東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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漸く更新。
お待たせして申し訳ありませんでした。


踊る人形VS紅の龍

 鈴との騒動から数日、遂にクラス対抗戦当日がやってきた。

 

『せぇぇい!!』

 

『ハァァァ!!』

 

「……千冬姉、束さんとの連絡はついたの」

 

 管制室の中で一夏は2組対3組の中堅戦、椛と早苗の戦い(先鋒戦は文が一般生徒に完勝)をモニターで眺めながら千冬に訊ねるが千冬は落胆したような表情で首を横に振る。

 

「いや、外界(こっち)に戻って何度か連絡を取ろうとしたが、以前と違って全く連絡が付かないし、束の方からも全く連絡を寄越そうとしないんだ。篠ノ之(箒)にもそれとなく聞いてみたんだが連絡は向こう側からだけでこちらからは全く連絡が取れないそうだ。一体どこで何をしているんだかな?」

 

「そうか……」

 

「今は向こうから連絡が来るのを待つしかない……ところで、そろそろ準備しに行かなくていいのか?試合もそろそろ大将戦になるぞ」

 

 束の話を切り上げ、千冬は対抗戦の準備を一夏に促す。

 

「うん、セシリア達の様子も見なきゃいけないし、そろそろ行くよ」

 

「ああ……一夏」

 

「ん?」

 

「……頑張れよ」

 

「……ああ」

 

 最愛の姉兼恋人の激励に一夏は力強く頷いてみせた。

 

 

 

 

『タイムアップ!試合終了です』

 

 一夏が観客席に来た頃には中堅戦が時間切れで終了し、試合結果は判定に委ねられる事となった。

 

「あ、一夏さん。どこに行っていたのですか?もう中堅戦が終わってしまいましてよ」

 

 かなり遅れてやって来た一夏にセシリアは咎める様に声を掛ける。

 

「悪い、ちょっと野暮用でな。で、どうだった?」

 

「見ての通り時間切れで判定に持ち越しよ」

 

 一夏の問いにレミリアが答えた。

 

「まぁでも、試合自体は早苗が押し気味だったから、多分……」

 

 一度そこで区切り、レミリアは電光掲示板を眺め、直後に掲示板に文字が浮かびだす。

 

『判定終了……勝者・東風谷早苗』

 

 アナウンスと共に早苗の判定勝ちが決まり、3組の客席から歓声が上がる。

 

「それにしても、やはり凄いですわね。河城重工の方々は……もう何回驚いたことか」

 

「その割りには結構冷静ね」

 

 言葉とは裏腹に落ち着いた口調で話すセシリアに咲夜は感心したように言う。

 

「いつまでも驚いてばかりはいられませんわ。少しでも何かを掴まなければ……」

 

 そう言ってアリーナを見つめるセシリアの瞳には最早慢心は無く、強くなろうとする向上心が滲み出ていた。

 

「なら、次の試合は良く見ておきなさい」

 

「はい(きっと簪さんも今頃私と同じ様に……)」

 

 自分にとって同志とも言える少女の事を考えつつ、セシリアは電光掲示板を見る。

そこにはこの後の組み合わせが表示されていた。

 

 

 

『これより大将戦、アリス・マーガトロイドVS紅美鈴の試合を開始します』

 

 アナウンスの声が響く中、アリスと美鈴は互いに専用機『ダンシング・ドール』と『紅龍』を纏って対峙する。

 

(咲夜とパチュリーの実力は知ってるけど、彼女の正確な実力は見た事無かったわね……とりあえず接近戦に持ち込まれないよう距離を取ったほうがよさそうね)

 

(魔法使いの基本的な戦い方はパチュリー様の戦い方を見てそれなりに解ってる。接近戦に持ち込みさえすれば勝機はある!)

 

『試合開始!』

 

 開始の合図と同時に互いに主武装を展開するアリスと美鈴。

アリスの駆るダンシング・ドールの主武装、6体の有線式人形型ビット『ドールズ』がアリスを守るSPのように展開され、それぞれが武器を構えて美鈴に襲い掛かる。

 

「行きなさい!」

 

 ドールズは装備された小型ランスとサブマシンガンによって四方八方から美鈴に襲い掛かる。

それはセシリアのブルーティアーズのような機械的な動きではなくまるで全ての人形が意思のある生物のように連携して美鈴を攻撃する。

 

「わわっ!」

 

 その6対1さながらの攻撃を美鈴は慌てて回避する。

しかし最初の一撃こそ回避できたものの直後に他の人形と本体であるアリスからの銃撃が嵐のように降り注ぐ

シールドエネルギーを削られる。

 

「グゥッ!……流石ですね。でも!」

 

 苦悶の声を漏らす美鈴だったが、不意に不適な笑みを浮かべて颱風で応戦しながら地面へと急降下する。

 

「……なるほど、考えたわね」

 

 美鈴の考えを察したかのようにアリスは僅かに顔を顰めた。

それとほぼ同時に美鈴は地面に着地してドールズを待ち構える。

 

 

 

「アイツは馬鹿か?自分から逃げ場を少なくするなど」

 

「いや違うな、美鈴の行動はアレで正解だ」

 

 (何故か)一夏達の近くに座っていた箒が美鈴の行動に否定的な言葉を漏らすが一夏は逆に美鈴の行動を的確だと判断していた。

 

「どういう事だ?」

 

「アリスの射撃と人形をアレだけ正確に動かせる処理能力はずば抜けて高い、ハッキリ言って俺や他の仲間でもあの射撃を全部避けるのは無理だ。だが地面に着地しておけば攻撃範囲は上空と地上のみに絞ることが出来る。要は避けられないなら迎撃と防御がし易くすれば良いって事だ」

 

 箒の問いに一夏は解りやすく答える。

 

「避けられないって、お前はオルコットの攻撃を全て避けたではないか!」

 

 しかし箒は納得できないのか反抗的に返す。

基本的に一夏以外の河城重工所属の者を敵視している箒は彼女達の実力を認めていない(というか認めたくない)ため、自分より一回り強いと思っている(実際は一回りどころか何倍も差がある)一夏がアリスの実力を評価するのが面白くないのだ。

 

「アナタ馬鹿ですか!?私とアリスさんのオールレンジ攻撃はハンドガンと対物狙撃銃ぐらいの差がありましてよ!」

 

「グッ……」

 

 箒の言葉にセシリアは呆れたように声を上げる。

その指摘に箒は悔しそうに唸る。

 

「お喋りするのもいいけど、試合の方に集中したら?本番はココからよ」

 

 会話に意識を向けていたセシリアたちを咲夜の声が再び試合の方へ意識を向けさせた。

 

 

 

「せいやぁぁっ!!」

 

 6体の人形から放たれる弾幕を防ぎ、掻い潜りながら美鈴は1体の人形に狙いをつけて一気に加速し、一直線に跳び蹴りを叩き込んで人形上半身を叩き潰す。

 

「次!」

 

 さらにイグニッションブーストを駆使して急旋回と同時に加速し低空飛行しつつ2体目の人形目掛けて接近しつつ颱風を連射し、2体目を破壊する。

 

「チィッ!……それなら!!」

 

 6体のうち2体を破壊され、アリスは戦法を切り替え、ドールズは美鈴の周囲を縦横無尽に飛び回りながら一定の距離を維持しながら。

 

「かく乱戦法ですか?そんなものに!」

 

 周囲を飛び回るドールズの攻撃を掻い潜りながら美鈴は颱風を駆使して迎え撃つ。

 

「無駄です!手数が減った以上アナタの戦力は大幅ダウンです」

 

「それはどうかしら?」

 

 美鈴の言葉にアリスは動じる事無く言い返して見せる。

直後に美鈴を攻撃していたドールの一体が素早く身を翻し、撃墜された2体のドールからサブマシンガンを拾い上げ、アリスに投げ渡す。

 

「これで多少は手数も埋まるでしょう?」

 

「チィッ!手数はどうにかなっても撃つ人数が変わってないなら大した事ありません!」

 

 思わぬ方法で手数を補うアリスに美鈴は一瞬面食らうもすぐに我に返って迎撃を再会する。

 

「残念、もうアナタは私の術中よ」

 

 しかしアリスは勝利を確信したようにニヤリと笑みを浮かべ、直後にドールズと自分を繋ぐワイヤーを引っ張り上げる。

 

「!?」

 

 美鈴は周囲の光景に『やられた』と感じる。

ドールズに繋がれたワイヤーが自分の周囲に張り巡らされ、そのままそのワイヤーが美鈴に絡み付いて縛り上げる。

最初からアリスはかく乱など考えていなかった。わざわざ撃墜されたドールから武器を拾ったのも美鈴の注意を逸らすためだ。

 

「貰ったわ!」

 

「グアァッ……ま、まだ!」

 

 集中砲火を受け、シールドエネルギーを瞬く間に削られる美鈴。

誰もが勝負あったと確信したが美鈴は思いも寄らぬ行動に出た。

 

「墳っ!!」

 

 何と右足を地面に突き刺して自身の体を固定したのだ。

あまりに意外なその行動に会場内の全員が唖然とする。

 

「そぉりゃああああ!!!!」

 

「!?」

 

 そのまま美鈴は自分を縛るワイヤーを掴み、それをアリス目掛けて勢い良く振り回した。

固定されて踏ん張りが利くようになった足腰に美鈴と紅龍のパワーが合わさり、ドールズは凄まじい勢いで振り回される。

 

「しまっ…キャアア!!」

 

 直前に4本のワイヤーを切断して直撃を避けたもののドールズ同士が叩きつけられた衝撃で爆発を起こし、その余波でアリスは少なくないダメージを負ってしまう。

 

「これで、とどめぇ!!」

 

 吹き飛ばされるアリスを追い、美鈴は極彩と颱風を同時展開し拳を振り上げる。

渾身の正拳突きとフルオートによる颱風の連射をゼロ距離から叩き込む美鈴のスペルカードを基にした紅龍必殺の一撃、『極彩颱風』だ。

 

「っ!!」

 

 だがこの状況においてもアリスは負ける気など更々無かった。

フルパワーで撃墜されたドールの一体を引き寄せ、起爆させる。

 

「破ぁぁぁ!!!!」

 

「っ!!」

 

 美鈴の拳とアリスの爆撃がほぼ同時に繰り出され爆煙と轟音が同時に上がり、会場内は静寂に包まれる。

果たしてどちらが勝ったのか……?

 

『……勝者、アリス・マーガトロイド』

 

 しばしの沈黙の後アナウンスによりアリスの勝利宣言が為され、直後に3組の観客席から歓声が鳴り響く。

僅かな差ではあるがシ−ルドエネルギーが先に尽きたのは美鈴だったのだ。

 

 

 

 

「……これ、実質私の負けね」

 

 試合終了の直後、控え室に戻ったアリスは美鈴を前にして不意にそう呟いた。

 

「え?」

 

「まぁ、これが実戦での話だけどね。絶対防御を先に発動させたは良いけど、機体の損害は私の方が遥かに大きい。あのまま戦えばやられたのは私の方……試合に勝って勝負に負けた気分よ。……っていうかアナタあんなに機転の利くタイプだったかしら?」

 

 少し悔しそうな表情を浮かべながらアリスは感じた疑問を率直に尋ねる。

 

「いやぁ……そりゃまぁ、一夏さんと良く組み手してますから昔と比べて結構実力も機転もレベルアップしたと思いますよ」

 

「あぁ、なるほどね」

 

 美鈴の答えに納得しながらアリスは着替えを終えて控え室を後にする。

自分もうかうかしてはいられないと頭の片隅で感じながら……。




次回予告

第1試合が終わり次に控えるは第2試合、1組VS4組。
先鋒戦はセシリアVS妖夢。
攻防一体の妖夢の剣技にセシリアの攻撃は全て防がれ、セシリアは瞬く間に追い詰められてしまう。
果たしてセシリアはかつての己の弱さを乗り越えることが出来るのか?

次回『特訓の成果、敵の力は己の武器!?』

セシリア「私は、もうあんな無様を晒さない!!」



IS紹介

ダンシングドール(踊る人形)

パワー・E
スピード・B
装甲・B
反応速度・A
攻撃範囲・A
射程距離・B

パイロット・アリス・マーガトロイド

武装
有線式人形方ビット『ドールズ』
1体約80cm程度の大きさの人形型ビット。
サブマシンガンと西洋風のランスで武装しており集団戦法を駆使して相手を追い詰める。
非常に汎用性が高いが扱うには非常に高い情報処理能力が必要。
人形の武器は本体であるアリスも使用可能。
最終手段として任意で自爆させる事も可能。
最大6機展開可能。

ハンドガン&ナイフ
本体に装備された護身用の武装。
威力は少々心許無い。

アリス専用機
人形型ビットを使用して戦うオールレンジ攻撃をとく意図する機体。
本体そのもののパワーは低いので付かず離れずを基本戦法として戦う。
現在射程距離を伸ばすための新武装が開発中である。
カラーリングは水色、待機状態は小型のぬいぐるみ。

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