欠けた月を巡り、3対3で対峙する白玉楼組(+一夏)と永遠亭組。
ある者は全身に魔力を循環させ、またある者は武器を構え、またある者は妖力を高める。
「ウドンゲ、てゐ。アナタ達はあの亡霊達を相手になさい。男は私が相手をするわ。」
永琳が一夏を睨みながら鈴仙とてゐに指示を出し、2人はそれに無言で頷く。
「どうやらお互い戦(や)り合う相手は決まったようだな」
そんな彼女達の様子に一夏は手の骨をポキポキと鳴らしながら喋りかける。
「ええ、アナタの結界を破壊できるあの能力(ちから)は危険すぎる。これ以上永遠亭の奥に進ませるわけには行かないわ」
「へぇ、さっき言ってた姫がいるからかしら?そこまで守ろうとするなら逆に気になってくるじゃない」
永琳の言葉に幽々子が反応し、怪しく笑みを浮かべる。
その姿はいかにも『その姫を見つけて連れ出してやる』と言わんばかりだ。
その上先程ののんびりとした様子と違い、その体からかなりの量の妖力が滲み出ている(しかもこれでもまだ加減している方だから恐ろしい)。
「私を見つける気?その必要は無いわ」
「!?」
突如として廊下の奥から声が響き、一夏達だけでなく永淋達もその声に大きく反応する。
「姫!?」
現れたのは黒の長髪に桃色の着物に似た洋服を身に纏う大和撫子という言葉の似合う女性……永遠亭の主、蓬莱山輝夜だ。
「姫!今出て来ては……」
「言いたい事は分かってるわ、永淋。でも、さっさと片付けて結界を張り直した方が良いでしょ。だけど色々と厄介そうじゃない、この3人。特にあの男の子とか」
黒髪の女は一夏の方を見ながらニヤリと笑みを浮かべる。
その体からは既に闘気が溢れている。
「私が彼と戦うわ。その間に亡霊2人を貴方達が片付けて。3対2ならそんなに時間は掛けずに済むでしょう?」
永淋に目配せしながら輝夜は霊力を高める。
「……仕方ないですね」
少しの間沈黙していた永琳だが、やがて諦めた様に溜息を吐き、再び臨戦態勢を取る。
「戦う気満々か。その上ご指名までしてくれるとはな……良いぜ、その見え見えの挑発乗ってやるよ」
戦力の差にも物怖じせず、一夏は闘志を燃やす。
「大した自信ね。でも、私達が相手じゃ一人分の戦力差は大きいわよ」
「あらあら、言ってくれるじゃない。たかが一人多いだけで」
輝夜の挑戦的な態度に対し、幽々子は口元を扇子で隠しながら笑みを浮かべる。
「……とはいえ、どうします?実際相手が有利って事に変わりは無いですけど、作戦とかあるんですか?」
「……ゴメン、何にも考えてないわ」
「っていうか俺達って基本ゴリ押しだし、作戦なんて立てるだけ無駄だろ。足りない分は実力と根性で補うだけだ」
「……ですよね。ま、私も小細工とか苦手だし、丁度良いけど」
一夏と幽々子の無計画さに呆れながらも妖夢は刀を構える。
「一夏さんはもう決まってますけど、幽々子様は誰と戦います?」
「当然あの銀髪の子よ。妖夢は下っ端の兎達をお願いね」
「はぁ……結局二人まとめて相手にするのは私ですか」
面倒事を押し付けられ、妖夢は溜息を吐く。
今日だけで吐いた溜息の回数はもう数えるのも馬鹿らしい。
「悪いな妖夢。後でマッサージしてやるから勘弁してくれ」
「!!……ハイ!任せてください!!2匹ぐらいあっという間に倒して見せます!!(一夏さんが直々に私にマッサージ……)」
鼻血を噴出しそうになる衝動を抑えながら妖夢は妖力を一気に高めた。
その量は平常時より格段に高い。
「なんか勝つ気満々じゃない?私達ってそんなに弱く見える訳?」
一方で鈴仙とてゐは額に青筋を浮かべている。
まぁ、目の前で相手が勝つ気満々ではムカつくのも当然と言えるが……。
「私達相手に一人で戦う事になったのを後悔させてやるわ!!」
鈴仙とてゐも妖力を高め、妖夢を睨みつける。
「あら?下っ端と思ったら結構妖力高いわね。油断しちゃダメよ、妖夢」
「分かっています……さぁ、来い兎共!まとめて相手になってやる!!」
幽々子の言葉に少しだけ冷静さを取り戻し、妖夢は臨戦態勢に入る。
しかしその時……
「いや、全員1対1だ」
「へ?」
一人の女性の声と共に、先程一夏が開けた穴から大剣を背負った千冬が現れた。
「私が加われば4対4。これでお互い文句はあるまい」
「千冬姉!?」
(な!?一夏さんの姉だと!?)
留守番していたはずの姉の姿に一夏は驚愕する。
その一方で別の意味で驚愕しているのは妖夢だ。まさか想いを寄せる相手の身内が出てくる事になろうとは想定外どころの話ではない。
「何でココに?……っていうかどうやってあの竹林を?(あの竹林相当入り組んでて普通なら絶対迷うぞ……)」
「妙な予感がしてな……お前の魔力(匂い)を辿ってきた」
「マジかよ……」
開いた口が塞がらない一夏。
それを他所に千冬は幽々子と妖夢に近寄る。
「一夏の友人らしいな。私は織斑千冬、一夏の姉だよろしく頼む」
「西行寺幽々子よ、冥界で管理人をしているわ」
千冬の挨拶に幽々子は割りとフレンドリーに返し、軽く握手を交わす。
そして肝心の妖夢だが……
「魂魄妖夢と申します!一夏さんにはいつもお世話になっています。よろしくお願いしますお義姉さん!!」
『お義姉さん』の部分を強調して妖夢は千冬の手を握った。
この時、千冬の脳内で何かが『ピキッ』とヒビが入る音がしたのは気のせいではない筈だ。
「そうか……こちらこそよろしく頼む(なるほど……コイツが予感の大元か)」
千冬は妖夢の手を思いっ切り握り返しながら答えた。
「グ……(こ、この女……)いえいえ、こちらこそ」
「いやいやいや、こちらこそ(あのメイドと同類だな、この小娘……)」
お互い表面上はにこやかに話しているが内心では完全にお互いを敵として認識していた。
「あらあら……(これは……面白くなってきたわね)」
唐突に始まった女の戦いを見つめながら幽々子はニヤニヤと笑みを浮かべた。
しかし、このコント染みた会話もそれまでだった。
「ッ!?……危ねぇなオイ」
一夏達目掛けて永琳から一本の矢が放たれ、一夏はそれを掴み取った。
「悪いわね。でもそろそろ漫才も終わりにしてもらえるかしら。こっちもさっさと事を済ませたいのよ」
「それもそうだな。それじゃ……そろそろ始めるとするか!」
気合と共に一夏は永遠亭の面々に飛び掛り、空中から急降下しながら拳を振り下ろす。
「ッ!……へぇ、なかなか楽しめそうじゃない」
一夏が放った拳は床を砕き、砕かれた床から一夏の魔力弾が間欠泉の如く吹き荒れる。
それを回避する輝夜達4人に一夏達はそれぞれの相手へと襲い掛かる。
「貴様の相手は私だ!妖怪兎!!」
大剣を振りかざしながら千冬は鈴仙に斬りかかる。
「そんじょそこらの妖怪兎と一緒にしないでくれる。これでも私は玉兎よ!」
振り下ろされた剣をバックステップで避けながら鈴仙は指先から妖力の弾幕を撃つ。
「生憎、私は幻想郷(ココ)に来て1ヶ月半なのでな。見分けなどつかん」
迫り来る弾幕を前に千冬は剣を振るう。
振るわれた剣からは魔力の斬撃が大きな砲弾となって撃ち出され、鈴仙の銃弾型の妖力弾を吹き飛ばす。
その光景を目の当たりにして鈴仙は舌打ちしながら魔力弾を回避する。
「凄いパワーね。でもそんな荒削りの魔力じゃ私は倒せないよ!!」
ニヤリと笑みを浮かべる鈴仙。その瞳は徐々に赤みを増していき、血の様に深い紅の瞳へと変化していく。
(!?……何だあの眼は………いかん!なにか不味い予感がする)
IS選手時代に培った洞察力と直感が働き、すぐさま千冬は鈴仙の瞳から目を逸らす。
そんな千冬の様子に鈴仙は僅かに驚くがすぐにその表情は笑みに変わる。
まるで勝利を確信したように……。
「勘のいい奴ね……でももう遅いわ、ちょっとだけでも見てくれれば波長を狂わすには十分!」
千冬と距離を取り、鈴仙は一気に勝負をつけるべく懐から一枚の札を取り出す。
「即効で決める!『散符・真実の月(インビジブルフルムーン)!!』」
スペルカードを発動し、鈴仙の体から全方位に無数の魔力弾が撃ち出される。
迫り来る弾幕を目で捉えながら千冬は回避行動に移るが……。
「っ……何だ!?」
突如として弾幕が視界から消え去る。
驚きから一瞬千冬は呆然とするが直後に正気を取り戻す。
(音は聞こえる……という事は弾は消えたんじゃない、見えないだけだ!……っ!?)
千冬がスペルカードの特性を察した直後、再び視界に弾幕が映りだす。
「痛ッ!消えたり見えたりと……ええい、まどろっこしい!!」
紙一重で身を捻り千冬は弾幕を回避するも僅かに頬を掠め、頬の皮の一部が裂けて傷口から血が流れる。
「よく避けたわね。でも次はどうかしら!?」
再び魔力弾が生成され、全方位めがけて発射される。
そのスピードと数は先程のものを上回る程だ。
「クソ!『斬符・樹鳴斬!!』」
鈴仙の弾幕に対抗すべく千冬も自らのスペルカードを繰り出す。
「ハァアア!!」
剣から放たれる魔力の拡散レーザーとそこから飛び出す魔力弾。
それが鈴仙の全方位弾幕とぶつかり合い、相殺する。
「やるじゃない、ただの力任せじゃないようね。でも拡散させたのは失敗ね、その程度の弾なら十分相殺できる!」
「クッ!」
勝利を確信したように口元に笑みを浮かべ、鈴仙は妖力弾を撃ちだす。しかも今回は一発だけではなく何発もの連射を加えている。
これは千冬にとって非常に不利な攻撃だ。
何故なら千冬のスペルカード『樹鳴斬』は一夏や魔理沙のような回避能力の高い相手を想定して開発した広範囲攻撃であり、鈴仙の『真実の月(インビジブルフルムーン)』は弾幕を全方位に撃つ事でバリアの役目を果たしており、それに加えて鈴仙の能力『狂気を操る程度の能力』で視界の波長を狂わされるという幻惑効果もある技だ。
弾幕戦においてこのような撹乱戦法に不慣れな千冬にとって鈴仙は非常に相性が悪い相手だと言わざるを得ない。
「クソ、相性最悪とはこの事か。だが嘗めるなよ……ISを乗り回していた頃は剣一本でどんな相手にも勝ってきたんだ。相性如きで勝負は決まらないという事を教えてやる!!(……とは言っても、どうすれば良いんだこの状況は?)」
建前だけ強がりつつも勝算が浮かばない自分に千冬は苦笑いしながら鈴仙の弾幕を回避し続けるのだった。
千冬と鈴仙が戦う一方、一夏は輝夜と弾幕戦を繰り広げていた。
「チッ……さっきからちょろちょろ逃げ回りやがって。何処まで逃げる気だ!?」
「フフ、安心しなさい。ココで終点よ」
輝夜に誘い出されるまま辿り着いた場所……そこは床が無く、虚空のような奇妙な空間だった。
たった一つ一夏の眼に写ったあるものを除けば……。
「あれは……満月?」
「そう、アナタ達地上人が常日頃から見ている本物の満月……いつ頃からだったかしら?この月に地上人を狂わせる力が弱まったのは」
「人を狂わすだと?」
「そう、月は本来人を狂わせる魔力を持つもの……故に地上の者は月を怖れ、畏敬の念を抱いた。ところがそれが薄れた途端に地上の者は月を軽視し、挙句戦争まで吹っかけてくる始末」
「月面戦争の事か」
輝夜の説明の中に出てきた戦争という言葉に一夏は以前に聞いた千年以上前に起きたと言われる月面戦争の話を思い出し、反応する。
「まさかそんな千年も前に起きた戦争を理由にこの異変を起こしたのか、お前たちは?」
「フッ、まさか……そんな昔の事、関係ないわ。アナタにこの話をしたのはただの時間稼ぎよ」
一夏の問いを聞き、輝夜は鼻で笑う。
「気付かない?月の光が出す魔力に。さっきも言った人を狂わせる力、あれは弱まってはいるけど健在なのよ」
背後で輝く月を見つめ、輝夜は妖しく笑う。
確かに普段どおり地上から見た満月であれば発狂するほどの影響はない。
しかし今此処で見える満月は地上でみるよりもずっと近い。
「………してやられたって訳か」
「その通り、アナタは多少は耐性がありそうだけど……」
苦笑いを浮かべる一夏に輝夜は容赦なく弾幕を放つ。
「戦いの中ではいつまで正気を保てるかしら!?」
広範囲にばら撒かれる弾幕、一夏はそれを見据えながらその隙間を掻い潜り自らも魔力弾で反撃する。
放たれた魔力弾は輝夜の霊力弾を弾き飛ばしながら輝夜に襲い掛かるが輝夜はそれを難なく避ける。
「へぇ……なかなかやるじゃない。私の弾幕を弾き飛ばすなんて」
「ビビったか?降参するなら今の内だぜ」
策に嵌った直後とは思えない程の余裕を見せながら一夏は冗談交じりに降伏勧告を出す。
「冗談、久々のお客さんなんだものこれくらい強くないと面白くないわ。私の場合外に出る訳にいかないんだから。こうやって屋敷の外の人間と会話するのももう何年ぶりかも分からないわ」
「ヘッ、そうかい。それじゃあ……遠慮はしないぜ!!」
好戦的な笑みを浮かべながら一夏は己の魔力を最大まで高める。これは文字通り本気で戦うという意思の表れだ。
「フフフ……そうよ、それでこそ楽しみ甲斐があるわ。かつて多くの地上人が手も足も出ずに敗れた五つの難題、万屋風情に解けるかしら!?『難題・龍の頸の玉!!』」
「万屋を嘗めるな!この引きこもりが!!」
「ハァ……ハァ……クソ」
千冬が鈴仙と戦い始めて十数分が経過した頃、千冬は剣を杖代わりに膝を付きながら息を荒げる。
千冬の全身には無数の生傷が刻まれ、その表情からは疲弊と焦燥以外感じられない。
一方で鈴仙には大した怪我は無く、千冬と違って表情には余裕と冷静さがある。
戦況は火を見るよりも明らかだった。
「アナタに才能があるのは認めるわ。だけどアナタには弾幕戦の経験が無さ過ぎる。一ヶ月ちょっとの修行じゃ下級妖怪はともかく私は倒せないわ」
「そのようだな……だが」
自分には勝ち目が無いという事を痛感しつつも千冬は立ち上がる。
「弱者には弱者なりの意地がある……貴様にこのまま負けて仲間の下へ行かせてしまえば一夏達が不利になってしまう。だから……刺し違えてでも貴様は行かせん!!」
身体に残った魔力の全てを己の剣に込め、千冬は剣を構える。
「見せてやる……私の切り札をな!『絶技・〈真〉零落白夜!!』」
スペルカード発動と共に千冬の剣から凄まじい光が溢れ出す。
『絶技・〈真〉零落白夜』……それはかつて千冬がIS選手時代に使用していた愛機、暮桜のワンオフアビリティー『零落白夜』を模して編み出したスペルカードだ。
「ちょっ、何よそれ……そんなの当たったらシャレにならないって……」
流石の鈴仙もこればかりは冷や汗を流す。千冬は体力を消耗しているとはいえ残りの魔力全てをこの一撃に賭けている。これを喰らってしまえば鈴仙と言えど無事では済まない。
一撃……次の一撃で勝敗は決する……。
「行くぞ!!」
気合の掛け声と同時に千冬は弾幕を薙ぎ払いながら鈴仙との距離を一気に詰める。
しかし対する鈴仙もただ呆然と見ているだけではない。即座に弾幕を何重にも生み出し、千冬を狙い撃つ。
そしてこの時、鈴仙には狙いがあった。
(あともう少し……確実に当ててみせる!……それが出来ないと負ける!!)
鈴仙の目線の先にあるもの……それは千冬ではなく千冬の持つ剣だ。
千冬は基本的に剣での戦闘を主体にしているため攻撃も防御も剣を使って行う事が多い。そして今までの修行や現在の鈴仙との戦いにおいて千冬の持つ剣には少なからず傷が付いていた。
鈴仙の狙いはそこにある。
(私の弾の威力でも同じ傷を集中して攻撃すればいくら魔力を纏っていても折る事が出来る筈。そうすればもうコイツに勝ち目は一切無くなる!)
敵の武器を破壊する事……未知数の破壊力を持つ零落白夜の封じ手として思いついたのがまさにそれだった。
それを成すために鈴仙はある一点……千冬の剣の中で最も傷の深い根元部分を集中して狙う。
「これで、終わりだぁーーーー!!!!」
そして千冬が鈴仙の目前に迫った時……まさにその時が勝負の分け目だった。
「終わるのはそっちよ!」
鈴仙は左手の人差し指を突き出し剣を狙い撃つ。
放たれた弾丸は千冬の剣を根元から叩き折った。
「!……掛かったな!!」
しかし千冬の口から出てきた言葉は驚愕ではなく、むしろその真逆だった。
「零落白夜は実剣ではない、魔力の剣だ!!」
叫びと共に千冬の持つ折れた剣の柄の部分から光の刃が形成される。
これこそが〈真〉零落白夜の本当の姿。それは己の持つ魔力全てを剣と化して敵を断つ一撃必殺の奥義だ。
「……甘かったわね!」
しかしこの状況にあっても鈴仙は勝利への確信を崩さない。
即座に鈴仙の開いている右手の人差し指が千冬を捉え妖力弾が指先に生成される。
「予備策はちゃんと用意しておくに限るってね!」
「!?…しまった!!」
鈴仙は千冬が策を講じている可能性を見越していた。
元々鈴仙は臆病な性格のため、千冬が剣を失った時の事を考えているのではないかという事をすぐに思い付き(流石に魔力だけで剣を生成するとは思ってなかったが……)、予備の策として隙を作らぬように両手ともいつでも妖力弾を発射できるように準備していたのだ。
大降りの剣と徒手空拳、どちらが早いかは言うまでも無い。
「これでチェックメイトよ!」
鈴仙の指から妖力弾が発射される。
その至近距離からの射撃に、直接攻撃を繰り出そうとしていた千冬に避ける術など無かった。
「ぬあああああぁぁぁ!!!」
しかしその時だった…………それは無意識だったのか千冬は突然手に持った剣から左手を離し、そのまま突き出した。
そして千冬の左手が鈴仙の妖力弾にぶつかると思われたその時、千冬の左手は突然発光し、鈴仙の妖力弾を『消し飛ばした』。
「!?」
「な!?」
千冬も鈴仙も同時に驚愕する。この現象を引き起こした千冬自身でさえ何がおきたのか分からない。
しかし今この状況が千載一遇の好機である事に千冬が気付くのに時間は掛からなかった。
(ま、まさか……能力に目覚めたとでも……)
「(よく分からんが……やるなら今しかない!!)喰らえぇぇーーーーーーー!!!!」
千冬の渾身の叫び声と共に光の剣が振り下ろされた。