「い〜〜〜ちかっ!!」
「わぷっ!?」
紅魔館の中に入った途端、赤い服を着た金髪の少女、フランドール・スカーレット(通称フラン)が一夏に飛びついた。
「フラン……相変わらず元気だなぁ」
「随分会いたがっていたもの、さっきからテンション上がりっぱなしなのよその子」
屋敷の奥の方からもう一人少女が現れる。
彼女の名はレミリア・スカーレット。フランの姉で紅魔館の主だ。
「レミリア、久しぶりだな」
「ええ、先月の宴会以来ね」
フランをしがみ付かせたまま一夏は立ち上がり、レミリアと挨拶を交わす。とても以前敵対していた相手と思えない程フレンドリーだ。
「アナタが一夏のお姉さんね。私はレミリア・スカーレット、ココの主よ」
「ああ、織斑千冬だ。宜しく頼む」
差し出されたレミリアの手を握り返し、千冬は握手を交わす。
「一夏ぁ〜、早くあそぼー!」
一夏の頭の上でフランが騒ぎ立てる。
「分かった分かった、ただし勉強もだぞ。あ、レミリア、悪いけど千冬姉の事頼んで良いか?」
「ええ、良いわ。咲夜、奥に案内してあげて」
「はい。千冬様、どうぞこちらへ」
レミリアの言葉に従い、咲夜は千冬を連れて屋敷の奥へ、そして一夏はフランと共に地下室へと向かったのだった。
「『禁忌・レーヴァテイン!』」
フランから放たれる弾幕が一夏が作り上げた何重もの魔力の結界に撃ち込まれる。
その威力は凄まじく、10層の魔力結界は一瞬にして7層まで消し飛んだ。
「良いぞフラン。前よりだいぶコントロールが掴めてきてる。次は6層に挑戦だ」
「分かった!」
再び妖力をコントロールして弾を生み出すフラン、それと同時に一夏は再び結界を生成する。
「『禁忌・レーヴァテイン!』」
再び放たれる魔力弾。
今度は6層までで破壊は止まる……と思いきや、僅かに魔力弾の力が勝り、6層目の結界は破壊された。
「惜しい!もう一回!!」
「うん!」
一夏とフランの特訓は続く……。
「以前よりだいぶ加減出来てるわ。この調子で行けば1年もあればほぼ完全に力の制御が出来るようになるかもね」
紫色のロングヘアーに薄紫の服を着た少女、パチュリー・ノーレッジは手に持った本から一度目を離し、自身が持ち込んだ水晶玉を眺めながら一言呟いた。
「凄いな……」
水晶玉に写る一夏とフランを見ながら千冬は感嘆の声を漏らす。
それと同時に自分が一夏に追いつくにはまだまだ時間が掛かるという事を実感する。
生身だけの戦いなら多少善戦は出来るだろうが魔力やテクニックなどが絡むと本気を出した一夏にはとても敵いそうに無い。
「それにしても、パチェが図書館から出てくるなんて珍しいわね」
「下に居たら二人の邪魔になるかもしれないし、それに今朝占ってみたら客人に会った方が良いと出たから」
パチュリーが千冬を見ながらそう答える。
彼女は基本的に大図書館に篭りっきりの為、こんな風にわざわざ一階に上がってくるのは珍しい事だ(ちなみにパチュリーと一緒に図書館で司書などの仕事をしている小悪魔も一階へ来ている)。
「一夏の方も以前よりかなり強くなってるわね。今戦えば私や咲夜でもかなり危ないかもね」
「そうですね。8ヶ月前はまだスペルカードを覚えて間もなかったから私と互角が精一杯という感じでしたけど(私もここに来て大して経ってなかったし)、今はお互い戦い慣れしているから、もし戦えば以前よりも苦しい戦いになるでしょうね」
以前自分達が起こした異変を振り返り感傷に浸る紅魔館の面々、しかしその傍らで千冬は妙な疎外感を感じると共に自分が幻想郷に来るまでの一夏の事に興味を抱く。
「私は一ヶ月前に来たばかりなのだが、一夏はそれまでどんな暮らしをしていたんだ?」
「そうね……彼のプライベートはそれほど詳しくないけど、万屋を始めたのが私たちと出会う前後だったかしら?それまでは霊夢か魔理沙の所で世話になってたって話よ。今の家も元は廃棄されたプレハブ小屋を自分で改築して作ったみたいだし、それなりに苦労はしてると思うわよ」
「そうか……」
どこか納得したように千冬は頷く。
確かに身一つであれだけ大層な一軒家を手に入れたのなら一夏が凄まじい成長を遂げたのにも納得がいくというものだ。
「そろそろ終わる頃ね。咲夜、一夏達の分の紅茶と昼食の準備、お願いね」
「かしこまりました」
レミリアの指示に咲夜は一礼すると厨房の方へと向かった。
昼食を終えた後、一夏は広間にてフランの遊びに付き合い、レミリアはテラスで一夏達と遊ぶフランを眺めながら寛ぐ。
そして千冬と咲夜は……。
「……一つ、聞きたいことがある。私の勘違いなら聞き流してくれてかまわない」
二人以外誰もいない部屋の中で千冬は紅魔館(ココ)に来た最大の目的を果たそうとしていた。
「(遂に来たわね……)何か?」
「一夏の事をどう思っている?」
千冬の言葉に咲夜は「やはりか」という表情になる。
ココで口先だけ否定して見せるのは簡単だ。しかし意中の男の肉親を前にそんなせこいまねをするのは咲夜の女としてのプライドが許さない。
「……好きよ。もちろん異性として」
率直に自分の本心を打ち明ける咲夜。
今の咲夜と千冬の関係はメイドと客人ではなく一人の女と女、そのため口調も先ほどと違い、砕けたものになっている。
「そうか……」
「私からも質問良いかしら?」
「ああ」
「アナタは一夏の事をどう思っているのかしら?」
千冬にとって非常に痛い所を突かれる質問だ。
千冬は一夏の事を愛している。もちろん肉親として愛しているという意味もあるがそれと同じくらい、いや下手をすればそれ以上に一夏を異性として愛してしまっている。
「お前と同じだ……」
「そう……」
千冬の返答を聞き、咲夜は少し溜息を吐き、やがて千冬に向き直って口を開く。
「まぁ、この際姉弟なのにとか野暮な事は言わないわ。彼を好きになる気持ち、良く解るし」
「…………」
暫くの間静寂が部屋を支配する。しかしその静寂の中にあって二人はお互いから一切目を逸らさない。
「それじゃあ率直に言うわ。お義姉さん、弟さんを私にください」
「誰がお義姉さんだ。そう簡単に認められるか」
「……言うと思ったわ」
まさに女の戦いだった。静かだがその分緊迫した空気が部屋中に張り詰めていた。
「「…………フッ」」
やがて二人は不適に笑みを浮かる。まるでお互いに認め合う好敵手を得たかのように。
「認めさせてみろ、この私をな。その時は私も腹を括って一夏をお前に渡してやる」
「上等……とだけ言っておくわ。お義姉さん」
一夏を巡る恋の戦争はこの日より開戦したのであった。
そして渦中の人物である一夏は……。
「アハハ!一夏〜〜、早く次の遊びしよ〜〜」
「おいおい、そんなに慌てるなよフラン」
「い、妹様〜〜、私の頭の上で暴れないでくださいよぉ!」
美鈴と共にフランの遊び相手に精を出していた。