お待ちかねの姉妹対決です!!
ラウラとの前哨戦から3日後。
遂に簪と刀奈による試合の日が来た。
「もう、やるしかない……!」
控え室内で刀奈は先日のラウラとの戦いを思い返し、握る手に力を込める。
心のどこかで所詮代表候補と侮った挙句、無様に負けたあの時の屈辱。
それをまた、それも簪相手に受けてしまえば、もう自分は立ち直れない……。
もう油断など出来ないし、許されない。
「絶対に負けない……!絶対に、負けるわけにはいかないの……!!」
自己暗示のように呟きながら、刀奈は専用機を装備してアリーナへと向かっていく。
背後に心配の表情を浮かべて見守る虚と本音、師匠である霊夢を背にして……。
・ ・ ・ ・ ・
「奴には三日前に言い含めてある。最初から本気で来ると思っておけ」
「うん、分かってる。……それでも、絶対に勝ってみせる!」
一方、張り詰めた空気の刀奈側とは逆に、簪側は緊張感こそあるものの、こちらは良い意味で気合が入っている様子だ
「よし、それじゃあ……あれ?」
出撃しようと専用機を展開した簪だが、展開と同時に打鉄弐式に起きたある変化に気付いた。
「これは……どうする?必要なら慣らし運転の時間を貰えると思うが?」
「良い。このまま行けると思う……!」
その変化を目の当たりにして、ラウラは簪を気遣うが簪は力強い笑みを浮かべ、ウィンドウに映る承認ボタンをタップし、機体の情報をを確認し、そのまま出撃準備に入る。
「言う必要も無いと思うが、負けるなよ!」
「勿論、絶対に勝つ!」
・ ・ ・ ・ ・
観客席で他の合宿メンバーや師匠格の面子が固唾を飲んで見守る中、先にアリーナ中央に出たのは刀奈だ。
そして、それから間も無く簪側のピットから機影が飛び出す。
「来たわ、ね……?」
ピットから出てきた機体に刀奈は目を見開く。
そこにあったのは打鉄弐式ではなかった。
打鉄弐式の面影を残しつつも、全身を
髣髴とさせる容貌だ。
「お待たせ、お姉ちゃん」
「その声、簪ちゃんなの?その機体は一体……?
ま、まさか……セカンドシフト!?いつの間にシフトしたの?」
「ついさっきシフトしたの。コレが、妹紅さんや皆との修行で得た力……打鉄
「くっ……いくらセカンドシフトしたと言っても、シフトしたばかりの機体で私に勝てると思わないで!」
「勝てるよ……ううん、勝ってみせる!」
睨み合いながら戦意をぶつけ合う姉妹。
そんな中、管制室からにとりによるアナウンスが流れる。
『あー、二人とも、試合の前にもう一度確認するね?
ルールは通常のIS戦と同じ。霊力や魔力の使用は禁止、使用したらその時点で失格だよ。それで良いね?』
にとりの言葉に二人は頷き、それぞれ定位置について試合開始の合図を待つ。
・ ・ ・ ・ ・
刀奈と簪がアリーナに出た頃、管制室では……。
「この勝負、どうなると思う?」
「同じ武術部員としては、簪さんを応援しますが、刀奈さんとて国家代表。一筋縄ではいかないでしょうね」
「ああ。それにボーデヴィッヒとの一件もある。もう油断する事も無いだろう」
「けど、簪だって相当力をつけたんだ。勝てない筈は無い」
口々に評する合宿メンバー達。そんな中で一夏は刀奈を見詰めて一人思案する。
(現状、簪の方が刀奈さんを基礎能力で上回っている。順当に行けば、勝つのは十中八九簪だ……。
だけど、刀奈さんは霊夢と同じ天才型。格上との実戦を積めば積む程強くなるタイプだ。
油断や慢心……そして、余計なプライドを捨て去って、簪を完全に、心底から認める事が出来れば、あるいは……)
・ ・ ・ ・ ・
「…………」
「…………」
合宿メンバーや師匠格の面々が固唾を呑んで見守る中、睨み合う二人。
そして遂に、試合開始まで秒読み段階に入る……!
『3…2…1…試合開始!!』
「燃やし尽くす……!」
試合開始と同時に打鉄・焔式の両腕が銃口状に変形し、そこから発せられる高熱の炎が発射される。
焔式の名が示すに相応しい火炎放射器『ファイヤーストーム』だ。
「火炎放射器!?だけど……!!」
繰り出された炎を、刀奈は水の防御壁で打ち消す。
「炎で水に勝てるわけないでしょ?」
「それは、違う!」
思わぬ武装に面食らいはしたが、水と炎という相性に刀奈は余裕を取り戻しかける。
だが、簪の戦意は決して削がれず、水が蒸発して事で発生した大量の水蒸気に紛れて刀奈に接近。
そのまま近接武装である火炎剣『フレイムソード』で斬りかかった。
「っ!」
即座にコレに反応し、刀奈は水を纏わせた蒼流旋でコレを受け止める、が……
「こ、このパワー……それにこの火力は!?」
「理科で習わなかった?半端な量の水じゃ、蒸発して火を強めてしまうだけだって……!」
水を纏って繰り出した蒼流旋だが、フレイムソードの火力は水をいとも容易く蒸発させ、更に凄まじいパワーで押し込んでくる。
「ぐ、くっ……この、離れなさい!」
フレイムソードの熱に蒼流旋が溶かされるよりも先に、刀奈は簪の身体を引き離そうと蹴りを繰り出す。
簪はそれに反応し、刀奈の脚が届くよりも早くバックステップで後ろへ下がる。
「今よ!」
「っ!!」
距離を取った瞬間を見計らって放たれるクリア・パッション。
だが、簪も同時に荷粒子砲『春雷改』を展開・発射する。
「ぐぅっ!!」
相打ちに近いか形で双方の攻撃は命中し、互いにシールドエネルギーが削られる。
「はあぁぁっ!!」
「!?」
刀奈が体勢を立て直すよりも早く簪が動き、爆煙の中から飛び出して再び刀奈に接近する。
「ダメージが少ない!?」
「この機体の耐熱性を甘く見ないで!」
「くっ!!」
再びフレイムソードを振り上げる簪。
それに苦虫を噛み潰しながら蒼流旋で受け流そうと身構える刀奈だが……。
「二度も同じ手は……」
「同じ手、使うと思った?」
不意に簪はフレイムソードを収納し、徒手空拳に切り替えて蒼流旋を左手で払い除けた!
『武装を損傷・バルカン使用不可』
「なっ!?」
突然の自機からの警告に刀奈は驚愕する。
ただ払い除けられただけの筈なのに蒼流旋が損傷するほどのダメージを負ってしまったのだ。
(剣を引っ込めたのは単なるフェイントじゃない?……槍が少し溶けてる!?ま、まさか!!)
何が起きたのかを察した刀奈。
だが、それに気付いた時、既に簪の右手が振り上げられていた!
「そ、装甲が熱を……!?」
「ファイヤー……」
「しまっ……」
「フィストォォーーーーーッ!!」
刀奈の防御も間に合わず、焔式の特殊装甲『烈火』から発する炎を纏った掌底が、刀奈の身体に打ち込まれた!!
「ガハァァッ!!」
強烈な一撃に吹き飛ばされ、刀奈はアリーナの壁に成す術無く叩き付けられた!
「が……はっ……!」
簪からの一撃と、それによって壁に叩きつけられた二つの凄まじい衝撃に刀奈は肺から空気が一気に吐き出され、その場に倒れ込んでしまった。
(な、何で……?何で、簪ちゃんが、こんなに、強いのよ……?
ま、負ける……このままじゃ、負けちゃう……!)
薄れそうになる意識の中、刀奈は簪から受けた重い一撃に自身の敗北を強く感じる。
それと同時に、自分が妹に負けてしまうという重圧が、刀奈の心を一気に押し潰していく。
(ダメ!……負けちゃいけない!負けちゃいけないの!!
晴美を失った時、誓ったのに!!『もう二度と誰も失わない!誰にも負けない!負けちゃいけない!!皆私が守り抜く!!全て私一人で背負う!!』って!!
なのに、なのに……!!)
刀奈の中で膨れ上がる焦燥感、そして守るべき存在であるはずの妹に負けてしまいそうになる自分自身への激しい怒り。
その二つが入り混じり、彼女の心を満たした時……
刀奈の箍は外れた……
「ッ…ウあああああぁぁアァアァ亜ぁぁっ亞あぁぁああAaaアアアァァッッ!!!!」
己の霊力を暴走させ、撒き散らしながら、刀奈の咆哮はアリーナに響き渡った。
次回予告
霊力を暴走させ、我を失ってしまった刀奈。
だが、そんな主の姿に従者の少女達、そして簪は……
次回『決着~背負う事と分かち合う事~』
虚「私は、アナタにただ守ってもらうだけの存在に甘んじた事など一度もありません!!」
本音「私達もかんちゃんも、皆お嬢様の家族で、友達で、仲間なんだよ?」
晴美「アンタが嫌って言っても、私達はアンタを守り続ける!」
簪「最後までやろう。とことん付き合ってあげる!」
「私って、本当……バカ……!」
機体紹介
打鉄
パワー・A
スピード・B
装甲・A
反応速度・A
攻撃範囲・D
射程距離・D
パイロット・更識簪
打鉄弐式がセカンドシフトした形態。
妹紅との修行で得た経験、魔理沙や姉への想いから、炎を武器とした機体と化し、結果として移行前と殆ど別物に近い機体となった。
火炎機器を武器として扱うため、機体デザインはフルスキンに変化し、耐熱性と温度調節機能に優れる。
武装
火炎放射器『ファイヤーストーム』
高温の火炎放射器。
後にこれを基にした装備がSW用に量産され、有機物の焼却処理用装備として採用される事になる。
荷電粒子砲『春雷改』
弐式から変化のない唯一の装備。
基本は移行前と同じだが、機体の出力向上により威力が大幅に上がった。
火炎剣『フレイムソード』
超高温の炎を纏った西洋剣。
斬れ味・破壊力共に抜群の代物。
特殊装甲『烈火』
装甲から熱を発し、炎を身に纏う焔式最大の武器。
そこから繰り出される技は一撃必殺級の破壊力を秘める。