らせながら一夏は呟く。

 

「人の気配がしない。まさかコイツ等が……!?」

 

「ああ、永遠亭のウサギ(鈴仙)が言ってた機械人形かもしれないぜ」

 

 研ぎ澄まされた二人の感覚が目の前のモノが放つ異質さに気付く。

突如として現れた機械人形、正確には完全装甲のISが5体、その全てにおいて人が必ず持っている筈の気配がまるで感じられないのだ。

即ち目の前のISは全て無人機という事だ。

そしてその全ての照準は一夏と魔理沙にロックオンされている。

 

「やる気満々か……」

 

「人の勝負邪魔して、その上観客巻き込んでドンパチたぁふざけた人形だぜ。メディスンの方が全然可愛げがあるんじゃないか?」

 

 不機嫌な表情を隠さず一夏と魔理沙は臨戦態勢に入る。

 

「観客に被害は出せない。まずは食い止める!抜かるなよ魔理沙!!」

 

「ヘッ!誰に向かって言ってんだ!?コイツの火力、見せてやるぜ!!」

 

 無人機から放たれるビームを回避し、一夏と魔理沙はブースターを一気に吹かした。

 

 

 

 

「織斑君!霧雨さん!早く逃げてください!!」

 

 一方で管制室内にて、真耶は無線で一夏と魔理沙に避難を呼びかけようとするが(一夏と魔理沙はすでに通信を切っているため)応答は全く無い。

 

「チッ、貸せ!……全専用機持ちに告ぐ。今すぐ一般生徒の避難誘導を急げ!!壁などは破壊しても構わん!責任は私が持つ!!教師と2〜3年生は大至急アリーナへの隔壁を開ける事に専念しろ!!織斑、霧雨は増援が来るまで持ち堪えろ!!」

 

 真耶から通信機をぶん取り千冬はマシンガントークの如く指示を出す。

そんな千冬を真耶は呆然として見つめている。

 

「何をしているんだ!?私達も行くぞ!!」

 

「は、はい!!」

 

 千冬の一喝に真耶は飛び起きるように反応し彼女の後を追った。

 

 

 

「そりゃあぁっ!!」

 

 ビームを発射しようとする無人機の一機目掛けて一夏はワイヤー付ロケットパンチで絡め取って引き寄せ、空いている右拳のDアーマーで無人機の胴体を殴り飛ばして地面に叩き落す。

叩きつけられた無人機は起き上がろうとしているがその動きはぎこちない。戦闘力を落としたのは明らかだ。

 

「……魔理沙!観客の方は?」

 

「あと少し!さっさと全員逃げろってんだ……よ!」

 

 魔理沙はイリュージョンを装着したスプレッドスターで急加速しながらすれ違いざまに無人機を斬りつけてバランスを崩し、直後にレヴァリエを取り外してビームを直撃させて無人機を吹き飛ばす。

 

「クソ……全員逃げてくれりゃ『アレ』で一網打尽だってのに」

 

「全くだ……こんな時こそ魔理沙のISの出番だってのによ」

 

 苛立ちながら無人機を蹴散らしていく魔理沙と一夏。

アリーナのバリアをも破壊できる武装を持つ無人機が相手では少しのミスが犠牲者を出す怖れがある。故に二人は観客席に配慮しなければならないため本気を出したくても出せないのだ。

 

「あと何人だ!?」

 

「……よし、もう全員……い、いや!あれは!?」

 

 魔理沙が向けた視線の先に一夏は驚愕する。

 

『一夏!男ならそんな奴等に勝てなくてどうする!?』

 

 そこにいたのは放送席を占領して叫ぶ篠ノ之箒の姿だった。

 

 

 

「何やってんのよアイツ!?」

 

 凰鈴音は一般生徒の避難誘導を進める中、突如として起きた箒の無謀すぎる行為に愕然とした。

彼女の行為は自分自身はおろか一夏や他の一般生徒をも危険に晒しているのだ。

これでは自分達の避難誘導は無意味になってしまう。

 

「アンタ、何馬鹿な事やってんのよ!?さっさと逃げないと……」

 

「離せ!私は自分の出来る事を……」

 

 すぐに箒を止めに入る鈴音だったが箒はまるで聞く耳を持たない。

箒の頭の中では自分は危険を顧みずに一夏を応援する勇敢な女性でそれを邪魔する鈴音はただの邪魔者でしかないのだろうが鈴音からしてみれば傍迷惑以外の何物でもない。

 

「下らない事言ってないでさっさと逃げ……」

 

 力ずくで箒を会場から追い出そうとする鈴音の表情が一気に凍りつく。

無人機の一つが砲身をまっすぐに自分達に向けているのだ。

 

「ちょ、ちょっと……!?」

 

 鈴音の表情が恐怖に凍りつく。

直後に発射体勢に入った砲身が発光する。

 

「ひぃっ……」

 

「鈴、箒!逃げろぉっ!!」

 

 一夏の声が聞こえるが恐怖に震える身体は言う事を聞かず、鈴音はその場に固まってしまう。

そして無人機から巨大なビームが放たれた。

 

「守れ、オンバシラ!!」

 

 しかしそこに突如として割って入る一本の柱が鈴音達を守るように高速回転してビームを防いだ。

 

「まったく、世話が焼けるんだから」

 

 呆然とする鈴音達の前に柱型格闘・防御ユニット『オンバシラ』の主……専用機『非想天則』を纏った早苗が現れ、無人機を相手に身構える。

 

「凰さん、彼女を連れて逃げて。早く!!」

 

「わ、分かった!」

 

「ま、待て!私は一夏を……」

 

「黙れこの馬鹿!」

 

 喚く箒を無理矢理抑え付け、鈴音は早苗に促されてアリーナを後にする。

 

「避難は完了したわ。一気に決めるわよ!」

 

「ああ!」

 

「今まで溜まった鬱憤、晴らさせて貰うぜ!!」

 

 アリーナに残された一夏、魔理沙、早苗は無人機を迎え撃つ。

 

「行くぜ人形野郎!」

 

一夏は先程地面に叩き落した無人機を掴み上げ、近くにあるもう一機の無人機に叩きつける。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァッ!!」

 

 直後に間髪入れずに接近して凄まじいラッシュを2機の無人機に叩き込む。

一夏の腕力とDアーマーのパワーが合わさった猛攻は瞬く間にシールドエネルギーを枯渇させ、絶対防御をも貫き無人機は僅か数秒にしてジャンクと化した。

 

「フルパワーでぶち込んでやるぜ!!」

 

 二本のレヴァリエと右肩のイリュージョンを合体、直結させ魔理沙は砲身を2機の無人機に向ける。

一方で2機の無人機は魔理沙目掛けてビームを発射する。

 

「行っけぇぇぇぇ!!!!」

 

 迫るビームにまるで物怖じせず、魔理沙はバーニングマジシャン最大の武器である超高出力ビーム砲『マスターキャノン』を発射する。

放たれた魔理沙のビームは無人機の砲撃を飲み込み、一瞬にして無人機を吹き飛ばした。

 

「最後は私ね!」

 

 不敵な笑みを浮かべながら早苗はビームライフル『ドッズライフル』を残る一機の無人機に、無人機も早苗目掛けてビームを発射する。

互いのビームが交差し、同時に命中して爆煙があがる。

しかしそこから先の状況は全く違った。無人機はビーム砲を破壊され体勢を崩しているが早苗の方はオンバシラによって守られ無傷だ。

 

「これでとどめ!」

 

 気合と共に早苗は回転式ロケットパンチ『ブロウクンマグナム』を展開し、そのまま無人機に叩き込み、無人機は壁に激突すると同時に力なく地に落ちていった。

 

「これで全部だな?」

 

「ああ、残骸とか回収しとこうぜ。何かの手がかりに……!?」

 

 撃墜した無人機を回収すべく近付こうとした魔理沙だったが突如としてそこに一条のビームが放たれ、無人機を跡形も無く破壊してしまった。

 

「何だ!?」

 

 突然の出来事に一夏達はビームが放たれた方向を向くがそれと同時に再びビームが連続して放たれ、全ての無人機を破壊し尽くした。

 

「アレは……」

 

 呆然としながら一夏は呟く。

視線の先の上空には一機のIS……そしてそれを纏う少女の姿があった。

 

「…………痕跡は、全て消す」

 

「ま、待て!」

 

 少女は一夏達を一瞥すると背を向けて飛び去ろうとする。

それを阻止しようと魔理沙はレヴァリエによる射撃で牽制するがそのビームは少女に当たる事無く空を切った。

ビームが命中するその刹那、少女の姿は文字通り姿を消したのだ。

 

「何だったんだ?アイツは……」

 

 答える者の居ない問いを呟き、一夏は誰もいなくなったアリーナの空を見つめた。




次回予告

一夏達の活躍で無人機は退けられ、事件は事後処理を残すのみとなった。
事後処理の中、箒は己の無謀な行為を咎められるが……。

次回『後始末』

箒「私は私が出来ることをやったんだ!それの何が悪いと言うんだ!?」



IS紹介

バーニングマジシャン(爆裂の魔術師)

パワー・B
スピード・A(本体のみではD)
装甲・B
反応速度・A
攻撃範囲・C
射程距離・A

パイロット・霧雨魔理沙

武装
ビームバズーカ『レヴァリエ』×2
高出力のビームバズーカ。
高い威力を誇り、一撃だけで大ダメージが期待できる。

レーザーカノン『イリュージョン』
右肩に装備されたレーザーカノン。
速射性が高く、牽制に便利。

西洋剣型ブレード『スターダスト』
接近戦用の武装。
強度が高く、耐久性は抜群。

超高出力ビーム砲『マスターキャノン』
レヴァリエとイリュージョンを合体させて発射するバーニングマジシャン最大の武器。
その威力は絶対防御を簡単に貫くほど。
そのため、試合ではリミッターが掛けられている。
また威力が大きい反面燃費も非常に大きい。

飛行ユニット『スプレッドスター』
サーフボード型の飛行ユニット。
単体でも高い機動性を誇るがレヴァリエを装着する事で凄まじいスピードでの飛行が可能になっている。

魔理沙専用機
高いスピードと圧倒的な火力を誇る機体。
単体での飛行能力は持たず、スプレッドスターに乗る事によってサーフィンのように高速移動が可能になっている。
その反面、他の機体と比べて動きが大雑把で小回りが利かないのが欠点。



非想天則

パワー・B
スピード・B
装甲・A
反応速度・A
攻撃範囲・C
射程距離・B

パイロット・東風谷早苗

武装
ビームライフル『ドッズライフル』
貫通力に優れたビームライフル。

柱型格闘・防御ユニット『オンバシラ』×2
簡易ビットを装備した柱型のユニット。
基本的に本体の周囲に浮かんでおり、早苗の意思に応じて敵の攻撃を高速回転しながら自動防御する。
打撃武器としても使用可能。

ビームナイフ
近接戦闘用の武器。

回転式ロケットパンチ『ブロウクンマグナム』
貫通性と威力に優れたロケットパンチ。早苗のお気に入りの武器。

早苗専用機
防御力に優れた機体。
早苗の趣味が思いっ切り前面に出ているロマンを重視した設計になっている。

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