東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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長々とお待たせしてしまい大変申し訳ありません。

※便宜上蒼天葬側からの呼び名が定まるまでアストレイ側の千冬はチフユと表記します。


来訪!一人の悪鬼と三人の破壊者!!(前編)

 時は弾と千冬が五反田食堂を訪れる前日まで遡る……

 

「どう、ちーちゃん?暮桜と白騎士をベースに作った『紅桜』の出来は?」

 

「ああ、上々だ。それにしても驚きだ。Gタイプ……私が元いた世界の最高レベルの機体と比べても遜色無い」

 

 新たな専用機『紅桜(べにざくら)』の性能に驚きつつ、満足げに笑みを浮かべるチフユ。

 

「それにしても……」

 

 言葉を区切り、チフユはモニターに映るこの世界における自分と一夏の姿を、そしてそのすぐ傍でこちらを睨む慧を見る。

 

「この世界の私は束を裏切った挙句、一夏と男女の関係か……ふん!胸糞悪い……!!

それと、いい加減私を睨むのはやめて欲しいのだが?箒……いや、その半身か」

 

「睨んで何が悪い?あの女と同じ顔をしている奴を目の前にしているんだ。

私としては今すぐにでもその首掻っ切ってやりたいのを我慢してやっているんだぞ」

 

「戯言を……!」

 

「はいはい、そこまで!ちーちゃんと慧ちゃんには、一緒にやってもらう事があるんだから喧嘩は後回しだよ!」

 

 今にもお互いに飛び掛りそうな殺伐とした雰囲気を出す二人を静め、束は目を細めて口元にニヤリと笑みを浮かべる。

 

「明日、くーちゃん達が戻って来たと同時に幻想郷に侵入。拠点を確保してきてもらうよ」

 

 

 

 

 

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 祖父とのひと悶着の後、弾と千冬は蓮と共に近場の公園のベンチに腰を下ろしていた。

 

「ごめんなさい。まさか、(お父さん)があんな事を言い出すなんて……」

 

「あの糞ジジイにまともな感性なんて期待してねーよ。

で、お袋はどう思ってるんだ?蘭をIS学園に入れたいか?」

 

「まさか!蘭には無理よ……戦争とか、そういうのを抜きにしても、あの子には人を傷付けるなんて出来ないし、させたくないわ」

 

 父の一存で進学先を決められそうになり、()の磨耗した心を無視した暴挙に憤りを露にしながら蓮は申し訳無さそうに目を伏せる。

 

「弾、本当にごめんなさい……!

本当なら、あの時……蘭が傷害沙汰を起こした時、叱るのは私達両親の役目だった。

なのに、私達が(お父さん)に逆らえないばっかりに、アナタが……!」

 

「お袋と親父は、仕方ねぇよ。

あんな糞ジジイでも、お袋にとっては実の親で、親父は婿養子だから、立場も弱いし……」

 

 顔を両手で覆いながら、蓮は謝罪と共に咽び泣く母に対し、弾はぶっきらぼうながらも決して責める事はせず、理解の意を示す。

そんな息子の姿に、蓮は涙を拭い、何かを決意したように弾に向き直った。

 

「もう、潮時なのかしらね……。

弾、アナタが毎月送ってくれる仕送り、もうしなくていいわ」

 

「仕送りって……五反田、お前そんな事を?」

 

 驚いたように千冬は弾を見るが、弾はバツが悪そうにそっぽを向く。

誰にも言わなかった事だが、弾はテストパイロットとしての給料の一部を母の口座に毎月振り込み続けており、それで五反田食堂はギリギリの所で経営出来ていたのだ。

 

「……良いのかよ?仕送り無しじゃあの店潰れちまうぜ?」

 

「もう、いいの。お父さんとも話し合って、決めたのよ。

店を畳んで売れるものを売ったら、お父さんの仕事だけでも何とか食べていけるから。

蘭の方も、県外の学校に移して、やり直させるわ」

 

「糞ジジイが納得するとは思えないけど?」

 

「無理矢理にでも押し通すわ。

いえ、本当ならもっと早くこうするべきだったのよ……。

たとえ、あの人が何を言ってきても、ね……」

 

「……分かった」

 

 若干強い口調で答える母の表情に揺ぎ無い意志を感じ、弾は納得したように笑みを浮かべて頷いた。

 

 

 

 

 

 そんな時だった……。

 

『~♪』

 

「ん?ああ、すまない。私の携帯だ」

 

 不意に鳴った千冬の携帯電話。

画面に表示されていたのは八雲紫の名前だ。

 

「もしもし、紫か?どうした?……何だと!?」

 

 驚愕の表情を見せる千冬。

それを見て弾もただ事では無いと察し、目を鋭く細める。

 

「分かった、すぐ戻る!……五反田、非常招集だ!」

 

「ああ、分かってる。

お袋、すまん。話の続きはまた今度に」

 

「え、ええ……」

 

 呆然とする蓮を余所に、二人は車へと駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 

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 話は約1時間前へと遡る。

数日前、幻想郷内にて突如として上下逆さまの城が出現。

謎の城の出現に当初は様子見していた霊夢たちだったが、弾と千冬が外界に出た直後、突如として城から魔力嵐が起こり、道具が勝手に動き出したり、普段大人しい妖怪が暴走し始めるという異変が発生した。

原因を探るべく霊夢、魔理沙、咲夜、一夏は魔力嵐の中心となる逆さまの城……輝針城へと突入。

更に修行の一環になると紫からのお達しで、殆どの専用機を大規模メンテナンスに出していた合宿メンバー(+勝手に着いて来たチルノ)も異変解決へと同行。

妖精や怨霊を相手に弾幕戦を行い、実戦経験を積む事になった。

 

 そして……

 

「きゅぅ……」

 

「ち、ちくしょお……博霊の巫女が、こんな大勢で来るなんて、予想外だろうが……!」

 

「いやー、手伝いがいると楽で良いわ。雑魚掃除しなくて済むんだから」

 

 他のメンバーが露払いしている間に、霊夢と魔理沙は異変の実行犯である小人・少名針妙丸と、彼女を唆した異変の首謀者である天邪鬼・鬼人正邪を瞬く間に撃破し、制圧してしまった。

 

「思ってた以上に皆魔力の扱いが上手くなってるわね」

 

「ああ、これなら皆十分合格ラインだな。……それにしても」

 

 感心した様子で殆ど無傷で戦い抜いた合宿メンバーを一瞥する一夏と咲夜。

だが、二人はある人物の姿に若干冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべる。

二人の視線の先には……

 

「お、お願い。あんまりジロジロ見詰めないで。自分でも恥ずかしいんだから……」

 

 にとりから借りた即席の飛行ユニット(プロペラ付ランドセル)を背負って宙に浮かぶ刀奈の姿だった。

更識刀奈……霊力の扱いを覚え、弾幕も撃てるようになった彼女なのだが、

唯一、飛行術の適性が極端に低く、未だ生身で飛ぶ事は出来ずにいたのだった。

 

「まさか、飛行術の適性だけがココまで低いなんて、ある意味レアよ貴女」

 

 一応フォローしておくが、別に刀奈に霊力の才能が無い訳ではない。

ただ単に飛行術に関してのみ、適性が低いだけなのである。

ちなみに、霊夢からは「飛行できるようになるまで3ヶ月は真面目に修行する必要がある」と言われた。

 

「お姉ちゃん、元気出して。霊無さんだって昔は空飛ぶ亀に乗ってたって言うんだから」

 

「うぅ……そう言ってくれるのは簪ちゃんだけよ……。

晴美の奴なんて、コレ見て大笑いしてたのに……」

 

 妹に慰められて抱きつく刀奈……数日前まで大喧嘩していたとは思えないぐらい打ち解けようだ。

 

「ホラ、漫才やってないで、後始末してさっさと帰るわよ!

まったく、これじゃ大した実戦訓練にならない……っ!?」

 

「どうした、霊夢?」

 

 不意に霊夢の表情が強張る。

そんな彼女の様子に魔理沙は訝しむように首を傾げるが、霊夢はそんな事は目に入らないように虚空を見上げる。

 

「結界が、一瞬途切れた……?」

 

「何?」

 

「……っ!?何か、来るわ!」

 

 霊夢の呟きに驚いたような表情を見せる魔理沙。

直後に咲夜が接近する者の気配を感じ取り、顔を上げる。

そしてその直後、輝針城の壁が破壊され、そこから侵入するISを纏った一人の女が姿を現した。

 

「な、何だ!?」

 

「あれは……千冬さん?」

 

 血のような紅い……というよりも、赤黒いISを纏い現れたその女の顔は、織斑千冬とまったく同じだった。

 

「千冬?お前、弾と一緒に外の世界に戻ってたんじゃ?」

 

 突然現れた千冬に首を傾げながら近付こうとするチルノ。

だが、その刹那……

 

「チルノ、待て!そいつは千冬姉じゃない!!」

 

「死ね……!!」

 

「へ?……うわぁっ!?」

 

「チルノ!」

 

 一夏の一喝とほぼ同時に、突然振るわれる紅いISの右手に展開された刀がチルノの首を斬り落とさんと振るわれる。

咄嗟にそれを精製した氷塊を盾にして防ぐチルノ。

直撃こそ避けたが、千冬のパワーに吹っ飛ばされ、真耶がそれを受け止める。

 

「チルノちゃん、大丈夫?」

 

「う、うん……けど、千冬!お前、何するんだよ!?

一夏が千冬じゃないって言ってたけど、偽者か!?」

 

「フン……その首落としてやろうと思ったが、ガキの癖に良い反射神経だ。

真耶……貴様も思ったより素早く動くじゃないか?」

 

 不敵な笑みを浮かべ、不気味な黒い魔力を見せながら、ゆっくりと近付く千冬と同じ顔を持つ女。

その場にいる全員が身構える中、一夏が一歩前に出てその女と睨み合う。

 

「お前、誰だ?千冬姉はそんなドス黒い魔力なんて出さないぞ……!」

 

「紛う事なき貴様の姉だ!実の弟である貴様に殺された、織斑千冬だ!!」

 

 その眼を憎悪に満ちたものへと変え、その女……チフユの身に纏う魔力が爆発させるように増し、それと同時にチフユの空けた穴から現れる10体余りのゴーレム(無人機)

それを合図にチフユは一夏目掛けて襲い掛かった。

 

 

 

 

 

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 都内某所の寿司屋。

 

「大将、私とこの子にトロサーモン追加。

ところで……あの食堂、さっき随分と騒がしかったけど、何かあったんですか?」

 

 近くの店から聞こえる騒々しい怒鳴り声が収まってから暫くたった頃、その店で寿司を堪能していた2人組の外国人の少女は寿司を握る初老の店主に問いかけた。

 

「ああ、五反田食堂の事か?

あの様子じゃ、また厳の奴がトラブル起こしたみてぇだな……。

孫娘の蘭ちゃんが傷害沙汰起こしてから、いつもあんな感じだが、今日はより一層ひでぇや。

まったく、蘭ちゃんを溺愛するのは解かるけどよ、それでも叱るべき時は叱らなきゃいけねぇだろうが。

ありゃあ、越えちゃいけねぇ一線越えてるぜ。弾の坊主が家出して独り立ちしたくなるのも解かるってもんよ。

おっと、トロサーモンだったね?待ってな」

 

 溜息を吐きながら五反田食堂を一瞬眺めた後、店主は再び寿司を握り始める。

 

「へい、トロサーモンお待ち!」

 

「どーも♪

…………五反田蘭、使えそうね」

 

「はむっ……♪

……織斑千冬と五反田弾、河城重工に戻ったようですし、食べ終わったら戦力補充の仕上げと行きましょう。

彼女は良い捨て駒になります」

 

 寿司に舌鼓を打ちながら、小声で不穏な会話を交わす二人の少女、ノエルとクロエ。

彼女達の手元にあるタブレットには、五反田蘭の顔写真が映っていた。

 

「それにしても、お寿司美味しいですね。後で束様達にお土産で買って帰りましょう」

 

「そうね。別に急ぐ必要は無いし、今は食事を楽しまないとね。

あ、大将!エンガワと大トロ追加!」

 

「私も大トロ。あといくらも!」

 

「はいよ!」

 

 不穏な企みを余所に二人はこの後も寿司を堪能したのだった。

 

 

 

 

 

 




アイテム解説

『にとり製飛行ユニット』

にとりが飛行能力を持たない者を対象として作った飛行ユニット。
にとり愛用のリュックを元に製造したもので、使用者の魔力・霊力・妖力などを動力として飛行する事が出来る。
安全性にも配慮されており、予備エネルギー貯蔵タンクや脱出用のパラシュート式着地機能が常備されている優れ物。

なお、にとりはコレを量産して飛行が苦手な者向けの道具として商品化しており、主に人里の自警団などを相手に売りつけ、個人的な資金源の一つとしている。

刀奈に渡した物は普段使ってる材料が無く時間も無かった為、有り合わせの材料で急造した物。
性能は正式な物と同じなので問題無いが、有り合わせの材料で急遽作ったためデザインは蓋の無いランドセルからプロペラが出ているという、お世辞にも見栄えが良いとは言えないものになっている。
(にとり曰く「間に合わせで作ってんだから文句言うなよな」)

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