東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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今回からichikaさんの『インフィニット・ストラトス・アストレイ』とのコラボに入ります。


並行世界からの来訪者

 並行世界……それは本来ならば決して交わる事の無い世界……。

小説などでよく耳にするその言葉、果たして架空の存在と言えるのだろうか?

宇宙は決してただ一つとは限らない。

いくつもの宇宙が……より言えば世界が並行して存在し、似て非なる歴史を、あるいはまったく違う歴史を歩んでいる世界もあるかもしれない。

 

篠ノ之束が善人な世界

織斑千冬が悪人な世界

織斑一夏が誘拐された際に本当に死亡してる世界

女尊男卑の無い世界

ISが存在しない世界

別の機動兵器が存在する世界

幻想郷が存在しない世界

科学ではなく魔法・霊力が発達している世界

世界そのものを一人の神が管理している世界

神が存在しない世界

妖怪が存在しない世界

人間が存在しない世界

 

 そんな数多の可能性……それこそ無量大数にも達する数のIFのうちの一つ、それがこの世界なのではなかろうか?

 

そして、そんな数多ある世界の一つ……其処から異変は始まる。

 

 

 

 

 

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―――燃えている…―――

 

街が、大地が、空が……。

 

 その世界を構成し、造り上げていた全てが焔に呑まれ、焼かれ、最期の狂演の只中にあった……。

そこに生命の息吹は感じとれず、まもなく全てが死に絶える間際だと、見る者全てに理解させるものであった……。

 

言い表すならばただ一言、地獄。

この世のモノならざる光景を、それ以外に表現することなど出来なかった。

 

そうして悟る事だろう。

今まさに、ひとつの世界が、滅びを迎えようとしている、と…。

 

「ひ、ひぃぃ……!」

 

 その業火の中を、脇目も振らず逃げ走る影があった。

幾人、いや、数名と数えた方が早いその一団は、等しく恐怖に駈られ、正気と言うものが消え失せていた。

その先頭を誰よりも先じて走る男、見た目から考えれば20にもなっているかどうか怪しい彼は、どうしてこうなったと自問自答する他なかった。

 

 

 

 何時もと変わらない、何度と繰り返し過ごしてきた日常のはずだった。

 

嘗ての彼は、どこにでもいるただの学生に過ぎなかった。

ある理由からこの世界に転生し、別の人間として新たな人生を歩む事となった。

 

彼が生きる事となったこの世界は、彼の理想を形にしたと言っても過言ではなかった。

 

自分を慕うヒロイン達、ヒトの身には剰る力、この世界に来るにあたり与えられた整った容姿、全てが自分の思うままになっていた。

 

その力の代価として、何かを命じられたハズだった……何かを為さねばならなかった。

この世界で起こるであろう厄災を事前に止める。あるいは、それによって生じる犠牲を可能な限り抑えるという文字通り天より与えられた天命。

初めの内は、使命感を以て新たな生を歩んでいたが、次第にそれも崩れていった。

 

何故自分がやらねばならないのか、なぜ自分が人身御供な真似をしなければならないのか。

冗談ではない、愚かにも今ある幸福を投げ捨ててまでそのような事をしなければならない、そんなものは自分じゃない誰かがやればいい。

 

やがて、厄災は起きた……。

しかし、それは別の存在によって被害は最小限に抑えられた……この世界(物語)における本来の主人公の手によって。

彼の命と引き換えに……。

 

『自分が出張る必要なんて無い。現に俺が手を下さなくてもアイツが勝手に止めてくれたじゃないか』

 

 そんな言い訳を盾に、彼は背を向け、何も行動を起こす事無く、ただただ周りに在った快楽にのめり込んでいったのだ。

女を抱けば誰もが皆等しく彼に魅了され、喧嘩紛いをすれば右に出る者はなく、正に自分のために世界が在るものだった。

全てが満たされ、順風満帆だった、このままこの世界で生を全うすることが出来る筈だった。

 

厄災の余波によって生じた貧困や紛争など何処吹く風とばかりに、男は自分の為の楽園を作り、そこに篭った。

自分とヒロイン達のみ入る事を許された神聖なる国だ。

外の厄災や争いなど知った事じゃない。

外で何人死のうが、主人公が犠牲になろうが関係無い。

彼の彼による彼のための箱庭の中で、快楽に耽るだけだ。

 

あの時、あの瞬間までは……。

 

『充分楽しんだよね、そろそろ、お仕事してもらおうかな?』

 

 いつぞや、自分をこの世界に送り込んだ、神を自称する女がその姿を現した。

タイムリミットだと告げるように、口調は優しげなままでも刺すような鋭さがあった。

それに気付かないほど、その男は愚鈍ではない。

 

『まだ、ギリギリ間に合うよ?厄災で苦しむ人達に手を差し伸べなさい?

溜め込んだお金やら食料やら搾り出せば、出来るでしょ?

出来ないわけないよね?』

 

 だが、それでも手に入れた物全てを今さら投げ捨てる事など出来るはずもなかった。

故に、男はNOと答えるしかなかったのだ。

 

『残念だなぁ、それじゃあ、後は頑張って生き延びてね』

 

 心底残念そうに、だが次の瞬間にはそれさえも消え去り、残されたのは酷薄なまでに冷たい言葉だけだった。

彼女が消えると同時に、まるで入れ替わる様にして三人の男女が姿を現した。

何かのパワードスーツにも近しい鎧を纏う三人は、その瞳に狂気を湛えたままに彼を見ていた。

 

『告げる、この刃から逃れてみせよ』

 

 それを彼に悟らせる間も無く、中心にいた男は背中にマウントしていた大剣を引き抜き、天へと掲げる様にして突き上げた。

刹那、切っ先を中心に大気に罅が走り、その範囲を広げていった。

 

そこから先は、地獄だった。

罅割れた空間から漏れ出る様に焔が溢れ、世界を覆い尽くしていく。

人工物も自然も、そして人も、平等にその焔に焼かれ、元から何もなかった様に消え去っていく。

彼の仲間もまた、その三人に挑んで消えていった。

今、彼と共に逃げ惑っているのは、その残りと言うわけであった。

 

走る、ただ走る、走って走って走って走って……

 

『さて、そろそろ終わりにしようか?』

 

どれほど走った時だったか、死神の魔手は彼等を捉える。

 

黒い鎧を纏う男が彼等の前に舞い降り、大剣の切っ先を突きつける。

 

地獄の果てまで、いいやその遥か先まで追い詰める、決して逃がさないと言う絶対的な事実がそこにはあった。

 

「ッ……!!」

 

 それを見た彼の取り巻き、その内の幾人かは恐怖に引き攣った表情のまま、短く悲鳴を上げその場から逃走しようと向きを変え走り出そうとした。

 

『アははははっ!!そっちは行き止まりぃ!!』

 

 だが、狂気じみた哄笑と共に降り注ぐ光の柱が直撃し、逃げようとした者達を一瞬にして溶かし、消し去った。

 

「ひぃっ…!い、嫌…!死にたくない…!!」

 

 仲間を一瞬の内に消し飛ばされたからか、彼の一番近くにいた女は、愛していたであろう男を突き飛ばし逃げ出そうとした。

そこに愛などなく、ただ自己を護る防衛本能のみがあった。

 

『あぁ情けない、所詮、惑わされていただけでしたか?』

 

 嫌悪を込めて吐き捨てられる言葉と共に、クナイの様な短刀が彼女の額、胸、腹に突き刺さる。

 

「え、あ―――」

 

 悲鳴をあげるよりも早く突き刺さったクナイが爆裂、その身体を大小の物言わぬ肉塊へと変えた。

 

「う、うわぁぁぁ……!?」

 

 目の前で行われる暴虐、殺戮。

自分が目を背けた全てを突きつけられた男は、悲鳴をあげて蹲る。

恐怖、後悔、そして絶望の入り雑じった表情を浮かべながらも、彼は、自身に迫る終焉を見る他なかった。

 

「なんで…!なんでなんだよぉぉ…!俺は、俺はただ幸せに、優雅に生きたかっただけなのに………!!」

 

 泣き叫ぶような本心の吐露、それは己が欲望にまみれた答えであったとしても、人間が誰しも有する願いだった。

使命など忘れて、生きていきたかったと…。

 

『転生を受け入れた時点で、俺達にそれ“だけ”を求める資格は永劫に失われる、人ではなく、世界と言う作品を構成する歯車だ、他の何よりもな』

 

 だが、神に見初められ、それを受け入れた時点でそれは叶わぬ願いであると男は告げる。

どれほど理不尽であったとしても、それは契約であり、人を越える事を赦された証であり、義務なのだから。

 

『故に、お前が汚し、貶めた世界を救済しよう、永遠の眠り、それが真なる救済だ』

 

 世界、いいや神の視点から見れば絵物語か、自分の駒となる人間が望まぬ行動を取り、あまつさえそれが物語を侵食し台無しにしてしまうのは不愉快極まり無い事だ。

故に、男の仕事は定められた。

神の望まぬ行動を取る転生者の排除、そして世界のリセット。

 

その男が神の遣いとなる以前、人の形であった頃からの役割であった。

 

『さらばだ、貴様はこの世界ごと虚無に落ちろ。』

 

 大剣を一振、それだけで仕事は終わっていた。

世界は概念ごと断ち切られ、崩壊し虚無へと還っていく。

足場を失った男は一瞬の浮遊感に包まれるが、それもすぐに終わり、急速な落下が始まる。

 

『嫌だ…!いやだぁぁぁ…!!助けてぇぇぇ……!!』

 

 落下の最中、男の身体も崩壊を始める。

世界が消えるのだ、その一部となった彼もまた消えるのは道理であった。

伸ばした手も、終ぞ取る者も無く、男は虚無へと還った。

 

『ふん、くだらん……。

命が惜しいなら、幸せとやらを掴みたかったのであれば義務を果たせばよかったものを。

義務を果たす覚悟が無いなら人を超える力など求めなければ、分不相応な転生などしなければマトモで在れたろうに……。

せめて、義務を果たしてから幸せになるべきだろうに。アイツ等のようにな……』

 

 脳裏に浮かぶ嘗て人間だった頃、自分と共に転生を経験し、それぞれのやり方で己が責務を果たした嘗ての弟と友。そして、これまでに何度か見てきた義務を全うして幸せを掴んだ、正しき心を持った転生者達。

 

(それに比べ、コイツは……)

 

 剣を納め、臨戦体勢を解いたその男は嘆息し、虚無を眺める。

いつぞや自分達も立った白き地、世界の狭間と呼ぶべき場所。

神に選ばれ、人として生きる事を棄てて以来、時間に当て嵌めるなら既に1世紀以上は経っている、最早見慣れ過ぎて飽き飽きするほどだ。

 

仕事が終われば何時もこの世界に戻され、また次の仕事まで待機する。

 

未だ修行の身である彼等はまた、ここで暫しの間己が力を高めるのだ。

 

『力を伴った転生を断れる程の聖人であるならば、最早私達を越えている様なモノですわ』

 

『そうそう、むしろ人間らしくて羨ましいぐらいだね』

 

 彼のもとに薄金髪と濃金髪の女二人が戻り、人として在れるのは羨ましい限りと宣う。

だが、それも所詮は表面的なものだ。

何せ彼女達は、彼と共に在りたいと願うその一心のみで人を棄て、神の遣いとなる事を是としたのだから。

故に思うのだ、何故人を棄てる覚悟を持てないのか、何故人で在りたいと願わないのかと、半端な思いしか抱けない者達に失望を抱いていた。

それは男も同感であっただろうが、最早言及するに及ばないと。

 

『心にも無いことを言うよ。ま、それはさておき、暫くはフリーだな』

 

 その本心を見抜きながらも、彼は一先ず休憩だと言わんばかりに一息吐く。

最早慣れたものとは言え、そして人の身を超越し、疲労を感じないモノだとしても、精神に安らぎは必要なのだ。

しかもここは虚無の世界とは言えど、彼等しかいないプライベートな空間である。

ナニをしていようが勝手でもある。

それは彼女達も同意する所だと、彼の傍に寄り、一先ずの休息と洒落込もうとした。

 

 

 

だが……。

 

『にゃはは~♪そうは問屋が卸さない~♪』

 

 唐突に響き渡る陽気な、いや、パッパラパーと形容した方がしっくりくる声が彼等に届く。

その声に、彼等は折角休もうとしたのにと言わんばかりに表情をしかめるが、もう永い付き合いだ、慣れきってしまっていた。

 

『何の用だ?仕事は終わらせたばかり、千里眼で見てたろうから報告も要らんだろうに』

 

 煩わしいと言わんばかりに男は問う。

用があるなら手短に済ませろと、言外に告げていた。

 

『やー、悪いねー、女神として、というよりは君達を見初めた張本人として伝えときたい事があってさー』

 

 彼の問いに悪びれた様子もなく、女神を名乗る女は調子を崩す事無く、何処までも残酷で美しい笑みを浮かべたまま宣う。

 

『君達と因縁深い相手が、浄罪の間から脱け出して何処かの世界に紛れ込んじゃったみたいなんだー』

 

『なに?』

 

 告げられた言葉に、彼は僅かに驚いた様な反応を見せる。

 

浄罪の間……それは言ってしまえば地獄であり、罪に穢れた魂を浄化する場である。

一度そこに堕ちてしまえば、人間の身では脱け出す事など出来ず、仮に脱け出そうとするならば人を棄て神に近い存在になるか、それに近い者の手引きを受けるかのどちらかしか無い。

その相手に心当たりがあるが故に、神に至れる程の器を持たない上に神にしようと見初める神もいないと踏んでいる。

 

であるならば、考えられる原因は1つ。

それに近い存在が脱獄を手引きした者がいると言うこと。

それは彼等にとっても脅威になり得ると言うことだ。

 

『しかも行き先もちょーっと危ないと言うか、私達の管理する世界には無い力で満ちた。

私達でさえ超常の存在になり得ない世界だからさー、そこで力を付けられると困るんだよねー』

 

『なるほど、そこでの理を手に入れられたら相性が良くない、と…、面倒な事だな』

 

 異常事態に更に悪い条件が重なる事ほど面倒な事はない、女神も彼もそれは意見の一致するところだった。

然るに、彼等が取るべき行動は……。

 

『告げる、我が遣いの三柱、これより浄罪の間より逃亡した者の粛清に当たれ。』

 

 軽薄だった笑みを消し、威圧とも取れる雰囲気を纏った女神は彼等に向けて任務を言い渡す。

対等では無く主従として、ただ告げるだけだった。

 

『『『御意、我等三柱、破壊神の名に懸けて、任務を遂行しよう』』』

 

 その命に応じ、三人、いや、彼等三柱は騎士の礼とも取れる様に膝をつき、頭を垂れた。

その命を必ず遂行すると、誓いを立てる様に。

 

『じゃあ、早速行こうか、向こうでの身体は用意してあるから、思いきってやってきてね~!』

 

『ハッ!人間の身体で行けってことか?なるほど、承知した。』

 

 短いやり取りの中で、彼は人間の身体でその世界に向かう事を承諾した。

それが意味する所は恐らく、神のまま現界すると不都合が起きる故に、力を人間の内に留めておくと言う事なのだろう。

 

だが、どちらにせよ変わることの無い事実がある。

終末の厄災が、迷うこと無くかの世界へと向かうのだと言う事実は…。

 

『では行こうじゃないか、楽しいパーティーの時間だ、クックックッ…ハーッハッハッハッ!!』

 

 

 

 

 

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「何だとぉっ!?テメェ、もう一遍言ってみろ!?」

 

 話は外界へと移る。

都内某所に建てられた一軒の食堂……弾の実家である五反田食堂にて、店主である五反田厳の怒鳴り声が響き渡る。

そんな祖父の怒声に臆する事無く、弾は目の前にいる祖父を静かに睨みつけている。

 

「何度でも言ってやるよ。口利きなんてしてやる気は無いって言ってんだ」

 

 鼻息も荒く殺気立つ厳に対し、弾は不機嫌さを隠そうともせずに返す。

その隣では彼に同行してきた千冬も真剣な表情を浮かべている。

何故、弾が嫌っているはずの実家に、千冬を伴って戻っているのか……その理由は前日まで遡る。

 

簪と刀奈の姉妹対決を終え、和解した姉妹共々修行に励む日々に戻ろうとした矢先に、弾にかかってきた一件の電話。

妹の蘭にISの適性が判明、それも高ランクであるAという形で発覚したというのだ。

そこで、厳は学園内において1年生の中でもトップクラスに入るとされている弾に対し、蘭のIS学園入学を口利きして後押しするように要求してきたのだ。

 

祖父からの一方的な命令に内心怒りを覚えた弾だったが、妹の蘭の将来を考えると、放っておくことも出来ず、担任である千冬に頼み、彼女と共に実家へと一時帰宅し、母親の蓮と妹の蘭も交え、話し合いの席に着いたのだが……。

(ちなみに、父親は現在他県に単身赴任中)

 

「落ち着いてください。

厳さん……アナタには悪いが、この件に関しては私も弾と同意見です」

 

「何だとぉっ!?」

 

 千冬の言葉に厳はより一層大声を上げ、今度は千冬を睨みつける。

 

「ISはもう単なる競技用のパワードスーツではなく、軍隊などに使用される立派な兵器です。

IS学園に入るという事は、否応無しに兵器(それ)に関わるという事です。

そして……これは、本来機密なのですが……既に学園は今学期だけで3回もテロ行為に遭遇しています。

それらを鎮圧するのもIS……牽いてはそのパイロットです。

今後、SWの普及や女権団体の過激派の動向次第によっては、暴徒やテロの鎮圧などに駆り出されるのは日本でも当たり前になるし、下手をすれば戦争にも使用される可能性もあります。

失礼ですが、蘭は……彼女はそういった荒事に対してトラウマを持っている。

そんな状態の者を推薦する事は出来ませんし、仮に受験しても不合格になるのが目に見えてます」

 

「そんな事、やってみなきゃ分からねぇだろ!?」

 

「受験する以前の問題なんだよ。そんな事も分からない程ボケたか?」

 

「何ぃっ!?」

 

 声を荒げる厳に弾は皮肉を交えて返す。

その言葉に厳は顔をこれ以上に無い程真っ赤に染める。

 

「さっきから聞いてりゃギャーギャー喚きやがって。

第一にだ……蘭、お前はどうしたいんだ?学園を受験したいのか?」

 

「わ、私は……」

 

 兄に声を掛けられ、隅の席で縮こまっていた蘭は気まずそうに口ごもる。

 

「本人が決めてすらいないのにコネ入学の準備か?ふざけるなよこの糞ジジイ……!!」

 

「ぐっ……お、俺は蘭の為を思って言ってるんだ!お前らが口利きさえすれば蘭はIS学園に入れるんだ!

蘭が今通ってる中学がどんなモンか知ってるだろ!?あんな底辺みてぇな学校を卒業したって行ける高校なんかたかが知れてる!

お前は蘭の学歴に傷がついたままで良いってのか!?」

 

「学歴に傷?ああ、確かに付いてるな。

だけど、それは蘭自身の自業自得。それは蘭だって自覚してる事だ」

 

 弾の言葉に蘭は怯えるように顔を伏せる。

蘭がかつて起こした傷害事件以降、蘭は元々通っていた学校に居場所を失くし、退学同然に転校。

転校した先は都内でも最低レベルとされる底辺校だった。

今の蘭の経歴で入れる高校はそう多くは無い事は明白だった。

それでも、弾は蘭をIS学園に入学させる気など更々無かった。

 

「それに、織斑先生も言ってただろ?学園はもうただのエリート校なんかじゃない。

お前は蘭を戦争に行かせたいのか!?」

 

「ウルセェ!ウルセェ!!蘭の汚名返上のチャンスなんだぞ!

何が戦争だ!何がテロだ!!そんなもんお前らだけで勝手に相手してろ!!

仮に蘭が巻き込まれたって、そんな連中蘭なら簡単に片付けられる!!

テメェ如きに出来て蘭に出来ねぇ筈なんてねぇ!!」

 

 とうとう逆上して支離滅裂な言葉を並べて弾に殴りかかる厳。

しかし、そんな祖父の拳を軽く受け止め、弾は侮蔑の篭った目で厳を睨む。

 

「いい加減にしろよ……!このゴミ野郎!!」

 

「ガッ!グエェェ……!!」

 

 怒りの炎をその眼に宿し、弾のボディブローが突き刺さった!

 

「ケッ!一家の大黒柱も腐りきっちまえばただの老害ジジイだぜ!!」

 

「ぐがぁぁっっ!!」

 

 胃液を吐き散らして蹲る厳を見下ろしながら弾は忌々しげに唾を吐き、厳の顔面を殴り飛ばした。

 

「だ、弾!もうやめて!!」

 

「五反田、やり過ぎだ!」

 

「もうやめて!やめてよぉ……!!」

 

 殴り合いに発展し、厳を叩きのめした弾を周囲の三人は必死に止めに入る。

蘭に至っては泣き崩れてしまっている。

そんな周囲(特に蘭)の様子に弾も多少落ち着きを取り戻しバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「……すまねぇ。お袋、蘭とジジイを部屋に連れて行ってくれ。

その後に、外で今後の事を話そう」

 

「……分かったわ。さぁ蘭、お父さん、行きましょう」

 

「ひっく……うん……」

 

「ぐ、うぅ……」

 

 蓮に連れられて奥の部屋へと引っ込む蘭と厳。

そんな二人の後姿を見つめながら、弾は忌々しげに舌打ちしたのだった。

 

「クソ!やっぱ、来るんじゃなかったな……」

 

 

 

 

 

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 弾と千冬が五反田家を訪れる数日前。

篠ノ之束のラボの最深部……束に見守られながら,

その部屋の中央に描かれた魔法陣から眩い光と共に、その人物は現れた。

 

「……ココが並行世界?」

 

「そう、君のいた世界とは違う歴史を歩んだ、似て非なる世界だよ」

 

「なるほど……たしかに、何となく私の知る束と、お前は違うようだ」

 

 その人物は束を一瞥した後、自身の身体を見遣り、腕を、手を動かしてニヤリと笑みを浮かべる。

 

「久しぶりの感覚だ。久しぶりの、生の感覚……!」

 

「さ~て、召喚したからには、私のやる事手伝ってもらうよ。

報酬は、この世界特有の力……それで良いね?」

 

「勿論だ……!この世界で力を得て、奴に復讐する……!!その為に来たのだからな!!」

 

 その答えを聞いた束は満足げに笑い、彼女に手を差し出す。

 

「契約成立。よろしくね……ちーちゃん♪」

 

 そして、その差し伸べられた手を彼女……並行世界より来訪した織斑千冬は握り返した。

 

「お前の計画とやら、全力で協力するぞ、束!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




導入部分はichikaさんに書いていただいたものを手直ししました。
ichikaさん、ありがとうございます!!



次回予告

 決定的な祖父との決別……そんな息子の姿に、弾の母・蓮は、一つの大きな決断をする事になる。
一方で、一夏・霊夢・魔理沙は刀奈達を引き連れて新たに起きた異変を解決すべく、空中に浮かぶ逆さまの城・輝針城へと足を運んでいた。
だが、同時に新たな戦力を加えた束は遂に幻想郷への侵攻を開始しようとしていた。

突如として現れ、襲い来る無人機部隊。
そして、それらを率いるは凶悪な力を得た並行世界の千冬。
専用機をメンテナンスに出している事もあり、瞬く間に窮地に追いやられる一夏達。
だが、地獄より脱走した罪人を追い、三人の来訪者が駆けつけた!

次回『来訪!一人の悪鬼と三人の破壊者!!』

蓮「もう、潮時なのかしらね……」

一夏「お前、誰だ?」

千冬(並行)「紛う事なき貴様の姉だ!実の弟である貴様に殺された、織斑千冬だ!!」

?「フン!相変わらず下らん恨み辛みをほざきやがる……!」

シャルロット「ど、どうなってるの?」

セシリア「私達が、二人!?」




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