東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

18 / 122
妖怪の山、(愛の?)死闘劇

 博麗神社の営業停止を巡り、妖怪の山へとやって来た一夏達6人。

一夏的には出来るだけ穏便に済ませて山の妖怪や神々に迷惑をかけたくないと思っていたのだが……。

 

「このぉぉ!!!」

 

「『秋符・オータムスカイ!』」

 

「『厄符・バッドフォーチュン』」

 

 紅葉の神・秋静葉、豊穣の神・秋稔子、厄神・鍵山雛……彼女達は皆、山に住む神々だ。

山の奥へ入ろうとする一夏達を止めに入った彼女達だったが山頂の守也神社に用がある霊夢達がそんな制止を聞くはずも無く、結局力ずくで通る通さないという話になってしまい現在のように戦っているわけであるが……。

「邪魔をするな!『斬符・樹鳴斬!!』」

 

「フニャアァッ!?」

 

「鬱陶しいわね……!『ミスディレクション!!』」

 

「ミギャァッ!!」

 

「そこをどけ!『人符・現世斬!!』」

 

「キャァァ!!」

 

 一夏への想いによる補正を受けて集中力が大幅にアップしている恋する乙女達にとって大した敵ではなかった。

今の彼女たちにとっては最早相手が神だろうが何だろうが関係無い。一夏への想いのみで動く彼女達にとって神も悪魔も等しく無意味。邪魔するならば排除するだけである。

 

「穏便に済むはず無いんだよなぁ、結局。……せめて、にとりには迷惑かけないようにしとくか」

 

 姉と友人による文字通り神をも恐れぬ行為に一夏は頭を押さえながら溜息を吐いた。

 

「一夏ぁ〜〜、千冬ぅ〜〜」

 

「ん?にとり!?」

 

 突然声を掛けられ、声が聞こえた方向を向くとそこにいたのはある意味今最も会いたくない人物、河城にとりであった。

 

 

 

 

 一方で山の妖怪達は混乱の真っ只中であった。

突然山頂に湖ごと現れた神社、そしてその神社に祀られる神とそれに仕える巫女。

現在山で最古参の妖怪である天狗の長、大天狗が彼女らと交渉中であるが、そんな中起きた部外者の侵入。

そのため山には警戒態勢が敷かれ、山に所属する妖怪の多くは哨戒任務などを命じられている。

 

そしてその警戒態勢は此処、九天の滝も例外ではない。

 

「〜〜♪」

 

 しかしそんな中、一匹の烏天狗、射命丸文は呑気に滝近くにある大木の木陰で寝そべるような体制のままふわふわと浮遊していた。

 

「文さん、何呑気に寝てるんですか!侵入者はもうかなり近づいてるんですよ」

 

 白狼天狗の少女、犬走椛は文を見つけるや否や怒鳴りつける。

そんな椛に対し、文は面倒臭そうに起き上がる。

 

「侵入者って言ってもねぇ……一夏さんもいるんでしょ?あの人ウチの新聞取ってくれてるから戦い辛いのよねぇ」

 

「それを言ったら私だって一夏さんには面識がありますよ……けど上からの命令ですからね」

 

 一夏の話題になって二人揃って溜息を吐く。

文は本業である新聞記者の仕事で、椛は友人のにとりを経由して一夏と知り合っており、それなりに友好的な関係だったりする。

故に今回の侵入者の一人が一夏である事を知り、内心迷いがあった。

 

「ま、一人二人押さえりゃ言い訳は立つんだし、適当にやりゃあ良いのよ。元は向こうが撒いた種だし」

 

「そういうのは口に出さないでください……そろそろ持ち場に戻らないといけませんから、文さんもさっさと準備してくださいよ」

 

 やる気の全く無い文の言葉に椛は呆れながらも否定する事なく、そのまま持ち場へと戻っていった。

 

 

 

 一方一夏達は……。

 

「なるほど。それじゃあその神社の連中が突然やって来て山頂に陣取ってこの騒ぎって事か」

 

 にとりに案内され、渓谷へとやって来た一夏達は先程の戦闘で戦った雛達の手当てをする傍らでにとりによる山の内情の説明を聞いていた。

 

「うん、それで山の妖怪達は皆ピリピリしちゃって。雛達が一夏達を止めようとしたのもそれが原因でしょ?」

 

「ええ、今の山はいつも以上に危険だから……と言っても結果はこの有様だけどね」

 

「「「う……ゴメンナサイ……」」」

 

 戦った相手が別に自分達に敵意を抱いてないと(今更ながら)知り、千冬達は素直に謝罪する。

 

「だけど、まさか早苗姉ちゃんがこっちに来てるなんて……っていうか千冬姉それに気付いて行く気になったの?」

 

「ああ、まぁな……確証は無かったがな。だがこれで確信に変わった」

 

「確かに、友達(ダチ)同士の土地の奪い合いなんて見たくないしな」

 

「う、うむ……まぁな……(言えない、お前を巡る恋のライバルを抑えるために来たなんて……)」

 

 一夏の純粋な考えに千冬は内心後ろめたさを感じ、目を逸らしながら適当に答えた。

 

「とにかく、事を解決するにはやはり山頂に行くしかないみたいだし、さっさと行こうぜ」

 

「そうね。向こうが降りてくる気が無いならこっちから乗り込んでやろうじゃない」

 

 魔理沙と霊夢を筆頭に一夏達も次々に立ち上がる。

 

「この先をまっすぐ行けば九天の滝だから、そこを越えれば山頂だよ。私は道案内までしか協力出来ないけど、気をつけてね。……あと、なるべく天狗様達とは揉めないで……」

 

「分かってるよ。まぁコイツ等が一緒だから約束は出来ないけどな」

 

 にとりからの忠告に苦笑いしつつ、一夏達は九天の滝を目指したのだった。

 

 

 

 九天の滝・最上部

 

「全員配置につきました。いつでも迎撃できます。……文さん、こんな時にカメラの手入れなんてしないでくださいよ……」

 

 緊張感の欠片も見せずにカメラを磨く文を見て椛はまた溜め息を吐く。今日だけでもう何回目の溜息なのか分からない。

 

「堅い事言わないの。来た時にマジになりゃ良いのよ」

 

 呑気に構える文とそれに呆れた視線を向ける椛。

しかし直後に2人の表情を真面目なものに変える事となる。

 

「!……文さん」

 

「!?……来たのね?」

 

 椛の嗅覚と能力が侵入者たちの匂いを嗅ぎ取る。

その数は6人。一目散にこっちに向かっている。

 

「滝には妖精や他の天狗も哨戒に出ているのに……」

 

「あややや、こうも簡単に突破するなんて流石は一夏さんとそのお仲間。さ〜てと……椛、気ぃ抜かないようにね。じゃないと怪我するわよ」

 

「分かってますよ」

 

 二人が気を引き締めた直後、侵入者……織斑一夏達はその姿を現した。

 

「文に椛……やっぱりお前等もいたのか」

 

「ええ、まぁ……ある意味不本意な形ですけどね」

 

 覚悟してはいるものの望まぬ形での出会いに一夏は内心苦々しく感じる。

勿論それは文と椛にも言える事だが……。

 

「不本意だって言うならそこを通して欲しいんだけど?」

 

 一夏と文の会話に霊夢が口を挟んだ。

霊夢からしてみれば天狗と喋っている所で埒が明かないので若干イラつきを見せ始めている。

 

「通るのは良いですけど……私達にも立場がありますからねぇ……こっちも追い返しもしないで通すってワケにはいかないんですよ。というわけで、一つ提案なんですが……誰か二人程ココに残って私達と戦ってくれませんか?」

 

 文からの思わぬ提案に一夏達は一瞬面くらい、顔を見合わせる。

しかしすぐにその提案の裏を察し、文へと向き直る。

 

「なるほどね、私達の誰かを抑えておけば一応の体裁は保てるってワケ?」

 

「そういう事。で、誰が相手になってくれるの?」

 

(だからそういう事大声で言わないでくださいよ……)

 

 霊夢の言葉をあっさり肯定する文。

そんな文に椛はがっくりと肩を落とす。

 

「そういう事なら、私がやるわ。烏天狗のスピードは相当なものらしいから、能力的に私が一番適任な筈よ」

 

「じゃあ私は白狼天狗と戦います。私と同じ剣士のようですし」

 

 名乗り出たのは咲夜と妖夢。

二人は前に出て「此処は任せろと」言うように武器を構えて臨戦態勢に入る。

 

(ちょっと気に入らないけど、東風谷早苗への牽制はアナタに任せるわ)

 

(他人の私たちより、肉親のアナタの方が適任ですからね)

 

(お前ら……感謝する)

 

 千冬のみに聞こえるように咲夜と妖夢は小声で声を掛ける。

そんなライバル二人の行動に千冬は感謝の意を示す。

 

「こっちを片付けたら私達もすぐに行きます。行ってください!!」

 

「スマン、頼むぞ咲夜、妖夢!!」

 

 二人に礼を言いつつ、一夏達は山頂目掛けて飛び立って行った。

 

 

 

「さてと、私達もさっさと山頂に行きたいから……悪いけど、本気で行くわよ」

 

 一夏達が山頂へ向かったのを見届け、咲夜は文、妖夢は椛とそれぞれ対峙する。

 

「紅魔館のメイド長に白玉楼の半人半霊……一夏さんと戦わなくて済む代わりに厄介なのと戦うことになっちゃったわね」

 

「まったく、結局私まで文さんの口車に乗せられる羽目に……。こうなったら意地でもココを通しませんよ!」

 

「なら私は意地でも通るまでよ!!」

 

 四人は会話を終えると同時に各々の相手に飛び掛った。

 

 

 

「ッ!」

 

 真っ先に動いたのは咲夜だ。

咲夜の手から銀製のナイフが文目掛けて放たれる。そのスピードはかなりのものだ。

 

「!?」

 

 ナイフが咲夜の手を離れたその刹那、文は目を見開く。

咲夜のナイフはその数を何十本にも増やし、その全てが文に襲い掛かる。

 

(なるほど、これが例の能力ね……ちょっと厄介かも)

 

 咲夜の能力『時間を操る程度の能力』……咲夜はこの能力を用いて一瞬のうちに多数のナイフを同時に投げているのだ。

 

「だけどこの程度じゃ!」

 

 即座に回避行動に移る文。

それと同時に手に持つ団扇で風を操りナイフを吹き飛ばし、咲夜目掛けて跳ね返す。

 

「ならこれはどう?『ミスディレクション!!』」

 

 跳ね返されたナイフを避け、即座に時間を止めて回収した咲夜は再びナイフを投擲する。

風で吹き飛ばそうとする文だがナイフは所々で軌道が変化し風を避けるように文に接近する。

 

「なんの!」

 

 しかし文は表情に余裕を浮かべ、凄まじいスピードでナイフを回避し、妖気弾でナイフを撃ち落す。

 

「一本だけに気を取られていいのかしら?」

 

 だがそんな文の動きを読むかのように別のナイフが文の背後から襲い来る。

 

「あややや、危ない危ない」

 

 しかしその攻撃にも文は動じない。

ナイフを回避しながら咲夜に妖気弾を放ちながら一気に接近し、畳み掛ける。

 

「チッ……!!」

 

「!?……こりゃ接近するだけ無駄ね」

 

 面倒臭そうにぼやく文。

彼女が口を開いたとき、咲夜の姿は文の視界から消え失せ、その姿は文の後方にあった。

 

「時を止めるその能力……やっぱり厄介ね」

 

「そっちこそ、流石は幻想郷の古参妖怪……その速さじゃナイフを当てるのにも苦労しそうね」

 

 両者苦笑いを浮かべたまま睨み合い、再び向かい合う。

 

「仕切り直しよ。もう小手調べは無しで行くわ」

 

「それじゃあ、こっちも久々に真面目に戦おうかしら?」

 互いに身構え、魔力と妖力を高める。

戦いはまだ始まったばかりである……。

 




次回予告

遂に守矢神社に辿り着いた一夏達。
一夏は早苗との再会を果たし、博麗神社から手を引くよう説得するが信仰獲得のためもう後に引けない早苗と意見は対立してしまう。
奇跡の力を持つ早苗に一夏はどう立ち向かうのか?

次回『感情と責務の間で』

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。