時は4月、編入試験を無事合格した一夏達はIS学園に入学した。
「……ったく、どいつもコイツも人を動物園のパンダみたいに見やがって」
周囲から集まる好奇の視線にうんざりしたように一夏は愚痴る。
「腹立たしいわね、私の一夏に」
「まったく……家の執事長候補をジロジロと」
「おい!」
さりげなく聞き捨てならない発言をする咲夜とレミリアに一夏は突っ込む。
ちなみにクラス分けは以下の通りである。
1組
織斑一夏
十六夜咲夜
レミリア・スカーレット
2組
紅美鈴
射命丸文
犬走椛
3組
東風谷早苗
アリス・マーガトロイド
4組
霧雨魔理沙
魂魄妖夢
このクラス分けが決定した際咲夜が勝ち誇り、早苗と妖夢が憤慨して乱闘になったのはまた別の話……。
ちなみに一夏のルームメイトは彼にとって最も無害だという理由から千冬が強引に美鈴に決定した。
「ではSHRを始めます。私は副担任の山田真耶です、1年間宜しくお願いします」
一夏が周囲からの視線に辟易とし始めた時、一人の女性が教室内に入り、声を出す。
女性は童顔で巨乳というアンバランスな見た目に相俟ってよく言えば小動物のような可愛さ、悪く言えば今一つ頼りないという印象を与える外見をした山田真耶と名乗る女性の存在に周囲は一度そちらを向くがすぐに興味を失ったのか再び一夏の方を向いてくる。
「えっと……では自己紹介をお願いします……」
(泣くなよ……いい大人が)
そんな生徒達の反応に涙目になる真耶に一夏は内心呆れつつも黙って自分に順番が回ってくるのを待ち、やがてその時が来る。
「織斑一夏だ。所属は河城重工、趣味はビオラ、鍛錬、サッカー。嫌いなものは人種差別だ、以上」
僅かに棘の含んだ言葉で自己紹介する。
前半はともかく後半は完全に女尊男卑の思考を持つものに対する皮肉だった。
入学してこの教室に入るまでの間に一夏は何度か自身に対して敵意の篭った視線を何度か感じており、その手の女子に対して一夏はいつでも鼻っ柱をへし折ってやるつもりなのでこれくらいの挑発はまったく問題無いのだ。
『キャアアアア!!凄く格好良い、しかもワイルド』
『女に生まれて良かったぁぁ!!』
しかし一夏の考えに反し、周囲の女子達は更にヒートアップする。
そんな周囲に一夏はあきれを通り越して最早溜息すら吐く気になれずに黙って席に座る。
「静かにしろ馬鹿共が!!」
そんなヒートアップする女子達を一括で静めたのはスーツ姿の千冬だ。
『本物よ!本物の千冬様よ!!』
『もっと叱ってぇ!でもたまには優しくしてぇ!!』
しかし静寂も一瞬で終わりを迎え、一夏と同様に黄色い声が沸きあがる。
「黙れといってるんだ馬鹿共が!!」
結局千冬の更なる一喝で漸くクラスは落ち着きを取り戻し、千冬の自己紹介を経て再び生徒達の自己紹介に戻るわけだが……。
「レミリア・スカーレットよ。一夏と同じ河城重工所属で誇り高きヴラド・ツェペシュの末裔……一つ忠告しておくけど、一夏は家の執事長候補だから。勝手に手を出さないように」
「十六夜咲夜。同じく河城重工所属、スカーレット家のメイド長も勤めているわ。レミリアお嬢様と執事長(候補)の一夏に害を及ぼす輩は容赦なく殲滅するから、肝に銘じておきなさい。ああ、あと年齢は訳あってアナタ達より二つ上だけど歳の事は気にしなくていいわ。以上よ」
「お前等なぁ……」
レミリアと咲夜の突っ込みどころ満載な自己紹介に周囲が唖然とする中、千冬は出席簿で二人の頭を殴ろうとするが咲夜に素手で受け止められてしまう。
「何のつもりですか?織斑先生」
「お前等、もう少しまともな自己紹介をする気は無いのか?」
「あら?私はいたって真面目だけど?ねぇ、咲夜」
殺気がダダ漏れな状態でにらみ合う咲夜と千冬。
更に煽るような口調でレミリアが口を挟む。
結局このまま時間が過ぎて、朝のSHRは終始グダグダのままに終わったのだった……。
「ちょっと良いか?」
一時間目が終わった頃、黒髪ポニーテールの少女が一夏に声を掛けてくる。
「ん?おお、箒か。久しぶりだな」
一夏の目の前に現れた少女、彼女は一夏の幼馴染にして篠ノ之束の妹、篠ノ之箒だ。
「ああ、6年ぶりだな……一夏、今までどうしていたんだ!?行方不明になったかと思えば急に出てきて河城重工とかいう企業に所属して……」
先程まで無口だった箒だが一夏と一度会話を交わすと堰を切ったかのように感情的になる。
「いや、どうしていたなんて聞かれても、新聞やニュースでやってた通りだよ」
「そ、それはそうだが……」
感情的になって支離滅裂になりつつある箒を一夏は宥める。
「ま、お前が感情的になるのも仕方ないし、心配かけて悪かったと思ってるよ。けど、俺も色々あったんだ。まぁ詳しくは聞かないでくれ。機密とか色々あるからさ」
「う、うむ……」
納得していないような表情を見せるも箒は頷き、それと同時にチャイムが鳴り、箒は自分の席へ戻っていった。
昼休みに入り、一夏は昼食をさっさと済ませて席に座って腕を組みながら昼寝としゃれ込もうとするが、周囲の環境は一夏にそれすら許そうとはしなかった。
「ちょっと、よろしくて?」
棘の含んだ声で金髪縦ロールの髪形をした少女が一夏に声を掛けてくる。
「……寝かせてくれ。朝からうるさくて神経すり減らしてんだよ」
「まぁ!何ですの、その態度は!?」
「……フン」
完全な上から目線の態度に一夏は無視を決め込んで目を閉じる。
「言ってる傍からその態度…この私が!入試で唯一教官を倒したイギリス代表候補であるセシリア・オルコットが!」
「随分程度の低いことで威張るんだなお前は。威張りたきゃ国家代表になってからにしな」
「な!?」
一夏からの辛辣な一言にセシリアは表情を屈辱に歪める。
「さっさと消えろ、俺は寝たいんだ……あと教官なら俺達も倒したぞ」
「そ、そんな出鱈目を!入試で教官を倒したのは私だけのはず……」
「俺等は入試じゃなくて編入試験だからな。解ったら消えろ、もう授業始まるぞ」
感情的になるセシリアを一夏は終始冷静に一蹴する。
「クッ……また来ますわ!覚えてらっしゃい!」
「嫌だね…人の睡眠を邪魔しやがって」
三下っぽい捨て台詞を吐いて去るセシリアを冷ややかに睨みつけながら、一夏はまた一悶着起きそうな予感を感じていた。
そして一夏の予想通り、翌日に厄介事は起きた。
「さて、授業を始める前に対抗戦に出るクラス代表を決めたいと思う。……が、今年は専用機持ちが非常に多い、まぁ、殆どが河城重工のものだが。そこで今年は代表を1名、さらに補佐、及びチームメイトとして2名。計3名選抜してチーム戦を行うことになった。立候補でも推薦でも構わん、誰かいないか?」
「はい、織斑君を推薦します」
「私も」
(興味半分で推薦しやがって……けどまぁ、魔理沙や妖夢と戦えるのは良いかもな。どうせ他のクラスの代表はあいつ等だし)
真っ先に推薦の声が上がったのは一夏だ。
興味半分な推薦に一夏は内心呆れていたが魔理沙を始めとした仲間と戦って腕試しが出来ると考えて文句を言う事は無かった。
「納得いきませんわ!!」
しかしそんな中入る横槍。
声の主は確認する必要も無い。昨日一夏に因縁をふっかけたセシリアだ。
「クラスの代表ならば実力から考えて入試首席であるこの私、セシリア・オルコットの名前が真っ先に挙がるべきでしょう!?こんな極東の島国の猿の、しかも男にそれを渡すなどと!この私にそんな屈辱を受けろt…ヒャッ!?」
憤りも露に暴言を吐くセシリア。
だがそんな彼女の顔面に炭酸飲料が直撃する事でその暴言を遮る。
「そこまでにしておけ金髪ドリル。過ぎた言葉は身を滅ぼすぜ」
それは一夏からのものだった。
一夏が私物であるペットボトル入りのコーラをセシリアにぶっ掛けたのだ。
「な、何を……ひぃっ!」
思わぬ攻撃に一夏に掴みかかろうとするセシリアだったがそれは適わなかった。
一夏の視線から出る圧倒的な殺気に当てられ、セシリアはまるで金縛りに遭ったかのように動かない。
「そこまでにしろ織斑。それは本来私の役目だ」
セシリアに殺気をぶつける一夏を千冬が諌め、セシリアの前に出る。
「オルコット、お前はイギリスの何だ?言ってみろ」
「こ、国家代表候補ですわ……」
千冬の冷淡かつ威厳のある姿にセシリアは萎縮しながら答える。
「そうだ。ではお前が今日本人に対して言った事は何だ?アレはイギリスから日本への挑発か?」
「そ、そんな事は!」
「お前にそのつもりが無かろうとも日本側はそう取ることが出来るんだ。候補とはいえお前はイギリスを代表してココに居る身だという事を忘れるな」
千冬の指摘にセシリアは青褪め、更に萎縮する。先ほどまでの威勢が嘘のようだ。
「で、ですが……男を代表になどと」
「へぇ?じゃあその男である一夏の殺気にビクついていたアナタはこのクラスの中で一番代表に相応しくないという事ね?」
それでも納得のいかないセシリアは話の論点をすり替えようとするがそんな彼女を鼻で笑う人物がいた。レミリアだ。
「グッ……だ、黙りなさい!IS界の恥さらしに与みする下女の分際で!!」
「げ!この馬鹿……」
セシリアの言葉に一夏は『ヤバイ!』と感じる。
そしてそれとほぼ同時に咲夜は飛び上がるように駆け出し、セシリアの喉下にナイフを突きつけた。
「ひ、ひぃぃッ!」
「アナタ……私の前でお嬢様を愚弄するなんて、死にたいようね?」
「や、やめ……」
咲夜の本気の殺意と怒りの篭った視線にセシリアの声は裏返り、身体はガタガタと震え上がり、表情は恐怖一色に染まる。
「「十六夜(咲夜)、やめろ!」」
「そこまでよ、咲夜」
咲夜の行動に千冬、一夏、レミリアの声が重なる。
最もレミリアの場合制止の意味合いが一夏達とは少々違うが……。
「その程度の雑魚にいちいち反応してちゃこっちの品位まで落ちちゃうわよ」
明らかにセシリアへの侮蔑の意思を見せていた……。
「ッ……決闘ですわ!!」
雑魚呼ばわりされてセシリアは憤慨し、虚勢を張るようにレミリアに食って掛かる。
「決闘?アナタ面白いわね。アレだけ怖がっておきながら虚勢を張れるなんて」
「威勢だけは一人前って奴、いるんだな」
「ある意味尊敬するわ」
「何関係無いって顔をしてるんですか!?決闘はアナタ達にも申し込んでましてよ!!」
ボロクソに言われるセシリアは怒りの矛先を一夏と咲夜にも向ける。
「あ、俺もか?まぁ、別にいいけど」
「私もよ。受けてたつわ」
対する一夏達は大して不平不満を言うわけでもなく了承する。
「では決まりだな。一週間後にクラス代表を決定する試合を行う。最も戦績の高い者がクラス代表、2位と3位はその補佐。最下位が脱落だ」
千冬の言葉により正式に試合が決定し、一夏達はそれぞれ頷く。
「私が勝ったらアナタ達を小間使い、いえ奴隷にしてさし上げますわ!!」
「フフ……何それ?小さいわねぇ」
セシリアの敵意たっぷりな挑発をレミリアは更に嘲笑する。
「ち、小さい?」
「そうよ。決闘とは古来よりその者にとって最も大事なものを賭けて行われてきた。それは地位、富、誇りと様々なもの……だけど確実に言えるのは賭けるものはその者の命とも言えるもの……アナタは何を賭けるというのかしら?」
「な、何をって……」
レミリアからの思わぬ言葉にセシリアは狼狽して後退る。
「私はそうね……この専用機を賭けようかしら?アナタが私に勝てたらこのレミリア・スカーレット専用機、スカーレットコンダクターをあげるわ。ついでにこの学園からも退学してあげてもいいわよ」
「な!?あ、アナタ!自分が何を言ってるか解っているのですか!?」
レミリアが提示したものに今度はセシリアだけでなくクラス中が驚愕に包まれる。
専用機はそれを持つ者にとって命の次に大切な物と呼べる代物だ。それを賭けるなど正気の沙汰とは思えない。
「さぁ、どうするの?受けるの?受けないの?」
「う、受けますわ!!だったら私は代表候補の座とこのブルーティアーズを賭けますわ!!」
引くに引けず、セシリアは半ば自棄になってその挑戦を受けてしまうのだった。
「フフ……その意気や良し。スカーレット家に喧嘩を売るとどうなるか、身の程を以って教えてあげるわ」
「フン!アナタ達のようにこんな野蛮な男と馴れ合うような女の恥さらしが私に勝てると思うなどなんておこがまs……ひゃぁっ!?」
悪態を吐こうとするセシリアだったが再び咲夜にナイフを突きつけられる
「その口閉じなさい。アナタを今ココで不戦敗にするという選択肢も私にはあるのよ(お嬢様と一夏を同時に愚弄してただで済むと思ってんじゃないわよ、このクソガキィ!!)」
「十六夜!構わん殺れ(落ち着け)!!」
「建前と本音が逆だ!!」
「ギャン!?」
思わず本音が出てしまった千冬に一夏は拳骨を喰らわせて気絶させる。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「あ〜、その……すいません、保健室連れて行きます。山田先生、授業続けといてください」
呆然とするクラスの中、一夏は千冬を引き摺って保健室まで向かったのだった。
「千冬様を一発で……」
「織斑君って、実は凄く強い?」
「一夏……この6年でお前に何があったんだ?……絶対突き止めてやる」
「良いなぁ、一夏からのお仕置き」
「え゛!?さ、咲夜……」
「な、何でもありません……」
それぞれ反応を見せるクラスメート達。
そんな事など知る由も無く、一夏は千冬を引き摺って保健室へ向かう。
このあと一夏は千冬から拳骨のお詫びとしてキスをねだられる事になるがそれはまた別のお話……。
次回予告
代表決定戦を一週間後に控えた一夏達だが、そんな事は何処吹く風。
一夏は自分達が設立した部活、『武術部』に精を出そうとする。
しかしそれを良しとしない箒は一夏を強引に剣道部に入部させようとする。
だがそんな暴挙を一夏を愛する女として、剣士として彼女が黙ってる訳が無い!!
次回『部活騒動!剣士の誇りをしかと見よ!!』