東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

20 / 122
感情と責務の間で(後編)

 守矢神社から少し離れた森の上空。

織斑一夏と東風谷早苗……かつて幼馴染だった二人はお互いに成長した姿で相対する。

 

「こんな形で一夏君と再会するなんて本当運が悪いわね、私って」

 

「早苗姉ちゃん……」

 

 悲しげな表情で自嘲する早苗。そんな彼女を一夏は真剣な目で見つめる。

 

「一夏君、私ね……昔、長野に引っ越す事になって凄く悲しかったんだよ。一夏君に会えないって思ったら凄く悲しくて引っ越す前の日なんてベッドでワンワン泣いちゃって……でも、そんな私を支えてくれたのは神奈子様と諏訪子様なの。だから私、神奈子様達の力になりたい!だから、これが最後よ……お願い、この件から手を退いて」

「……早苗姉ちゃんの気持ちは分かったよ」

 

 早苗からの嘆願に一夏は少しの間目を閉じ、やがて目を開きながらそう返す。

 

「じゃあ……「断る」!?」

 

 喜びに満ちる早苗の表情。しかしそれを一夏の一言が一瞬にして崩す。

 

「早苗姉ちゃんの気持ちは何となく分かるよ。けど、信仰を得るんなら独占なんてしないでも方法はいくらだってある。それに霊夢はあんなちゃらんぽらんの俗物巫女だけど俺の友達なんだ。ダチ同士で争うのを指咥えて見てる事なんて俺には出来ねぇ。だから俺が早苗姉ちゃん達を止める!!」

 

 握り締めた拳に魔力を蓄え、一夏は身構える。

その様子から退く気が無いのは明白だった。

 

「……分かったわ。一夏君とだけは戦いたくなかったけど、私にも退けない理由があるの!」

 

 一夏に応える様に早苗は霊力を高めて身構える。

お互いにかつての幼馴染と言う絆を今だけは忘れ、相反する目的を持った敵として互いを認識し合う。

 

「手加減はしないわ。奇跡の力を見せてあげる!」

 

「こっちこそ、奇跡程度で勝てるほど俺は甘くないぜ。万屋をなめるな!」

 

 気合と共に両者は同時に動き出し、スペルカードを発動させた。

 

「『秘術・グレイソーマタージ!!』」

 

「『魔符・ショットガンスパーク!!』」

 

 早苗から放たれる星型の弾幕と一夏の拡散レーザー砲がぶつかり合って互いに掻き消し合う。

直後に一夏は早苗に急接近し拳を繰り出す。しかし早苗はそれに動じず手に持った御幣を霊力で強化して一夏のパンチを受け止める。

 

(!?……俺のパンチを)

 

「取った!」

 

 好機とばかりに早苗は至近距離からの霊力弾を一夏に見舞う。

 

「甘いぜ!」

 

 しかしそんな早苗の動きを読むかのように一夏は迷う事無く早苗目掛けて脚を振り上げる。

振り上げられた一夏の脚は早苗の霊力弾を上空へと蹴飛ばし、そのまま早苗の顎目掛けて一直線に襲い掛かる。

 

「ッ!」

 

 だがそれを黙って喰らうほど早苗もお人よしではない。すぐに一夏から身体を離してその蹴りを避ける。

 

「まだまだぁ!」

 

 だが一夏の追撃はまだ終わらない。早苗が後方に退くと同時に今度は開いている左手で魔力弾を放つ。

回避行動直後の急襲に早苗は弾を避けきれないと判断して自らの霊力で魔力弾を防いだ。

 

「おー、大したもんだ。そんじょそこらの妖怪じゃ今のでKOだぞ」

 

「一夏君こそ、私が知らない間にこんなに強くなってるなんて」

 

「ああ、こっちに来て相当鍛えたんだ。大変だったんだぜ、剣の方で限界感じたり、拳(こっち)に鞍替えして一から鍛え直したりさ。だけど……」

 

 一瞬間を置き、一夏は握る拳に力を込めて口を開く。

 

「そんだけ苦労して手に入れたのが今の俺の力だ。……俺は強ぇぜ」

 

 ニヤリと笑みを浮かべながら全身に巡る魔力を高め、早苗を見据える一夏。そんな彼を見詰めながら早苗は緊張から汗を流す。

 

(一夏君の言葉はハッタリなんかじゃない。こんなに逞しくなってるなんて……本当に、何でこんな形で再会しちゃったのかな?)

 

 自分の不運を内心嘆きながら早苗は一夏に対抗すべく自らも霊力を高める。

 

「本気で来ないと俺は倒せないぜ。早苗姉ちゃん」

 

「ええ、骨身に染みて分かってるわ。勝負よ!」

 

 スペルカードを発動させた早苗の頭上に数多の霊力弾が生成される。

 

「『奇跡・白昼の客星!!』」

 

 流れ星の如く一夏目掛けて降り注ぐ。

更にそこに早苗からの攻撃も加わった多重攻撃が一夏に襲い掛かる。

しかし、一夏はそれに臆する事無く向かい合い、弾幕を避けながら魔力弾を連射して反撃する。

 

「オラオラオラオラオラァッ!!」

 

「クッ!(……凄い、これだけの威力の弾をまるでマシンガンみたいに。それに一夏君、戦い慣れてる。だけど!)」

 

 一夏からの反撃に若干怯みつつも早苗は一夏の放つ魔力弾を避け、或いは防ぎながら一夏へ接近する。

 

「でやああぁぁーーーーっ!!」

 

 そしてある程度接近すると同時に早苗は溜めに溜め込んだ霊力弾を一夏目掛けて撃ち出す。

 

「無駄だ!『爆符・エナジーウェーブ!!』」

 

 迫り来る凄まじい威力の霊力弾を前に一夏は自身を中心に魔力の爆発波を広げる。

その爆発波は早苗の霊力弾を掻き消し、更に早苗にも迫り来る。

しかしそんな窮地ともいえる状況の中、早苗は寧ろ『待ってました』といわんばかりの表情を見せる。

 

「今よ!『奇跡・海が割れる日!!』」

 

 一夏のカウンターを更に返すように発動される早苗のスペルカード。

大津波の様な霊力の波が生み出されて一夏の爆発波を飲み込んだ。

その威力はまさに『海が割れる日』の名に相応しい程絶大だ。

更に一夏はスペルカードを発動した直後の為避ける暇が全く無い。

 

「クソッ!『魔纏・硬!!』」

 

 回避を無理だと判断し、防御用のスペルを発動させる一夏。

しかし如何にダメージを無効化出来ても身体自体は霊力の津波に押し込まれ、地面に押さえつけられてしまう。

 

「これでラスト!『奇跡・サモンタケミナカタ!!』」

 

 フィニッシュとばかりに発動される早苗最大のスペルカード。

彼女を中心に吹き荒れる弾幕の渦が一気に一夏に襲い掛かる。

だがしかし、一夏は一切避けようとはせず真っ向から向かい合う。

 

「まだだぁ!『手刀・零落白夜〈改〉!!』」

 

 霊力弾が一夏の身体に激突するその刹那、一夏は魔力を纏った手刀を振るった。

 

「な!?う、嘘……」

 

 そしてその一撃は自身に迫り来る霊力弾だけでなく、衝撃波によって弾幕全てをも真っ二つに切り裂いた。

 

「そ、そんな……私のスペルカードの中でも最大級のスペルを……」

 

 奥の手とも言うべきスペルカードを破られ、早苗はただ呆然とする事しか出来なかった。

そしてそんな隙を見逃す程一夏はお人よしではない。

 

「終わりだ。『砕符・デストロイナックル!!』」

 

「っ……キャアアアア!!」

 

 一夏の拳から吹き荒れる特大の魔力の連射砲が早苗を飲み込み、その身体は数km先の湖の水面へと叩きつけられた。

 

「う……グッ…カハッ……」

 

 大ダメージを受けてふらつく身体を必死に動かし、岸辺に上がる早苗。

そんな彼女を一夏は無言で待ちうけ、その拳を向けた。

 

「……い、一夏君」

 

「早苗姉ちゃん……これで終わりだ。反撃したけりゃして構わない。ただし、その頃には俺の拳が火ぃ吹くけどな」

 

「……参ったわ」

 

 冷や汗を流しつつ早苗は自身の敗北を認め苦笑いを漏らす。

そんな彼女に一夏は握り拳を緩めて掌を広げ、その手を差し伸べた。

 

「ほら」

 

「え?」

 

 差し伸べられた手に呆気にとられ早苗は一夏の顔と手を見比べる。

 

「勝負が終われば敵も味方も関係無い、恨みっこ無しだ。折角また会えたんだから、聞かせてくれよ。早苗姉ちゃんと離れてる間、どんな風に過ごしてきたのか」

 

「……うん」

 

 優しく笑う一夏に早苗は頬を少し赤く染めながら、差し出されたその手を握ったのだった。

 

 

 

 そして一夏達の戦いが終わった頃、霊夢達の戦いもまた終わりを迎えていた。

 

「お〜、随分やられちゃったね、神奈子」

 

 地に膝をつく神奈子に近寄る人影が一つ。先程まで魔理沙と戦っていた洩矢諏訪子だ。

諏訪子の方も体のあちこちが傷付いているじゃないか。

 

「フン、そういうお前こそボロボロじゃないか」

 

 皮肉交じりにそう返す神奈子。

霊夢と神奈子、魔理沙と諏訪子……二組の戦いは霊夢達の勝利に終わったのだった。

 

「勝負が終わったばっかりの所悪いけどさ、約束通り家の神社からは手、退いてもらうわよ」

 

「しょうがないね。約束は約束だ、守るよ」

 

「こう言っちゃなんだけど、信仰集めるのに文句言う気は無いわ。だけど幻想郷に唯一絶対の存在なんて必要無いし、立ち退きなんかさせられる謂れも無い。ま、地道に頑張りなさい。分社ぐらいなら考えてあげても良いから」

 

「言ってくれるねぇ……ま、今回は私達の負けだ。ただ、一つ頼まれて欲しい事がある」

 

「何よ?」

 

 神奈子の言う『頼み』に霊夢は訝しげな表情をしながらも興味を持ったらしく、神奈子に聞き返す。

 

「あの一夏って少年を紹介してくれ。あの強さは気に入った!早苗の婿にして家の神社の後継ぎにしたい!」

 

「おぉ!良いねそれ。早苗もあの子の事好きみたいだし」

 

「何だそんな事?別に良いわよ。っていうかこの際ココで宴会でも開いてくっつけちゃえば良いんじゃない?」

 

 どうやら一夏と早苗の戦闘の様子は此方にも届いていたらしく、神奈子達の脳内では『一夏よ、早苗の婿になれ』計画が進行していた。

 

 しかしこの会話の中一人だけ物凄い量の冷や汗を流す少女が一人いた。

 

(おいおいおいおい……どうすんだよ?一夏を婿にとか、咲夜と妖夢が絶対認める訳無いって!いや、下手すりゃ千冬もキレて大乱闘になる可能性も……ゴメン一夏、私もまだ死にたくないんだ。だから私は不干渉で頼む)

 

 恋の大戦争が勃発する予感を覚えながら魔理沙は一夏に対して心の中で合掌した。

 

 

 

 そしてこれより数日後、神奈子と山の妖怪の有力者である天魔との会談が行われ、守矢神社の面々は正式に幻想郷の住人として受け入れられる事となった。

そして更に数日が経ち、守矢神社にて大宴会が行われる事が決まり、一夏達も宴会に招待されることとなったのだった。

 




次回予告

幻想郷の一員となった守矢神社の面々。
その祝いで行われる大宴会。
酒と笑いが満ち溢れる中、神奈子と諏訪子は早苗と一夏の距離を一気に縮める計画を進め、早苗もまたある決心をしていた。
そんな彼女の行動に咲夜は?妖夢は?そして千冬は?

次回、『愛の戦い勃発!一夏は誰の婿になる?』

咲夜「アナタのおかげで目が醒めたわ。私が取るべき行動はたった一つだった!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。