東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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本作では原作と違って白式が登場しないため、打鉄弐式は完成しています。

推奨BGM 月時計〜ルナ・ダイアル or フラワリングナイト


意地と憧れと嫉妬

 先鋒戦終了後、10分の休憩を挟み両クラスの中堅、咲夜と簪はアリーナの中央で対峙していた。

 

(戦わなくてもなんとなく解る、この人は強い。私なんかよりずっと……)

 

 咲夜の出す雰囲気に簪は本能的に実力差を実感する。

 

(けど、負けられない……魔理沙が見てる前で格好悪い姿見せたくない)

 

 今までの自分なら怖気づいていたかもしれない。しかし今は違う、自分の憧れの存在である魔理沙が見ている前で無様な姿は絶対に晒したくない。

というか最近魔理沙の事を考えれば考えるほど胸が熱くなって戦う事に勇気が湧いてくる。

そして簪自身もその想い……即ち自分が魔理沙に恋をしているという事実に徐々に気付きつつある。

 

「絶対に負けない……!」

 

 そんな彼女の表情が勇ましいと呼ぶに相応しい表情なのはある意味当然かもしれない。

強い気迫を醸し出しながら専用機『打鉄弐式』を纏った簪は対戦相手の咲夜を睨みつける。

 

(大した気迫ね……この娘、鍛えれば相当化けるかもね)

 

 セシリア同様武術部入部前と顔付きの変わった簪に咲夜は内心感心しつつナイフを構える。

 

『試合開始!』

 

 開始の合図と共に咲夜のパーフェクトサーヴァントから放たれる無数の投げナイフ。

 

「っ!」

 

 飛んでくる投げナイフを簪は振動薙刀『夢現』で弾き飛ばす。

 

(距離を取られると負ける……けど、)

 

「『距離を詰めれば何とかなる』……そう思ってるでしょ?」

 

「!?」

 

 内心を見抜かれ簪はギクリと顔を顰める。

 

「甘いわね。自分の機体の苦手分野は自分が一番理解してる……そしてどう戦えば接近され難いかも」

 

 余裕の表情を崩さず再び繰り出される咲夜の投げナイフ。

簪はそれに反応して再び薙刀で弾くが……

 

「グッ!……な、何が!?」

 

 突如背後からの刺されたような衝撃が左肩を襲い、簪は驚愕しながらも何が起きたのかを探る。

 

「これは…!?」

 

 打鉄弐式の左肩にはナイフが突き刺さっていた。

パーフェクトサーヴァントの武装、光学迷彩短剣『Sナイフ』だ。

 

「何で?防いだはずなのに!?」

 

「ミスディレクション、奇術の基本よ……相手の視線を別の一点に注視させて別の死角で攻撃するテクニック。ビットの機能を上手く使えばこれくらい可能よ」

 

 種明かしはこうだ……最初の投げナイフは囮で、別のナイフを同時に投げてビット操作で背後から簪を攻撃したのだ。

 

(つ、強い……解っていたけど、ここまで差があるなんて)

 

 震えそうになる手を硬く握り締めて簪は再び構えなおす。

 

(怯える必要なんて無い!武術部の特訓を思い出せば……)

 

 簪の脳裏に思い浮かぶ武術部での戦闘訓練……射撃に体術、どんな面でも自分とセシリアは他のメンバーに敵わず毎回同じ様にあしらわれ、ボコボコにされた。

しかしその中で自分はあるものを学んだ。

たとえ相手の実力が自分より上でも絶対に諦めず勝利を探し出す精神『不屈』を……。

 

「物思いに耽ってる暇は無いわよ!」

 

「どうせ避けられないなら!!」

 

 回避が不可能と察し、簪は背中に装備された2門の速射荷電粒子砲『春雷』を連射しながら咲夜との距離を詰めようとバーニアを吹かす。

 

「良い意味で我武者羅ね……でも!」

 

 再び繰り出される投げナイフの全方位連続攻撃、しかしそれでも簪は射撃を止めない。

攻撃は最大の防御とばかりに周囲に弾幕を張り必死に後退する咲夜を追いかける。

だがしかし、そんな簪の行動を読み取っているかのように咲夜は両手に持つ2本のナイフを投げる。

 

「クッ…こんなの!」

 

 春雷で投げられたナイフを眼前で打ち落とす簪。

だがここで予想外の事態が起きた。打ち落としたはずのナイフが小規模ではあるが爆発を起こしたのだ。

 

「え?ちょ、何!?」

 

 思わず間抜けな声を上げてしまう。

簪は知る由も無いが咲夜が投げたのは火薬が仕込まれた炸裂短剣『EXナイフ』。

これが迎撃された事で誘爆を起こし、簪の視界を爆煙で遮ったのだ。

 

「目晦ましって以外と使えるのよ。特に相手の虚を突くとね」

 

「!?……キャアァァッ!!」

 

 怯む簪を狙い撃つ様に咲夜の手から放たれた3本目のEXナイフが背後から強襲し、春雷を破壊する。

 

「グ…ゥ……ま、まだ……」

 

 爆風に吹っ飛ばされ、簪は体勢を崩す。しかしそれでも簪は戦意を失う事無く体勢を立て直す。

 

(今の私にあのナイフを避けきるのは無理……勝つには接近して組み付いてある程度シールドエネルギーを削って一気に『アレ』で勝負をつけるしかない……でも咲夜さんのスピードに追いつくには……!!…あった!これなら!!)

 

 天啓のように脳内に閃く策。それはある意味賭けではあるが今の状況で自分が勝つ可能性が最も高い作戦だった。

 

(残りのシールドエネルギーは59%……大丈夫、ギリギリ持つ!チャンスは一回、この一回に全てを賭ける!!)

 

 簪は意を決し、打鉄弐式最大の武装である八連装ミサイルポッド『山嵐』を展開する。

 

「勝負!!」

 

 気合と共に8発の内1発のミサイル、更にそのその中に内蔵されたの6発の小型ミサイルが発射される。

 

「!?」

 

 回避に移ろうとする咲夜だったが直後にそのミサイルの異質さに気付き、動きを止める。

ミサイルの軌道は咲夜に向かうどころか突如Uターンしたのだ。

そしてその先にはフルスピードで自分に近付こうとするミサイルを放った張本人である簪の姿があった。

 

「まさか!?」

 

 この時になって咲夜は簪の策に勘付いたが、しかしその時簪の目的は既に達成していた。

 

「グゥッ……行っけぇぇーーーー!!」

 

 自身の背後に6発のミサイルが命中し、爆風による衝撃とイグニッションブーストによる瞬発力が合わさり、一瞬ではあるが咲夜のパーフェクトサーヴァントを超えるスピードが生まれ、打鉄弐式は残りシールドエネルギーの大半を犠牲にしてパーフェクトサーヴァントに接近し、そのまま組み付いた。

 

「だぁああぁぁーーーー!!」

 

「ブッ!?」

 

 組み付くと同時に簪は咲夜の顔面目掛けて渾身の頭突きを数発喰らわせる。

傍から見ればお世辞にも格好良い攻撃とは言えない。しかし簪にとってそれはどうでも良い事だった。

 

「格好悪くたって良い、私はもう自分に負けない!!……これでも、喰らえぇぇーーーっ!!」

 

 山嵐から残り40発のミサイルが一斉に発射される。

これを喰らえばパーフェクトサーヴァントでも無事ではすまない。

 

「だけど、こっちにもプライドがあるのよ!」

 

 普段のクールな面とは違い、咲夜は強い誇りを感じさせる面持ちを見せる。直後に40発のミサイルが全て爆発し、二人は爆煙に包まれた。

 

 

 

「…………ど、どうなったの?」

 

「どっちが勝ったの?」

 

 アリーナを静寂が支配し、直後に観客席の生徒達は決着の行方を知ろうと騒ぎ立てる。

 

『試合終了――勝者、十六夜咲夜』

 

 それから数秒後、咲夜の勝利を告げる音声が鳴り響いた。

 

 

 

「まさか、非常時用武装(ミーク)まで使う事になるなんてね……」

 

 ミサイルによる煙が晴れ、姿を現した咲夜のパーフェクトサーヴァントの腰から伸びる腰部荷電粒子砲『ミーク』の砲身からは煙が上がっていた。

 

「まさか、あれだけの数のナイフを使い切ってミサイルを防ぐなんて……」

 

 山嵐のミサイルが迫る中、咲夜はパーフェクトサーヴァントに装備される全てのナイフを全方位にバリアのように展開してミサイルを防ぎ、直後にミークによる砲撃で打鉄弐式にとどめを刺したのだ。

 

「はぁ、やっぱり強い……私じゃまだ全然届かない」

 

 溜息混じりに簪は敗北を実感する。だがその表情は決して悪いものではない。

負けはしたが決して無駄な敗北ではなかった……それを実感しているようなどこか清々しさの残る表情を簪は浮かべていた。

 

「今の戦い、悪くなかったわ。アナタもセシリアもね」

 

「うん……でも、本気を出していない人に言われてもちょっとね……」

 

「気付いてたの?」

 

 簪の言葉に咲夜は意外そうな表情を見せる。

 

「アナタも妖夢さんも、その気になればもっと早く勝負を決める事が出来た筈。ちょっと考えれば解るよ」

 

「上出来よ、それが解るのならアナタも十分成長できてるわ」

 

 感心するように咲夜は笑う。

 

「セシリアも気づいていたの?」

 

「ええ、私が出る前にアナタと同じ事を私と一夏に聞いて来たわ」

 

「そう……次は本気を出させて見せる。覚悟しておいて」

 

 咲夜の話を聞き終え、簪は踵を返し、去り際に挑戦的な捨て台詞を残して自身のピットに戻る。

 

「アナタ達が相手だと本当にそうなりそうで怖いわ」

 

 そんな簪の言葉に咲夜は苦笑いを漏らした。

 

 

 

「お疲れ」

 

 ビットに戻った簪を魔理沙が労いの言葉と共に出迎える。

 

「うん……ゴメン、やっぱり勝てなかった」

 

「良いって事、私がキッチリ決めて来るぜ。簪の分もな」

 

 簪の謝罪を気にする事無く魔理沙は次に控える試合に向けて準備を進める。

 

「それよりどうだった?強くなったのを実感した気分は?」

 

「……最高!」

 

 魔理沙の問いに簪は満面の笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

「…………」

 

 試合の興奮の冷めやらぬ観客席の中で簪の姉でありIS学園生徒会長を務める少女、更織楯無は無人となった試合場を睨みながら表情を不快そうに歪めていた。

 

(何なの?この感情は……)

 

 自分を打ち負かした男、織斑一夏とその仲間の所属する部活に入ってから妹である簪は変わった。

いや、成長したというべきなのかもしれないがそれが自分にはどうしても喜べない。

今まで何度か簪の部活動をこっそり覗いた事があったが、日が経つに連れて彼女の表情はどんどん明るくなっていった。

今まで暗い表情ばかりだった簪が変わっていく。

何よりもルームメイトの少女、霧雨魔理沙と共に過ごす時、簪は目に見えて溌剌(はつらつ)としていた。

 

(気に入らない……簪ちゃんを守るのは私なのに……今までも、そしてこれからも、その筈なのに……)

 

 今まで殆ど感じた事の無い感情が楯無の中で沸々と煮え滾る。

『嫉妬』という黒い感情が……。




次回予告

 遂に迎えた大将戦、一夏VS魔理沙。
師弟にして親友の二人は存分に闘いを楽しもうとするが、そこに迫る黒い影が……。

次回『二人の強者に迫る悪意』

魔理沙「コイツの火力、見せてやるぜ!」




現在18禁サイドストーリーを執筆中です。
完成したら活動報告等でお知らせします。

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