代表、一夏は一人武術部の部室で筋トレに励んでいた。
「197、198、199…200!!……ふぅ」
「随分精が出てるな」
200回という回数の腹筋運動をこなしトレーニングを終えた頃、部室内に顧問である千冬が入り、一夏に声を掛ける。
「あ、千冬ね……いや、学校では織斑先生だっけ」
「それは授業中だけだ。二人きりの時は名前で呼べ……他人行儀みたいで本当は嫌なんだぞ」
甘えたような声を出しながら千冬は一夏に抱きついてくる。
「ちょ、ここ部室……」
「大丈夫だ、私達以外誰もいないし、監視カメラも盗聴器も無い……だから」
「うん、分かったよ千冬姉」
優しく微笑みながら一夏は千冬の頬に手を添えて自分の方に引き寄せ、そのまま唇を重ねた。
「んんぅ、一夏ぁ……」
二人の口付けは触れるだけのものから舌を絡める濃厚なものへと変化し、そのままお互いに服を脱ぎあい、情事に発展するのに長い時間は掛からなかった。
「それで、どうだ?明日の事は」
「問題無いよ。機体も俺も不備は無いから」
「それは分かってるが、私個人としてはお前にはレミリアや咲夜にも勝ってほしいからな」
情事を一通り終え、薄着のまま寄り添いあいながら二人は明日の事を語り合う。
一夏にとっては明日のメインイベントはレミリアと咲夜と戦うことにあるため、事の発端であるセシリアは既に眼中に無かったりする……。
「二人とも強いけど、俺だって負けてやる気は無いよ。思いっきりやって、思いっきり楽しむだけだ」
「そうだな……ああ、そうだ。一つ言っておくことがある。あのオルコットの奴の事だが……」
一夏のやる気を確認し、千冬はセシリアの話を切り出す。
「アイツにはキッチリ実力差を見せ付けてやれ。あの女尊男卑の思想のままではいつかあいつは自分の身を滅ぼすからな」
先ほどとは打って変わり、千冬は真剣な表情を見せる。
男女平等に変わりつつある今の世の中、今のセシリアのような女尊男卑の思想を持つ者は必ず時代の流れから取り残され、いずれ身を持ち崩す事になってしまうだろう。
千冬にとって仮にも自分の生徒がそんな目に遭ってしまうのは阻止したい事だ。
「分かってるよ。俺だけじゃない、レミリアも咲夜もそのはずだよ」
「ああ……それとだな」
最後に付け加えるように千冬は口を開き、一夏はそれに耳を傾ける、が……
「あの小娘は完膚なきまでに徹底的に叩きのめせ!!お前を猿呼ばわりする等と……出来る事なら私の手で叩きのめしてやりたい……!!」
「わ、分かった」
まさかの私怨でフルボッコを命じる千冬に若干引きながら一夏は頷いた。
(千冬姉がこれじゃ咲夜は……お、俺が先にアイツと当たって叩きのめして覚悟を決めさせてやったほうが良いのかもしれない……)
そして翌日の朝、アリーナにて遂に一夏達のクラスにおける代表決定戦が行われようとしていた。
「では組み合わせを発表する。まず第1試合、織斑一夏VSセシリア・オルコット。第2試合、第一試合の勝者がレミリア・スカーレットと戦い、第3試合は第1試合の敗者が十六夜咲夜と戦ってもらう。第4試合はレミリア・スカーレットVS十六夜咲夜。5試合目以降はその時の順位で決める。なお今回は試合数が多いことを考慮し、40分という制限時間を着ける。それを過ぎた場合は判定で勝敗を決定する。以上だ」
Aピットで千冬が一夏に説明を終えた頃、Bピットでは既に説明を終えたらしくセシリアが先にアリーナに出撃していた。
「さてと、それじゃ行くとするか」
「一夏。せいぜい遊んであげてきなさい」
「あの馬鹿の鼻っ柱をへし折ってきなさい」
出撃しようとする一夏にレミリアと咲夜が一声かけ、一夏はそれに軽く手を振りながら応える。
「スカーレット、お前はさっさとBピットへ行け。次の試合が控えているんだからな」
「はいはい」
Aピットに居座るレミリアを千冬が諌め、レミリアは面倒そうにBピットへ向かっていった。
「よし……行くぜ!」
気合と共に一夏はアリーナへと飛び立った。
「あら、逃げずに来ましたのね?」
アリーナに出た一夏にセシリアは開口一番憎まれ口を叩く。
「アナタに一つチャンスをあげますわ。このまま戦えば私が勝つのは火を見るより明らか、今すぐ謝れば許してあげないこともありませんでしてよ」
慢心に凝り固まった発言に一夏は一度肩を竦めると、地面に脚で円を描いてその中に立つ。
「こっちからもチャンスをやるぜ」
「何ですって?」
「30分間俺はこの円から出ないし攻撃もしない、あくまで回避だけだ。勿論ブースターは切ってやる。俺に一撃でも与えてシールドエネルギーを削れたらお前の勝ちにしてやる」
一夏が出したのはあまりにも大きなハンデ。普通に考えてそんなハンデを付けて勝てる訳が無い。
そんな一夏の行為にセシリアは顔を真っ赤にする。
「あ、アナタは……男の分際で何処まで私をコケにすれば気が済むのですか!?」
「男ってだけで勝てる気になってる馬鹿よりはマシだ。いいから来な、エリートさんよ」
「そうですか。それなら……お別れですわね!!」
開始と同時にセシリアは怒りに身を任せて一夏にライフル『スターライトmkⅢ』を撃つ。
一夏はそれを身体を捻ることで簡単に避けてしまう。
「よく避けましたわね。ならこれでどうですか!?」
続けざまにセシリアは自らの機体に装備された4機の遠隔操作ビットを射出する。
「踊りなさい!ブルーティアーズの奏でるワルツで!!」
4機のビットによるオールレンジ攻撃が一夏に襲い掛かるが一夏は全く動揺を見せる事無く全ての攻撃を避けてみせる。
「ふぁ〜〜、その程度か?」
さらに挑発するかのように大きく欠伸、この時セシリアの中で何かが切れた。
「ッ……この猿が、馬鹿にして!!」
爆発する感情に伴い、更に激しさを増すブルーティアーズによるオールレンジ攻撃。
だがそんな攻撃も一夏はまるで手に取るように読み、軽々と避け続けていく……。
「す、凄い……あの状況であそこまで回避出来るなんて、織斑君って一体?」
(まったく、相手を過大評価しすぎじゃないのか一夏?お前なら円の大きさが半分でも勝てるだろうに……)
ピットでは真耶が一夏の回避能力の高さに驚愕し、千冬は内心で一夏の背負うハンデが少々甘いのではないかと感じていた。
(やっぱりあの噂は本当なのかな?織斑君がロシア代表の更織さんを倒したって言うのは……)
真耶は以前に聞いた噂を信じ始めていた。
一夏の編入試験での活躍は公にこそなっていないが学園内では噂として流れていたのだ。
「でも、織斑君はどうしてあそこまで……」
「あれぐらいアイツなら出来て当たり前だ。アイツは河城重工でも1、2を争う体術の使い手だからな。私とアイツが生身だけで戦えば、勝率は運が良くて3割といった所か?」
「お、織斑先生を相手に3割!?」
世界最強のブリュンヒルデを生身だけの戦いとはいえ、その勝率に驚く真耶。
「違う逆だ」
「え?」
しかし千冬の口から出た言葉は真耶の予想の斜め上を行くものだった。
「3割なのは、私の方だ」
「え、ええぇぇぇ〜〜〜〜っ!!!?」
余りにも予想外すぎる千冬の指摘に真耶は驚きの声を抑えられなかった。
「ハァ、ハァ…な、何故……何故当たりませんの!?」
試合開始から約25分が経過。
セシリアの顔に最早当初の余裕や怒りは全く無い。あるのは焦りという感情のみ。
ブルーティアーズによる攻撃は一発として一夏に命中する事は無く、ただただ精神力が削られていくだけの無意味な時間だけが流れていく。
「ライフルとビット、片方ずつしか使ってないところを見ると、どうやらお前はそのISを完全に使いこなせてはいないようだな。情けねぇな、そんな様でエリート面してたのか?」
「クゥッ……」
図星を突かれてセシリアは悔しそうに唸る。
「ほら、あと3〜4分しかないぞ。最後まで頑張ってみたらどうだ?」
「この……馬鹿にして!!」
屈辱を感じつつもセシリアはビットを操り、一夏を攻撃し続ける。
「照準が甘くなってるぜ。焦りが丸見えだ」
しかし一夏の余裕は全く消えない。それどころか回避すればするほどその動きのキレは良くなっていく。
しかしセシリアもただ避けられているだけではなかった。
一夏がビットの攻撃を全て避けきった瞬間、セシリアは奥の手を発動した。
「かかりましたわね!ブルー・ティアーズは6機ありましてよ!!」
ブルー・ティアーズの腰元から2本のミサイルビットが発射される。
セシリアにとっては回避した直後では一夏でもまともな回避行動は出来ないと判断しての行動だったが彼女はここでもまた実力の差を思い知らされてしまう事になる。
「だから甘いって言ってんだよ……フンッ!!」
迫り来るミサイルに対して一夏は不適に笑ってみせる。
セシリアがそれに気付いた次の瞬間、一夏は凄まじい脚力でジャンプし、ミサイルを紙一重で回避してみせた。
「あ……ぁ……」
「切り札を先に見せるってのはなぁ、漫画じゃ王道かもしれないが実際は追い詰められてる証拠にしかならないんだよ」
空中から地面へ降下しながら一夏は呆然とするセシリアに語りかけるが、今のセシリアに聞こえているかは定かではない。
そして一夏が着地する0.5秒前、試合開始から丁度30分が経過した。
「さて、ここから先はお前の地獄だぜ、オルコット」
ニヤリと笑ってセシリアに向かって歩き出す一夏。
「こ、来ないで!!」
その姿にセシリアは現実に引き戻され、スターライトmkⅢで一夏を狙い撃とうとするが、それよりも早く一夏は先日の楯無との戦いと同じように一瞬で距離を詰める。
「ひっ!い、インターセプタ……」
恐怖と焦りから急いで接近戦用の武器を展開しようとするセシリア。
だがそれよりも一夏の頭突きがセシリアの額に叩き込まれる。
「アグァァッ!!」
シールドや絶対防御で守られているのにも関わらず、まるでそれを無視したかのような衝撃がセシリアの額を襲う。
いままでに喰らったことのない痛みにセシリアは額を押さえてのた打ち回る。
「こ、こんなの聞いてない……」
「聞いてない?絶対防御だって完璧じゃないんだぜ。鎧通しの技術を使えば痛みや衝撃は簡単に通る。お前、そんな事も考えてなかったのか?」
絶対零度よりも冷たい一夏の声がセシリアに突き刺さる。
勿論セシリアとて理論上は知っていたが現実で自分がそれを味わうなどと思ってはいなかった。いや、考えた事が無いといったほうが正しいだろう。
「お前等が使ってるのはそういう兵器だ。簡単に人を殺せて、自分が死ぬ事もある。どんなにスポーツだの何だのと着飾っても所詮兵器は兵器、それも理解してないような奴に力をひけらかす資格はおろか、力を持つ資格も無い!」
この時セシリアは今更になって漸く自分がどういう人種を相手にしているかを痛感した。
そして自分がやってきた事は拳銃を丸腰の人間に突きつけるのと同じ意味だという事にも……。
「お仕置きだ……歯の2〜3本は覚悟してもらうぜ!」
一夏の脚が一気に振り上げられ、そしてセシリアの身体を穿つように蹴り上げた。
「グォァッ……!」
途轍もない衝撃にセシリアの口から胃液が飛び出し、彼女の身体は遥か上空に吹っ飛ばされる。
「安心しろ、加減してるから痛みは派手だが内臓には一切傷を付けてない」
一夏が上空に吹っ飛ばしたセシリアを追いながら説明するが彼女に聞こえているかどうかと聞かれれば疑問符を出さざるを得ない。
そして落下するセシリアと上昇する一夏が再び接近したとき、再びセシリアに一夏の脚蹴りが叩き込まれる。
「あがががががががががががが!!!!」
「オラオラオラオラオラオラオラァァッ!!!!」
目にも留まらぬ速さの両足による連続蹴りがセシリアの身体をまるでサッカーボールの様に蹴りまくる。
一夏の友人でありサッカー仲間である蓬莱人、藤原妹紅の得意技、『フジヤマヴォルケイノ(サッカー版)』だ。
セシリア側からしてみればさっさと気絶する事が出来ればどれだけ良かっただろうか?
しかし現実は非常にも蹴り飛ばされる痛みで彼女に気絶する事すら許してはくれなかった。
「ラストォ!」
「ふぎゃあああ!!」
そしてフィニッシュにドロップキックを叩き込み、セシリアは成す術無く地面に激突し、砂埃が宙を舞う。
砂埃が晴れた先には身体をピクピクと痙攣させながら予告通り3本歯(左下、右上、右下の奥歯、内虫歯が一本)を折られたセシリアの姿だった(内臓や骨なども一夏の予告通り殆ど損傷無し)。
『勝者―――織斑一夏』
無機質な機械音声が一夏の勝利を告げる。
観客達は圧倒的な一夏の力に唖然としていたが、数秒程した後に黄色い声が喝采となって鳴り響いた。
この時、学園の大半の女子達の一夏を見る目は『織斑千冬の弟』から『ブリュンヒルデをも超えるかもしれない強い男』に変わっていた。
その一方で残りの女子……女尊男卑の思想を持つ女子は『自分たちの地位を脅かす存在』として一夏に恐怖心を覚えた。
次回予告
一夏の圧勝に終わった第1試合。続く第2試合は一夏VSレミリア。
幻想郷最強の万屋と紅魔館の主……ISバトルという形で実現した二人の初対戦。
軍配が上がるのは果たしてどちらか?
次回『激突!一夏VSレミリア!!』
一夏「お前とは一回ガチで戦ってみたかったんだ。本気で行くぞ、レミリア!!」
レミリア「咲夜を虜にしたアナタの実力、見せてもらうわ!!」