東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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愛の戦い勃発!一夏は誰の婿になる?

 博麗神社の営業停止強請事件解決から約一週間後、幻想郷の一員となり、山の神として認められた神奈子を始めとする守矢神社の面々。

その祝いとして本日は守矢神社の境内にて大宴会が行われる事となった。

 

「千冬姉、そっちの盛り付け終わった?」

 

「もう少しだ、ちょっと待ってくれ。私はお前ほど早く出来ないんだから」

 

 当然一夏と千冬の姉弟も宴会に参加する事になっており、現在は宴会に出す料理の準備をしている真っ最中である。

ちなみに原作では全くの家事無能者である千冬だが、本作では咲夜達に対抗意識を燃やして死に物狂いで努力したため、家事と料理が少しは出来るようになっている。

 

(しかし早苗の奴、一夏と再会してからこれといった動きは無い。長年離れていて再会したんだからもっと行動すると思っていたんだが……こうまで何もないのでは返って不気味と言うか何と言うか。ええい、クソ!私の女としての勘がアラートコールをぶっ続けで鳴らしまくっている!しかし、相手が何もしていないとこっちも動きようが無いし……)

 

「千冬姉!まな板まで切ってる!!」

 

「あ゛っ!?す、スマン!!」

 

 得体の知れぬ早苗の動きに千冬は四苦八苦していた。

 

 

 

 そして早苗の動きをマークしていたのは千冬だけではなかった。

 

 紅魔館でも一夏達同様宴会へ向かう準備が進められていた。

当然一夏を想う女の一人である咲夜も例外ではなく宴会へ参加が決定していた。

そして、彼女の主人であるレミリアもまた咲夜とは別の意味で一夏を狙っていた。

 

「咲夜、分かってると思うけど……」

 

「ハイ、分かっております。一夏は早苗には……いえ、どの女にも渡す気はありません」

 

 咲夜の返事にレミリアは満足気な表情を浮かべる。

 

「良い返事よ。彼は最高の逸材だわ、是が非でも従者に欲しい程にね。それにアナタと彼がくっつけば最高のサラブレットが生まれる事にも繋がるわ。ものにしてみせなさい彼を……織斑一夏をね」

 

「当然です」

 

 レミリアがやや挑発気味に発したその言葉に咲夜は笑みを浮かべてそう答えた。

 

 

 そして数時間後……。

 

『かんぱ〜〜い!!』

 

 ある者にとっては祝いの場、またある者にとっては大騒ぎの場、そして4人の恋の戦乙女にとっては戦場の大宴会が幕を開けた。

 

「一夏ぁ〜〜アタイと飲み比べで勝負しろ」

 

 宴会開始早々チルノは一夏に絡み、飲み比べを持ちかける。

 

「チルノ、またお前か。この前の宴会であっという間に酔いつぶれたの忘れたのか?」

 

「うっさい!いいから勝負しろぉ〜〜!!」

 

「お!飲み比べかい?それなら私もやらせてもらうよ!」

 

 飲み比べの話題を聞き、頭に二本の角を持ち腰に瓢箪をぶら下げた少女が反応する。

幻想郷最古の妖怪である鬼の少女、伊吹萃香だ。

 

「よぅ、萃香。相変わらず飲み続けてんな」

 

「まぁ〜ね。ほら、一夏達も飲んで飲んで」

 

「おお、じゃあ一杯……んぐっんぐっ、プハァッーー!美味ぇ!!」

 

「いただきま〜す……ゴク、ゴク、ふにゃぁ〜〜」

 

 結構強い酒だったらしくチルノは一発で酔いつぶれてダウンした。

 

 

 

「ん〜〜、やっぱ一夏と咲夜の料理にハズレは無いわね」

 

「本当だぜ。お、これ美味いな!なぁ、千冬。これなんていう料理だ?」

 

「ん、それか?ハンバーガーだな。本当は牛の肉を使用するんだが、これは猪の肉で代用している。(クッ!悔しいがやはり咲夜の料理の腕にはとても敵わんか……)」

 

 霊夢と魔理沙が一夏の作った牡丹肉のハンバーガーに舌鼓を打つ一方で千冬は咲夜の料理の腕前に女として激しい敗北感を感じていた。

 

(……フッ、この手の分野でアナタが私に勝てる要素なんて何一つ無いわ)

 

 そんな千冬の様子を眺めながら咲夜は鼻で笑った。

 

「ん?そういえばあの半人半霊(妖夢)は何処に?」

 

「さっきから姿が見えないけど……」

 

 もう一人のライバルの姿が見えないことを疑問に感じ千冬と咲夜は周囲を見て回るが……。

 

「「あ゛!?」」

 

 そして見付けた。その視線の先では……

 

「一夏さん、酒肴をお持ちしました。良かったらどうぞ。萃香さんも」

 

「お!悪いな妖夢」

 

「ん〜〜、美味い。酒に良く合うよ」

 

 手作りのつまみと刺身を一夏達に振舞っていた。

 

(アノ半人半霊ガァ〜〜〜!!)

 

(私ヲ出シ抜クナンテ良イ度胸シテルジャナイ……!!)

 

 

 

 そして主催者である守矢神社の面々は……。

 

「早苗、分かってるね?お膳立ては十分、あとはお前次第……ヒック」

 

 酒を飲んで良い感じにほろ酔い気分の神奈子は早苗に声を掛ける。

 

「大丈夫です……覚悟は出来てます!」

 

 神奈子の問いに威勢良く答えた早苗は気合を入れるように杯に入った酒を一気に飲み干す。

 

「言う時は真っ向からハッキリと言いなよ。ああいうタイプは鈍感だから」

 

 諏訪子が後押しするようにアドバイスする。

流石は伊達に長年神として生きているだけありその姿は結構貫禄がある。

 

「は、はい!…………うっぷ、やっぱり無理に飲むべきじゃなかったかも」

 

 自分の下戸っぷりを内心恨めしく思いながら早苗は来るべき時に向けて覚悟を決めつつあった。

 

「今日で変えてみせる!一夏君と私の関係を……!!」

 

 視線の先でプリズムリバー三姉妹と共にビオラで演奏する一夏を見つめながら早苗は表情を引き締めた。

 

 

 

 やがて日も落ちて夜も近くなり、宴会も終わりを迎える時が来る。

宴会に参加していた者の過半数は帰路に着き、一夏や咲夜など残った者は宴会の後片付けを手伝っていた。

そして、彼女が……東風谷早苗が動き始める。

 

「い、一夏君!」

 

「ん、何?早苗姉ちゃん」

 

「ちょっと、湖畔までついて来てほしいんだけど、良い?」

 

「うん。いいけど」

 

 一夏は早苗に連れられ湖畔へと向かった。

 

 

 

「あの巫女、一夏さんと二人で何処へ!?」

 

「遂に動き出したわね」

 

「後を追わねば……」

 

 早苗の動きを察知し、後を追おうとする千冬、咲夜、妖夢の3人。

しかし……

 

「おっと、待ちな」

 

「人の恋路は邪魔しちゃいけないよ。特に家の将来が掛かった恋愛はね」

 

 早苗を追おうとする千冬達の前に突然行く手を阻む様に現れる神奈子と諏訪子。

不意打ちにも近い登場に千冬たちの反応は遅れ、瞬く間に千冬は神奈子に羽交い絞めにされ、咲夜と妖夢は諏訪子の作り出した土の牢獄に閉じ込められた。

 

「し、しまった!」

 

「こ、これじゃ私の能力が役に立たない!」

 

「く、クソ!離せ!!このままでは一夏が……」

 

 3人の抵抗を嘲笑うかのように神奈子達は千冬達を拘束しながら早苗が向かっていった湖畔の方角を見つめ、そしてこう呟いた。

 

「「頑張れ早苗、お前が一夏の嫁だ。そして一夏はお前の婿だ!!」」

 

 

 

「で、話って何?」

 

 夕日が沈みかけ、美しい夕暮れを写す湖畔で一夏は早苗に問う。

そんな彼を前にして早苗は顔を赤くして戸惑いがちに口を開く。

 

「うん。あのね……どうしても言っておかないといけない事があるの」

 

 高鳴る胸の鼓動、沸きあがる激情と逃げ出したくなる衝動を必死に抑え、早苗は口を開く。

 

「私……ずっと一夏君に言いたい事があったの。何年も前から、また会うことが出来たら絶対に言おうって誓っていた事が」

 

 告白阻止限界点まであと僅か……

 

 

 

 時を少し戻し、神奈子達に動きを封じられた千冬達は……。

 

「クソォッ、離せ!離せぇぇっ!!」

 

「『人符・現世斬!!』」

 

「『奇術・ミスディレクション!!』」

 

 千冬達の必死の抵抗を嘲笑うかの様に神奈子の力はまるで緩まず、諏訪子の生み出した土の牢屋も傷一つ付かない。

 

「大人しくしな。早苗が告白するまで待ってれば良いだけなんだからさ」

 

「無駄無駄。私の牢屋は内側からじゃ絶対壊れないようにしてるんだから」

 

 完全に三人を捕らえ、勝ち誇る神奈子と諏訪子。

最早千冬達には勝ち目は無かった。

そう、”千冬達”には……。

 

「へぇ、じゃあ外側からならどうかしら?」

 

「!?」

 

「『スカーレットシュート!!』」

 

 突如放たれる血よりも紅い真紅の妖力弾。

その凄まじい妖力が凝縮された一撃は諏訪子の牢獄を粉砕した。

 

「人の恋路の邪魔ねぇ……寧ろそれはアナタ達の方じゃないかしら?家の執事長候補を勝手にアンタ達の神社の神主候補にしないでほしいわ」

 

 声と共に颯爽と現れるレミリア・スカーレット。

さらにそれとは別に凄まじい殺気と弾幕が吹き荒れ、レミリアをも巻き込んで神奈子達を襲う。唯一巻き込まれていないのは妖夢だけだ……。

 

「ごめんなさいね〜〜、私も一夏君には妖夢のお婿さんになってほしいのよ」

 

「チィッ……吸血鬼の次は冥界の姫か」

 

 冷たい笑みを浮かべて現れるのは西行寺幽々子。

思わぬ敵の登場に忌々しそうに神奈子は舌打ちする。

 

「咲夜!行きなさい!!」

 

「妖夢〜、彼を手放しちゃダメよ〜」

 

「お嬢様……ありがとうございます!!」

 

「幽々子様……当然です!一夏さんは絶対手に入れて見せます!!」

 

 主自らの激励に咲夜と妖夢は一夏のもとへ飛び立った。

 

(ちょっと気に入らんが、今がチャンスだ!)

「あっ…しまった!」

 

 そしてどさくさに紛れる形で千冬も神奈子の拘束から逃れて咲夜達を追いかける。

 

「フッ……まぁいいさ。どの道もう告白は阻止できない!指を咥えて彼が早苗のものになる光景を眺めるが良いわ!!」

 

 一目散に飛び去る千冬達の背に神奈子の捨て台詞が響いた。

 

 

 

 そして湖畔では今まさに早苗による一世一代の告白が始まろうとしていた。

 

「子供の頃からずっと胸の奥に隠してたけど、もう逃げずに言うね。……一夏君、好きです!私と、恋人として付き合ってください!!」

 

「え……えええええぇぇぇっ!?」

 

 遂に早苗は打ち明けた……自らの想いを。

突然の告白に一夏は硬直し、顔を真っ赤にしている。

 

「あ、…ああ……あの、その……」

 

 何かを喋ろうにも混乱の余り声が出ず、何も言えなくなる一夏。

そんな時、突如として一夏と早苗の間を一本のナイフが横切り、地面に突き刺さった。

 

「少し……遅かったようね」

 

「さ、咲夜……」

 

 現れたのは咲夜。さらにそれに続いて妖夢と千冬も駆けつける。

 

「……この、泥棒猫ならぬ泥棒巫女が」

 

「何人の弟を勝手に口説いてるんだ?」

 

 妖夢と千冬は握り拳をワナワナと震わせ怒りのオーラを放出している。

しかしそんな中で咲夜だけは冷たく、そしてクールに笑みを浮かべた。

 

「やってくれるじゃない。でも、一つだけ感謝しなきゃね。……アナタのおかげで目が醒めたわ。私が取るべき行動はたった一つだった!」

 

 直後に咲夜の姿は一夏の眼前に移る。時を止めて一夏に近寄ったのだ。

そしてそのまま咲夜は一夏の首に腕を回し、一夏の唇に自らの唇を押し付けた。

 

「「「な!?」」」

 

「ん゛ん゛っっーーーーーーー!!??!?」

 

「………………ぷはっ。好きよ一夏、愛してるわ。勿論一人の男としてね」

 

 そして口付けを十分に堪能した直後、咲夜は一夏に自分の想いを告げた。

 

「あ、アナタは……」

 

「フフッ……恥ずかしがったりせずに早い内にこうしておけば良かったわ。でもアナタのお陰で私も告白する覚悟が出来た。感謝するわ、東風谷早苗さん」

 

 怒りの混じった目で自分を睨みつける早苗に対して咲夜は皮肉交じりに笑ってみせる。どっからどう見ても挑発以外の何物でもない……。

 

「だ、だったら私だって!!」

 

 そしてそんな二人に割って入るかの如く妖夢は飛び出し咲夜を押しのけて一夏に抱きついた。

 

「私だって一夏さんの事が好きなんです!!アナタ達に渡す気はありません!!」

 

「な……え?……何ぃぃーーーーーっ!?!!??」

 

 (一夏にとって)まさかの三度目の告白。

最早一夏の脳内は情報を処理しきれずオーバーヒート寸前だ。

 

(え?何?早苗姉ちゃんが俺の事好きって?いやでも早苗姉ちゃんとは幼馴染で……でもそこに咲夜が入ってきてそのままキスされて、そのまま「好きよ」って言われて直後に妖夢が俺に抱きついて告白してきて………………………)

 

 処理しきれない情報量と大混乱な思考回路と感情。

その混乱が限界を超えた時…………。

 

「…………あ………あ…あ……………あぅ」

 

 そのまま地面に倒れ込み、気絶してしまった。

 

「「「一夏(さん、君)!?」」」

 

 倒れた一夏に駆け寄る咲夜、妖夢、早苗の三人。

目を回して気絶する一夏に彼女達は今までの女の戦いも忘れて看病しようと躍起になり、すぐに一夏を担いで守矢神社まで向かった。

しかしそんな中、一夏とは別の意味で混乱の真っ只中にいる者がいた。

 

(一夏が告白された……告白されてしまった……分かってた事なのに、いつかはこうなると思っていたのに、何で)

 

 咲夜達が去った後、千冬は自分の身体を抱きしめてガタガタと震える。

普段の凛々しさなど欠片も無い、ただ何かにおびえ小動物のように身体を震わせる。

 

(一夏が、他の誰かのものになってしまう……そうしたら、私はまた一人に……嫌だ…イヤダイヤダイヤダ!!)

 

 千冬の脳裏に浮かぶのは告白を受け入れた一夏の姿。

咲夜を抱きしめる一夏の姿、早苗に口付ける一夏、妖夢と身体を重ねる一夏の姿。

そして幻想郷に来る直前の自分。

愛する者が傍に居ない、誰も自分を見てくれない、一人ぼっちで孤独な毎日。

あの日々に戻るのは千冬にとってどんな物事よりも耐え難い恐怖。

そんな日々に戻ってしまうのではないかという思いが千冬の心を真っ黒に染め上げる。

 

(嫌だ……私を一人にしないでくれ!どこにも行かないでくれ……一夏の居ない日々なんて耐えられない!!)

 

 考えれば考えるほどに心が締め付けられていく。

そんな千冬に悪魔が囁くようにある案が唐突に頭の中に思い浮かぶ。

 

(そうだ、このまま誰かに一夏を渡すぐらいなら、いっその事私が…………)

 

「ハハ……アハハハハハ!」

 

 いつの間にか千冬は笑っていた。

歪んだ笑みだった。狂っているような、泣いているような、それでいて怖がっているような……そんな笑顔だった。

 




次回予告

 一夏を失いたくない……ただその思いに駆られ、暴走してしまう千冬。
3人の少女から告白され、戸惑い苦悩する一夏。
果たしてこの姉弟の行き着く先は?

次回『涙と常識を越えて』

一夏「ああ、そうか。俺はきっと………の事が」

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