東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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特訓の成果、敵の力は己の武器!?

 2組と3組の試合の興奮冷めやらぬまま1組VS4組の試合の開始が目前に迫る。

Aピット内では1組先鋒であるセシリアが出撃準備に入っていた。

 

「いいか、耳にタコが出来るぐらい言ったけど妖夢は剣術のエキスパートだ、その上アイツの機体は従来のISと比べて非常に小回りが利く。相手の土俵に立ったら即アウトだと思え」

 

「はい!……行きます!!」

 

 一夏からの忠告にしっかりと応えセシリアはブルーティアーズを纏いアリーナへ出撃した。

 

 

 

 セシリアが出撃する少し前、妖夢は専用機を身に纏い、目を閉じながらセシリアを待っていた。

 

「ねぇ、魂魄さんの機体って……」

 

「うん、小さいよね」

 

 妖夢の専用機『白楼観』は従来のISと比べかなり小型だった。

手足は従来のISの半分以下でISを『装着』していると言うよりは『着ている』と言った方がしっくりくる外観だ。

しかしそんな話し声も妖夢の耳には届いていない。精神を統一し、ただ対戦相手を持つのみの今の妖夢にとってそれ以外の事など有象無象に過ぎない。

 

「……来ましたね」

 

 妖夢が目を開くと同時にブルーティアーズを纏ったセシリアが姿を現す。

真剣な表情で自分を直視するセシリアに妖夢は口元に笑みを浮かべる。

 

「男子三日会わざれ刮目して見よ、という言葉は女性にも言えるようですね。一夏さん達と戦った頃よりずっと良い表情してますよ」

 

「それは光栄ですわ。けど変わったのは表情だけではありませんでしてよ……私は、もうあんな無様を晒さない!!」

 

 セシリアの決意の言葉と同時にセシリアはスターライトmkⅢを展開し、それに呼応するように妖夢は白楼観に装備された刀『白楼弐型』を展開して構える。

そしてその直後に試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

(『戦いの鉄則その1・迂闊に敵の土俵に立つな!格上が相手なら尚更!!』……下手に近付いたら負ける、距離を取らなければ!!)

 

 開始と同時にセシリアは一夏や千冬を始めとした武術部での教えを思い返し、妖夢から距離を取りながらライフルによる射撃を繰り返す。

 

「(やるわね。射撃の精度が前より上がってるわ)……どうしました?そんな一発一発撃ってても当たりませんよ!ご自慢のビットは使わないんですか!?」

 

 セシリアの集中力向上を内心で賞賛しつつ、妖夢は弾を回避しながら軽くセシリアを挑発する。

 

「(『戦いの鉄則その2・考え無しに敵の誘いには乗るな!』)伝家の宝刀は抜かない内が華でしてよ。以前の私ならともかく、今の私にそんな挑発は通じませんわ!」

 

 挑発を受け流し、セシリアはライフルを撃ち続ける。

悉く回避されるものの、その動きと射撃精度は以前とは格段に違っているのは明らかだった。

 

「やりますね。これじゃ完封勝利は出来そうにないかも……」

 

 苦笑しつつも妖夢は白楼弐型を構えて攻撃態勢に入る。

 

(この距離で接近戦用の武器?一気に距離を詰めて攻撃する気……いえ、武器に捕らわれてはダメですわ。『戦いの鉄則その3・武器への先入観は捨てろ!』あの刀が銃剣と同じ性能を持っているという事も十分ありえますわ)

 

 妖夢の動きに警戒心を強めるセシリア。

その刹那、妖夢は刀を振るうと同時に刀は発光し、光の刃となってセシリアに襲い掛かる。

 

「武器のエネルギーを飛ばして!?……クッ!!」

 

 紙一重でエネルギー刃を回避するセシリア。あと少しでも妖夢との距離が近ければ回避し切れなかっただろう。

 

「今度はこっちのターンです!」

 

 セシリアの驚きを余所に妖夢は攻守逆転とばかりにエネルギー刃を連続して放つ。

 

「チィッ!……威力はあっても連射性ならこっちが!!」

 

 セシリアも即座に反撃に移り、射撃を再開する。

しかし、セシリアの攻撃に妖夢は逆に「待ってました」とばかりに笑みを浮かべる。

 

「破ぁぁぁぁーーーーー!!」

 

「なっ!?」

 

 気合一閃と共に妖夢の奮った刀から放たれたエネルギー刃は正確にスターライトmkⅢから発射された弾丸を真っ二つに切り裂き、そのままセシリアに襲い掛かる。

 

「そんな…キャアアァァ!!」

 

 実力が自分より遥かに格上なのは解っていたがまさか弾丸まで真っ二つにされるとは思いもよらず、セシリアは面食らってしまい隙が生まれてしまい、直後にエネルギー刃の直撃を受ける。

そしてダメージを受けて動きを止めたセシリアを妖夢が見逃す筈も無く、機体のブースターを吹かしてセシリア目掛けて一気に急接近する。

 

「ぶ、ブルーティアーズ!!」

 

「それも読み通り!」

 

 逃げ切れないと悟ったセシリアは妖夢を近づけまいとビットを展開して迎え撃つ。

だが発射されたレーザーは妖夢に当たる前に弾き返された。

妖夢が展開した2本目の刀『妖(あやかし)』に備え付けられたミラーコーティングによってレーザーが反射されたのだ。

 

「キャアアア!!」

 

 弾き返された自らのレーザーを受け、セシリアは悲鳴を上げる。

 

「これでラスト!!」

 

 そしてとどめとばかりに妖夢はセシリアの目前まで接近し、白楼弐型を振り下ろす。

 

「戦いの鉄則その4、その5……」

 

 だがしかし、追い詰められたセシリアの瞳に諦めの文字は無かった。

その表情は咲夜との戦い、その中で起きた全く同じ状況で見せた怯えきった彼女とはまるで別人だった。

 

「絶対に諦めるな!……そして、死中にこそ勝機あり!!」

 

 叫びと共にセシリアは手に持つスターライトmk−Ⅲを刀を振り上げる妖夢の前に投げつけた。

 

(ライフルを!?)

 

 直後に投げられたライフルと妖夢の刀が一瞬ぶつかり合い、直後にライフルは爆発を起こした。

 

「クッ……」

 

「ブルーティアーズ!!」

 

 そして繰り出されるビットによる攻撃。

一発目は妖で防ぎ、直後に二発目が発射される。

しかしその照準は妖夢ではなかった……。

 

「これを待ってましたわ!アナタが動きを止める時を!!」

 

 レーザーとほぼ同時に発射されるミサイル。

発射されたその先にはビットのレーザーが一直線に飛んでいる。

 

「!!」

 

 レーザーとミサイルが同士討ちのように直撃し合って爆発を起こし、爆煙が妖夢を包み込んだ。

 

(め、目くらまし…彼女はどこに?)

 

 周囲を見回そうとする妖夢だったが突如として身体ををガッチリと掴まれた。

セシリアが妖夢の正面から抱き付いたのだ。

 

「ちょ!?あ、アナタ何やって」

 

「こうすればアナタの刀は使い物になりませんでしてよ!」

 

 セシリアの言う通り妖夢の刀は二本ともIS仕様のためかなり長く、組み付かれた状態ではまともに腕と長い刃先が邪魔になりその性能を十全に使用できない。

 

「だからってこんな事して恥ずかしくないんですか!?」

 

「恥なんて咲夜お姉さまとの戦いで出し尽くしましたわ!行きなさい、ブルーティアーズ!!」

 

 顔を赤くして抗議する妖夢を余所にセシリアはビットを操作し妖夢の背後からビットによる射撃を繰り出した。

 

「グァ!……クぅぅっ」

 

「このまま押し通しますわ!!」

 

 レーザーが直撃し苦悶の声を漏らす妖夢にセシリアは追撃を行うべく再びレーザーを発射しようとする。

 

「チィ!……調子に、乗るなぁ!」

 

 怒声と共に妖夢は妖を収納し、代わりにある物を展開した。

 

「グッ!?……た、短刀?」

 

「戦いの鉄則その6、最後まで気を抜くな!私の武器を長刀だけと思ったのは間違いでしたね!」

 

 展開した物、それは白楼観の持つ第3の刀『楼観弐型』である。

展開と同時に妖夢は楼観弐型をブルーティアーズに叩き込むように斬り付け、セシリアを振りほどいた。

 

「チェストォォーーーー!!」

 

「うぐぁっ!!」

 

 そして改めて繰り出される白楼による斬撃。

その強烈な一撃がブルーティアーズに叩き込まれ、残ったシールドエネルギーを一気に奪い取られたセシリアは為す術なく地に落とされた。

 

『試合終了――勝者・魂魄妖夢』

 

 そしてブザーと共に鳴り響く試合終了を告げる電子音。

それと同時に4組の観客席から歓声が上がった。

 

(やっぱり強い……完敗ですわ)

 

 仰向けに倒れながら、セシリアは自分に勝利した妖夢を見つめる。

 

「けど、まだ……まだ私は強くなれる」

 

 負けたとはいえ前回とは違い善戦できた。

慢心を捨て、一夏達に数日間鍛えてもらっただけでもココまでやれたのだ。まだまだ自分の実力が伸びる可能性は十分ある。

自意識過剰かもしれないがセシリアにはそう思えた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「……ええ」

 

 自分に手を伸ばす妖夢の手を握りセシリアは起き上がった。

 

「今回は私の完敗ですが、次はこうはいきません事よ」

 

 そして挑戦的に笑ってみせる。

最早ココに居るのは慢心に凝り固まったエリート気取りの小娘ではない。

在るのは心身ともにエリートと呼ぶに相応しい高貴な誇り高き淑女の姿だった。




次回予告

先鋒戦を妖夢が飾り、中堅戦は咲夜VS簪。
憧れの存在が見守る中、簪はかつての自分の殻を破る事が出来るのか?

次回『意地と憧れと嫉妬』

簪「格好悪くたって良い、私はもう自分に負けない!!」



IS紹介

白楼観

パワー・C
スピード・A
装甲・B
反応速度・A
攻撃範囲・D
射程距離・C

パイロット・魂魄妖夢

武装
エネルギー展開装置付ブレード『白楼弐型』
妖夢の持つ白楼剣を基にIS用に作られた刀。
武器エネルギーを消費し、エネルギーの刃を生成してそれを飛ばす事である程度遠距離への攻撃も可能。
白楼観の武装の中で最も攻撃力が高い武器。

ミラーコーティングブレード『妖』
防御用に開発されたオリジナルの刀。
ミラーコーティングを施しており、ビームやレーザーを防ぎ、反射させて弾き返す事が出来る。

装甲短剣『楼観弐型』
白楼剣を基に作られた刀。
頑丈さに重点を置いて開発され、相手の近接攻撃への防御、カウンターを主な使用法として用いられる。

妖夢専用機
妖夢の剣術をフルに活かすため通常のISと比べて小型であり、非常に小回りが利く機体として設計されている。
戦闘ではその小回りの良さを活かしたヒット&アウェイや手数に物を言わせた戦法を得意とする。
その反面、小型故にパワー型の機体には力負けしやすい。
カラーリングは緑に銀のライン。
待機状態はオープンフィンガーグローブ。


設定集に河城重工のメンバーについて追記しました。

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