東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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部活騒動!剣士の誇りをしかと見よ!!

「おい、一夏。あんな事を言って大丈夫なのか?相手は仮にも代表候補生なんだぞ」

 

 セシリアとのいざこざを起こしたその日の放課後、教室を出ようとした一夏を箒が声を掛けて呼び止めた。

 

「ん?ああ、大丈夫だ。あんなのより強い奴なんて河城重工にはたくさんいる。だからといって油断してやる気も無いがな(完膚なきまでに叩き潰すためにもな)」

 

 箒からの問いに至極普通に答える。

 

「そ、そうか……もし良ければ剣道場に来ないか?私が稽古をだな……」

 

「悪いけど、気持ちだけ受け取っとく」

 

 恥じらいがちに本題を切り出そうとする箒だったが、即座に一夏から断られる。

 

「な、何故だ!?」

 

 一夏の返答に声を荒げる箒。

箒からしてみれば自分が想いを寄せる一夏と二人きりになるチャンスがふいになってしまうのは面白くないだろうが、そもそも彼女は前提から間違っている。

元々一夏は河城重工で訓練を受けている(という設定)ので、ISに関する正式な訓練はきっちり受けている。

加えて入試の際に教官に実力で勝利しているという実績もあり、実技は一夏の方が成績は箒より完全に上を行っているのだ。

そんな彼に箒が稽古をつけるなどおこがましい話だ。

 

「それに剣道場って……ISとどう関係するんだよ?それにさ、俺もう剣道やめて格闘に鞍替えしてるからなぁ」

 

「な!?剣道をやめただと!?どういう事だ!?」

 

 一夏の発言に箒は更に声を荒げて一夏の胸倉に掴みかかろうとする。

もちろん一夏からしてみればそんな理不尽な理由で掴みかかられる謂れはないので掴み掛かろうとする箒の腕を軽く回避してしまう。

 

「避けるな!!」

 

「嫌だよ。大体何で剣道やめただけで胸倉掴まれなきゃいけないんだよ?」

 

「理由を言え!何故剣道をやめた!?」

 

 一夏からの非難の声を無視して箒は噛み付かんばかりに問いただす。

 

「最初は俺も剣術を磨いてたよ。けどさ、それってどこまで行っても千冬姉の真似でしかなくてさ、ある程度鍛えた頃から限界感じて頭打ちになっちまってな……それで思い切って素手の格闘に鞍替えしてみたんだけどそっちが俺には合ってたんだよ」

 

 箒の態度に多少理不尽さを感じながらも一夏は淡々と戦闘スタイルを変えた理由を説明する。

 

「だから俺は拳(こっち)で上を目指すって決めたんだ。じゃ、俺これから部活だから。箒も興味があったら来ていいぞ、昨日俺達が作った武術部って部活だから。新入部員は歓迎だぜ」

 

 それだけ言って一夏は話を切り上げ、武術部の部室へ向かおうと教室を出る。

ちなみに武術部とは一夏が仲間である幻想郷の面子と共に設立した実戦用の武術を学ぶための部活である。

 

「ま、待て、やはり納得出来ん!!一夏、お前は今すぐ剣道部に入れ!!」

 

「はぁ?何でそうなるんだよ」

 

 しかし、それで納得するような大人な思考回路を箒は持ち合わせてはいなかった。

 

「いいから来い!!剣道を勝手にやめるような性根を叩き直してやる!!」

 

 挙句の果てに一夏の考えまで否定するような発言にまで発展し、一夏を強引に剣道場に連れて行こうとする箒。

 

「箒……お前が剣道に思い入れを持つのは勝手だがな、それで俺が選んだ道を否定するような権利は無いぞ」

 

 内心苛立ち始め、一夏は箒を軽く睨みつける。

 

「う、うるさい!!いいから黙って……」

 

「そこまでにしてもらえませんか?見苦しいですよ」

 

 それでも一夏を離そうとしない箒の肩を背後から何者かが掴む。

 

「妖夢。先に授業終わったんじゃなかったのか?」

 

「ええ、けど色々準備していたら遅くなっちゃって。それで出てきてみたらこれですから」

 

「なんだ貴様は?貴様には関係ないだろう!!」

 

 箒を止めに入った声の主は妖夢だった。

自分の邪魔に入った妖夢に対し、箒は敵意を露にして妖夢を睨みつける。

 

「関係ありますよ。私も武術部員ですから、目の前で勝手に仲間を持っていこうとするような人を見過ごせません」

 

 箒の睨みに妖夢も睨みで返す。

お互い譲る気はまったく無いようだ。

 

「そんなに剣を振るいたいなら剣道場に行きましょうか?そこでお話をつけても構いませんよ」

 

「良いだろう。邪魔した事を後悔させてやる!」

 

 妖夢の挑発に乗り、箒は剣道場へと足を進め、妖夢達もそれに追従する。

 

「おい、良いのか?」

 

「あの手のタイプは口で言うより実力行使のほうが手っ取り早いです」

 

 躊躇いがちに訊ねる一夏に妖夢はキッパリと断言する。

 

「はぁ〜〜、仕方ないか」

 

 実力行使する気満々な二人に一夏は溜め息を吐きながら『やれやれ』といった感じに首を横に振ったのだった。

 

 

 

 一方その頃、武術部の部室では……

 

「「!?……一夏(君)に悪い虫が付き纏ってるような気が」」

 

「そう、またなのね……」

 

 毎度おなじみの咲夜と早苗の一夏レーダーは箒の影を捉えたらしく、二人は剣道場へと一目散に向かった。

レミリアはレミリアでもう慣れたらしく、軽く溜め息を吐きながらそんな二人を見送っていた。

 

 

 

 

 

 そして剣道場では一夏を賭けた妖夢と箒の剣道対決が始まろうとしていた。

 

「さぁ、始めましょうか」

 

 静かではあるが凄みを利かせた口調で妖夢は言い放ち、竹刀を構える。

 

「何故防具をつけない!?私を馬鹿にしているのか!?」

 

 対する箒は猛犬のように吠えまくる。

箒は防具を着けているが妖夢の方は制服のまま竹刀を握り、箒の目の前に立っていた。

これが箒には自身に対する挑発行為だと思えたらしく、箒はその瞳を憤怒に燃え上がらせる。

 

「勘違いしないでください、私が使うのは剣道ではなく剣術です。防具は動きにくいから着ないだけです。それに防具なんかに身を守られていては底力も出せませんから」

 

「後悔するなよ、身の程知らずが……」

 

「御託はいりません、さっさと来てください。一本勝負、負けても文句無しですよ」

 

「ああ、一撃で終わらせてやる!」

 

 言葉と共に箒は踏み込み、妖夢の面目掛けて竹刀を打ち込みにかかる。

さすがに全国大会で優勝するだけあり、その太刀筋は同年代の中では群を抜いた威力と勢いを見せる。

しかし、あくまでそれは一般人レベルでの話でだ。

 

「ハァアアアアア!!」

 

「遅い…!」

 

「カッ……!?」

 

 苦悶の声を漏らしたのは箒の方だった。

箒の面打ちが自分に振り下ろされるその刹那、妖夢は素早く身を屈め、箒ののど元に突きを叩き込んだのだ。

 

「ゲホッ、カハァッ!?」

 

 防具越しとはいえ強烈な一撃に箒は数秒間窒息し、のどを押さえて咳き込む。

 

「私の勝ちです」

 

 蹲る箒を見下ろし、妖夢は無表情のままそう言い放った。

 

「ま、まだだ!もう一度私と戦え!!」

 

 しかし箒は諦めも悪く妖夢を睨みつけながら立ち上がろうとする。

そんな箒の態度に妖夢は呆れた目で彼女を見返す

 

「一本勝負と言ったはずですよ」

 

「お前が勝手に決めたルールだ!私がそれに従う理由は無い!」

 

 妖夢の正論に箒は暴論とも言える意見で反論する。

傍目から見ても見苦しい姿だ。

 

「見苦しいですよ、アナタも剣を持つものなら潔く自分の負けを認めたらどうですか?」

 

「だ、黙れ!」

 

「いいえ黙りません。アナタ、さっきこう言いましたよね?『剣道を勝手にやめるような性根を叩き直してやる』って……言っておきますが、一夏さんの実力は私と互角かそれ以上なんですよ。アナタは一夏さんが今の強さを得るためにどれだけ努力したかも知らないで、よくそんな勝手な事が言えますね?」

 

 妖夢の瞳に徐々に怒りの色が見え始める。

妖夢自身一夏と知り合ったのは一夏が剣から拳に鞍替えした後であり、一夏の努力や苦労を直接見てきたわけではない。

しかし一夏と幾度か手合わせし、自身も剣士の端くれである事から、一夏が今の実力を手に入れるための努力が並大抵のものではなく、それを維持するための日々の鍛錬を全く怠っていないという事は解っているつもりだ。

そんな一夏の努力を否定されるのは彼に想いを寄せるものとして、そして剣士として我慢ならない事だ。

 

「剣士としての誇りもなければ人の努力を知ろうともしない……アナタのような人に一夏さんをどうこう言う資格はありません!!」

 

 嫌悪感を露にしながら妖夢は吐き捨て、箒に背を向けて剣道場を出ようとする。

 

「貴様ぁ!言わせておけば!!」

 

 怒りに任せて箒は竹刀を再度握り、背後から妖夢に襲いかかった。

 

「いい加減にしやがれ!!」

 

「うわあぁぁぁっ!!……ガァァッ!!」

 

 だがそんな彼女の腕を横から割って入った一夏が掴み取り、そのまま一本背負いで箒の身体を背中から床に叩きつけた。

もちろん妖夢であれば箒の攻撃など簡単に避ける事も出来る。

一夏がわざわざ前に出なくとも問題は無かったのだが、それを抜きにしても一夏には箒の暴挙とも言える行動を許容できなかった。

 

「箒!敗けを認めないだけでなく、後ろから襲い掛かるのがお前のやり方か?恥を知れ!!」

 

「そ、そんな…一夏」

 

 箒の行為を怒鳴りつけて咎め、一夏は彼女に背を向け、妖夢と共に剣道場を去っていった。

 

 

 

「……クソぉっ!!」

 

 行き場の失くした苛立ちをぶつけるかのように箒は手に持つ竹刀を壁に投げつけ、粉々に破壊する。

一夏だけは自分の味方になってくれると思っていた……子供の時から一夏はずっと自分の味方でいてくれた……多少自分に対して注意したり怒ったりすることはあっても最後は必ず許してくれて優しい言葉をかけてくれた……。

 

(それなのに……何でお前は変わってしまったんだ!?)

 

 一夏は変わってしまった……箒にはそう思えたがそれは的外れとも言える意見だ。

確かに一夏は昔と比べれば青臭さが薄れ、自他共に厳しい一面も見られるようになったが彼本来の優しさは決して失われてはいない。

むしろ変わってしまったのは自分自身であるという事を考える余裕は今の箒には無かった……。

 

「私がお前を元に戻してやるぞ、一夏……」

 

 剣道場の中でたった一人、箒は歯軋りしながらそう呟いた。

 

 

 

おまけ

 

 妖夢が箒と剣道で対戦をしている中、影から彼女達を見守る影が二つ……。

 

「妖夢……今回だけはグッジョブと言っておくわ」

 

「あの箒って子、あれで少しは目が覚めると良いんだけど」

 

 咲夜と早苗……二人は箒の敗北した姿を眺めながらそう呟いた。

ちなみに、早苗は箒と同様に一夏の幼馴染ではあるものの、学年などが違うため箒とは余り親交は無く、お互い名前と顔を知っている程度である。




次回予告

 遂に始まったクラス代表決定戦。
初戦は一夏VSセシリア……一夏の圧倒的な実力が灼熱のマグマとなりてセシリアの慢心と傲慢を粉々に打ち砕く!!

次回『穿て一夏!その慢心を打ち砕け!!』

一夏「歯の2〜3本は覚悟してもらうぜ!」

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