「はぁぁぁ!!」
「せやぁぁぁ!!」
妖夢と椛、二人の刀がぶつかり合い、鍔迫り合いとなる。
「ググ……やるわね、白狼天狗」
「クッ……そっちこそ、亡霊にもこれ程の使い手が居たなんて」
苦悶の表情を浮かべつつもお互いに相手への賛辞を口にし、二人は力比べの体勢で押し合う。
そして直後に二人はお互いに飛び退き、距離を取り合う。
「喰らえっ!」
椛の剣から『の』の字を描くように妖気の弾幕が展開され、妖夢に襲い掛かる。
「クゥッ、この程度の弾幕!」
降り注ぐ弾幕を妖夢は素早く回避、或いは刀で弾き、弾幕を防ぎきる。
「まだまだぁっ!!」
弾幕と共に椛は一気に距離を詰め、袈裟切りの要領で斬りかかる。
「っ!」
咄嗟に刀で防ぐ妖夢だが、直後に椛は妖夢の背後を取り、刀を振り被る。
「必殺、『の』の字斬りぃ!!」
直後に再び妖夢を襲う斬撃。その円を描く軌道の刀の動きと先程の袈裟斬りと併せれば正にその切り口が平仮名の『の』を描く様な技だ。
「チッ……クソッ!!」
避ける暇が無いと判断し、妖夢は鞘に納まるもう一本の刀剣を抜き、何とかガードした。
「っ!(……今のを防ぐなんて)」
「お返しだ!」
カウンター気味に刀を振り下ろす妖夢。椛は間一髪盾で防ぐが鋭い斬撃が盾を通して衝撃となり椛を襲う。
「痛っ……防いでこの威力なんて……」
手に伝わる鈍痛に顔を顰め、椛は内心苦戦を予感したのだった。
場所は変わり山頂の守矢神社。
神社の巫女、東風谷早苗は侵入者の来襲を予感し、一人境内で侵入者たちを待ち構えていた。
「……来た!」
迫り来る複数の気配を感じ取り、早苗は身構える。
(この霊気は博麗の巫女……他にも数人。来るなら来なさい、ココで決着をつけてアナタの神社を傘下に収めてみせる!)
「ようやく見つけたわ。こんな場所に神社をおっ建てるなんてね」
真っ先に現れたのは霊夢だ。
来て早々に率直に守矢神社を見た感想を漏らす。
「博麗の巫女…アナタの方から来てくれるなんて、神社を明け渡す気になりましたか?」
「冗談言わないで貰える?私がそんな真似する訳無いでしょ」
挑発的に問う早苗に霊夢は表情を顰めて答える。
「そう、ならココで決着をつけて改めて神社を頂くわ。そしてこの山を手中に収めれば幻想郷中の信仰心は守矢神社のもの」
「はぁ?幻想郷中の信仰って、アンタ他の神様皆敵に回す気!?」
早苗の言葉に霊夢は驚き半分呆れ半分といった反応を見せる。
信仰は神にとって力の源、それを独占などすれば神々のパワーバランスは確実に崩れる。
巫女である霊夢にとってそれがどれだけ大変なことかは簡単に理解できる。
「これは幻想郷のためでもあるのですよ。今の信仰が失われた状態が続けば幻想郷は力を失います」
「そうなる前に信仰を集めて、他の神様と妖怪達を治めようって腹積もりか?」
早苗の返答に魔理沙が現れ、納得したような表情を見せる。
「しかし、そのために地上げ紛いの事をやるというのは気に入らんな」
「あ、アナタは……!?」
魔理沙に続いて現れた者の声と姿に早苗は驚愕する。
目の前に現れた女性、それはかつて外の世界で最強と謳われ、今は行方不明となっている筈の女性、織斑千冬その人だ。
「妖怪の山と手を結ぶのも、信仰を集めるのも自由だ。だけど、他の神社の在り方をどうこう言う権利は無いんだぜ」
「!!……い…いち、か…君?」
そして早苗は自分にとって最も衝撃的な人物の姿を目にする。
忘れるはずも無い、自らの想い人……織斑一夏の姿を。
「久しぶり、早苗姉ちゃん」
あまりの衝撃に早苗は開いた口が塞がらない。
死んだ筈の想い人にその姉が目の前に現れたのだ。早苗にとってその事実は特大のダブルショックとも言える事だ。
「一夏、くん……一夏君っ!!」
しかしその衝撃が再会の喜びに変わるのに大した時間は掛からず、早苗は堪らず一夏に抱きついた。
その頃、九天の滝では……
((っ……何?この込み上げてくる怒りは!?))
咲夜と妖夢……二人は突然言い様の無い怒りが込み上げてくるのを感じた。
「ホラホラぁ!余所見してると怪我するわよ!『幻想風靡!!』」
「これで決めます!『狗符・レイビーズバイト!!』」
突然動きを止めた二人に必殺のスペルカードを以って襲い掛かる文と椛。
しかし、彼女達は気付いていなかった。今の咲夜と妖夢に手を出す事がどれだけ危険な事かに……。
「……『幻葬・夜霧の幻影殺人鬼』」
「……『人鬼・未来永劫斬』」
静かに、しかしその瞳の奥に圧倒的な威圧感を携え、咲夜と妖夢はスペルを発動させる。
「へ?」
「え?」
思わず間抜けな声を漏らしてしまう文達。
彼女達の顔が恐怖に引き攣るのはこの後、約0,5秒後の事である。
「「東風谷……早苗ぇぇぇぇぇ!!!!」」
「「ひにゃああああーーーーーーー!!!?」」
咲夜のナイフと妖夢の刀、それぞれ形は違えどその凄まじい斬撃の嵐が二人の天狗を飲み込み、嬲り、そして滅する。
今この場に居るのは完璧で瀟洒なメイド長でも白玉楼の庭師でもない。
たった一つの想いを背負う恋する乙女という名の阿修羅……それが今の二人だった。
「妖夢……行くわよ」
「……ええ」
口数こそ少ないが咲夜と妖夢は何者をも寄せ付けないオーラを放ちながら守矢神社へと歩き出した。
「ブファッ!!ゼェゼェ……な、何だったんですか今のは?」
撃墜された椛はズタボロになりながらも滝壷から這う様に抜け出しながら先程自分の身に起きた事を理解できずに声を上げる。
その隣では文がやつれた表情で椛と同じように滝壷から抜け出していた。
「よ、よく解んないけど…戦闘力が急激に上がったわ。な、何が彼女達をああまで強く!?……こ、これは新聞の良いネタになる…身体が治ったらすぐに取材を……」
痙攣する身体で文は懐からメモ帳(防水仕様)を取り出し震える指でメモを取る。
その姿は外界の星型の痣を持つ主人公が部数を追うごとに世代交代していく奇妙な冒険な某漫画の第4部に登場する漫画家を髣髴とさせるものであった。
そして当の守矢神社では……
「それじゃあ…その時に一夏君はこっちに?」
「うん…そんな所。で、こっからが本題だけど……博麗神社から手を引いてくれ」
真剣な眼差しで本題を切り出す一夏。
そんな一夏に早苗は苦々しい表情を浮かべる。
「それは……「出来ないねぇ、悪いけどさ」神奈子様!?」
戸惑う態度を見せる早苗に代わり、突如として守矢神社に祀られし神、八坂神奈子が現れ一夏の申し出をキッパリと断る。
「早苗の馴染みのようだから穏便に済ませたいけど、こっちも信仰を取り戻すために形振りかまってられないんでねぇ。どうしてもというならココで一戦交えるしかないわね」
「あ、そう。それならこっちとしても話が早くて助かるわ。おまけに親玉自ら出てきてくれるとか後から探す手間も省けるし」
神奈子突然の登場に一度は驚くも霊夢はすぐに普段の調子を取り戻して臨戦態勢に入る。
「今更かもしれんが俺達は話し合いに来たんだが……」
「あきらめろ一夏。霊夢や私みたいな人種は基本的に弾幕戦が話し合いみたいなもんだぜ。そっちの巫女も退く気は無いんだろ?」
溜息を吐く一夏の肩をポンと叩き、魔理沙は早苗の方に目を向ける。
「はい……私だって一夏君と争いたくないけど、守矢の巫女としての義務があるから。全力でアナタ達を迎え撃ちます!!」
魔理沙の視線の先にいる早苗は多少の悲壮感を出しながらも覚悟を決めた表情を見せ、霊力を高める。
「っ……分かった、早苗姉ちゃんの相手は俺がする。そっちの神様は霊夢達で勝手にやってくれ」
早苗の覚悟を前にして一夏も覚悟を決めて向かい合い、身構える。
「おい、良いのか一夏?私が代わりに戦っても良いんだぞ」
「大丈夫。むしろ幼馴染だからこそ止めたいんだ。俺自身の手で」
覚悟を決めているとはいえ幼馴染と戦わせる事に抵抗を感じたのか千冬は一夏に声を掛けるが一夏はそれを断る。
一夏もこれまでに異変に立ち向かう中で多くの犯人やその従者達と出会い、戦ってきた。
その中にはそれ相応の覚悟や使命感を持つ者もいた。
早苗の目はそんな『覚悟を決めた者』の目だ。ならば自分もそれなりの覚悟を以って向かい合うべき……一夏はそう思っていた。
「神社を巻き込むわけにはいかないわ。場所を移しましょう」
「ああ、好きにしな」
互いに睨み合いながら飛び立ち、その場を離れる一夏と早苗。
その場には千冬、霊夢、魔理沙、神奈子の4人が残った。
「さ〜て、こっちもこっちでさっさと始めようじゃないか。誰から来る?何なら3人纏めてでも構わないけど」
「随分嘗めてくれるじゃない。神の力だけで幻想郷の頂点にでも立ったつもり?私が相手になるわ。外野二人、手ぇ出したら夢想封印喰らわせるわよ」
挑発的な神奈子の態度に霊夢が前に出る。
そんな霊夢に千冬と魔理沙は少々不満顔を見せる。
「おいおい、私こっちに来てまだ活躍してないぜ」
「私も少々暴れ足りないんだが(あの小娘(早苗)……一夏に抱きつきやがって!私だって中々抱きつけないんだぞ!!)」
「じゃあ私が相手してあげるよ」
戦意を見せる千冬と魔理沙に掛けられる少女らしき声。同時に何者かが飛び出す。
長めの金髪に目玉のような飾り(?)の付いた帽子を被った少女だ。
「諏訪子、もう目覚めたのかい?」
「まぁね。いやぁ〜、なかなか強そうな人間がこんなに集まるなんて珍しいじゃないの。私も戦わせてもらうよ、幻想郷(こっち)に来るまでずっと寝てて退屈してたし。それにココは本来私の神社だから戦う権利もある」
突如現れ、神奈子とフレンドリーに会話する少女……彼女の名は洩矢諏訪子。
守矢神社における本来の主である土着の神だ。
「ま、構わないさ。私の相手は決まってるからそっちの二人は譲るよ。さぁ来な、博麗の巫女」
「上等じゃない。決着つけてやるわ!」
神奈子に促されるように霊夢は神奈子と共に湖の方へ向かっていった。
「それじゃあ、そっちの魔法使い。私たちはこっちで神遊びと洒落込もう」
「おい!私は無視か!?」
勝手に対戦相手の枠からはずされ、千冬は憤慨したように声を上げるが諏訪子はそんな声など何処吹く風といった感じに魔理沙に目を向けながら場所を移す。
「よーし、相手にとって不足は無いぜ!」
魔理沙は魔理沙で指名されて上機嫌で箒に乗って諏訪子を追う。
「おいちょっ、待て!」
「しょうがないなぁ。じゃあハイ」
千冬の声に諏訪子は立ち止まり、地面に自らの霊力を流し込む。
それに呼応するように地の一部が音を立てて盛り上がり、やがて土の人形へと姿を変えた。
「これは!?」
「これは私の能力(ちから)で作った人形、それでも相手にしてなよ。最もブリュンヒルデと持て囃されて力に溺れていた愚者じゃこの子には勝てないだろうけどね。じゃあねー」
「!!」
千冬にとって何よりも辛辣な言葉を残し、諏訪子は魔理沙と共に去っていった。
そして諏訪子が去ると同時に土人形は千冬に一斉に弾幕を放つ。
「っ……クッ!!(力に溺れていた愚者か……確かにその通りだ。所詮私は自分の罪にも気付かないで最強になったつもりで結局何も出来なかった負け犬だ)」
間一髪で弾幕をかいくぐりながら自嘲気味に唇を噛み締め、千冬は剣を握る。
今の自分にとってブリュンヒルデ、そして白騎士としての過去は罪でしかない。
愚者といわれようとも仕方の無い事だと思っている。
「だけど……私は、昔の私とは違うんだ!!」
自分自身に言い聞かせるように叫びながら千冬は土人形に突貫した。
「速攻で決めてやる!『絶技・〈真〉零落白夜!! 』」
ばら撒かれる霊力の弾幕、それらを掻い潜りながら千冬は剣を振り上げ、敵目掛けて必殺の一撃を放った。
強烈な一撃が土人形の身体を穿ち、深い切り傷が刻まれるかの如く胴体を抉る。
しかし……
「っ!……これは?」
一撃を叩き込んだは良いものの、数秒も掛からぬ内に土人形の傷は塞がっていく。
「再生能力……だと」
敵の思わぬ能力に千冬は表情を顰める。
その隙を突くかのように土人形は千冬の身体を掴んでくる。
「クッ…離せ!この土達磨が!!」
掴まれた身体を引き剥がそうと千冬は土人形の顔面(と思われる部位)に魔力弾を叩き込むがまるで効果が無い。
そのまま土人形は近くの樹木目掛けて千冬を投げつける。
「うわっ!?…ま、まだこの程度で……ッ!?」
辛うじて体勢を立て直して激突を防ぐも土人形はそのゴツゴツとした体型から想像出来ないほどの速さで千冬に接近し、その太い腕を振るう。
紙一重でその一撃を回避する千冬だが、直後に土人形は霊力弾を乱射する。
「クソッ、土の癖になんて素早いんだ!?」
土人形の猛攻を必死に防ぎながら千冬は毒づく。そしてそれと同時に目の前の敵を攻略する方法を必死に考えていた。
(落ち着け、落ち着いて考えるんだ織斑千冬!どんなに強くても奴は所詮土で作った人形なんだ。……待てよ)
千冬の脳内で何かが閃く。
それを確かめるべく千冬は意を決し、空中へ飛翔した。
(私の勘が正しければ奴は……)
土人形はそれを追い、自らも飛び上がる……いや、その言い方には語弊がある。
土人形の足は地に付いたまま……つまり自らの脚を地に付けたまま伸ばして千冬を追っていたのだ。
それはまるで巨大な触手の先端に人形が付いているかのような姿だった。
「やっぱり、思った通りだ!!」
土人形の伸びる脚を見て千冬は思わず声を上げる。
いくら神が作ったとはいえ所詮は人形、人形単体が再生能力を有している筈は無い。
ならばどうやって再生しているのか?答えは単純明快、エネルギーを随時供給しているからだ。
「この神社の地面は土の宝庫。貴様はそこからダメージを受ける度に土を供給し続けて再生している。だがその供給用ケーブルの役目を果たしているその脚を地面から離したらどうなるかな?」
ニヤリと笑みを浮かべ、千冬は大剣に溢れんばかりの魔力を込める。
「『妙技・零落白夜〈波〉!!』」
尚も襲い掛かる弾幕の雨をかわしながら千冬は素早く地上に降下、直後に大剣を古い、その脚目掛けて刃状の魔力砲弾を撃ち、土人形の脚を大地から切り離す。
「ハァアアア!!」
土人形の脚が切り離され、すぐさま千冬は土人形に接近。
野球のスイングの要領で土人形の身体を遥か上空へ吹っ飛ばす。
「一撃程度の零落白夜じゃ貴様の身体を完全に破壊する事は出来ん。だがそれなら連続で叩き込めば良い!!」
直後に大剣を両手から片手持ちに切り替え、千冬は上空へと吹っ飛ぶ土人形を追い駆ける。
「『秘技・零落白夜〈双〉!!』」
右手には魔力を込めた愛用の大剣、そして左手にはもう一本魔力で生成した剣を握り締め、凄まじい連続攻撃を叩き込む!!
「ダァァァァアアア!!」
雄叫びと共に繰り出される無数の斬撃。
一撃一撃が土人形の身体を削り、切り刻み、そして破壊する。
「消し飛べぇぇーーーー!!」
そして土人形の身体がバラバラになると同時に千冬は魔力弾を乱射し、一欠けらも残さず土人形を消し飛ばした。
「ハァ、ハァ……私はもう戻らない。あの頃には、白騎士には絶対に戻らない!!」
大量に魔力を消費し、息切れを起こす身体に鞭打ちながら千冬は誰に向けるわけでもなく腹の底からそう叫んだ。